テンプレを自動販売機で薙ぎ倒す者
ドラゴンがいた。
どうやら俺は最近流行りの異世界転移というものに逢ってしまった様だ。
困ったな、王様に呼び出されたとかだと目的があって分かりやすいのだが…
ちなみに俺はこういう異世界とかに関する知識はある。
あっちにいた時、休日に読み漁っていた。異世界ファンタジーは好きだが、いざ自分が巻き込まれたら大変というか…面倒だな…
俺は「きっと神様からお前はもう働かなくて良いって言うご達しなんだ」と割り切り異世界ライフを満喫しようと思う。
とは言ったものの、どうすれば良いのかが分からん…
というか自販機は消えないのか?
明らかに可笑しいだろ。自販機がこんな大自然の中にポツンとあるのだ、違和感が凄い。
それと…
「この端っこのやつは何なんだ?」
先程から気になっていた視界の動きについて来る不思議なアイコン。
スマホの設定の様な歯車の形をしている。
ジッと見つめているとアイコンが広がりウィンドウが開かれる。
どうやら見つめれば良いようだ。
何とも操作が簡単で良いな。
ウィンドウには自己プロフィールにでも書かれていそうなことが記載されている。
「何々…英司16歳、血液型はA、職業は…自動販売機使い?なんじゃそりゃ?…スキルなんてものもあるのか…貧弱だな…あれ、ユニークスキルあるじゃん…」
俺はユニークスキルに嬉々として目を通す。
ユニークスキル:
魔装《殲滅型自動販売機》LV1
自動販売機を装備すると、レベルに応じて全ステータス倍増。
LV1解放:自動販売機装備可能
巫山戯てんのか…
でも多分こういう巫山戯てるようなスキルが強いんだろうな……
職業が自動販売機使いのお陰で自販機を収納出来るらしいし試してみるか…
俺は自販機の前に立ち、手を翳す。
すると魔法陣的なものが現れ自販機が怪しく光る。
俺は初めての魔法?に感心して、瞬きと呼吸を忘れた。
「すげぇ…」
自動販売機使いだけど…
光と魔法陣が止み、自販機の有った位置を見ると、当たり前だが自販機は既にその場から無くなっていた。
それもその筈、自販機は今、俺の中にあるのだから。
どうやら職業自動販売機使いは中々どうして便利な様だ。
出ろ、と言うと出て来るらしい。
それと自販機は不壊という特性があるらしく、壊れないらしい。
滅多なことじゃ傷付かない上に破損したとしても、全自動修復という特性であっという間に治ってしまうらしい…
便利すぎるだろ、自販機ぃ…
俺は草原を歩き始める。
程なくして悲鳴が聞こえた。テンプレだな。どうせ商人が盗賊に襲われているのだろう。
南無三…と思いながら草陰に身を潜めて見ていると、やはり商人が盗賊に襲われていた。
「親分、こいつぁ上モノですぜぇ!」
「きゃぁっ!」
絵に描いたようなテンプレだ。
「テンプレ乙…」
俺は聞こえない様に言う。
「それにしてもこの商団、女しかいませんぜぇ!」
「俺たちゃぁ、ツイてるぜぇ!」
「バーカ違ぇよ、日頃の行いが良いんだよ!」
「ヒャハハ、そりゃぁ違いねぇ!」
盗賊たちはヒャーハーという世紀末じみた声を上げて笑う。
頃合いだな、と思い御暇しようとしたところで盗賊共の声が聞こえた。
「それにしてもこの女共、こんな使えなさそうな武器でどうしようとしたんだろうなぁ?」
「使えるとでも思ったんじゃねぇの、使えないのになぁ!」
「馬鹿だなぁ、こんなモンが武器になる筈ねぇだろうがよぉ!」
ピクリと耳が反応する。
「こいつぁ、見物だなぁ!笑いが止まらねぇぜ!」
俺の足は先程とは逆、盗賊共の方に向かっていた。
正義感からでも、教師だったからでもない。
何か俺が馬鹿にされている様に聞こえたからだ。
「お、何だアンちゃん?さてはお前もこの女ど」
俺の存在に気付いた盗賊の一人が吹き飛んで行く。
俺の振り上げた自動販売機に当たって。
「おい、こいつぁやべぇぜ!」
「どうしやすか親分!?」
「に、逃げるぞぉ!」
俺は盗賊共が逃げ出そうとした方に回り込み、言い放つ。
「おいおい、まさか人のこと散々馬鹿にしておいて逃げるなんてカッコ悪いこと言わないよなぁ…」
自動販売機を肩に担ぐ。
「や、やれぇお前らぁ!!」
親分と呼ばれた男が命令するが誰も動かない。否、動けられないのだ。
既に自動販売機の一撃によって沈んでしやっているから。
「何だ、盗賊ってこんなもんか…」
初めての戦闘がこんな雑魚同然の盗賊だなんて…
「これだったら(異世界っぽいし)スライムの方がマシだな…」
「なっ、てめぇ!」
俺の一言に激昂した親分がダガーを振り回す。だが俺には擦りもしない。
試しに自動販売機で受けてみたところ、親分が持つダガーの刃が根元から折れてしまった。
それを見た親分はガタガタと震える。
産まれたての子鹿の様に足を震えさせた親分が声を上げる。
「な、何なんだよ!それはぁ!?」
俺はニヤリと笑い、答える。
「お前らが馬鹿にした武器成らざる物だよ」
言った俺は更に凶悪に嗤う。
俺は自動販売機を振り下ろし、寸での所で止める。
親分は白目を剥いて気絶してしまった。
「何だ、呆気ないな…」
いや、この場合は自動販売機が強過ぎたのか?
やはり自動販売機はチート能力だったらしい…
「ああ、そう言えば…大丈夫ですか?」
俺は今思い出した商人のお姉さんたちに声を掛ける。
「「「……」」」
一同唖然。吊られて俺も唖然としてしまう。