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「今、路上ライブ潰しっていうのが流行ってるのに、よく四年も被害に遭わなかったな。歌ってた場所も駅に近い訳だし」
麻木さんにそう言われるまで、真理亜は路上ライブ潰しなどという言葉を聞いたこともなかった。具体的にどう潰そうとするのだろうか。ホームレス狩り、という言葉を聞いたことがあり、それと同じようなものだろうかと重ねた。そう考えると、とても悲惨なことになってしまっていたのかもしれないと身を震わせる。
「でも私、CDなんか売ってませんでしたし、マイクも使ってなかったんで壊されるものがありません」そう真理亜が言ったとき、麻木は、「じゃあキーボード壊されてたかもな。じゃなきゃどっか連れてかれてたりしたんじゃねえか。ごつい用心棒が欲しい時代だな。戦国時代とさほど変わらん」
いやそれは言い過ぎ、と一旦思った真理亜だったが、自分が襲われる姿を想像すると恐怖は冷めなかった。
「満員電車でちょっと目が合っただけで痴漢になるかもしれない時代になったんだってな。男女参画どころか男女死角になっちまうな」
なったんだってなって、麻木さんも今の時代を生きてるじゃない、そう突っ込みたくなった。それに男女参画なんて使わないで、普通に男女平等って言えばいいじゃない。電車内で男女参画って何よ。すでに男女ともに乗っているじゃない。それを言うなら男女共同参画電車でしょう。おまけに男女死角って何よ。
麻木と話していると、真理亜は疲れることが多かった。いつもは思っても心の中で呟くなんてことはないのに、この人といると、自然と突っ込みたくなってしまう。それも声に出して言えばそのまま発散されるだろうに、心の中で叫ぶのだから、なかなかたちが悪い。
「男と女って何なんだろうな。めんどくせえな。無生物にしたくなる」
このオヤジ何を言っているんだ。そう思うことは少なくなかった。
だけど、本当に嫌だったら断ってでも付き合いをやめていたはずだ。今でも付き合えているのは、根はしっかりしていて真剣なときは真剣な人だからだ。周りの情勢や他人からの評価など全く気にしないかのような鈍感男に見えるが、きっと内ではちゃんと考えているのだろう。話せばわかる人だし、まず、話しやすいのだ。そんなすべてのことに興味ありませーんみたいな浅はかな印象なのに? そうです。だからつくづく世界は広いなと思うんです。




