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アイス売りのお姉さん
あのアイスを食べなくなってから、もう何年たっただろうか。
毎年夏になると、台車を引いてアイスを売りに来ていたお姉さんがいた。
アイス自体はべつに珍しくも何ともないが、お姉さんと話をするためによく買いに行ったものだ。
俺は幼いながらもお姉さんのことが好きだった。間違いなく、初恋だ。
けれどガキだった俺は相手にされるはずもなく、好きだと言っても気持ちを受け止めてはもらえなかった。
当時は悔しかったもんだが、今なら分かる。ガキの告白なんて、大人がまともに取り合う訳がない。
それでもいつか俺も大人になった時、また告白してやると意気込んでいた。
けれどそれは叶うことなく、お姉さんはパタリと現れなくなってしまった。
理由は聞いていないし、あったとしても客の1人でしかないガキにわざわざ話すなんてことも無いだろう。
あれから数年が経った。俺はもうガキじゃない。大人と言えるかどうかは微妙だが、それでもあんたに釣り合う人間になったつもりだ。
なぁ、またアイスを売りに来いよ。あんたと話したいことがいっぱいあるんだ。
男はヒマワリの丘で小銭を握り、約束もしていない夏の日を待ち望んだ。