9月 会員拡大
苦しい。
甘いものは好きなんだけど、これは・・・
寿島まつりも終わり、お盆はゆっくりする予定だったのに、太郎丸さんの初盆だからと本家に無理矢理連れていかれた。
太郎丸さんは俺のおじいちゃんの兄で長男だが、若い頃から東京に仕事で出て戻らなかったので、俺は会ったことすらないんだ。
おじいちゃんが太郎丸さんの代わりに本家を継いだんだけど、長男なのに本家を出て戻らないなんて勇気があるよな。
昔ほどではないんだろうけど、本家&長男は家を守るべきって考えは今も強いから。
自分のやりたいことを見付けてその役割を果たしに行ったのかな?
「太郎ちゃん大きくなって!昔はこんなだったのに。」
俺は米粒だったのか。
「いい男になったわね。お嫁さんは?」
嫁どころか、彼女いない歴=年齢だよ。
「JCに入ったんだってね。」
猿渡家はJC賛成派か、それとも・・・
「来月、息子が島に帰ってくるんだけど、JCに勧誘されるよな?」
「おお、一くん帰ってくるんだ。そしたら、兄さんも楽隠居だな。」
「いやいや、全然まだだけど、まあボチボチな。」
親父は三人兄弟の末っ子で長男の起おじさんが去年までうちを手伝ってくれてた人。
名前は「おこる」だけど、すごく優しんだ。
次男の承おじさんは雑貨屋をしていて、店の名前は「うける雑貨店」。
長男の「おこる」もすごいけど「うける」って名前をよく役場がOKしたなと思う。
因みに親父の名前は転結で読みはそのまま「てんけつ」。
おじいちゃん、おばあちゃんは子供を四人作って「起承転結」にしたかったそうだ。
でも上二人と親父の間が随分開いてしまって、四人目は無理だったので親父が二人分の名前を貰ったそうだ。
子供の時に聞かされた時は面白いなと思ってたけど「起承転結」にしようって発想はおかしいよ。
俺や従兄弟達の名前が物凄く普通なのは親父達が変な名前で苦労した、その反動なんだろうな。
「始はJC入らなかったからな。」
「そりゃ、農業やってたらJAだろう。」
「長男の息子がJAで、三男の息子がJCか。そしたら次男の息子はJBに入れなきゃいかんな。」
「わっはっはっは!」
こういうギャグセンスを俺も受け継いでいるんだろうな・・・
初盆の送りの準備を手伝っていると、まつりの時に俺が確認した提灯があった。
提灯の数は島民の数と同じって言ってたけど、太郎丸さんは東京に住んでいたから島民ではない筈だよな?
なのに何で提灯があるんだろう。
住んでいない人も数に入れるのはズルじゃないのか?
「お前が提灯確認したんだって?」
「うん。あのさ、太郎丸さんって、ずっと東京だったんだろ?」
「島民の数と提灯の数が同じってやつだな。
太郎丸おじさんは、去年のまつりの前に島に戻ってきてたんだ。
奥さんは亡くなって、東京で息子夫婦と住んでいたのは知ってるだろう?
九十歳だったけど健康で呆けてもいなかった。それが急に島に戻ると言い出して。
家族は仕事の都合上、引っ越しなんてできないし、生活に不便な島に何故、今更戻るんだと反対したけど、本家にお世話になるから大丈夫だと無理矢理に戻ってきてしまったんだ。
太郎丸が帰還したぞって親戚と一緒に飲んでいたけど、半年も経たない内にポックリ。
見事なまでの老衰だったな。
おじさんは株のトレーダをしていて、タイミングの見極めが凄かったんだけど、自分の死期まで見極めていたんだって皆でびっくりしたんだよ。」
「太郎丸さんは提灯のこと知ってたの?」
「提灯に名前を残したいから帰ってきたかって?いや、島には全然帰ってきてなかったし、知らなかったと思うぞ。転入届も完了してない内にまつりだったから、役所のリストにはまだ載ってなかったんだけど、俺が提灯一つ増やしてくれって頼んだんだよ。」
「皆、提灯の数を増やすことに必死だけど、なんで?」
「増やすことに必死なんじゃなくて、正確な数にしたいんだ。まつり場の提灯の多い少ないによって明るくて賑やかだなとか、減ってきて寂しくなったとか、島の人口増減が視覚的に分かりやすくなるだろう?でも、おじさんの提灯は、おまえがJCに入るから、おまえが提灯を確認してぬか喜びしたら面白いかなと思って。まさか本当にそうなるとはな。」
「俺が太郎丸さんの提灯を確認したって何で知ってるんだよ!」
「誰が自分の提灯を確認できるかを小柳理事長と掛けをしていたんだ。そしたら、おまえが自分のを見つけたと思ったら太郎丸おじさんのだったって聞いてな。理事長との掛けには負けたが、もう一つの掛けには勝って大満足だ。」
中川専務とも昔、掛けをしたとか言っていたけど、親父ってギャンブル好きなのか?
そしたら俺をJCに入れたのも掛けの一つ?
俺が辞めるか続けるか、それとも俺がJCの正体を見破れるかどうかを誰かと掛けてたりして。
まあ親父が掛けをしていようがいまいが俺は明日から、またJCだよ。
まつりとお盆が終わったら会員拡大だって。
会員拡大って何をするんだろう。
「さあ、お盆はゆっくりできたかな?まつりの疲れもすっかり取れたでしょう!なので、会員拡大を頑張るわよ!」
初盆に引っ張り出されて全然ゆっくりできなかったし、野島委員長のやる気満々の姿を見たら、今から疲れることが待ち受けてるのが分かって、あっという間に怠くなってきた。
「さて、問題です。会員拡大とは何でしょう?猿渡副委員長!」
絶対に答えられないのが分かっていて聞くなよ。
わざわざ俺に恥をかかせなくてもいいじゃないか。
「私はね、副委員長に恥をかかせる為に聞いてるんじゃないのよ。会員拡大とはJCに新たなメンバーを入れること。つまりJCのことを知らない人に説明をしてJCを分かってもらい、更には月一万円ものお金を払って入会してもらわなくてはいけないの。だからJCのことをまだよく知らない副委員長の考え方や意見というのはとても参考になるのよ。」
何でも知っている指方さんより俺の方が役に立つということ?
「やる気出てきた?じゃあ、拡大の説明。
JCには四十歳で卒業というルールがあるわね。何故でしょう?
JCは明るい豊かな社会を目指して頑張っている。
そんな素晴らしい団体なら、ずっとJCに所属して活動をすれば良いと思わない?
でも卒業がある。その卒業って言葉がポイントなのね。
JCと卒業がない団体の違いを分かりやすく言い換えると、学校か仕事かと言ったら良いかな。
学校では沢山のことが学べて仲間もできて、学生が世の中に大きな影響を与えることも勿論ある。
でも、まだちゃんとした資格はありません、学んでいる途中なので責任は負えませんっていう中途半端な立場なのが学生ね。
そこで卒業や資格を取るという区切りがあるわけ。
そして学んだことを仕事に活かし世の中に貢献できてこそ一人前ってわけ。
これは学生は未熟で仕事している人が偉いと言っているわけではないわよ。
基礎は大事。きちんと学んでないと仕事で苦労するからね。
なのでJCは卒業後に世の中の為になる人間を育成する学校と言っても良いわね。
そして、そんな良い学校がこれからもあり続ける為には何が必要か?
JCという学校のシステムは全世界で確立されている。
そしたら次は生徒よね。
なので新しい生徒を募集するんだけど、JC学園は厳しいことで有名なので放っておくと生徒がきてくれないの。」
怪しいことで有名の間違いだろう?
「間違えた。実は知名度があまりないが正解かな。」
確かに。こんなに小さな島の中のことなのに俺はJCを知らなかったものな。
いや、それは引き籠りのせいか・・・
「JCは昔から自分達のPRが下手でね。
それなのに全世界に広がっていけたのはどうしてかというと、JCメンバーが実際に地域の為に活動し、市民の意識変革を起こして確実にそれぞれの地域に根付いていったからなの。
そして、その際にこの活動をしているのはJCだ!と大きな声で言う必要はないんだと。
自分達の活動こそが、それによる周りの意識変革こそが最重要だと。
JCがなくとも全員が明るい豊かな社会を作る為の意識と行動力を持つ社会になればJCはいらない。
JCがいらない世の中になることこそが最終目標だとも思っているのよ。」
団体の存在を隠し、じわじわと周りを洗脳していったから皆、知らなかったんだな。
でもJCがなくなることが最終目標なんてどうしてだろう?
そうか!世の中から反JCが一人もいなくなれば、もう洗脳なんて面倒なことをしなくても良いもんな。
「しかし世界平和への道のりはまだ途中。新たな課題も山積み。
そこで黙って行動が美徳とされてきたJCも外に向けてJCのPRを始めたの。
なぜ世界平和に向けてのPRでなくてJCのPRなのか。
それは数は力なりだから。
今、世界の人口は七十四億位かな?
世界平和の為に七十四億円必要です。
そんなお金は無理だと思うけど、一人一円ずつなら無理ではない。
七十四億個のゴミを拾いなさい。
無理だと思うけど、一人一個なら無理ではない。
誰が一円ずつ集めるんだよとか、七十四億個のゴミがどこにあるんだよとかいう屁理屈はさておき、無理だと感じることも多くの人でならできる。
JCを広くPRし数の力で目標に向かうというわけね。」
だから引き籠りの俺もJCのことを知ったんだな。
このまま全世界がJCに支配されてしまうのなら、俺だけが頑張っても無駄なことなのかな?
いや、でもどこかに俺と同じ気持ちを持つ同志はいるはず!
「JCは世界中にLOMがある、そして地域の他団体は、全て一緒に明るい未来を創る為に協力しあう関係。
更に新たなメンバーを求めての会員拡大。
こんなに出会いがありまくりの団体って凄いわよね。
今時の出会いがないなんて言ってる若者達よ!来たれJC!ということで早速会員拡大に行くわよ!」
行くわよって夜の八時に一体どこに行くんだよ?
開いてる店なんて「しま」ぐらいだろう。
車に乗れって?じゃあ遠いんだ。
それにしても野島委員長の車の中って食べ物の匂いが凄いな。
ひょとして、これは野島委員長の体臭?
歳と共に加齢臭が出るっていうし、沢山食べる人は食べ物の匂いが出てくるのかな?
あれ、この道って昨日も通った・・・
「さて到着!後ろの食べ物を運ぶの手伝って。」
匂いの正体は本当に食べ物だったのか。
野島委員長の体臭が食べ物の匂いだなんて思ってごめんなさい。
ってことより、なんで起おじさんの家に!
「こんばんは!お邪魔します!」
「おお、島子ちゃん、いらっしゃい!」
昨日いた親戚達が今日も勢揃いしている。
野島委員長も親戚だった?
いや、そんなの聞いたことないぞ。
「一くんお帰り!久しぶりね。」
昨日、従兄弟が帰ってくるって皆で話してたけど、今日だったんだ。
従兄弟と俺は歳が離れていて、従兄弟も高校からずっと島を出ていたから実は初対面なんだ。
それにしても野島委員長と従兄弟って知り合いなのか?
「一くんと私は同級生なのよ。帰ってきたって聞いたから早速、差し入れ持って会いに来たってわけ。」
「しましま、俺は騙されんぞ。会いに来たというのは建前で、本当はJCへの勧誘に来たんだろう?」
「そうそう。分かっているなら話は早いわね。でも、まずはお帰りなさいの乾杯をしましょうよ。私達まだ晩ご飯も食べてないからお腹も空いているし。それに、久しぶりに会ったのだから積る話もあるでしょう。」
「しましまなんかと積る話なんかないわ。」
野島委員長は昔、しましまと言われて虐められていたって言ってたけど、虐めていたのは従兄弟だったのか?
「あら?昔のことを根に持っているの?」
「しましまには散々虐められたからな。」
野島委員長の方が?まあ、その方が納得がいくけど。
「副委員長、私はいじめっ子じゃなかったわよ。ちょっと悪戯好きでお転婆だっただけだから。」
「ちょっとなもんか!カエルやら虫やらをペチャンコにして干したのを大量に作って、皆の教科書の中に入れまくって。女子だけじゃなく男子も気持ち悪くて泣いたぞ。」
「あれはプレゼントのつもりだったのよ。押し花の作り方をテレビで観て、面白そうだから沢山作っちゃって。皆にもあげたいなって。それも私からって言わずにこっそりとあげようっていう謙虚な心からだったのに。」
「押し花は花で作るもんだろう!なんで、カエルや虫で作るんだ!」
「だって、教えられた通りをそのままじゃ面白くないでしょう。だから私なりに工夫してみたのよ。」
「しましまは昔からそうだ。普通にしとけば良いのに、工夫してみたって言っては皆に迷惑をかける。他にも・・・」
「一くん!私も大人になったのよ!家庭も持って仕事もちゃんと順調だし。」
野島委員長が慌ててる。よっぽど昔、酷いことをしまくっていたんだな。
「奇跡だな。子供の頃から変なことばかりして周りに迷惑をかけて、更にはお笑い芸人になるって島を出て。絶対ろくな死に方はせんと思ってた。」
「そうでしょう!そんな私がまともになれたのはJCのお蔭なんだから。それと勿論、旦那もね。」
野島委員長がJCに入った切っ掛けって何だったんだろう?
でも今は、昔やっていた変なことの方が気になる。
従兄弟から聞けば良いんだろうけど、話したことすらないからな。
「しましまが今まともになったのがJCのお蔭って言うのは信用ならんな。お前は昔から妙に頭が良くて、とんでもないことをしたあとでも妙に説得力のある言い訳やら何やらで周りを納得させてしまっていたからな。あんだけ滅茶苦茶なことばかりしていたのに、罰を受けたことすらないだろう。お前の話をまともに聞いても騙されるだけだ。」
「そう言うと思ったから、今日は新メンバー二人を連れてきたのよ。しかも太郎くんは従兄弟なんだから身内を騙すなんてするわけないでしょう?」
「太郎と話すのは初めてだな。おまえが生まれた頃に俺は島を出ていたし、高校卒業してから暫くは休みの度に帰ってきてたけど、おまえはまだ小さかったしな。家庭もできて、仕事も忙しくなってきてからは帰るのも毎回ってわけにはいかなくってきて。それでも、たまには帰ってきてたんだけど、おまえは引き籠りになって親戚の集まりに全く顔を出さなかったから。」
「そうそう。全く来なかったのにJCに入ったら寿島まつりの準備で島中を走りまわってたし、太郎丸おじさんの初盆にも来たんだから、JCは凄いんじゃないか。」
「だったら始兄ちゃんもJCに入れれば良かったんじゃないか?」
「うちは農業だからJAに入れたけど、一は承の店継ぐんだろう?ならJCが良いさ。」
「商売するなら商工会議所とかだろう?逆に聞くがJCに入ったら何が良いんだ?太郎がJCに入って猿渡自動車の売り上げが良くなったのか?」
「い、いや、あ、あの・・・」
「商売にも生きるのにもコミュニケーション能力は不可欠。太郎くんに関しては引き籠りが改善できたという点を評価して頂戴。」
「しましまは黙っとけ。」
「そうだったわね。なので、指方くんがJCの魅力について語ります。どーぞ!」
「皆さん、改めましてお邪魔しています。」
「うわっ!」
俺を含め親戚一同がびっくりしている。
指方さんの存在感の無さはやはり凄いな。
驚いてないのは野島委員長と親父だけだ。
JCを長くやっていると、あらゆる存在に気付く能力が身につくのか?
「一さんが仰ったように商売の為、地域経済の為の団体は多くあり、それぞれが素晴らしいものです。それなのに私達がJCへの入会をお勧めするのは、JCが基本と多様性を学べる団体だからです。」
「難しい言葉でごちゃごちゃ言われても俺は分からないぞ。」
「基本とは人間としての基本です。」
「俺は人間としての基本がなってないって言うのか?」
「そうではなく、人間の社会では人間こそが基本であり、人間の為に今の社会があるということです。」
「人が一番で自然や動物はどうでも良いって言うのか?」
「極論を言えばそうです。環境保護というのは、そのままいけば人間が住めない環境になるので保護が必要という意味ですし。自然も動物も人間に危害が及ぶ、または死亡するものは避難や排除対象にしかなりません。」
「それは人間が馬鹿みたいにあっちこっち行って、自然の生態系を壊すからだろうが。」
「今いる場所で生命に危機がないのに不必要に移動するのは馬鹿と言われてもしかたがありません。よって金儲けの為だけに自然を破壊する行為については私も反対です。そもそもお金とは生命活動を円滑に行う為の一つの手法であり、手法に捕らわれて本来の目的を見失うなんて本末転倒です。話が逸れました。すみません。天災、食料事情、人口増減、好奇心、昔から人間は生きる為には移動をするものです。」
「その自分第一の人間の基本が何だって言うんだ?」
「人間の基本は生命維持と子孫繁栄。植物、動物と何ら変わりありません。しかし脳の障害、社会形成の問題等により生命維持や子孫繁栄に必要のないものに固執する。または、必要なものを認識できないという問題が出てきています。」
「そんなの今に始まったことじゃないだろう?大昔だって分からなかっただけで脳の障害とかはあっただろうさ。」
「勿論です。バグというのは常にあるものです。」
「人間の話しているのに何で急にバクの話になるんだ?次は人の夢がどうとかって言い出すのか?」
「獏ではなく、バグです。コンピュータ用語でプログラム中の誤りのことを言います。人間の本来必要なプログラムに誤りがあることにより、病気や社会不適合等の問題が起こります。」
「若いのに色々知ってるんもんだな。どこで勉強したんだ?」
「勉強に歳は関係ありません。今は様々な学習ツールがありますからどうとでもなります。大事なのは体験です。利己的ではあるが最終的に目指すのは種としての繁栄。しかしプログラムに誤りもある為に時として、とんでもないことをしでかす。その人間の基本を知り多種多様な人間関係の経験をできる団体。それがJCです。」
「随分立派なことを言うけど、やってることは飲み会や、内輪だけで通じる変な修行や、自己満足のボランティアじゃないか。」
「それらが人間にとって分かりやすいコミュニケーションツールだからです。飲食を共にすること。負荷をかけて共に協力し合うこと。人の為に動くこと。感謝であったり後悔だったり心を大きく動かすこと。全てに意味があります。」
「しましまと一緒で口では敵わないな、こりゃ参った。」
「専門的なことを学ぶ前に是非、JCで基本を学んでみませんか?スタート位置が高ければ更なる高みを目指せます。」
「うーん。しましまと一緒は嫌だけど、このお嬢ちゃんと一緒なら俺も賢くなれそうな気がするな。」
「デザート持ってきたわよ。あら、太郎くんと島子ちゃん!息子に会いに来てくれたの?昔は各家の干し柿を勝手に木に巻き付けたり、漁師さんにヒトデを沢山欲しいと言ったりして、何をしたかったかと思えばクリスマスを島全体で祝いたいなんてね~。昔から目新しいものが好きだったけど、戻って来た息子も目新しいのかしら?」
野島委員長そんなことを・・・
いつも優しいおばさんも、そりゃ嫌味の一つも言いたくなるよ。
「ご無沙汰しております。昔はとんでもなかった私もJCに入ってから随分まともになりました。一くんは、もともと素晴らしい人ですが、JCに入会したらどれだけ素晴らしい人になるかと。この島を背負って立つ人間になること間違いなしです。ということでお誘いに伺っているんですが。」
「JC!とんでもない!まつりの準備をするのを見ていたけど本当に大変でしょう!ほら太郎くんを見て!こんなに痩せ細っちゃって。これ食べてね。」
こ、これは寿島名物の寿饅頭。
昔は島民の仕事は漁や農作業が主で体を酷使するから砂糖がありがたがられた。
砂糖が安価になってきてので、これでもかと餡子にも外の皮にも大量に砂糖をぶち込んで作る饅頭。
それが寿饅頭。
持っただけで物凄くベタベタだし、甘さは食べてる最中から虫歯になりそうだ。
それと俺は元々太ってないから。
まつりの準備が大変で痩せるなら野島委員長は・・・
「一は島子ちゃんが言ってくれるように素晴らしい人間だと思うの。何よりも余計な苦労はして欲しくないのよ。都会で今まで色々大変だったと思うから、暫くはゆっくりしてほしいの。」
おばさんは、やはり優しいな。
親父も俺が島に戻って来た時にこう言ってくれたら・・・
俺は変わらず部屋に引き籠ったままで、JCのことも知らずに一月からの色々なことも全て経験してなかったんだ・・・
なんだか胸が苦しいのは寿饅頭が甘過ぎるせいだろう。
結局、入会の件については、また後日ねと野島委員長がこっそり従兄弟に言って宴会はお開きとなった。従兄弟もあんなに野島委員長を嫌ってる風なのに「しま」で飲もうなんて約束していて、大人ってよく分からない。
「親父は何でJCに入会しろって言わなかったんだよ?親父が言えばおばさんも許してくれたかもしれないだろう?」
「OBは、金は出しても口出すなだ。」
「なんだよ、それ。いつ金を出したんだよ?」
「来月、分かると良いな。」
「来月に何があるんだよ。」
「また、一緒に行こうな。」
「だから、何なんだよ!」
「お父さん、寝てるわよ。」
「なんだよ!母さんに運転させといて寝るなよ!」
本家から帰る途中、俺はまたもや親父にしてられたんだ。




