婚約破棄・おぶ・ざ・でっど
王家主催の祝賀会、王宮のダンスホールは美しく装う男女の騒めきに満ちていた。
「悪役令嬢!お前を婚約破棄させてもらう!」
だが突然の王子の宣言に、ボールルームは静まり返った。
悪役令嬢と呼ばれた女性は、跪いてうつむき尋ねる。
「理由をお聞かせ願いますか、殿下」
「だって、お前死んでるじゃないか!」
しばらく動かず、ばっと顔を上げる悪役令嬢!その顔は黒く変色、眼窩は落ちくぼみ、目がぎょろりとこちらを睨んでいる!
悪役令嬢はやおら立ち上がると、鳥が羽ばたくように手を広げ、鷲のように爪を立てて吼える。
GRUAAAA!
右手の取り巻き令嬢Aに迫る!
「キャーー!」
絹を裂くような悲鳴!
かと思いきや振り返り、左手の取り巻き令嬢Bに迫る!
GRUAAAA!
「キャーー!」
絹を裂くような悲鳴!
王子が叫ぶ。
「やめろ!悪役令嬢!」
悪役令嬢は右の肩をくいっと上げると再び爪を立てて令嬢は王子の方に向かって進みながら叫ぶ!
GRUAAAA!
「キャーー!」
王子の隣にいるヒロインが王子にしがみついて叫んだ!だがしかし……、
「何だ?悪役令嬢が襲い掛かっているのに体が後ろに進んでいくだと!」
「あれは……」
王子の取り巻き、宰相の息子が呟き、騎士団長令息がそれに問いかける。
「知っているのか、宰相の息子!」
「あれは、『ムーンウォーク』!」
悪役令嬢は王子の方を向いたまま後退する。その後ろには取り巻きの令嬢A、Bが。その後ろには伯爵家の令息が3人、さらに後ろには子爵家の令嬢が4人!
きれいな正三角形を描いて一糸乱れず手を広げ、腰を落として同じ構えを取る。
同時に頭上で手を叩き、爪を立てて左右の令嬢、令息が場所を入れ替える!そしてしゃがみ込むような態勢で体を回転させながら前進!そして後退!
なんという恐怖の夜!
彼らは王子たちに、人の業とは思えぬ一糸乱れぬ踊りを見せる。
そして気づくと、悪役令嬢のみがボールルームの中央に立っている。そこで腰を捻り、右手の人差し指を天に突きつける悪役令嬢。
突然、悪役令嬢の足元がせり上がり、ステージとなっていく!
ダンスホールのシャンデリアはいつの間にかミラーボールに代わり、メイドたちは走り回り、スポットライトを悪役令嬢に当ている。
「な、なにが始まるのだ……」
王子が呟く。
FUUUUUU!
それをかき消す歓声!詰めかけたオーディエンスは、悪役令嬢の久々のステージへの期待で爆発しそうだ!
まさか今晩、ダンスのみならず、あの伝説のリリックが聴けるとは!
「悪役REIJYOU、素敵なBIBOU!
身体にIJYOU、死のSYOJYOU!」
悪役令嬢はヒロインに顎をくいっとしゃくり、ステージへ上ることを要求した。
MCバトルだ!
「お、おいヒロイン……!」
ヒロインは王子の手を振り払いステージに駆け上がる。
FUUUUUU!
下町生まれのヒップホップ育ち、そこから拾い上げられたヒロインの本物のラップが聞けるのだ!
「おやめにNATTE、目つきKITSUI!
ゾンビはHATTE、威厳もSHITTUI!」
ドゥンドゥンキャッキャキャッキャ!
いつの間にかキャップを斜めに被った騎士団長令息がターンテーブルを軽快に回し、オーバーサイズのTシャツを着こなした宰相の息子がキーボードを奏でる!
王子の理性はスパーク寸前だ!
悪役令嬢がオーディエンスを煽る。
「SAY HO-! (HO-!)」
ヒロインも負けじとオーディエンスに声をかける!
「HO HO HO! (HO HO HO!)」
二人の声が自然と重なった。
「「Everybody-! (YEAH-!)」」
揺れるボールルーム、オーディエンスの熱狂は留まるところを知らず怖いくらいだ。
そう、婚約破棄を超越した死者の夜明けがここにあるのだ。
いま、全方位に謝罪したい気持ちです。
婚約破棄、SF、パニックという作品がなろうにまだ存在しないことに気づき、つい書いてしまいました。
実はミラーボールとかあり、文明が1度進歩して荒廃した設定なのがSF、王子の頭がパニックになってるので、ジャンルはSFパニックです。
異論しか無いと思うが認めぬ!