スキルとステータス
街へ向かう途中、自己紹介をして時間を潰そうということになった。
「私の名前はリン、職業は姫騎士だ。宜しく頼む」
ふむ、リンか。姫騎士と呼ぼう。
「えーと、私はフェルと申します!職業は行商人です、短い間ですが宜しくお願いします!」
茶髪の女性改めフェル。ふむ、良い名だ。
「俺の名前は…」
しまったこういう時って姓と名、どっちを名乗れば良いんだ?
姓である英は、何か余所余所しく感じるし、逆に名の司だと馴れ馴れしいよな…
「司だ。職業は…」
又してもしまった。ここは偽装した方が良いのか?でも姫騎士とか言う位だから看破系の魔法かスキルが使えそうなんだよな…
しかしながら馬鹿正直に「自動販売機使いです!」なんて頭の悪そうな返答も出来ない…ぐぬぬ、どうすれば良いんだ…
閃いた!
「俺の職業はデストロイウォーカーだ。こちらこそ短い間だが宜しく頼む」
我ながら完璧な返答だな。本当のことではないが、決して嘘という訳でもない。
完璧的返答と言えよう。
「デストロイウォーカーか、聞いたことがない職業だな…もしやユニーク職か?だとしたら凄いな。産まれて初めて見た…」
姫騎士さんが何やら気になることを呟いた。
「ユニーク職って何だ?」
言うと「え?この人何言ってんの?」という目で見られる。
こちとら元はライトオタクだから大凡の察しはつくが、間違っていたら恥ずかしいだろう。
「ま、まああまり知られていないことだからツカサが知らなくても当然さ…」
俺に配慮したのか笑いながら言う姫騎士。目でフェルに「言うなよ、言ったら可哀想だろう」と訴えかけているのが分かる。
「そうだな、流石にステータスは分かるだろう?」
「知らん」
「……」
分かるよ、視界の端っこを飛び回ってるこのアイコンだろ?でも間違えてたら恥ずかしいじゃん。だから知らんと答える。
姫騎士は「は?マジかよ。こんな奴に負けたのか…」みたいな顔をしている。
あくまで俺がそう感じ取っているだけだが。
「そ、それじゃあステータスの説明からしようか…」
ステータスとは…
その魂に刻み込まれた記憶のこと。それを視認出来る様にしたのが簡易ステータスらしい。でも大半の人が簡易ステータスのことをステータスと呼ぶせいで、今では簡易ステータスの方がステータスと呼ばれることが多いらしい。
ステータス値は高い方が有利だと。
レベルとは魂に記憶された殺生によって獲得した経験値を基に築かれるもの。
スキルは多い方が良いとのこと。普通、人が会得することの出来るスキル数は大凡十五個程度。今まで最高数に挑んだ人がいて、その人は世界記録の五十三個を歴史に刻み込んだと。
果てさて、因みに今の俺のステータスはこんな感じだ。
ハナフサ・ツカサ(16)
性別:男 LV3
職業:自動販売機使い
筋力:250 魔力:250
ースキルー
体術LV1 身体能力強化LV1
【魔装・殲滅型自動販売機】LV1
こんな感じだ。
強くも無ければ弱くも無い、普通。まあ、普通の素晴らしさに気付けぬ者にとっては「くそ雑魚ナメクジじゃんw」といった反応をされるだろうが、そんなことは気にしてはいけない。
普通を地で行こう。
自動販売機使いで?という疑問は一切無しで。
「そしてユニーク職とはあまり見かけない職業のことを指す」
どうやら説明が終わったようだ。ご苦労さん、途中から聞いてなかったわ。
でも最後の所だけで十分理解出来るだろう。
「へぇ〜、成る程〜」
フェルが言うが、棒読みだ。紛うことなき棒読み。
ステータスやスキルの説明が終わると途端に静かになる。
俺たちはフェルの商団の馬車に乗っているので移動は楽だ。強いて言えば尻が痛いことぐらいが苦痛だ。
「そ、そう言えば何故ツカサは妖精王の花園に居たんだ?」
は?妖精王の花園?初耳なのですが?
「それがよく分からないんだよ、俺が何でここにいるのか…」
これは本心から出た言葉だ。
「そうか、詮索が過ぎた。すまん…」
「いいよ別に、そんなに気にしてないから」
これも本心から。
記憶喪失設定か、有りだな…次からは重要な、日本に関することが聞かれたらそう答えることにしよう。
「もし理由もなく街に行くのであれば冒険者ギルドに登録しておくと良い。お金を稼げるし、もしかしたら何故自分がここにいるのかを知れるかもしれない…」
ほう、冒険者ギルドがあるのか…
流石ファンタジー世界だな。
冒険者ギルドがあるならテンプレを期待出来るだろう。
楽しみだな……それに姫騎士が言った様に、何故俺が異世界に来てしまったのかは知りたい。何が目的で呼び出されたのか、とても気になる。
「冒険者ギルドか、登録してみるよ」
「!、そうか…」
姫騎士が嬉しそうに笑う。どうやら俺がデレたとでも思ったらしい。
「あぁ〜さっきの痛みが〜」
「な、それは水に流そうと言ったではないか!?それに私は一度もツカサに当てられなかったと記憶しているが!?」
チッ、どうやらこの姫騎士、記憶力だけは良いらしい。
俺たちの喧騒は夜になるまで、その熱りが冷めることはなかった。