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「俺さ、預言者かもしれない」
「え、どうしたんだいきなり」
ファミレスのソファーに座る結城。テーブルに肘をついて、呟いた。
「なんかさ、忘れられていくような気がするんだよ。俺が死んだところで、誰も覚えていないような未来が待っているような気がする。両親とか、仲の良い友人でさえも俺の死を覚えていてくれないような世界。家族の切れ端だった俺が、その日常の範疇に居なかったとされる未来。簡単に言っちゃえば、死んだ人間のことを家族も友人も覚えていないんだ。そりゃあさ、普段からずっと俺が死んだってことを毎日思ってるなんて人はいかれた奴だと思うけどさ、これから大人になっていって、同級会とかやるときに、『ああ、そういえば結城ってやつもこのクラスにいたよな』ぐらいは思い出す人も少なからずいてもおかしくはないじゃん? だけどそれさえもなくなってしまうような未来がさ、待ってる気がしてならないんだ」
結城の目は、いつにもまして真剣なように見えた。
「祥はさ、俺のこと覚えててくれる?」
「少なくとも、たまに思い出すことぐらいはできるよ」
「ほんとに?」
「ああ。たまに何か嫌になったときに、結城って奴もいたなあくらいには思えると思うよ」
「信じてるよ」
「え、本当に死ぬ気じゃないよね?」
天井を仰ぎ、その顔は俯き、そして正面を向いた。
笑っていた。そこにあった微笑みは、見たこともないような、そんな抱擁力を纏っているように感じさせた。
「そんな訳ないじゃんか。自分から死ぬような愚かなことはしない。俺は親の脛かじってでも、身を売ってでも図太く生きていくよ。この世に生まれたからには、何かしら楽しんでから死なないとね。死ぬのは、本当に生きられないくらい駄目になったときでいいし、今から死ぬこと考えて、死なないように妥協しながら生きていくのはごめんだな」
不安は微笑みにかき消され、結城の言葉を聞いて祥は安心した。
「そうだよな。結城の言う通りだ。何年か先のことなんて全然わからないけど、ちゃんと自分の意思を持って生きなきゃね」
「そうだよ。絶望しきってから死ぬんだ。何の悩みもない、やり切った状態で」




