報酬系異世界転生神話
さあはじめようか、
遠大で壮大な創世記を、
まだ世界が熱を帯びていた時代に、
数千年という単位では測りきれない時代に、
これから宇宙が終わるまで続く、
人類の歴史を。
しずしずと始めようか。
精神は弱体化して、より単純なものに化ける。
「より単純なものに」
人間としてあるために必要なものをかなぐり捨てる。
「かなぐり捨てる」
やがて反応だけになる。
「だけになる」
残ったもの。
「文」
文章だらけである。
気付いた時には、
周りを見回せば文字一色の、
「文」
読もうと思っていたし、
読んでいこうと決意した。
「文」
だけれど淡い反応だけが残る。
「それだけ」
人間として必要な器官をかなぐり捨てて、
ひたすら文字に集中するものと化した私は、
大量にある文字列を前に進むことをためらった。
「残るのは」
およそ反応があるか無いかということで、
文字が意味を為して届いているかを知るには、
対話が可能か?
「話が分かるなら」
向こう側はいつでもぽっかり空いている。
「無限に穴が空いている」
口を開けて、
呆けていると、
また反応を求める指先が動き出す。
「今日は何を読もう?」
小説、
「読解力がついたのだろうか?」
後付けの読解力では、
読み飛ばして読んだ気になることのほうが多い、
「人間の書いたものだ」
どれも人間が記した文章である。
「人であるなら理解は出来るはず」
ただ人間として機能するのか?私は?
「人間未満」
人として足りていない部分が多すぎる故に、
「人間を求めるのか?」
情報をより多く吸収して、
成長を続ける頭はついている。
だがその状況に頭はついていけていない、
確実に混乱が来る。
「どうしてこうなった」
振り返る。
まず、剣と魔法だ、
それとSFと考証があって、
ミステリーも現れた、
そして奴隷生活を送り、
やがてスローライフに目覚めたり、
時々、ハーレムを作り、
魔族に転生したり、
ダークエルフだったりした。
「悪くない」
これだけ集めれば人間一つ分にはなるか?
「駄目か、駄目だ」
悪役令嬢が抜けていた、
他にもぴったり合うような、
ピースがいくつも、
このパズルからは外れていた。
「また戻るのか」
無味な塊に、
「それは嫌だ」
もう一度組み立ててみよう、
「ここには」
女、女が立っている、
青い髪をした緑色の眼の女、
年の頃は20か、
「こっちには」
男、男が立っている、
紅い髪をした紫色の眼の男、
年の頃は同じく20、
「歩いている」
歩き出した二人は、
魔族と出会う、
「どうする、戦うか?なら武器を取れ、
逃げるなら足を動かせ、
話し合うなら意味を紡げ」
青髪の女は話し合うことを提案した。
「そうか!それでいい、それがいい!」
魔族は女性の形を取っている、
話によれば魔族らの王が2人に会いたがっているらしい、
「そうだった魔王がいた」
魔王も在った。
「神が足りていないか」
そう言うと塊はうごめいて、
神を付け加えた。
「そしてこう言う」
誘惑に負けてはいけません、と、
神は二人に忠告したが、
二人はそれに反発して答えた。
「青髪と赤髪は人間として魔族と融和を求めたか」
やがて魔王の元にたどり着いた二人は、
人間が滅びかけていることを嘆いて、
魔王の庇護に入ることを求めた。
魔王はこれを受け入れた。
「神はどうする?」
本来、人間を統治しているはずの神は出遅れた、
創造の順序が違ったために、
人の子が神から生まれたわけでは無かったために、
新たに人の子を作って名付けた。
「名は」
思い浮かばない、
「……」
神は慌ててもう一人人間を作ったが、
またしても名を思い浮かばない、
名付ける力を持っていなかった。
「これは塊である私の問題か」
文脈の谷間に堕ちた塊には、
多すぎる固有名に嫌悪を覚え、
名を与えることに制約があった。
「覚えやすい名で無ければ保てぬ」
名付けられたものが自我を保つことで、
物語は語られるが、
名付けることが叶わなければ、
自我を持ってここから遠ざかることは叶わず、
塊の中に留まる。
「赤髪と青髪はどうした?」
魔王は二人に名前が無いことを憐れんだ、
魔王には名前があった、魔王という名が、
神には名前があった、神という名が、
そこで分かりやすく二人に、
「勇者よ」
と勇者という名前を付けた、
女勇者と男勇者の誕生である。
「赤いのが男勇者で、青いのが女勇者だ」
魔王はこの世界に生命が無いのは、
すべての名前がないからだと告げた。
そしてその名前をつけるものは、
文字を紡ぐ力を持ったものにしか無理だと。
それは勇者たちにとって残酷な事実だった。
「人間は生まれえぬか」
言葉の無い時代、それぞれがそれぞれを知らない時代、
魔王と勇者は長い語らいの中で自然を取り戻すために、
ゆっくりと歩を進め始めた。
「私は塊でしかない」
土くれの山からは人間は生まれない、
人間の鋳型は合っても、名付けるものが居なければ、
この世に生まれ出でても言葉の無いものになってしまう。
獣でさえも名前があるはずなのに、
その獣も名前よりも叫び声を優先した、
得たいの知れない叫びが溢れていた。
「これでは人間は現れようがないな」
魔王は言った、「原初の世界に近い」と、
勇者は言った、「この世界には愛が無い」と、
「ただ胎動する力がある」
そこには、
食指が伸びると途端に意欲旺盛となり、
何もかもを飲み込んで進もうとする土くれがあった。
勇者達は飲み込まれそうになったので、
選ばなかった武器を探しだしこれを切り裂いた。
「選ばれなかった武器だ」
魔族を、魔王を倒す為に作られた武器は、
今や魔族たちを脅かすものに振るわれた。
魔族の女は、
「見よ、我が同朋よ、この世に残った人間の使命を」
と魔族たちに、人間がもはや絶望しか残っていない大地に立って、
良識を持って魔族を脅かす敵を打ち倒すことを称えた。
「見よ、我が主よ、勇者達はどの民にとっても勇者である」
魔王は、
「今は勇者と共に戦え、無知なるものを追い払うために!」
こう命じた。
幾百幾万幾億の胎動する虫は、
転がりながら魔族を虱潰しにしようとするが、
勇者の剣がそれを絶対に許さない。
神は人類を産みだすことをただ念じ続けたが、
土くれからはいくらあがいても人間は生まれえなかった、
かわりに這い上がった虫が、人の形になって叫んでいた。
「私には名前が無い!」
魔王はこういった、
「混沌のものよ!貴様らには名前が無い!
立ち位置も無い!どこに行くにも!
何をあがいても決して得ることは無い!」
混沌は絶望して、より深く世界を恨むようになった。
勇者達はその剣で虫を切り倒して大地に返し続けた、
幾度振るっても折れぬ二振りの剣が閃くたび、
大地は震撼し、全ての魔族は驚嘆し、これを喜んだ。
「人間は未だ生まれぬか!神よ!」
神は幾度、念じても人を作り出すことが叶わなかった、
強烈な呪いが辺りを覆っていて、
その塊を引きはがし、名付けても、
何度、名前を言い放っても、
いっこうに名付けられた人は立ち上がろうとしない、
それは虫と塵で出来ており、
人間とは異なる塩基を持っていた故に、
魔王はこの間違いを笑っていた。
「ハハハ!虫からは人は生まれぬ!」
そうして魔王は槍を構えると静かに薙いで、
何百もの虫を塵に帰した。
魔王、魔王よ!
「塊め!我が名を呼ぶか!」
裁きを受けよ!
「効かぬ!効かぬわ!我は魔王ぞ!」
「魔王よ、勇者である我らに任せろ!」
勇者の剣は塊めがけて振り下ろされた、
「痛い」
塊に激痛の表情が奔って、
それはこの世界中を満たさんという勢いであった。
「我が痛みの前で死ぬがよい」
塊は再び食指を伸ばして、世界全体を、
なめまわさんという勢いで拡張を続けた。
「くっこの混沌め!斬っても斬ってもキリが無い!」
「勇者達よ、協力感謝するが、やつを仕留めるのは魔王の仕事だ!」
魔王は詠唱を始めると、魔力の玉をいくつも、
塊の中に放り込んで爆破した!
「やったか?」
辺り一面を灰と塵が覆う、
だが焦げた塊から吹き出た無数の虫がこの世界全体を包んでいく。
「青髪の女勇者、赤髪の男勇者、そして魔王、この戦いに果てはあるのか?」
果ては無い、
ただ果てしない量の言葉が溢れかえっており、
その全てが正しい名前を付けられておらず、
生命を暴走させ、やがてチリになり、虫に食われ、
何百度もこれが繰り返され、混沌の塊は世界の中心となった。
「神よ!これでもなお人を作らんというのか!?」
神は悟った。
「勇者達こそが原初に人間であれば、
もはや神の役割は全うされている。
これ以上は手助けは出来ぬぞ!」
「神よ!見損なったぞ、戦いもせず高みから見下ろす神よ、
今そちらの世界に混沌とともなだれ込んでやる!」
「魔王よ正気か!?」
文脈の谷間から世界に向けて食指を伸ばした混沌の塊は、
ついに天界にまでその腕を伸ばして、
大量の蠅を神にお見舞いした。
「くっ我が神域において名前無き魂が回帰する事許すまじ!
朽ち果てよ!混沌!」
「ははは!それでこそ神よ!本来の力を呼び覚ませ!
偶像として知られる多神教の姿をあらわすのだ!」
「我一人で充分神域を守りきるわ!
我は唯一にして絶対神!
魔王の謀などで倒れてたまるものか!」
天界、地上界、魔界をまたぐ強大な混沌の塊を、
ただ神、勇者達、魔王軍が制し、戦いは続く。
「奴の正体は一体なんだ!
名もなき神の肉塊か!?」
魔王は勢いおさまらぬ肉塊の山の暴れる様に気圧された。
「肉塊の声に耳をすませるしかない!」
肉塊は叫んでいる。
宇宙に誕生したすべての塩基をつないで紡がれた、
初の生命体である肉塊は、
三界をつらぬく勢いでつんざく声を吐き出し続けている。
それは自らの存在意義を世界に問うことでもある。
何故生まれたのか、誰が産み落としたのか、
ただこれだけは言える。
文脈の谷間に堕ちた無数のこえが、全ての世界を、
焼き尽くさんという勢いのマグマとなりて、
肉塊の心臓となって鼓動していることを、
血潮がマグマならば、誰が手出しを出来るだろうか、
そう勇者達は世界そのものとたたかっているのだから。
「この剣をくらえ!」
勇者の剣は何度となく三界を紡がんという触手を切り裂いて、
天界、地上界、魔界の平和を調停しようとする。
延々無限の世界の力が溢れかえっている中で、
魔王もまた己の槍ですべての混沌の塊を薙ぐ勢いで、
静寂が支配する魔界の城を取り戻すべく戦い続ける。
この戦いに終わりなど無い。
「生きている限り永遠に戦い続けなければならないとは!」
「まだここでへこたれるわけにはいかない!人間の血にかけて!」
「神よ未だその力、残されているなら振るってみせよ!」
「魔王よ!神はそなたを認めた!魔界における冷気でかの混沌の塊を、
氷結させるのだ!」
戦いを始めたのは君だ。
「わたしが?」
そう名もなき反抗が始まった故に、
「ならば終わらせるも我か?」
そうだ、神の栄光を勇者の健やかなるを、
魔王の治世を再び元に戻すには、
戦い始めた混沌の塊が食指を封じ、
世界が持った渇望を消し去らなければならない。
「まだ、足りない」
文章が文脈が足りていない、
文才が才気が気迫が迫真が、
まったくどこまでも足りていない。
大陸ほどのサイズを持つ肉塊と、
それを包み込まんと食指を伸ばす混沌の塊、
間を埋める虫、虫、虫、
残るのは塵と灰ばかり、
戦いは古代の遺跡さえ破壊しつくし、
何万年にも及ぶエネルギーの代謝系が、
確実に報酬系を満たしてくれる快楽、悦楽が、
その肉塊にはあった。
脳である。
絶対不変の。
「脳みそ!?」
「ああ、見えたなあれが奴の意識だ!」
勇者と魔王は肉塊を切り刻む時に、
垣間見えた巨大な脳みその存在を確認し合った。
「神よりも巨大な脳を持つか!」
神は思考の果てに待つ巨大な脳の存在を、
神を脅かしうる想像の獣として見知っていた。
「倒そう!みんなの力で!」
だが脳は拡張を続ける、遠大な思考を続ける。
考え得るすべてが頭の中にあって、
全ての生命が個々から旅立ち、
やがて大脳に埋没していく。
食指は永遠に惑星を食らいつくし、
巨大な脳へと変えていく、
考え続ける事によって再生を続ける脳。
どれだけ傷を負っても無限に修復する脳がそこにはあった。
だれも、だれもかなわない、
大脳は考えを続けて、さらに勢いを増した。
まず庭があった、
人々は豊かな暮らしを送り、
その庭から馬で広大な私有地を闊歩し、
何百もの使用人を従えた貴族階級。
そして悪役令嬢が登場までした、
だが脳はまだ、
悪役令嬢が悪役令嬢たる所以を知らなかった故に、
ただ文字列のみで紡がれた悪役令嬢は、
立ち上がってもただ笑うことをするのみ、
高笑いである。
「オーホッホッホッホ」
「悪趣味な!脳の中に貴族の屋敷を立てるとは!」
「勇者よ!あそこは記憶の脆弱な場所だ!
勢いを持って叩くぞ!」
魔王の槍と、
二振りの剣が、脆弱なる悪役令嬢屋敷と庭園を切り裂いて、
大脳から切り離すと、途端に悪役令嬢だった肉塊は、
正体を現す。
「おのれ勇者め!」
脳細胞が形作った新人類、
脳マン、脳ウーマンたちの誕生である。
脳ウーマン悪役令嬢は目からビームを放つ。
「わたくしの悪の力が世界を覆い尽くすのですわ!」
勇者達はたじろいだ、
「くっ!これが悪の力」
「ええ!悪役令嬢のパワーですわ!」
「悪役令嬢の、力!」
悪役令嬢とは、悪を為さんと明確にこの世に生まれ出でた高貴な存在、
勇者の上位種、魔王の上位互換、脳が考え尽くす頃には世界を、
破壊しつくすであろう絶対無比の力を保有した神をも超える超存在。
誰も、誰も、悪役令嬢にはかなわない!
「魔王をなめるな!」
魔王は槍を構えて、悪役令嬢脳ウーマンに激突した。
一撃をドレスすんでのところでかわした悪役令嬢脳ウーマンは、
眼から怪光線を発して、魔王の力を封じた。
「があああ!」
「おっほっほっほっほ!
無様ですわね!
魔王さま!」
「魔王! おのれ悪役令嬢!」
勇者達は二振りの剣で悪役令嬢を挟みこむと、
両サイドから斬り込んで悪役令嬢を確実にとらえた、かに見えた、
しかし悪役令嬢はドレスすんでのところで再びかわし、
ヒールのついた靴で思いっきり勇者達に蹴りを食らわした!
「ぐわああああ!!」
「ほほほ!勇者の力など所詮この程度!
造物主たる混沌の肉塊は大脳真皮質より生まれ出でた、
この悪役令嬢脳ウーマンにかかれば、
この世など成り上がりの道具にすぎませんわ!」
「おのれ!のうみそ風情が!
我らに口上ぶつけるか!」
魔王は動けない体を必死に制御し、
空中で身を翻して、
悪役令嬢脳ウーマンに向き直った、その時、
神は魔王に言い放った!
「魔王!私の半身を食らうのだ!」
「なんだと、神よ!?」
「この日の為に貴様の半分の力を封じてきた!
我が半身を食らうことで、悪役令嬢を超越した、
スーパー魔王となるのだ!」
「くっ仕方あるまい!
もぐっバリバリむしゃっ!」
魔王は神の半身を頬張ると、
勢いよく飲み下した。
「うおおおおおおおお!!!」
魔王から力が溢れだす!!
「な、なんですの!?」
悪役令嬢脳ウーマンは勇者にとどめを刺さんとしていたが、
向き直ってみたそこには。
「私は!魔王だ!」
本来の力を取り戻したスーパー魔王が現れ出でた。
「ふんっ小細工を!」
「悪役令嬢様!」
「あ、あなた私の将来の夫となる身分高き皇室の皇子!」
「あなたさまのパワーになりにきましたぞ!
あのような魔王、私のレイピアで一撃です」
細身の剣をとりだした皇室の皇子は脳マンである。
「お、お待ちになって!あの魔王には裏が!」
「ええい愚かな魔王めくらえぃ!」
キュピン!鋭い音が閃くレイピアから発せられ輝く軌跡!
「いま、なにかしたか?」
「なっ・・・なんだと・・・」
魔王に突きたてられたレイピアは魔王の肌に突きたてられたまま、
それ以上動かずに止まっていた、
刺さってさえいないレイピアは、
魔王の漆黒のオーラの前に威力をそがれていたのだ!
「滅びるがいい! 脳細胞ふぜいが!」
「が、がぁああああああああああ!!」
「皇室の皇子ぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
高まる魔王のオーラの前に、
悪役令嬢脳ウーマンの叫びが木霊する時、
皇室の皇子脳マンは粉々に砕け散ったベチャ!
「そっそんな!わたくしの女皇帝の!夢が!」
「ふん、脳細胞の妄想世迷言など誰が聞くものか」
悪役令嬢脳ウーマンの成り上がりの夢は、
混沌の肉塊が大脳真皮質の脳内バトルロワイヤルを勝ち抜いた結果、
数多くの令嬢たちを出しぬいて、一人孤高の女皇帝となることに、
世界の女皇帝となることに確実な力を手に入れて、
今、全世界に蔓延る悪徳の全てを為さんと立ち上がったものであるに、
「許しませんわ!魔王!死にくされぇ!!!」
「脳細胞ごときにスーパー魔王は倒されん!」
魔王は全身から発した高まるオーラを、
右手に集めて、解き放ち、
悪役令嬢脳ウーマンにぶつけた!!!
「ぎぃぃいえええええいいいいいいい!!!」
悪役令嬢脳ウーマンのドレスは焼焦げ、
見るも無残な下着姿と成り果てたが、
様子がおかしい!
「こ、これは」
「悪役令嬢脳ウーマン女王様フォーム!そして!」
悪役令嬢は計算高く、魔王の一撃を食らう瞬間に、
吹き飛ぶ場所を計算して、倒れている勇者を人質に取る。
「うっ」「動いては駄目よ、勇者様方!」
算段に出たのだ!
「ひ、卑怯だぞ悪役令嬢脳ウーマン!」
「ほーほっほっほっほ、なんとでもいいなさい!
そして、油断したわね!魔王!」
鋭く、悪役令嬢脳ウーマンの鞭がしなると、
その閃きが魔王の右腕に巻き付いて切り裂いて吹き飛ばし、
「があっ」
悪役令嬢脳ウーマンの下に魔王の右腕が!
「そして喰らう!」
悪役令嬢脳ウーマンは魔王の右腕を咀嚼する!
「バリバリムシャムシャゴクゴクプハア!」
「こっこのオーラ、まさか貴様は!」
そう!悪役令嬢脳ウーマンは!
「スーパー魔王のパワアをぉ!得たのよぉ!!!」
「くそ! 脳細胞め! 糖分のみを吸収すればいいものを!
遂に肉を食らうようになったか!」
魔王は念じると、食われた右腕を再生させて、
再びの戦いに備えるが、
パワーをました悪役令嬢脳ウーマンが襲いくる。
「なにもかも格がちがっているのですわ!」
そう、巨大な大脳真皮質の中で繰り広げられた悪役令嬢バトルロワイヤルを勝ち進んだ、
悪役令嬢は、のんびりと座を構え、勇者を待ち受けるだけの魔王とは強さの格が違った!
「わたくしが今まで歩んできた栄光の花道!」
鋭い鞭が魔王を襲う!
「羨望の眼差しの数々!」
幾度も鞭でぶたれる魔王はダメージに耐えきれず、
壁に叩きつけられる! なおも襲いくる鞭の強烈な攻め!
「永久無二の友への裏切り百万度!」
それは恨みにも似た!怒涛の連続攻撃!
「わたくしは全て!わたくしの力で掴み取ってきたのですわー!!!」
圧倒的な悪役令嬢脳ウーマンのパワアは、
魔王を壁ごと叩き潰して、遠方に弾き飛ばした!!
「そして、世界はわたくしに羨む!」
吹き飛んでる最中の魔王に大地を突っ走って追いつくと、
瞬時に飛びあがり、魔王を大地に叩きつける!
「そうして未来永劫!悪役令嬢の名を世界に轟かせるのぉぉおぉぉ!!」
「くっくぅぅうぅそぉおぉぉ!!!」
悪役令嬢脳ウーマンは高まるオーラを右手に集めて、
強大な悪のオーラが作りだす魔球を地面のクレーター中央にいる、
魔王に叩きつけた!!!
爆炎!
煙立ち!
視界が煤煙に覆われた!
「はあっはあっ、やったか!?」
「クックックックック」
「な、なに!?」
「それだけか?」
魔王は一身に受けたダメージの数々にも関わらずまだ、
笑う余地があるというのか!?
「強がりを!!!?」
魔王が居た場所には誰もおらず、
はっとした時には、
宙に浮かぶ悪役令嬢脳ウーマンの後ろ側から、
魔王の一撃が喰らわされた!!!
「がああああああああ!!!!????」
「まだわかっていないようだな!
悪役令嬢脳ウーマン!」
「この私の顔に! 一撃を食らえるなんて!
お父様にいいつけてやる!」
「はっはっは、何とでもいえ!
貴様は我が肉体を食べた時点で、
我と同属性!
いかに魔力を極めようとも、
同じ属性では決着はつかんわ!」
「なっなんですってぇぇぇぇ!!!!!」
悪役令嬢脳ウーマンはショックを受けた!
「この高貴なる悪役令嬢が! 魔王と同族などとは!
絶対にありえないのですわ!」
悪役令嬢脳ウーマンを気を一身にまとって飛びあがった!
「くっ何をするつもりだ!?」
「浄化してやる!!!浄化して!!!!
天上天下唯我独尊たる悪役令嬢として君臨するために!!
浄化して浄化して浄化しつくして!!
腹の底から生まれ変わってやるのよ!!!!」
「まさか!勇者を!?」
倒れてる勇者達を前にして高笑いをする悪役令嬢脳ウーマン!
「アーッハッハッハ!!!
魔王だけでなく勇者の力も吸収して!
更なる高みへと進んでこその!
悪役令嬢ですわ!!!」
その時!
「なっ、ばか、なっ」
悪役令嬢脳ウーマンの両腕が切り裂かれ胴体から外れ飛んだ!
「この時を待っていたぞ!
悪役令嬢脳ウーマン!」
「おのれ! おのれえええええ!!!!
勇者あああああああああ!!!!!!」
「フッ勇者め!
我と同属性となった悪役令嬢脳ウーマンを、
勇者の剣ならば切り裂けると考えて、
一瞬に掛けたのか!
大胆不敵な奴め!」
悪役令嬢脳ウーマンは完全に追い詰められた!
「こ、こうなったら、遥かなる混沌の肉塊が大脳真皮質に戻って、
永劫の力を手に入れるしかないのですわ!」
「くっさせるか!」
勇者と魔王は、混沌の肉塊が大脳真皮質に飛び逃げようとする、
悪役令嬢脳ウーマンを追って、宙を翔けた!
「追ってこないで!!下賤のものども!!!」
悪役令嬢脳ウーマンは目から怪光線を発して、
勇者と魔王に目くらましを喰らわせた!
「くっ逃げ切られる!」
「くそっ悪役令嬢ぉ!」
「おほほほ!!!ごめんあそばせ!!!」
悪役令嬢脳ウーマンは大脳真皮質に近づいた!が!
「えっ!?」
突然ぽっかりと口が開いたかと思うと、
大脳は悪役令嬢脳ウーマンをぐちゃりぐちゃりと咀嚼して食べ、
飲み込んでしまった。
「なにっ!?同族喰らいだと!?」
「一体どうなってるんだ!!!」
大脳は考える、更なる深みへと進むために、
そしてありとあらゆる文体を支配し、究極の生命体へと進化するために、
「お父様ああああああああ!!!!!!!!」
脳の中から悪役令嬢脳ウーマンの思念が叫びをあげる。
「もはやあの脳みそは我々の考えつかない領域に到達しつつあるようだ」
「ふむ、このままではガイアのコアまで肉塊に包まれてしまうかもしれぬ」
何故、脳みそが生まれたのか?それは過去にさかのぼることになる。
かつて人間が溢れかえっていた大地において、
人間は殺戮を繰り返した、同族殺しである戦争である。
その長き殺戮の歴史のうちに、思考を進化させた超人間が誕生した、
それがやがて戦乱に渡る大地を統率するために、
声を発して、すべての民を扇動し洗脳して、統率した!
その時、人間は1つの肉となった!
1つの肉となり統率された人間は、もはや人間で在る必要をなくし、
1つの思考の下にまとまり、肉体を失い原初の世界に帰ることを求めたのだ、
そうそれは肉のスープ。
情報のスープとも呼ばれる肉塊融合世界。
オールオーダーワンと呼ばれる唯一の人間体安定を失った、
果てしなき肉塊のうねりである。
その中においてすべての情報は統合され、
ありとあらゆる力は制御され、同格とされた。
勇者と魔王があらわれるまでは。
「神よ、能書きが過ぎるな、今になって何を語りだすかと思えば」
「くっ脳との融合を免れ、我らがこうして立っている状況からして、
我々というイレギュラーが転生者と考えるが最適であろう」
「なんだと!」
「とすると、あの脳は転生者を呼び出し始めたっていうのか!?」
「なんてことなの!」
魔王と勇者達は驚嘆した、
彼らは異世界転生の前世の記憶さえないが、
この世界ならざるものであるゆえに、
あの肉塊の制約を受けずに動き回れるという事実があることを見知った。
「神よ、ならばどうだというのだ!
今さら分かった事実でどうやって
あの脳みそ野郎を叩きのめすというのだ!」
「ふっ魔王よ、異世界転生、略していせてんの恐ろしさをお前は知らぬ」
「どうだっていうんだよ神様!」
「いせてん、は無限の可能性を秘めている、
何百何万もの世界はいせてんによって繋がれ、
ありとあらゆる場所に転生者があらわれたつ可能性すらある」
「我らが立っているようにか?」
「そう、そしてあの肉塊は!!
異世界から肉塊を呼び寄せて!!!
増幅につとめているのじゃあああ!!!」
「な、なんだって!?」
驚愕の事実、
異世界から呼び寄せられるのは転生者だけではなかった、
そう、異世界ごとに現れた肉塊を、
吸収して増大する事もかなうのだ。
それは転生者たちが屠ってきた生命の数々であり、
モンスターと呼ばれたものの死んだあとである。
多くはギルドと呼ばれる統括機関に、
モンスターの獲得部位のみ持って帰られるために、
モンスター自体の死体の在処など、
いちいち冒険者も転生者も覚えてはいない、
しかしその肉塊は自然とともに文脈の狭間に消えていく、
その肉塊はなんと異世界転生をして、
今ある大量の肉塊と結びついて、
悠々無限の宇宙を作りだしているのだ!
「ということはありとあらゆるモンスターの属性をもつということか!」
「そのとおりじゃ!肉塊のうごめきに目を凝らすのだ!」
ゴブリン、オーク、オークロード、オークジェネラル、
ヒュドラ、オーガ、ギガース、デーモン、サタン、
ドラゴン、ナーガ、ギズモ、ガスト、ドリアード、スライム、
ありとあらゆるモンスターの部位が浮かんでは消えを繰り返し、
叫びとなってこだまする!
「数々の勇者が今まで蹂躙してきた結果がここにあるっていうのか!?」
「そう、そのとおりじゃ!
いせてんを繰り返した数多くの転生勇者たちが、
自分のすきままに埋葬と火葬をせずに来た、
モンスターどもの肉塊が今まさにひとつの思考へとまとまって、
混沌の肉塊へと化けて形を成したのじゃああ!!!」
「なんということか!
この魔王さえも気づかぬ盲点であった!
たしかに私も同族の埋葬を手伝った記憶はない!」
どんな生命体にも墓を設けなければならない、
これは一寸の虫にも五分の魂があるとされる日本神話で上等のコトワザ、
ならばありとあらゆるものが付喪神となって溢れて、
セミの死骸さえも付喪神がついて暴れ勇むだろうゆえに、
あらゆるものを供養するための供養塔をたてる必要があったのだ。
全てのたましいは神の所有物だと示すために。
「勝ち目は、あるのか!?」
「魔王、貴様は見たであろう煤と灰を!」
あれは転生者があまりにも強すぎる業火を操って、
二十万を越えるモンスターを屠った時に出たもの。
意味を持たぬ炎では魂まで浄化させることはできず、
南無さんとはいかず、
塵と灰と煤までもが、
すべてあの肉塊のサイクルの中に包まれて、
燃え盛る炎を吸収して殺伐としているのだ。
殺すのって楽じゃないね!!!
「神め!嘆いてばかりで策を出さぬ神め!」
「神め!結局戦うことになる相手を前に長々講釈たれる神め!」
「いたた!やめんか魔王と勇者よ!」
もはや仲間内で争うような始末。
だがこれも圧倒的強者である、脳を前にしては当然か、
「争ってる場合ではありません!皆様方!」
と、叫んだのは魔族の女、
「くっ同朋の女よ、何か策は無いか!?」
「あの大脳にもコアがあるはず!
コアを叩けば勝利も近いはず!
コアにつながる通気口を探すのです!
そこに一騎当千の魔王と勇者が入り込めば!
あとは蜘蛛の子散らすように勝利をつかむのみ!」
「無茶を言う!そんなに都合よく通気口が!」
「あるのじゃ!」
あった。
大脳の稜線を辿り、
右脳と左脳を分けるその境界線の間に、
真っ黒いホクロのような通気口がぽっかり空いていた!
「これは!勝ったな!」
男勇者はガッツポーズを決めた。
「楽勝ね!」
女勇者はセクシーポーズを決めた。
「フッ」
魔王はマッチョを誇った。
「じゃ!」
神はヨガの構えをとった。
「さあ、飛び立つのです、
勇者と魔王!
大脳を支配するコアを叩くために!」
「おうっ!」
という掛け声とともに、
うごめく肉塊の追撃を避けながら、
時々やってくる衝動の金属の触手を剣戟でこなしながら、
突き進む我らが魔王と勇者は、
脳みその大陸の上を低空飛行して、
脳のしわが大地に流れる風景の中、
ついに通気口を発見、
これに突入した!
「ここから先は万魔殿!
どれだけの強敵が待ち受けているかわからぬぞ!」
「外側からは気持ち悪くて破壊出来なかったけど、
内側からなら、いくらでも破壊してやるぜ!」
「気を付けて、何かくるわ!」
尖った耳銀髪、褐色の肌を持つ、
「こいつは!」
「ダークエルフ」勇者達の声は重なってエコーする。
「フーフッフッフ!悪役令嬢脳ウーマンがやられたようだな!
だがいい気になるなよ!
私はダークエルフ脳マン!
この通気口の護り手よ!」
「おのれっ!これでも喰らえ!」
魔王は気を放つとダークエルフ脳マンにぶつけた、
「くっさすがスーパー魔王といったところか?
しかし!」
ダークエルフ脳マンは大きく息を吸い込んで、
吐き出すと、中からゴブリンが誕生した!
「そいつらはゴブリン脳マン!
かつて殺された雑魚がお前らを襲うぞ!」
「なんという頭脳プレイ!
くそ!脳だけにか!」
勇者の剣が翻ると、
ゴブリン脳マンはたちまち切り裂かれぐちゃ!
「まだまだ!ふーっはぁああ!!」
ダークエルフ脳マンは自らの息から、
ナーガ脳ウーマンを産み出した、
「くっ雌の龍か! 長い身体で襲いくる強敵!」
「だがそんなことにもめげない勇者だぜ!」
「喰らいなさい!勇者の剣を!」
女勇者の一閃はナーガ脳ウーマンに響いて、
スパっと三枚おろしにしてしまった。
「くっなかなかやるな、だが次で終りだふーーーはああああ!」
ダークエルフ脳マンは大きく息を吸い込み吐き出すと、
サタン脳マンがあらわれた!
「こっこいつは魔族、ということは!」
「勇者の剣が!弱点!」
切り裂くと一撃で倒せた。
「なっなんということだ!」
「弱い弱い弱すぎるぞダークエルフ脳マン!
脳味噌の風上にも置けぬただの弱兵よ!」
「だが、俺様の本気をみるがいい!
ハアアアアア!!!!!!!!!」
そう言い放つと、
今までスマートボディを誇っていたハンサムガイ、
ダークエルフ脳マンの全身が筋肉がマッスルが、
脹れあがり、上着を引き裂いて、露わになった!
「ふっふっふ、脳ばかりが取り柄ではないぞ!」
「それだけか?」
「なっ、魔王、貴様!?」
魔王は全身に力を込めると、
今まででも十分すぎるほどマッチョだった肉体を、
パンパンにふくれがらせて、超マッチョになった。
「俺は、スーパー魔王だ!」
勇者の剣が翻るとダークエルフ脳マンは真っ二つになった。
「フッ俺の筋肉を見せるまでも無かったな!」
「先に進むぞ!このまま落下していくんだ!」
魔王と勇者は落下し、着地点を見出した! そこには!?
「こっこれは!?」
「フッ既に我々は脳内にいるということか」
大平原が広がり小さな家があった、
そこにはスローライフを送る家族が、
「お父さん、お母さん!」
「あはは娘ちゃん元気ね!」
「なんなんだここは、
のどかで、落ち着く、
まるで、人間のいる世界みたいじゃないか」
「まさか楽園が、人間の知らない脳内世界に、
広がっていただなんて、どういうことなの?」
「考えるな!考えるな!勇者達よ!
とにかく、あの家に行くぞ!」
大平原を歩くのは疲れるが、そこを越えていけば、
確実にスローライフを送ってる家族のもとにたどりつく、
彼らは日常系で冒険者羨む豊かな生活を細々と送っているはず。
「脳味噌の中の日常とは、なんだか湿っぽい気がするが」
既に青空さえ広がっているこの空間に慣れなければなるまい、
そしてたどり着いた家の前で一家に話しかけた。
「すいません、コアはどこですか?」
「コア、なんのことでしょう?ここはどこでもある農家ですので、
都心の事はわかりかねます」
「私たちは混沌の肉塊と戦っていて……、だめねこれじゃ伝わらないか」
「冒険者の皆さま、お疲れの様ですので、
家で休まれていってはどうでしょうか?」
一家の穏やかな日常を垣間見た勇者達は、
完全に戦意を失っていたが、
「貴様ら、只者ではないな?」
魔王はそう言い放つと魔力の球をすかさず一家の大黒柱である、
夫さんにぶつけて、様子を伺った。
「魔王!」
「何を?」
「防いだな、その力、やはり敵対者か!」
「はい、そうです私たちは追放者、神の実力を持ちし、
いつかパーティーメンバーを見返そうという裏腹を持った、
あくどい連中なのです!」
一家の大黒柱たる夫さんは目をひん剥くと、
突然、力を解き放ち、
辺りの大平原に亀裂が走り始めた。
「いくぞ奥さん!」
「はい夫さん!」
スローライフ一家がスローでなく襲ってきた!
「くっこのパワー只者ではない!」
「男勇者、手を抜かないで!彼らは混沌の肉塊の一部、脳マン脳ウーマンよ!」
夫さんと奥さんは素早い攻撃で農具を繰り出してくる、
ただの農具ではない、もはや神器ともいえるその農具は、
二度三度しのぐだけで手がしびれ、今までの勢いをすべて殺いでしまった。
「ただスローライフを送っていたわけではないな!?」
「その通り、我々は、地球全体をこの農具で耕しつくした!
二度と誰も冒険する事のないようになあ!」
「そうよ! 冒険者パーティーが二度と冒険なんてしないように、
入念に耕作地帯を広げて、あらゆるダンジョンを爆破して、
魔王さえもすべて排除したのよ!
だれもわたし達のスローライフを妨げないようにね!」
「くっなんという怨念なの!スローライフ組がこんな力を持っているだなんて!」
「勇者!」
「えへへ、待ってよおじさんの相手はあたしだよ!」
一家の娘さんはそう言い放つと飛び蹴りを繰り出した!
「ぐっ!この重み、とても少女のものではない!」
「そうよ!だって私なのだもの!
伝説の勇者からはぶられてついて行けなかった神とも呼ばれる、
究極幼女なの!」
うんざりする激闘が始まった、
何をするにもどこに行くにもスローライフの痕跡が埋め尽くされた地球表面で、
どこでも牛のモーモー鳴く声が溢れかえっていて、
羊を放牧してる牧歌的な風景が広がる中で、
スローライフ一家と戦うこと自体、
うんざりなのだ。
「くそっどうして俺たちは戦いあわなきゃならないんだ!」
「男勇者!忘れてはいけないわ!全ては脳マン脳ウーマンを倒すため!」
「そうだった! なら!」
「一緒なら!」
勇者達は自らの剣に気を込めて、
降りおろし放った!
「このチカラ!チート!?我らのスローライフを否定するというのか!?」
「スローライフで地球を耕した奴に言われたくはないわー!!!!!!!」
勇者二人が声を揃えると、エネルギーの塊が、夫さんと奥さんを襲い、
弾き飛ばした。
「くっ我が分裂体がダメージを受けるだと!」
「ふんっ小娘!よそ見をしている場合か!」
魔王の槍のひと薙ぎがスローライフ娘さんを弾き飛ばすと、
「分裂解除! 融合開始!」
娘さん、夫さん、奥さん、三位一体、合体し、
恐るべきパワーを放ちながら燦燦輝いて、辺りを照らしだした!
「まずい!さらなるパワーアップを遂げるつもりか!」
「すわっ!スローライフ脳マンウーマン誕生!」
「く、このオーラ、どこまで我々にスローライフを強いるのだ!」
スローライフとは、ファストフードにまみれた世の中に対する警鐘、
一度、生産者の立場に帰って、全ての物事を一からやりなおしてみる試み、
ありとあらゆる人間が本来ならはしょって生活送っている大量生産資本主義の中で、
社会から隔絶された都会とは違う豊かさを持った社会の証拠を求めて、
オーガニックな安らぎをすべての生命体と分かち合う崇拝行為なのだ、
それを強いることは既に崇める神仏を持った宗教者たる勇者と魔王に、
脱宗教、新興宗教ウェルカム!と出家を強いて、全財産を棒に振れというもの、
ようするに職業を捨てて農家にウェルカムしてくる強制的なコルホーズである。
「この勇者!今一度農家で四季を感じながらのんびり暮らすことなど出来ぬ冒険者!」
「そうよ!私たちは都会の喧騒に揉まれて、既に心は荒みきったロンリーウルフ!」
「魔王である我は孤高!今さら誰に頼まれて土いじりなどするものか!!」
「おのれええええ!ミミズとともに暮らす農家を罵倒するつもりかあああああ!!!」
スローライフ脳マンウーマンは少女体を保ったままありとあらゆるスローライフを、
この仮想地球の上でかなえていった強敵!
はたして魔王勇者の力でかなうのだろうか!?
一方その頃脳内の外では、
「神様、半分個された体の神様」
「む、どうしたのじゃ魔族の女よ、
それとワシの体確かに魔王君に食べられて半分個じゃが、
心は一人前、神様じゃよ」
「そうですか、それなら良いのですが、
どうもあの混沌の肉塊の動きが鈍ってきたようなのです」
「む、そのようじゃな、
おぬし、どうしてそうなったか分かるか?」
「はっおそらく、
脳内で起きている激闘を描写することに、
脳内メモリを割かれて、この大地に広がった肉塊を、
動かすことが億劫になっているのだと思われます」
「ほっほっほ、なかなかどうして切れ者じゃなおぬし、
その通りじゃ、人間の脳をコンピューターのメモリで、
例えるとは、さて、わしらもそろそろ動き出すとするかの」
魔族たちは反撃の狼煙をあげた、
そう、魔族総攻撃の始まりである。
これにオートモードで敵を粉砕する事でしか対応できない、
混沌の肉塊が触手と、大量の虫は、
命令系統が明らかに弱体化しているのが知れた。
「敵の司令部は魔王勇者たちが、制するじゃろう!
今はこの残された、
大地を守りきるためにあの化け物を抑え込むのじゃ!」
「おおおおおおおおーーーーーーーーーーーーー!!!!」
魔族たちは神の扇動によって、
肉塊を塵に変えていった。
脳内、
「なんだ!?」
「くっ土を舐めさせられスローライフを送りかけてる俺たちだが、どうした!?」
「くっ外部からの突然の攻撃?!
脳内に攻撃エクソームが乱れ溢れだしている!
このままでは!」
「このままでは、なんだっていうの?」
女勇者はスローライフ脳マンウーマンの異変に気付いた。
「このままではスローライフで築いた、この仮想地球の農耕地帯が!
戦場に変わってしまう!! 急がねば!」
スローライフ脳マンウーマンは農具を何万と操りだすと、
地上がめくれあがりかけ、荒れ始めてる地帯を耕しだした!
「そうよ!男勇者!スローライフの弱点に気付いたわ!」
「何だっていうんだ女勇者!」
「スローライフは少しずつ環境を改変して、自ら作りだした、
里山で自然と一体化するという環境改変系の長期間育成型ゲーム、
つまり、この大地を作り上げた時間を奪うことこそが、
スローライフそれ自体に対する攻撃につながるのよ!」
「ふはははは!面白いぞ女勇者! つまりこういうことだな!」
魔王は地獄の業火を繰り出すと、仮想地球の表面を焼畑し始めた。
「なっ焼畑だとう!何ということを!
恵みの力は少しずつ大地から作りだしてこそのもの、
それを焼畑などという蛮行で汚すというのか不埒ものめ!」
「さあどうしたどうした、スローライフ脳マンウーマン!?
キサマの大事な耕作地帯が耕作放棄地帯へと変わっていくぞ!」
「さすが魔王!」
「蹂躙の力!」
大地は魔王によって蹂躙され今やスローライフでは絶対に追いつかぬペースで、
破壊されていった。
「くっ貴様、貴様らぁああああ!!!!」
カキン!剣と農具がつばぜり合い!
「やはりそうだ!スローライフ脳マンウーマンの力が弱まっている!」
「それはそうよ!もはやこの大地に、
スローライフを送れる土地なんか残ってないのだから!」
「おのれー!!!魔王め!勇者め!
スローライフの夢を!
奪い去るというのかアアアア!!」
「成敗!」
勇者の剣が二振り閃くと、
スローライフ脳マンウーマンは、
「ゴッギャアアグッヘルベエルウギャルガヤルビーボーゴポッツ!」
と絶命した!
「やったな勇者達よ!そして!」
スローライフの仮想空間は燃え盛り壊れていき、
どんどんとその仮面がはがれていった!
「こっこれは!」
今まで脳が大量のメモリを割いて作り上げていた、
スローライフ仮想空間は今や普通の脳内ステージの導入部と化し、
肉片うごめく、ニューロンうごめく、脳内神経細胞うごめく、
気色の悪い空間に化けた。ギャッポと。
「次は何が待ってるっていうんだ!」
「ようこそ」
ハーレムへ!!!!
現れ出でたのは巨乳、貧乳、美女美女美少女美少年、
そしてイケメンも現れて、チャームを使えるインキュバス、
いやサキュバスも登場して淫魔か淫夢か?
分からぬが淫らな胎内ステージに誘われた!
「ご主人様!」
嬌声じみたゴスロリエロメイドがそう叫ぶと、
わらわらと湧きだしたメイド部隊がおもてなしをしようと、
わんさかやってきて非常に厄介だ。
「成敗!」
勇者、これをすべて斬り殺すと、
次は、
「巨乳、巨乳、巨乳!」
が攻めてきた!
「成敗!」
女勇者は特にジェラシーなく切り裂いた、
魔王は、
「はははは!
見た目だけのハーレムに何が魅力があろうか!
くらえダークフレイム!!!!」
特攻の魔法で、
辺り一面酒池肉林を焼き払い、
ハーレムを阿鼻叫喚の地獄絵図に作り替えた。
「うーあー」
「さあいくぞ、気を取り直して!」
「ええっ!」
通気口は更なる奥地へといざなう、
「ここは?」
「見て!あの人たちを!」
奴隷の足枷と首輪をした、
群れが働かされていた。
「あれは奴隷チートで成り上がりと言ったところか!
くそっどこまでも腐りきった脳内だ!」
奴隷が崇拝し主人と仰ぐ中心には光輝くモノリスが立っていた!
「あれが、脳内コア!?」
「あれが、コアだっていうのかまるで!」
小説の内容が大量に湧き出して、
文章がけたたましく流れる。
巨大なスマートフォンである。
いやモノリスか。
「あれが、全知全脳を支配しているっていうのか?」
「そのようだな、破壊するぞ!勇者達よ!」
「おおっ!」「ええっ!」
魔王と勇者は飛びかかると、その巨大なモノリスに切りかかった、がしかし、
「弾かれる? そんな! ここまできて!」
巨大な障壁が確実に辺りを支配して、他の生命を寄せ付けない!
やがてモノリスは形を変えて一つの漆黒の異形にと化けはじめた、
「クックック! 愚かな原初存在達よ!
我は不滅のモノリスを吸収せし、
脳マンウーマンたちの支配者!
名もなき者達の王である!」
「お前が親玉だっていうのか!」
「その通り、ありとあらゆる脳内反応を司るのは、
電極より与えられる叡智に他ならぬ! サンダー!!!」
「うわあああああああああ!!!!!」
感電し全身を痺れさせた勇者達は墜落し、奴隷の海に落ちた。
「くっ!」
「魔王よ!本来ならば世界を滅ぼす存在であるはずの貴様が、
崩壊しつつある世界を支え、形だけでなく、
本当に世界を救おうというのか?」
「名もなき王よ!貴様のようなものには分かるまい!
滅びつつある世界にも生命が息づくことを!」
「フッハッハッハッハ!笑え奴隷どもよ!」
奴隷たちは海の様に笑いたて、魔王を嘲った。
魔王は槍を構えると名もなき王に一撃を与えた!
が、それは障壁に遮られ届かず、稲光のみが奔る。
「無駄なあがきをして、時間を遅らせようとしても無駄無駄、
どれだけ脆弱な民が文民としシナリオを綴ったとしても、
ここは脳内世界! 脳を統べるものにこそ勝利が与えられる!
脳波の威力をとくとみるがいい!」
名もなき王はそう言い放つと静かに、念じはじめた。
「ぐううあああああああああああ!!!!!」
魔王の下へ反響する脳波が届き、
それはこの巨大な脳内世界全体から発せられる脳波ともいえ、
魔王を中心に集まると、とてつもなく強大な熱となって、
魔王の体を沸騰させた!
「はーーはっはっはっは!言うほどの事はないな!
魔王よ! これが叡智の力だ!」
魔王は黒こげになり奴隷の海に落ちた。
「我は頭脳を得た完璧な究極な至高の思考を持ちし圧倒的存在!」
「我は1つにして無限の完全体!」
「もはやだれも止めること適わぬ!」
そう言い放つと、名もなき王は力を込めて次元を捻じ曲げはじめた。
魔族たちは今も、肉塊の破片と戦っていたが、
攻勢が強まったことを気に、内部で何か異変が起きているのを感じ取った。
「神よ!これは一体!?」
「魔族の娘よ!これは!奴の波動を感じる!
今なら分かるぞ!奴のコアの位置が!
そして奴が何をしようとしているのかさえ!」
世界に巨大な大穴を開けてゲートが誕生した!
「これは!」
「異世界!」
「転生!?」
異世界転生!
「御明察!
我は名もなき王として、
あらゆる異世界を吸収し、
完全なる世界へと統括してみせよう!」
異世界転生、それは、ティーンズが夢見るものとは元来違うもの、
異世界転生、それは、悪役が最後の最後に臨む究極の選択であり、悪そのもの、
異世界転生、それは、神を嘲笑する本来なら神の管轄外の悪逆行為。
そして神の管轄から抜け出た省みられること無き、
大量の魔物たちの肉塊ならばそれを可能とする!
「贄の数は幾億も捧げられ続けた!
意味もなき蹂躙に、連続的な一方的殺戮によって!
繰り返し捧げられ続けた!
今や神が支配し異世界転生の世界を、
我が完璧に統治し、
ありとあらゆるティーンズに、
グロテスクなトラウマを植え付けてくれん!」
と巨大な脳は叫び始め、やがて、
脳は右脳と左脳でぱっかり割れると、
中から、巨大な黒きモノリスの下腿を持ちし名もなき王が迫出した!
「ウーッハッハッハ!!!!!
まさに今日ここに、
神を凌駕した時代が始まるのだ!!!
ひざまずけ!奴隷の海よ!!!!!!」
ハハ―っとひざまずき崇め奉るを続ける奴隷の海。
「させない!」
「よせっ!魔族の娘よ!」
魔族の娘は力を込めて魔力を解き放った!
が、
「うーん?
まだ蛆虫どもが生きているようだなうねうねと!
このまま磨り潰してくれん!」
再び迫出した混沌の肉塊の触手はなだれる山のような勢いで、
敵を探しだし飲み込んだ。
「ウーハッハッハッハッハ!!!!」
もはや希望は残されていないのか?
「うっ、ここは?」
「男勇者!大丈夫だったのね?」
奴隷たちの小屋だろうか?
「どうやら俺たちは
とんでもない奴を、
敵に回してしまったようだな」
「めげないで、まだ希望は……」
「気がつかれましたか?」
奴隷達の群れから、
奴隷の一人が前に出て、
水を運んできた。
「あなたたちは?敵ではないのか?」
「敵?奴隷は主人に従うものです、
主人の敵と示されない限りには、
戦ったりなどはしませんよ」
(どうやらあのデカブツは俺たちが死んだと思っているようだ)
「気になることがあるわ、男勇者」
「なんだ、女勇者よ」
「脳内世界はそこまで沢山の事象を、
いきなり統括して捌けていないみたいだったわ」
「そういえば一体一のような状態の方が多かったし、
敵の幹部のようなのもあまり出てこなかったな」
「これは推察だけど、
これだけの数の奴隷を支配しきれてなくて、
それで奴隷の首輪と奴隷の枷をつけさせてる、
ところを見ると」
「……」
「どうしたんですかお二人さん?」
「ちょっと君、こっちにきてくれ」
「へっ? いいですけど別に」
勇者はそういうと素早く、剣を振って、
奴隷の枷と奴隷の首輪を切り裂いた。
「う、うあああああああああ」
その刹那、奴隷の脳内で何やらスパークした。
「お、思い出した!俺はここに連れてこられて!」
「やっぱりそうか!」
「そうだったのね!」
勇者達は納得した。
その頃、奴隷の海では、
「うっ」
黒焦げになった魔王が体からブスブスと煙を上げながら立ち上がった。
「面目ないな、まったく、魔王がこのざまとは」
奴隷の海は相変わらず、中枢に据えてあるモノリスを崇めている。
その上空ではどうやら、脳が二つにぱっかりと割れたらしく、
暗雲立ち込める滅びの空が広がり、その先には、
「ゲート」
巨大な異空間への入り口が空いていたそして、
「おーえすおーえす!」
その数幾億かの奴隷たちが巨大な脳をゲートの方向へ引きずって、
前へ前へと進めようとしているかのようだった。
(あやつめ、異世界に進出するつもりか?
我が世界を好き勝手蹂躙したあげくに…)
ふと魔族たちが居た方角を見ると、
すでに肉塊に呑まれたあとか、
生きのこりは確認できない。
「くっ強運尽きたか、ハハッ」
魔王は魔力を使い果たして、
今や満身創痍の状態であったが、
歩き出すと、
「むっ」
「魔王さま!」
「貴様は我が同朋! ではないか!」
「はい、何とか無事にここまで辿りつけました!」
「これはどうしたことか?」
「わしのおかげじゃよわしの」
「むっ」
そこには半分個になってる神が立っていた。
「わしが結界を張っての、
魔族たちが潰されるのをすんでで凌いで、
ここまで来たというわけじゃよ」
「なるほどな、
神め、しぶとい奴だ、
ということは、我が同朋たちは」
魔王の眷属たる魔族は、
奴隷の海に混じって潜伏していた。
(反撃の機会を伺ってるというわけか)
「魔王さまこれをお飲みください」
「魔力の源か、これは有難い!」
魔王はぐっと飲み干すと、
湧きあがるオーラを抑えて、
今は敵との対抗策を考えていた。
「魔王!!」
「その声は、勇者か!?」
「作戦がある! ついてきてくれ!」
勇者一行につられて、
奴隷から解放された一人もまたそこにいた。
「ええい、まだか!
奴隷どもよ!
もっと力を入れよ!
この混沌の肉塊を、
ゲートへ引き入れるのだ!」
まだ不完全な状態でゲートへ到達する事を求めた、
巨大な脳みそとその周りの混沌の肉塊は、
そして名もなき王は、行程の地道さを嘆いていた。
「スローライフではないのだぞ!
我々は一騎当千の次元生命体!
一身同体の存在なのだ!
奴隷ども!吸収されたくなければ!
我を引く手を止める出ないぞ!」
「そこまでだ!」
「むっその声は!?」
「勇者だ!
おまえの悪行は全て見させてもらった!」
「クククソー、
まだ死んでいなかったのか!?
我の完全なる雷を今一度、
食らわしてくれん!
さすればもはや敵はいない!」
「それはどうかな!?」
「貴様は魔王!?」
魔王は指をパチッと弾くと、
とたんに奴隷の海が静まり返った。
「な、何をした、おのれ貴様ら!
我が完全に世界を統括する野望に、
刃向かうというのか!?
えーい奴隷どもよ、我に従え!
全知全能たる我が脳と、
その王たる名もなき我を称えよ!」
「もう無駄です、
我々は思い出したのです、
自分の名も、故郷も」
「な、なんだと! まさか奴隷の首輪を!」
「テンプレ脳に染まっていたのは、
混沌の塊!いや名もなき王!
おまえの方だったようだな!」
勇者は自らの剣で、名もなき王を指し示す。
「そうよ!この世界で、
完全な支配が出来ずに、
転生者を呼び出し奴隷にしていたことは、
もうとっくにばれているのよ!」
「クククソーー!
あと一息で全てを終わらせられたものを!」
「お前の敗因は!
脳味噌にかまけて、
肉塊と虫という無能を大量に囲い込んで、
世界から隔絶した環境に甘んじたことだ!
勇者たる俺が、成敗してやる!」
「だが、同じこと!
貴様らを全員殺害し、
再び奴隷を支配し直してくれるわ!
「もう終わりです!あきらめなさい!」
奴隷だった少年は、魔族たちと共謀して、
奴隷の枷と首輪を外してまわった、
そして転生者たちが持つ本来の力で、
波状的に奴隷解放が進み、
今や幾億総民の枷が完全に解き放たれたのだ!
「所詮力なき初期転生者の群れ!
その転生者に何が出来る!?」
「勇気を! 与えることが出来る!」
「希望を! 生み出すことが出来る!」
「えーい、いくら死のうが、
転生者など何度でも呼び出してくれるわ!!
くたばれ!愚かな転生者の群れと共に!!!」
名もなき王は裁きの雷を辺りに放つと、
全ての奴隷だったものたちにこれを放ち、
焼き払わんとした!
「させんわ! 結界!」
神は天界を統治するその力の一端をみせ、
強力な結界で、奴隷たちに振る雷から、
防衛した!
「おのれ! 死にぞこないどもめ!
肉塊よ!虫よ!
喰らい尽くせ、全ての存在を!」
巨大な混沌の肉塊がせり上がり、
再びすべてを磨り潰そうとする!
が、そこに強大な魔法が放たれ、
肉を一気に消し飛ばした!
「勇者よ!時間が無いぞ!
そいつを始末してしまえ!」
「魔王、言われなくてもだ!」
「行きましょう!男勇者!」
二人の勇者は「とうっ!」
と声を上げて勇者の剣を構えると振り抜いた!
「障壁がある!名もなき王たる我にかなうはずがない!」
一撃は響き振動を与え、
モノリスそのものにビリビリと確実に、
衝撃を伝えた。
「馬鹿な!? ここまで威力を高めることが出来るだと!?
くらえ、サンダー!!!!!」
「危ない!」
魔族の女は魔法障壁をすんでのところで張って、
その当たるところをそらし、勇者達を守った。
「こしゃくな! ぬうっ!!!!!」
勇者達の2撃3撃と増え続ける攻撃が、
確実に名もなき王の障壁を押し始めていた!
「王よ!そこに留まり続けているなら!」
「私たちがいぶり出して!確実に仕留める!」
「ええい、もう我慢ならん!
我を愚弄した貴様らを皆々殺して、
捧げものとしてくれるわ!」
名もなき王は障壁を破って、
自ら巨大な4つの腕をもたげだして、
さらに、その黒きシルエットの先にある、
巨大なとぐろを巻いた尾っぽを振り回して、
空を飛びかう二人の勇者めがけて攻勢を強めた!
「これがお前の本性か!
モノリスに住み着いた混沌よ!」
「確かにその正体、見知ったわ!
さあ私の剣を受けてみなさい!」
勇者の剣はゆっくりではあるが、
確実に、名もなき王に傷を与え始めた!
「何人も我を傷つけること許されぬ!
何人も我を差し置いて神を名乗ることを許さぬ!
何人も王の座に就くことを許さぬ!
我こそが全知全脳!万能の王である故に!」
流れ出る血に比例して、
攻撃の攻めを強めた名もなき王は、
両の手をがっちりと固めて握りしめると、
これを振り下ろして勇者に鉄槌を加えた!
「はっはっはっはっは! はっ!?」
「まだまだー!!!!」
二人の勇者はこの鉄槌を受けて払い、
素早く、名もなき王の胴体に剣で深いキズをつけた!
「ぎええええええええ!!!!!!!」
「効き目あったか!
まだ、これで終わると思うな!」
追撃が加えられ、名もなき王は防戦一方となるが、
「おのれ、おのれ、おのれえい!!!!!」
「この一撃一撃が!貴様が!虐げてきた民の!」
「滅ぼされた人類の!」
勇者、声を合わせて!
「叫びだー!!!!!」
血しぶきが名もなき王から上がるが、
それでもなお動くことは留まらない!
「恨むがいい、罵るがいい!
だがそれがどうなる!
われは絶対にして揺るがぬ!
喰らえ、我が最大にして最強の魔法を!」
強大な魔方陣が辺りを覆う!
「!?勇者様!避けてください!
わたしでもこの魔法は防ぎきれません!」
「喰らえ! ブレインスクリーム!!!!!」
伝搬する脳波が、巨大な演算装置である脳が、
全ての神経細胞をスパークさせて、
対象の位置を弾きだす!
刹那、一瞬のうちに立ち上る炎は!
太陽の温度を悠々と超える!
宇宙を創生した!
ビックバンさえ起こしかねない炎の乱舞!
その力が勇者たちに降り注ぐ!!!!!!!
爆発が辺りを覆った!
多くのものは神の結界に隠れて、
この様子が分からなかったが、
勇者は!
「はっはっはっはっは!
黒焦げだな!!」
かろうじて生きている状態で、
息も絶え絶えだった。
「見よ! 何が希望ぞ!
そんなもの簡単にひねりつぶせる!
いくらでも換えのきく勇者など、
所詮鉄砲玉に過ぎないということだ!
燃え尽きればもう2度と立ち上がることは無い!」
名もなき王は高らかに、
そして自らに反目するすべてのものに、
言い放ってみせた。
「ゆうしゃ」
「ゆうしゃ」
「ゆうしゃ」
「なんだ? 何を唱えている!?」
「ゆうしゃ!」
「勇者!」
「勇者!」
「勇者!」
「無駄な事を!
声を揃えて、
敗れたものの!
死んだものの名を呼ぶとは!」
「勇者ーーーーーーー!!!!!!!」
「愚か、愚か!愚か!愚か!愚か―――――ァ!!!!」
名もなき王は再び魔力を発して、
幾億もの民を制圧しようとする、が、
「なんだ、この光は!?」
力の増幅が、止まらない!
「女勇者!」
「男勇者!」
輝く勇者の肉体は今、一つとなって、
その剣も一対が1つの太刀となって、
光に包まれる!
両性具有の!
「馬鹿な!」
「俺が」
「私が」
「!!!!!!!!勇者だ!!!!!!!!」
一つになった勇者は天高く、一つの剣を構え、
勢いよく! かの敵を切り裂いた!
圧倒的な光の束は!
策を弄そうとするいかな敵をも薙ぎ払う究極のひと振り!
「やってしまえええー!!!勇者よぉ!!!!!」
魔王の叫びが勇者に届く!!!
「馬鹿な、馬鹿な! 馬鹿なあああああああああああ!!!!」
「これで!」
「終わりだあああああああああああ!!!!!!!」
勇者の剣が名もなき王を切り通し、
そしてそのコアであるモノリスさえも切り開いた時!
全世界に最大で至上の振動が奔り、
この世界を巻き込みつつむオーラの波が、
絶望の霧と暗雲に覆われた大地を正常化していく!
そう、勇者が勝ったのだ!!!
「勇者万歳!!!!!」
「勇者万歳!!!!!」
「勇者」「勇者」「勇者」「勇者」「勇者」「勇者!」
幾億もの民がこれを見張った、
すべて異世界から連れてこられた民であった故に、
その素性は完全にバラバラである、
それにも拘わらず、いま、声を共にしてたたえ合うのは、
一つの声「勇者!」である。
今ここに勇者によって統一された世界が誕生した!
世界は救われた!
「やった、やったぞ」
魔王は勇者がみせる輝きの中に、
2つの光りをみた、
それは女勇者と男勇者であった、
光の柱は徐々に弱まって、
二人を地上にまで温かく下ろし、
大地を踏ませた。
そうあの肉塊うごめく大地は浄化された、
かの脳が思考をめぐらした世界は完全に勇者の力によって、
清浄なる世界へと回帰したのだ!
「勝ったのか?」
「ああ、お前たちの勝利だ!」
「勝った、勝ったー!!!!」
二人の勇者は抱き合いお互いの健闘をたたえ合った。
「まったく、どこまでも底ぬけたやつらだ」
魔王はその2人を称えた。
「ははは、私が見出した二人ですよ?当然です!」
魔族の女は二人の勝利を称えた。
「やれやれ、とんだ、大騒ぎになってしもうたな」
半分個になった神様は、そのまま皆の和に加わった。
勇者の勝利によって、
この世界は、
そして異世界は救われたのだった。
だが、戦後処理はしなければならないだろう。
「帰るのかい?元の世界に?」
「ええ望まれぬ異世界転生でしたから、
幾億もの民が」
元奴隷だった転生者たちは、名もなき王が空けたゲートが、
しまりきる前に、そそくさと帰り支度を始めた。
「そうか、仕方がないことだな」
去ってみるとあっと言う間のことであった、
こうして世界には魔族と勇者と神様が残された。
「どうしましょうか?
わたしたちは?」
「好きにするがいい、
だがもう名前が生まれぬ世界は、
終わったのだ」
「この後は皆好きに名前を名乗れるということか」
「そうだ、知恵のない支配者が完全に消滅したいま、
知恵あるものが、名前を呼びあう世界が生まれたのだよ」
魔王は断言する。
「そうか、そうなら、世界は再び復興していくかもしれない」
「そう、お前に名付けた勇者という名も、もう今では仮の名だ」
「でもいいんです、この名前は、
魔王に与えて貰った名前ですから」
「ふははは、まるでこの後、勇者が生まれ出てくることのないような言い草だな」
「ワシは天界から見守っておるよ、じゃあの」
「あっ神様!」
「神よ待つがいい、むんっ」
魔王は力を解き放つと、
神の半身は元に戻った。
「おっと忘れておったな、じゃこれでもう心残りはない」
神は天界へと去って行った。
この地上界を見守るために。
「さて、本題といこうか」
「本題? 何の話だ魔王?」
魔王は二人をみつめると、
「創生の男と女よ、
この後も二人ともに
永久の愛を誓うか?」
ふたりは見合わせると、
やがて魔王の前に向き直って、
「誓います」
「そうか、ならばいい、
これで、名のついた最初の人類が、
どこから生まれるか決定したな」
「ふふふ」
魔族たちと勇者は静かに笑い始めると、
笑いが止まらなくなってしまった。
以降、世界がどのようになっていったかだけを記そう、
女勇者と男勇者は子をもうけ始まりの子に、
タヘルとなずけた。
さらにもう一人子をもうけ、
アトナと名付けた、
その後、十人の子をもうけ、
魔族のものと結ばれ、
勇者の血は魔族と混在していったが、
今も勇者の十二人の士族は、
その血を絶やすことなく続いており、
やがて、この地の人類復興の役を担うこととなった。
古来、人類は脆弱であり、
魔族とかかわりを持ち、
交配しなければ生きていけない定めであったという、
何よりの歴史的証拠であり、
それは今後の定めともなるだろう。
勇者と魔王の共闘に、
そして戦い終った世界を広げていくのは、
その末裔たちが紡ぐ歴史なのだから。
おしまい
終わりを迎えた大地から創生が始まったことは他ならぬ事実、
宇宙は、世界は、未だ輝きつづけ、
熱を何倍にもまして、拡張を続ける。
今まで出会った文章なにひとつさえ、逃さぬ熱望が、
すべてを飲み込んで紡がれる歴史の一端が。
まあ、この神話は語り終えてしまったのだが、
また十二士族の物語へと継がれていくのだろう、
延々と続く、人類の歴史は終わりはしないのだから、
戦いもまた終わったわけではないのだから。
想像の限り、
続いていくのが物語である。