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JC!JC!JC!  作者: けーた
4/13

4月  花見定例会


まずい。

桜が咲いてきた。

土曜日&桜が咲いたら花見定例会だからと帰る際に言われ、俺は心の底から異常気象でも何でもいいから今年は桜が咲かないでくれと毎日祈っていた。

しかし俺の祈りを無視して、ただの枯れ木の様だったのが嘘のように桜は蕾をつけ始め、日毎に島は白やピンクの面積が増えていくのだった。


「もしもし。猿渡くん。今週の土曜日は待ちに待った花見定例会よ!朝四時に迎えに行くからね。」

「よ、四時?えっ?ゆ、夕方四時ですか?」

「朝よ。朝の四時。朝晩はまだ冷えるから上着持ってきてね。定例会は普段スーツ着用だけど、花見定例会の時は特別に私服で大丈夫だから。動きやすい格好が良いわよ。」

「は、はい・・・」


朝四時から集まって一体何が行われるんだ。

そして花見定例会が行われるということは副委員長を決める為の面白い話をしなくてはいけないということで。

それなのに俺は桜が咲かないよう祈るだけで、それ以外は何もしていなかった。

何かしなくてはと思うものの面白い話って何だろうと考えるだけで気持ちが悪くなってしまって、テレビも観れない日が続いたんだ。

それだけ人前で何かするのが嫌なのに、今日、俺はどうなるんだろう。


「おはよう。猿渡くん。絶好の花見定例会日和ね。って真っ暗で何も見えないけど!」


朝四時から何でこんなにハイテンションなんだ野島さんは。

指方さんは既に車に乗っていて、明日になったら全部印象から消えてしまう様な、またもや普通としか言いようのない格好をしている。

どんな格好でもこんなにも印象に残らないってことは凄いスパイだってことだな。

俺もJCを探るスパイとして見習わなくてはいけない。

しかし今日は早起きのプレッシャーと今日の花見定例会への不安であまり眠れなくて意識が朦朧としている。

早朝から行われる謎の花見定例会を観察しつつも、面白い話を上手くかわすことができるのか?

わざと早朝に何かさせて意識朦朧の内に洗脳していく作戦かもな。

だったらそれは成功してるよ。


「さあ、会場に向かうわよ!」


公民館は家から歩いていける距離なのに何で車なんだろう?

ワンボックスカーの後ろでさっきからガタガタと音がしているけど誰か後ろに潜んでるとか?

後ろを気にしている内に車は公民館を通り過ぎて、山手の方へと登って行った。





ここに来るのは何年振りだろう。

小学校の遠足以来?いや中学校の時にキャンプで来たかな。

ここは島で一番高い場所にある広場件キャンプ場だと思うんだけど。


「車のライトで照らしているから、荷物をブルーシートの上に全部運んでね。」


謎の音の正体は大量の飲食物、プラスチックのコップ、紙皿、割り箸、毛布、座布団、折りたたみの机、何が入っているか謎の段ボールや袋等々。

車が進入できる限界の場所から桜の木らしき木の下に敷かれたブルーシート迄は結構距離があるし、木は地面より一段高い場所にあるので階段も登らなくてはいけない。

重い物を運ぶのは嫌だけど、俺しか男はいないから、野島さんに何か言われる前に動くか。

缶ビールの箱を持とうとすると


「エント!これだけ大量に物があるのに適当に運ぶとあとで大変なことになるわよ。荷物を運ぶ時間はあと二十分!それ以内に終わる様にシーサーと話し合って段取りをつけなさい。私は二人の指示通りに手伝うから。」


荷物を運ぶだけで嫌なのに時間制限や段取りまで決めろなんて。

指方さんを見るとしゃがんで何かしている。


「猿渡くん。」

「は?は、はい。」

「どうする?」

「い、いや、そ、その・・・」

「じゃあ、これ持ってくれる?」


渡されたのは大量のお菓子が入っている袋二つ。

野島さんにはプラスチックのコップや紙皿等が入っている袋を。

指方さんは缶詰等が入っている重そうな袋を持ってブルーシートへと向かって行く。

指方さんが動いてくれて助かった。

それにしても初めて指方さんと会話したな。

あれを会話と呼べるならだけど。


「やっぱり朝露でシート濡れてますね。何か拭くものありますか?」

「勿論あるわよ。」


それからも指方さんが指示を出してくれて、三人で黙々と荷物を運び続けた。

確かに量は多いけどこれって指示が必要な程の作業か?

野島さんは俺に難癖付けたかっただけじゃないか?

野島さんと指方さんは事前に荷物運びの打合せをしていて、指方さんは俺がきつい役割ばかりをするような指示してくるのではないか、なんて被害妄想的な考えがどんどん湧いてくる。

でも、よく考えれば野島さんが俺を止めずに、一番最初に段ボールに入っている缶ビールを運んでいたら朝露で濡れた地面かシートの上に置くか運び直しになっていたよな。

指方さんも最初に自分が一番重い物を持って動き出して、そのあとも重い物を俺だけに任さずに平等になる様に指示を出してくれている。

俺が考えなしでひがみっぽいだけなのかな。

だからJCに対しても悪く考え過ぎてしまうとか。

いやいや、これこそ洗脳が効いてきた第一歩かと様々な思いを振り切るように黙々と作業をしている内に空が少しずつ明るくなってきていた。





この広場ってこんなに沢山の桜の木があったんだな。


「はい、時間内に終了。お疲れ様。折りたたみ机を一つシートの真ん中にセットしてね。それから向こうにトイレがあるから、手を洗ってきて。」


荷物運びの次は何をさせられるんだろう。

野島さんは車を移動させ手を洗い、机の上に食べ物や飲み物を準備しだした。


「こちら側に座ってね。温かいお茶、コーヒー、紅茶あるわよ。何が良い?食べ物は自分で好きなだけ取ってね。


机の上の大量にある食べ物は三人前とはとても思えないし、定例会は全員出席だよな。


「あ、あの。こ、小柳社長と中川さんは?」

「花見定例会は十七時からだから。それまでには理事長と専務も来るわよ。」


十七時?七時じゃなくて?

七時としても今はまだ五時だから二時間もあるけど。


「し、七時ですか?」

「夕方の五時よ。」

「え?じゃ、じゃあ、こ、これから・・・」

「朝ご飯食べて、場所取りをしつつ、会場設営するから結構忙しいわよ。休憩はあるから安心して。」


会場設営?大量に運んだ段ボールの中身がそれか?

怪しげな儀式の準備を俺達で?


「さあ、温かい内にどんどん食べてね。」


この大量にある温かいおかずは野島さんの手作りなんだろうか?

保温バッグに入っていたとはいえ、いつ作ったんだろう?


「頂きます。寿ごはんは何時から作業されているんですか?」

「朝二時からよ。だから、これもさっき作り立て!美味しいわよ。」


寿ごはん?作業?朝二時?一体二人は何を話しているんだろう?


「エントは私の仕事が何か知らなかった?」


名刺に書いてあった?

名前しか見ていなかったよ。また怒られる・・・


「名刺には会社名しか書いてないから何しているか分からないわよね。ヒントは私のこの立派な体型とさっきの会話。さて、私は何をしているでしょうか?」

「しょ、食堂ですか?」

「お世辞でも嘘でも立派な体型をまず否定しなさいよ!それが大人としての嗜みでしょう!そして食堂やってたら太るって?売り物そんなに食べてたら店潰れるわ!それとも客の残り物?食べませんよ!」


野島さんのまるで面白くない一人ノリ突っ込みにはどうしても慣れない。

自分が面白くないから人に面白い話をしろと言うのかな。


「冗談よ。食堂じゃないけど「しま」は私の両親のお店ね。いつもありがとうございます。私は宅食の仕事をしているの。新聞配達と一緒に一日分の食事を届けるから、朝早くから作業するのね。島内だけの配達だけじゃなくて朝一の船で島外にも運んでるのよ。」

「ひ、一人でですか?」

「一人でできるか!もし、してたら過労で痩せ細ってるわ!配達は外注だけど、それでも従業員は結構いるのよ。」


「しま」にいる老夫婦が野島さんの両親だったなんて。

どこもかしこもJCだらけだ。


「そろそろ日の出ね。場所を移動するわよ。自分の飲み物とお皿持ってきてね」


今まで桜の木を背に座っていたのだが後ろから徐々に明るくなってきていたのは感じていた。

桜の木の向こう側にベンチがあり、そこに移動すると、眼前に桜と山と海が広がった。

最初は全てが薄いグレーの幕がかかったような色合いだったのが、太陽が昇ってくるにつれ海が光りだし、山の緑が濃くなり、桜がグレーからピンクへと変わっていく。

最初は気付かなかったが家の屋根が判別できるようになり、無人の景色が人々の生活を感じられる景色へと変わってくる。

生まれて初めて見た日の出は静かなのに壮大で、こんなに凄いことが毎日淡々と起きているのかと唖然となった。


「春は曙。今の時期一番贅沢な朝ごはんね。」


張るは曙?なんでいきなり相撲の話なんか?

野島さんのギャグは本当に理解ができない。

すっかり日が昇り、さっきまで何も見えなかったのが嘘のように明るくなった。


「朝ごはんはもう十分かな?では、会場設営の説明。ここに必ず設置しなくてはいけないものの見取り図があるので二人で協力して頑張るように。そして、このテーブルの後ろ側。ここは二人のセンスの見せ所。好きなように飾り付けていいわよ。足りない物は高額や入手困難でない限り一回だけ補充してあげるから連絡してね。私は四時に来て会場チェックするから、それまでに終わらせるように。休憩は各自自由に取ってね。お酒以外は何でも飲んで食べて大丈夫だから。何かあったらいつでも電話してね。では!」


では!って野島さん俺達を置いてどこに行くんだよ!

ああ、行ってしまった。

何とか歩いて戻れる距離なんだろうけど、道分かるかな。


「猿渡くん」

「は?は、はい。」

「どうする?」

「い、いや、そ、その・・・」


ビックリした。

指方さん、さっきまであんなに指示だしてくれてたのに喋らないと存在感が全くなくなるから。


「段ボールの中の物を全部出しましょう。」


そして、またもや指方さんが指示を出してくれるのに黙々と従い、見取り図にある設営は何とか終わった。

しかしブルーシートの上には使用しなった物が大量に残っている。

それも統一性のないわけの分からないガラクタの様な物ばかりで、これらをどう飾り付けるのか俺には見当も付かない。

飾り付けはなしってわけにはいかないのかな?


「猿渡くん」

「は?は、はい。」

「飾り付けどうする?」

「い、いや、そ、その・・・」

「私がしてもいい?」

「あ、ど、どうぞ。」


良かった。存在感が全くないなんて思ってごめん。

指方さんって意外に行動派なんだな。


「猿渡くんは休憩していて。」

「い、いや、で、でも。」


手伝った方が良いとは思うものの、どう手伝えば良いかも分からない作業だし、睡眠不足で眠くてしょうがない。

少しだけ横になるつもりがすっかり眠り込んでしまっていた。


「猿渡くん!」

「は?は、はい。」

「もうすぐ四時だから起きて。」


えっ?もう四時?

俺はどれだけ寝てたんだよ。


「おお!独創的な飾り付けだね。」


野島さん!そういえば飾り付け。

うわっ!なんだこの異様な光景は・・・

大量のガラクタと大量の飲み物、食べ物が混在して。

よく見るとお酒はお酒と分けて置いてはあるけど、スナック菓子の一つ一つにお面が付いていたり、割り箸でキャンプファイヤーが作られていたり。

本人の存在感のなさとは真逆の、これでもかと主張してくる飾り付けが完成していた。

桜が満開の土曜日で、これだけ桜のある場所なら当然なんだろうけど、いつの間にか周りにブルーシートやゴザを敷いて花見をしている人達が結構いる。

その中でこの異様な光景。

すぐ近くにも花見の人達はいて、何で平気な顔して近くにいれるのか不思議でしょうがない。

俺だったらこんな集団には絶対に近寄らないのに。


「定例会の会場設営は・・・うん。大丈夫。よくできました。じゃあ、定例会のリハーサルしようか。今日は二人のどちらかにJCIクリード、ミッション、ビジョン、スローガンまで唱和してもらうから。」


あの呪文を唱えろと!

絶対に嫌だ。指方さんにお願いしたいけど、朝から何でも指方さんがしてくれているから、これは俺がやれって言われたらどうしよう。


「どちらが言う?」


野島さんと目が合わないように、無駄な抵抗だと知りつつ目を伏せてみた。


「OK。沈黙=イエスだね。二人ともやりたいようなので半分ずつしようね。」


そうきたか・・・





JCIクリードを指方さん、残りを俺が練習させられ、小柳社長、中川さんも来て花見定例会が始まった。

俺は周りの目が気になるわ、練習しても全く要領が呑み込めないで、しどろもどろになりながら夕方になって冷えてきたのに一人だけ汗まみれになりながら何とか呪文を唱えて席に戻った。

周りの人達はこの異様な儀式を見て何とも思わないのか?

新年祝賀会で島の偉い人達はJCを称賛していたけど、島民全部がそうなのか?

それとも酔って変な余興をしてるとでも思ってるのか?

小柳社長は私服で大丈夫なのにスーツだし、中川さんは桜の妖精にでもなりたかったんだろうかという不思議な格好だし、余興と思われても仕方ないか。

周りの目を気にしながら縮こまっている内に定例会は終了し、懇親会となった。

野島さんが食べ物を並べ、俺と指方さんは中川さんから飲み物の作り方の説明を受けた。

水割りの作り方、お湯割りの作り方、ワインのコルクの開け方。

飲み物ごとに手順が違ったりして、お酒を飲んだことのない俺には複雑で覚えきれそうにもない。

全部、適当に紙コップに注ぐだけじゃ駄目なのかな。


「エント、シーサー。副委員長の座をかけた面白い話、楽しみにしているわよ。日が暮れたら勝負開始しましょうね。」


日が暮れるなと祈っても無駄なのは分かりきってる。

何とかして面白い話対決を避ける方法はないのか?


「僕もアイラから聞いて楽しみにしてたんだよ。」

「面白い話は沢山準備してきたかな?事前準備は大切だからね。それと、この独創的な飾り付けは二人でしたのかな?」

「い、いえ。あ、あの・・・」

「皆、飲み物は?最初はビール?」

「エントは何を飲む?今日は花見だし無理のない程度に飲んでみたら?アルコール度数の弱いカクテルも作れるわよ。」


ずっと勧められるけど二十歳を超えたらお酒を飲むのが常識なのかな?

それとも怪しい薬をお酒と混ぜて飲ませる為にこんなに勧めるんだろうか?

でも、お酒や飲み物は全部新品だし、市販されている物ばかりだよな。

そうだ!これだけ勧められることだし、お酒を飲んで気持ち悪くなったって、酔い潰れた振りで面白い話対決を回避しよう!


「ビ、ビールを下さい!」

「とうとう、お酒デビューだね。」

「では、理事長。乾杯を。」

「こんなに綺麗な桜の元、全員揃って花見定例会の懇親会ができることと、初全員アルコールでの乾杯を祝して、乾杯!」

「乾杯!」


何だ、この不味さは!

お酒って本当は人間が飲んではいけないものなんじゃないか?

これは薬物の味だよ。

いや本当に薬が入っているとか?

新品の缶ビールの中にどうやって入れたんだ?

頑張ってもう一口飲んでみたが、とてもこれ以上飲めそうにもない。

ビール二口で酔い潰れるなんて誰も信じてくれないよな。どうしよう。

困って缶ビールを握りしめていると


「エント、ビール苦手?飲みやすいのを何か作ろうか?それともノンアルコールにする?」


ノンアルコールでは酔い潰れられない。


「あ、あの、の、飲みやすくて弱いお酒を。」

「任せといて。アイラ特製カクテル作ってあげるわね。」


変な物を混ぜられないようにと観察していると缶に入ったお酒、ジュース、炭酸と更にはフルーツ、ストローまで投入されプラスチックのコップは南国のお洒落カクテルへと変身した。

俺がこれを手に持つのか?

致命的に似合わないが酔い潰れ作戦の為には仕方ない。


「あっ、お、美味しい・・・」

「でしょう?アイラの特製アイランドカクテルよ。」


島が名前に二つあるせいで虐められたとか言ってたくせに、島って言葉好きだよな。

これならジュースみたいだから飲めるぞ。

日が暮れる前に頑張って飲もう。

冷や汗を沢山かいて喉も乾いていたし、と飲んでいる内に顔が熱くなり視界がおかしくなってきた。

しっかり見ていた筈なのに薬が入っていたのか?

どうする!どうす・・・る。ど、どう・・・





俺は死んだのかな?

天国はお花畑だっていうのは本当だったんだ。

花の隙間から柔らかな光が差している。

暖かいし、周りからは心地よい騒めきが聞こえている。

これが死なら悪くないもんだな。


「目が覚めたかい?」

「お、おに!」


鬼!天国じゃなく地獄?

いや、小柳社長だ!

でかい鬼が俺を覗きこんでるかと思ってつい。

何とか誤魔化さないと。


「お、おに、おにぎり!」

「お腹が空いた?起きてすぐにお腹が空くなんて凄いね。」

「い、いえ、ま、まだ駄目みたいです。お、おにぎりも無理です・・・」

「寝てていいよ。お酒、体質に合わないのかな?水持ってこようか?

「い、いえ。だ、大丈夫です。」


酔い潰れた振り作戦が本当に酔い潰れるなんて。

すっかり暗くなっているけど、面白い話対決どうなったんだろう。

気分が悪いって言ってまだ寝てないと。今からやるぞと言われたら困る。

いつの間にか掛けられていた毛布にもぐり込み上を見ると、桜の花越しに月が見えた。

さっき見えた光は月の光だったんだ。

満開の桜越しに見る月ってこの世のものじゃないみたいだ。


「桜の木の下には死体が埋まっている。」


今までJCに屈服しなかった人々の死体!?


「だれの作品だったかな?若い人は知らないか。そんな風に感じるのも分かる気がするよね。桜の美しさには狂気が含まれているよ。」


小柳社長の方に俺は狂気を感じるよ。


「私が何でエントの横にいると思う?」


殺して埋める為?


「理由は私が一番力があるから。エントが吐きそうになったらシートから引き摺り出さないといけないものね。」


殺されはしないが引き摺り出されるのか。


「冗談だよ。ちゃんとビニール袋を用意しているよ。でも介抱する時に力がある方が良いから。というのは物理的な理由で一番は心配だからだよ。」


本当かよ。俺を見張っていたの間違いでは?


「心配しているというは嘘だと思う?」


野島さんだけでなく小柳さんも人の心が読めるのか?


「エントはあまり喋らないけど、表情が豊かだから顔を見ていると何を考えているかが、よく分かるね。最初はただビックリしていたようだけど、最近はJCって何だろうって一生懸命に話を聞いたり、メモを取ったりしてて嬉しいよ。」


俺ってそんなに何でも顔に出るのか?

野島さんが俺の考えを読んだように反応していたのはそのせい?

それと小柳社長は俺がスパイだと気付いているのか、いないのか?

言葉通りだと気付いてないようだけど・・・


「シーサーは感情が表に出ないタイプだけど、内にはとても激しものを持っていて、かなりの負けず嫌いだね。」


激しい?負けず嫌い?あんなに存在感がないのに?

いや、でもそれはプロのスパイだから。

実は俺がスパイだと気付いているのは指方さんだけだとか・・・


「今日の対決を楽しみにしていたと思うよ。」


だとしたら今日の対決で暗殺されていたかもしれない!

良かった、酔い潰れて。


「そんな意欲のある新メンバー達が来てくれて、これから色々あるんだろうなって君が寝ている間に考えていてね。一年間の間にJCがやることって、ある程度固定されているんだけど、毎年役職が変わるし、メンバーも替わるから、それぞれの個性がぶつかり合って決して同じものはできあがらないんだ。だからこそ面白いし、二度と同じ体験はできないからこそ、その時の想いをしっかり刻みこみたいと思う。当然、関わった人達への想いも強いものとなる。今はまだエントともシーサーとも顔見知りの範疇だけど、今年の終わりにはどういう関係になれるのかなって。」


小柳さんってロマンティスト?

そもそもJCの人ってかなり恥しいセリフを平気で言うよな。


「私が死んだら葬式に来てくれるかい?」


急に何なんだ。

健康そうだけど病気なのか?


「来たくなくてもエントのお父さんが行けって強制するだろうから、来てはくれるだろうけど泣きはしないよね?」


本当に死ぬのか?

もし本当に死んだとしても、まあ、泣かないだろうな。


「正直で宜しい。でも今年が終わる時はどうかな?涙ぐむ程度?号泣?」


あと数ヶ月で俺との間に何が起きると思ってるんだよ。


「エントとは、これから確実に深い関係を築いていく。そう思えば心配でね。だから心配していたというのは本当だよ。」


もしかして俺は口説かれているのか?

次から次へと困難な状況が襲ってきて、今すぐ逃げだしたい。

こんなことばかりで関係が深まるわけがないだろう。


「まだ懇親会は終わりそうもないけど大丈夫かな?具合はどう?」

「あ、あの、か、帰りたいです。」

「送ろうか?」


やばいぞ。本気で口説かれるかもしれない!

帰りたいけど、小柳社長と一緒はやばい。


「い、家に電話します。」

「先輩もお母さんも向こうで花見しながら飲まれているよ。」


毎年、花見に行っているのは知っていたけどここに来ていたのか。

俺が酔い潰れてるの知らないのか?

そして二人とも飲んでるならどうやって帰るんだ?

あれ?小柳さんも飲んでる筈なのに送るってどうやって?


「私も飲んでるけど、花見バスと花見レッカーがあるから大丈夫だよ。」


バスは分るけど花見レッカーって何だ?


「バスは町営バスの花見特別ダイヤで、レッカー車はエントの会社とJAさんの。花見とかイベントの時は皆、飲みたいからね。でも荷物を運ぶ為に自分の車を使いたい人もいるから、帰りは車をレッカー車で運んでもらえるサービスがあるんだ。ここだけの話だけど、昔は全員飲んで運転をしていたんだ。しかし、そんな違法なことをしてはいけないと立ち上がったのがアイラの旦那さんの醸さん。体質的にお酒が飲めなくて、酒飲みが多いこの島では肩身の狭い思いをしてきたからなのかもね。皮肉なことに家が酒蔵だから、なおさらね。次男だから家は継がなくても良いんだけど、生まれ育った酒蔵という特殊な環境と、飲めないからこそのお酒に対する興味が募り、どうにかしてお酒に関した仕事がしたいと思っていたところ、幻想的なお酒のCMを見て、これだと思い、東京の広告会社に就職したんだ。そこで上京したアイラと会って。ああ、話が随分逸れたね。気になるだろうけど続きはアイラ本人に聞くといいよ。」


そんな所で話を止めるなよ!

物凄く気になるじゃないか!といって野島さんに聞けるわけないし。


「飲酒運転撲滅の話だったね。醸さんは東京に行く前にも、宴会のあとに皆に飲酒運転をさせないように家のトラックで送ったりしていたんだけど、トラックの荷台に人を乗せること自体が違法だし、いかんせん一人では限界がある。東京に出て働いている時にも島の飲酒問題はずっと気にかかっていて、寿島の観光協会の会長が引退するというのを聞いた時に、皆がお酒を飲むのはイベントの時で、それに一番関わりがあるのは観光協会だと。観光協会で飲酒問題を何とかできないかと広告会社を辞めて新会長へと立候補したんだ。そして行政の飲酒運転撲滅運動と並行してイベント時だけの臨時ダイヤや帰りに車だけを運ぶレッカーサービスの立ち上げ。その際に運転をする体質的に飲めない人材の確保等と色々頑張ってきたんだ。最初の頃は今までの島ルールを変えることになかなか島民の理解が得られなかったけど、もともと島民は寿島が大好きで外部の人間が島に来るのも大歓迎の陽気な性格。観光協会が島外の人達をイベントに招いたり、寿島のPRをどんどん行う内に、島外の人との接触も増え、移住する人も増えてきた。人口減少問題の解決や島の文化を守る為にはいつまでも島ルールを押し通すだけではいけないと皆も気付き、十年がかりで飲酒運転は見事撲滅されたのあります。めでたし、めでたし。」


確かに俺が小さな頃は親父も飲酒運転を普通にしていた記憶があるけど、今は絶対にしないもんな。

それって野島さんの旦那さんの努力の成果なんだ。

一人の人間が島民全体に影響を及ぼせるって凄いな。


「というわけでバスがあるから動けるようなら送ろうか?」

「い、いえ、一人で大丈夫です。」


俺は丁度やって来たバスに逃げるように乗り込み家へと帰った。

長い長い一日だった。

色々あり過ぎて熱が出てきたみたいだ。

布団にもぐり込み目を閉じると、朝焼けの光と桜越しの月の光が交互に浮かんでは混ざり合い、俺の身体は滅茶苦茶な飾り付けと共に桜の木の下へとゆっくり沈んでいった。


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