1月 入会
猿渡 太郎(21)新入会員
小柳 省 (35)理事長
中川 助 (29)専務
野島 島子(38)委員長
指方 祀子(20)新入会員
JC(青年会議所)は実在する団体ですが
寿島JCに関する全てはフィクションです。
暑い。
冬なのに汗が。いや、これは冷や汗だな。
公民館に来たのは何年振りだろう。
子供の頃に何かの集まりで来たような。クリスマス会とかかな?
小学校の低学年頃までは参加拒否なんて言動を知らなかったから言われるままに参加してたけど、知ってからは殆どの行事を拒否してきた。
ずっと、そんな感じで生きていこうと思ってたのに、なんでこんな事態に・・・
「只今より総会を開会致します。」
総会って何だろう?
そうかい、そうかい、総会なのかいって、こんな時におやじギャグが。
総会は爽快ですね。
もう止めよう。緊張している割にはこういうのだけは浮かんでくるな。
「国歌斉唱。」
なんで、いきなり国歌?
学校の入学式、卒業式とかでも歌ってたけど、式とか会の時には必ず歌うものなのかな?
「JCソング斉唱。」
また歌?
「♪JC!JC!JC!世界を・・・♪」
何なんだ、この歌は!世界征服を企む悪の一味か宗教団体みたいな歌を皆が大真面目に歌いだした。
「JCIクリード唱和。」
次は何だ?昭和?今は平成だぞ。
司会の人が何かお願いしますって言ってる。
俺じゃないよな?
あとで前に出てきて下さいって言われてたけど。
うわっ、隣の人が「はいっ!」って立ち上がってバッキンガム宮殿の警備交替みたいな動きで前に出て行って。
えっ?呪文?皆で変な歌に続いて呪文まで唱えだしたよ。
この総会って黒魔術的なもの?
俺は今から島内にひっそり生息するカルト集団に取り込まれるのか?
俺の近くで燃え盛っているストーブは寒さ対策ではなく儀式用?
親父も昔はメンバーだったって言ってたけど、島で生きる人間は皆この通過儀礼を受けないといけないのか?
「理事長挨拶。小柳省くん。」
そうすると、この人が教祖様?
この島一の金持ち小柳商会の社長が裏も表も支配してるということか?
設定が単純だけど世の中そんなものだな。
「新入会員紹介。指方祀子さん、猿渡太郎さん御登壇下さい。」
呼ばれた!
前に出てから自己紹介と何か一言お願いしますって言われてたけど。
一言って何?
もしかして秘密の合言葉がある?
そして、それを言えないと島外追放になるとか?
今日、家を出る時に親父は、俺の顔を見てにやにやしてたけど合言葉があるならなんで教えてくれないんだよ。
息子が島外追放になってもいいのか?
落ち着くんだ俺。儀式は五十音順。
同級生の指方さんがいるから彼女の真似をすれば何とかなるだろう。
指方さんは何を言ってるんだ?
普通の自己紹介の様に聞こえるけど合言葉はどれだ?
「猿渡太郎さんお願いします。」
どうしよう。合言葉のようなものは特に聞き取れなかった。
とりあえず自己紹介をして皆の反応を見てみるしかないな。
「わ、私は、さ、猿渡自動車です。」
猿渡自動車で働いている猿渡太郎ですって言いたかったのに俺が会社になってしまった。
「と、歳は、さ、指方さんです。」
指方さんと同級生で二十一歳ですって言いたかったのに・・・
それからは恐怖と恥ずかしさで頭が真っ白になって、そのあとに何を言ったか、どうやって元の席に戻ったか、総会という謎の集会が無事に終わったのかも分からぬまま居酒屋兼スナック「しま」で徐々に意識が戻ってきた。
「これより新入会員の歓迎会恒例の名刺交換&名付けを行います。」
名刺?そんなものは都会の立派な会社の社長や社員しか持っていないのでは?
人口千人足らずの小さな島にある、個人営業の自動車修理工場に名刺なんてあるわけがない。
指方さんは名刺を取り出してる!
そういえば指方さんって何の仕事をしてるんだろう?
彼女の実家は民宿兼宴会場の「ことぶき」だけど、さっきの自己紹介では「ことぶき」で働いているではなく横文字で何か言ってたな。
俺は馬鹿だから横文字なんか言われても全然覚えられないんだよ。
去年の秋頃に親父からJCに入会しろと言われて、そのあとに小柳社長が家に来て資料と共に何か説明してくれた時も横文字が多いからわけが分からなくて、今日までずっとJAと勘違いしていたんだから。
仕事の関係で嫌でも入らなくてはいけないのかなって思ってて。
「猿渡さんJCへようこそ。理事長の小柳です。」
「こやなぎ」って名前に反して社長は物凄くでかい。
「大木」だったらピッタリなのにと思いつつ名刺を受け取った。
「専務の中川です。」
総会で司会をしてた人だ。
総会にはスーツを着てくるようにって言われて、他の人達も全員スーツを着てるんだけど。
そもそもスーツってサイズと色が違うくらいで基本の形は決まっているものではないのか?
成人式の為にスーツを買いに行った時にも、この人が着ている様な不思議な色形のものはなかったぞ。
有名な警察ものの漫画の中で、警官の制服は決まっている筈なのに一人だけ違う制服を着て平然としている外国人みたいな人がいたな。
この人は髪も金髪だし、その漫画の人にそっくりだ。
「委員長の野島です。」
前に出て呪文を唱えていた人だ。顔つきも話し方もきつい感じで怖いな。
恐る恐る名刺を受け取り、次は指方さんから貰うからと指方さんの方を向こうとしたら
「猿渡太郎さん。私の下の名前は何?」
えっ?苗字しか言わなかったから分からないよ。
ああ、名刺に書いてあるな。
「し、しまこさん。」
「とうこです。漢字の上に読み仮名が書いてあるでしょう?名刺を貰ったら、その場でちゃんと読んでね。それが常識。じゃあ、中川専務の下の名前は?」
中川さんの名刺には漢字だけで読み仮名がないじゃないか。
「助」ってどう読むんだ?
「じょ・・・」
「「じょ」なんて名前の日本人いると思う?読んで分からなかったらその場で尋ねなさい。あとからでは聞きにくくなるわよ。」
「たすけです。宜しく。」
「そして、小柳理事長は?」
「省」は普通「しょう」だよな。
しかし、でかいのに「しょう」っておかしくないか?
そして「助」が「たすけ」なら、もしかして
「は、はぶく・・・」
「虐めらるわ!そんな名前!因みに私の旧姓は「島島子」で散々「しましま」って虐められたものよ!」
「野島委員長、毎回自虐ネタを入れての名刺交換指導ありがとうね。猿渡さんも素敵なボケをありがとう。初めて「はぶく」って言われたよ。でかいけど「しょう」です。JCの名刺を作ったら改めて名刺交換の練習をしようね。」
歓迎会の筈なのになんでこんな目に。
しかも読めない名前に読み仮名をわざと書かずに罠に嵌めるとは恐ろしい。
それと野島さんは旧姓が島って。
結婚しても野島で、また島ってことより、あんな怖い人と結婚する人ってどんな人なんだろう?
指方さんから名刺を受け取ったけど、また何か言われるんじゃないかと気が気でなくて、必死で名刺を読もうとしたけど恐怖のあまり文字は全く頭に入ってこなかった。
「続いて新入会員の名付けを開始します。」
名付け?洗礼名とか?やはり宗教!
「寿島JCでは伝統的に全メンバーに外国風のニックネームを付けることになっています。小柳理事長は栁を英訳してウィロウです。」
「皆、ういろうかWe郎って発音してるね。」
「野島委員長はアイラです。」
「勿論、島=アイランドからよ。」
「そして、僕はジョーです。」
「猿渡さん、さっきは惜しかったね。さて、新入会員の二人は漢字を英訳するか、音で外国っぽくするか。」
「猿、モンキー。指、フィンガー。名前としてはちょっとね。」
「音でいきますか?猿渡を音読みにして「えんと」エントって外国っぽくないですか?」
「いいね。猿渡さんのJCネームは「エント」で決定です。」
勝手に変な名前が付いてしまった。
「さしかたのりこ。ねえ、指方さんって皆から「さしこ」って呼ばれない?」
「今まで一度も「さしこ」と呼ばれたことはありません。」
そうだろうな。ニックネームで呼ぶどころか指方さんとまともに話をした人もいないんじゃないか?
授業中にあてられた時とかは今みたいに普通に発言するんだけど、それ以外で誰かと話してるのを見たことがないんだ。
でも、それは虐められていたとかではなくて存在感が全くないから。
存在感がないっていうのも暗いとかではなくて、物凄く普通なのでカメレオンみたいにその場に溶け込み過ぎてて存在感がないってタイプなんだ。
少人数の学校だったから皆、お互いをよく知っていて大体いつも一緒にいた筈なのに、気付けば誰とも交流を持っていないという不思議な子だったな。
俺は高校、専門学校と島外にいたから指方さんに会うのは中学校卒業以来なんだけど相変わらず普通としか言いようのない容姿と雰囲気の人だ。
「指方祀子・・・漢字も音も英語っぽくするの難しいですね。」
「エント、指方さん。何かアイデアない?」
早速呼ばれたけど違和感が凄過ぎる。
指方さんは何かアイデアあるのかな?
「シーサーはどうでしょうか。」
シーサーって英語?
「シーサーって英語っぽくはあるけど・・・ああ、調べたらシーサーって英語でもシーサーだって。」
「では、指方さんのJCネームはシーサーで決定です。」
エントも変だけどシーサーって。それも自分から言い出すとは。指方さんって一体・・・
「名前というものはとても大事なもので、様々な想いが込められています。もし自分の名前の由来を知らなかったら御両親に聞いてみて下さい。そして新入会員のお父さんは、どちらもJCのメンバーでしたので、お父さんのJCネームも教えてもらうと面白いかもしれませんね。」
そうだ!この謎のJCのことは親父に聞けば良かったんだ!
これ以上変なことに巻き込まれない内にと二次会の誘いを断り、俺は急いで帰宅した。
「親父!JCって!」
「楽しかったか?」
「楽しくなんかないよ。不気味だよ。一体何なんだよJCって?宗教か何か?」
「ある意味そうかもな。We believeだし。」
「親父まで謎の呪文を!」
「そういえば今月の給料渡してなかったな。
懇親会の支払いは大丈夫だったか?」
「今日は歓迎会だからいらないって。その給料だけどさ・・・」
「値上げは受け付けんぞ。家に金は入れなくていいし、うちの会社で面接もなしに働かせてやる代わりにJCに入会すること。月給は五万円でその中から一切の支払いをすること。それが嫌なら出ていけ。それだけだ。」
「面接もなしって、親父と母さんだけでやってる会社に面接なんかないだろう!それと、おまえは跡取りだからって島外の工業高校と専門学校で整備士の勉強もさせられたのに。急に変な条件出して嫌なら出ていけって。」
「会社を継ぐなら整備士の資格を取れと道は示したが、どれだけ俺が望んだところで自分のやりたいことがあったなら、おまえは島を出てでも好きにするだろうと覚悟はしていたさ。優しいんだか意気地がないんだか分からんが、ここにいるってことは他にやりたいこともないんだろう?変な条件って言うがこんなの優しいもんだ。世の中はもっと厳しいんだぞ。俺も息子には甘くて困ったもんだな。」
やりたいことなんて何もない。
島外に出た時も苦痛でしかなかったし。新しい環境も人も苦手なんだ。
島でひっそりと人とはなるべく関わらずに生きていきたいだけなんだ。
「さて、寝るか。」
「待ってくれよ。JCって何なんだよ?」
「小柳理事長が前に説明してくれたじゃないか。理解できなかったのか?じゃあ、野島委員長に今度質問してみろ。」
あの怖い野島さんに質問なんて無理だよ。
「親父も昔JCのメンバーだったんだろう?ひょっとして説明できないから誤魔化してるんじゃないのか?」
「そんな挑発には乗らんぞ。それに俺が本気で語りだしたら朝まで話し続けるからな。おまえもそんなの迷惑だろう。」
これ以上聞いても教えてくれないか。
息子には甘いなんて絶対嘘だよ。
小柳社長が言ってた名前には想いが込められてるっていうのも、うちはないな。
「じゃあ、これは親父か母さんにしか答えられない質問!太郎って物凄く普通の名前の由来は?意味なんかあるの?」
「勿論ある。厳しい環境の中でも生き延びていけるようにとの願いが込められているんだ。高倉健さん格好良かったなー。」
「映画かドラマの役名から取ったの?」
「おまえが生まれる前だもんな。物凄くヒットしたんだぞ。映画で、舞台は日本と外国だな。ヒントは与えたから、あとは自分で調べてみろ。じゃあ、おやすみ。」
何だろう。高倉健さん主演のスパイアクション映画とかかな?
そういえば親父のJCネームを聞き忘れたけど、あの調子じゃ教えてくれそうにもないな。
きっと親父も変な名前だったに違いないから。
そうそう、俺の名前の由来を探さなくては。
携帯で調べてみたら。
犬じゃないか・・・
寿島には車の修理工場はうちとJAしかなくて、島民の生活に車は欠かせないから小さな工場だけどなんとか生活はできている。
手に負えないような故障は島外に運ぶし、客とのやり取りと事務は母親の仕事。
俺が学生だった頃は伯父さんが手伝ってくれてたけど、もう歳だし腰も痛いからと、俺が整備士の資格を取って帰ってきたのと入れ違いに辞めて、俺は親父に指導されながら毎日ボチボチと修理をやっている。
人付き合いは上手くできないし頭も悪いけど、こうして黙々と車に向き合っているのは苦痛ではない。
くすんだ色合いの作業場から外に目をやると飛び込んでくる空の青さや山の緑の鮮やかさがとても綺麗で。
今日はまた一段と鮮やかな赤。
赤?
「昨日はお疲れ様でした。」
「な、中川さん。」
分らない。この人が着ている服は説明のしようがない。
鮮やかな赤としか。
「仕事中にごめんね。確認しなくちゃいけないことがいくつかあって。まずは一月末の京都会議なんだけど。」
「き、京都?」
「いきなり京都ってビックリするよね。昨日の総会の全国版といえばいいかな。日本JCのトップ。会頭っていうんだけど、会頭が今年一年間の指針をお話しされるのを、日本中のJCメンバーが聞きに行くんだ。」
全く意味が分からない。日本のトップって寿島以外にもJCがあるってこと?
そして、その日本のトップが海東さんという人で、海東さんが湿疹をお治しされるのを日本中から効きにいく?
やはり宗教!
「これが日程表。費用が結構かかるんだけど、年に一度のことだから良かったら。」
日程表を受け取り目を落とすと、月給五万円の俺には到底無理な金額が。
「す、すみません。お、俺・・・」
「強制ではないから大丈夫だよ。でも行けるようなら連絡頂戴ね。それと来週の金曜日に新年祝賀会があって、これはぜひ参加してほしいのだけど。詳しいことはこれを見てね。それと名刺を作るので、これで間違いがないか確認してね。代金は出来上がってからで大丈夫だよ。最後に月に一万円の会費なんだけど。支払方法を決めておく?」
「え、ええと、あ、あの・・・」
次から次へと聞かれて何が何だかもう分からない。
「返事は今日でなくてもいいよ。携帯のメールにも同じ内容のことは送っているけど直接説明しようと思って。じゃあ、仕事中にごめんね。」
京都会議に新年祝賀会。
総会以外にも次から次へと怪しげな集会が。
新年祝賀会にはぜひ参加してくれと言われたけど、何が行われるんだ。
えーと会費五千円。
月の会費が一万円もするのに更に五千円。
あと名刺代もって、このお金のかかり方はやばいんじゃないか。
「太郎。誰か来てたか?」
「親父!新年祝賀会って・・・」
「ああ、来週だったな。親子で行くぞ!」
「これって行かなきゃ駄目なのかな。」
「勿論だ。言い忘れてたが、島内で行われるJCの行事に参加しなかったら一回に付き一万円のペナルティを取る。インフルエンザとかどうしようもない時は免除してやるから安心しろ。」
「なんで勝手に条件を増やすんだよ!」
「こうでもしなきゃ、おまえは行かないだろう?いや、一万円払ってでも行かないかもな。まあ自由にしろ。でもペナルティはちゃんと取るからな。」
なんだよ親父も金、金って、ひょっとしてJCに金を騙し取られてるんじゃないのか?
これって怪しい宗教の典型的な特徴だろう?
どうしたらいいんだ俺は・・・
「ことぶき」で開催された新年祝賀会には結局出席した。
JCに騙されている親父の様子を一回見ておこうと思ったからだ。
やばそうなら誰かに相談しなくてはいけない。
しかし新年祝賀会には島内の主だった偉い人達が勢揃いしていて、皆でJCを褒め称えているんだ。
既に島中がJCに乗っ取られてるということなのか?
親父は小柳社長から先輩と呼ばれてニコニコしている。
バカ親父め、おだてられて騙されているのが分からないのか!
そして俺は俺で野島さんに強制的に連れられて、皆にひたすら頭を下げて名刺を交換し(当日名刺を貰い、名刺交換の仕方も練習させられた)お葬式みたいに「どうも、この度は・・・」みたいな言葉をモゴモゴとつぶやき続けた。
皆ニコニコして優しいけど、これこそ洗脳なのではないか?
またもや意識が朦朧としてきて気付くとまた「しま」にいるのだった。
「猿渡くん。飲み物は何が良い?」
「あ、あの、み、水で。」
偉い人達が来ているからなのか、今日はどこにでもありそうな普通のスーツを着てるけど、派手な頭と顔に全く似合ってない。
中川さんにとってはわけの分からないあの格好が一番自然なんだな。
「「ことぶき」で沢山飲まされたのかな?大丈夫?」
野島さんは皆に挨拶する時にビールや徳利やコップが入った容器を持ってまわっていて、お酒を注いだり相手から注がれたりしていた。
俺も挨拶したあとにお猪口に入った水を飲まされけど、そのこと?
緊張して喉が渇いていたから水はありがたかったけど、挨拶の度に水を飲む礼儀作法なんてあるのかな?
これもまたJC流の何か?
「猿渡くんがお酒飲めるかどうか総会後の懇親会で確かめたかったけど、水でいいの一点張りだったから。お酒弱くて途中でぶっ倒れたら困るから、今日は猿渡くん用に水を用意して誤魔化してたのよ」
「野島委員長は優しいね。」
優しい?俺を連れまわして、挨拶を強要する野島さんが優しい?
まあ、水を飲ませてくれたのは助かったけどさ。
「指方くんはお酒強いね。何を飲んでるの?」
「日本酒です。」
指方さん、いたんだ!
野島さんに連れられて一緒に挨拶をしてまわったのに、俺が自分のことで精一杯だったせいか、指方さんがどうしていたかの記憶が一切ない。
今も、ま横にいたのに存在にすら気付かなかったなんて相変わらずだな。
「JCに新しいメンバーが二人も入って良かった良かった。」
「村長さん!今日はありがとうございました。」
そこからは大人同士の会話が繰り広げられ、俺は、またしても
「どうも、この度は・・・」を皆に繰り返す内に新年祝賀会の懇親会はお開きとなった。
今回は「しま」での会費五千円を徴収され、月の会費一万と名刺代五千円、それと今日の会費であっという間に二万五千円が消えていった。
給料を一万円札一枚と残り四万円分は五千円札で渡されたから何かと思ったら、会費以外は何でも五千円ずつ必要だからなのか?
一ヶ月の内に八回以上何かあったら俺はどうしたらいいんだ。
ひょっとしたら五万円という給料の額はJCに全て出席すれば大丈夫だが、欠席してペナルティを払うと足りない額では?
無理にでも出席するように親父に仕組まれたのか?
「太郎、俺は帰るけど。おまえは、まだ飲んでいくか?」
「か、帰る!」
新年祝賀会にも懇親会にも出席したから、もういいだろう?
酒も飲めないし話しかけられてもまともに答えることすらできない。飲み会なんて全く楽しくないよ。
家にいるのが一番楽だ。
といっても、この島全体が怪しげなJCに乗っ取られているとしたら、もう家だって安寧の地ではないのかもしれないけど。
そして前回にも増しての困惑と、更には絶望まで抱えて俺は家に帰ったんだ。




