神の仕事編 1
とある雨の降る午後の事。
領主の町から一番近い村に着いたツカサとレナは、穏やかならざる話を村人から聞かされた。
「最近、死霊系モンスターが昼でも徘徊するようになって困っている。しかも死霊モンスターは、倒し方が面倒でレベルが10以上ないと返り討ちに合う。
近くに頼める相手がいないため村の入り口に柵を作って蓄えを消費しながら籠っているのだが、それももぅ尽きそうだ。」
事情が事情だけあって素通りするわけにもいかない。
何故なら、闇の神が依頼してきた内容がモンスター退治だからである。
そしてツカサとレナは死霊系のモンスターが出るという森に来ていた。
「以前スケルトンはツカサが蹴りだけで倒していましたよね?」
「胴体壊すだけでいいみたいだからね。ゾンビとか出たら多分頭を潰せばいいと思うよ。」
「幽霊はどう対処します?魔法効きますか?」
「んー分かんない。魔法が効かなかった場合の方を考えた方がいいかもね。うちらは多分大丈夫だけど、村人を置いて退散とかカッコ悪いからね!」
「了解です!…多分♪」
俺達は朝から夕方までモンスターの乱獲をした。
噂の通り死霊系モンスターがうじゃうじゃ出てきたけどワンパンで倒せるから特に問題なかった。ゴースト系モンスターも
普通に武器が当たるので"なんで?"な感じだけどこれなら村人を連れてきて、村人のレベリングできそうだな。
「モンスターの数が全然減りませんね。50体くらい倒しましたよね?」
「確かに、無限湧きなのかな?」
「それ、ダメなヤツですよ!」
「まだ何とも言えないけど明日また調べよう!」
帰り道、獣系の魔物を10匹ほど狩猟して持って帰ることにした。この時 既に雨は止んでいた。
「こんなに持てませんよ?鞄も小さいですしね…ほら。」
レナが鞄を見せる。大きい鞄は村に置いてきたので、レナの肩掛けポーチしかない。
「ちょっと思い出した事があってさ、試してみる。
ちょっと勝手が分からないから後ろにいてね。」
「ラジャ!」
敬礼してレナがツカサの後ろに隠れる。
元の世界だとゲームの闇魔法に"ブラックホール"がある。敵を吸い込んで消し去る魔法だ。
それとは別にリアルの方にも"ブラックホール"はある。宇宙の一部の場所の名前だ。効果も名前も一緒だけど、宇宙の方には"ホワイトホール"という出口があるかも知れないらしい。
なので、魔法で実験をしようとツカサは考えた。
「(理論上だと"吸い込んだ物"を出口から出すイメージで"ホワイトホール"を唱えればいいかな?)
とりま、やってみよう。・・・ブラックホール。」
最小限に出した黒い球体の中に今日の獲物を入れていく。
レナは目が点になってた。
次に取り出す方をやってみる。
「ホワイトホール…」
白い球体が目の前に現れて、中から今いれた獲物が出てきた。
本当であれば、異空間収納を使えば簡単だった。
しかしツカサは、異空間収納の存在を完全に忘れていたのだった。
異空間収納を使うようになるのは、まだまだ先の話である・・・
「ジャジャーン!成功です!」
「すごーい!それ便利ですね!」
「危ないから今度教えるね。」
ブラックホールはなんでも吸い込んでしまうからサイズを間違えると危険なので今は教えないでおくことにした。
「とりあえず帰りますか!」
魔法が成功して俺は機嫌がいい。レナも今後の旅の荷物が軽くなるので喜んでいる。
レナの転移魔法で村の入り口に戻ると
村がゾンビに囲まれていた!
俺達は急いで武器を出して応戦する。
20体くらいのゾンビを倒して倒し残しがいないか索敵魔法の"サーチ"を使用した。
「敵はいない。村人は無事かな?」
俺達は村に入って状況の確認をする。
とりあえず、村人は全員無事で被害もないという。
しかしいつ来るか分からない緊張感でみんな疲弊しているようで、発狂するものまで出始めている。
「レナ、結界魔法でもやってみる?」
「何ですかそれ?」
「んーとね、地面に書いて説明するね。ココが村で、村を中心に魔法で囲って壁を作る。
壁を作るときに硬い壁をイメージすると
誰も入れない壁が出来るし、逆に空気みたいなイメージにするとマナだけ拡散して特定のモノだけ入れなくなるはず…多分。」
「えーっと壁 壁 壁!」
レナがお試しで一人分の壁を作る。視認出来るように白い壁にしたようだ。
触ってから思いっきり殴った!
「いったぁーーーーーいっ!!」
泣きながら手を押さえている。俺は回復魔法をかけてあげた。
「ありがとうございますぅ…ぐすっ…」
「ま、まぁ、成功したし良かったね…(苦笑)」
「俺が代わりにやろうか?」
「いえ、私の方がマナが多いから私がやります。ツカサの役に立ちたいですから…多分♪」
「多分かよ(笑)」
笑いながらレナの頭を撫でる。レナも喜んでいるようだ。
「死霊系だから神聖な空気をイメージすればいいと思うよ。
レナがんばれ!」
「ハイっ!・・・壁ぇ!」
レナが大きな声をあげると同時に、足下から光の柱が村の外に向かって広がっていく。
村の外からモンスターの断末魔が聞こえてくる。
出し惜しみはしなかったようだ。
「空気が変わったね。さすがレナ、いい仕事してるね。自慢の嫁だね!」
「エヘヘ!、誉めてもなにも出ませんよ♪」
「うん、期待してない(笑)」
「ぶぅ!」
レナの顔が剥れた。相変わらず可愛いな。
とりあえずさっきの獲物が使えるか近くの村人に話し掛ける。
「すみません!この村にこれを寄付したいんですけど。」
俺はさっき狩った魔物をホワイトホールから"ボトボト"と落とした。
「こ、こんなに頂いてもいいんですか?」
「気にしないでいいですよ。俺達は寝床とご飯さえ頂ければ構いません。ギブアンドテイクでいきましょう。」
「ありがとうございますっ!」
村人は大きな声でお礼を言って頭を下げている。それに気づいた他の村人達も集まって来た。結構人いたんだな。
それにあのモンスターは一応食えるようだ。
レナを振り返るとレナは魔法のことで褒め倒されて顔と耳が真っ赤になっていた。
そういやモンスターのせいで買い物行けないって言ってたな。
「聞いて下さい。これから町まで行きます。買い物に行きたい方は俺の所まで来て下さい!十分後に魔法で移動します!」
「行きます!」「私も行く!」「俺も売りに行きてえ。」
かなりの人数が集まった。
「レナはお留守番ね。レナが来ると魔法が消えるかもしれないから。」
レナが"しょぼーん"となった。
「一時間で戻るから村のこと宜しくね。」
「はい…」
レナの頭をくしゃくしゃにして村人の所まで戻る。
「じゃあ行きますね。・・・テレポート!」
俺と村人達は町に着いた。村人は驚いていたが、
「早く買い物しないと置いて帰りますよ。」
と言うと、みんな一斉に散っていった。
俺はレナにお土産でも探そう。
その頃レナは、村の女性達と夕飯の支度をしていた。
「あんたもいい男捕まえたもんだねぇ。あたしの旦那と交換しないかい?」
「アンタのとこは結婚したばっかだろ?あたしの旦那と交換してよ!」
などと茶化されていた。
一時間が経ち町に行った村人達は、町の外で集まっていた。一番最後は俺だった。
「ツカサ君遅刻だよ。」「たくしょうがない子だよ。」「早く早く!」
など言われ放題だ。
「すいません!皆さんいますね?」
「いるよ!」
「では、テレポート!」
俺達は村の入り口に戻る。広場にいるレナのところに戻ると、食事の準備を終えてオバチャン達と話してるレナを発見した。
レナもこっちに気づいて手を振っている。
「お帰りなさい。どうでした?」
「町に変化はなかったよ。村の人より俺が集合時間に遅れたけど(苦笑)」
「何かあったんですか?」
「いんや、レナのお土産を探してただけ。」
レナにお土産を渡す。
袋から金のイヤリング出すと
「ありがとうございます!高かったでしょ?」
などと気を使いながらも嬉しそうに耳につけている。
「お留守番してもらったしね。似合ってるよ♪」
レナも上機嫌だ。それを見たオバチャン達は
「ここにいると火傷しちまうよ。あたしらはお邪魔させて頂こうかね…さぁさぁ、宴会するよっ!」
と言って立ち上がった。
めっちゃ恥ずかしい。次からは渡す場所を考えよう。
「レナ、ちょっと見回りに行こう。魔法がちゃんと効いているか見ておかないとね。」
「分かりました。あ、でもかなり広い範囲に魔法をかけましたよ。」
「村の近くだけでいいんじゃないかな?」
「はーい。」
俺達は村を出て村の周辺の調査を始める。
暗くなってきたので村を中心に八方に照明魔法を飛ばした。
村からは「おおっ!明るい!」「すげぇ!」などの声が聞こえる。
村人の魔法だと電球一個分の明かりしか作れないので、スタジアム並の俺の魔法はとても喜ばれた。
周辺調査の結果、死霊系モンスターの存在は確認できなかった。獣系のモンスターはまだまだいるようなので、村の周辺のだけ狩猟する。討伐部位は忘れないで取っておく。
またブラックホールを使って食糧を確保した。
そして他の場所と雰囲気が違う所を発見したのでレナに聞いてみる。
「レナ、気づいた?」
「ええ、神様の加護が届いていないです。…多分」
「やっぱり、そうだよね。後で神様に聞いておくね。」
人が通る付近は神様の加護があるのでモンスターはほぼ出ないハズなのだけど、おかしい…
とりあえず俺達は村まで戻った。
村では宴会が始まっていて、俺達が遅かったことを
「まぁ、やることやらないと溜まるからな!はっはっはっ!」と、とんでもない誤解を受けたので ドサッ! っと食糧を大量に渡した。
「あら、こんなに沢山ありがとうございます!ほらっ!父ちゃん変なこと言ったお詫びとお礼ちゃんと言いな!!」
「おっ!旦那すまねぇな!そんなモンより嫁さんちゃんと抱いてっか?そんなんじゃ逃げられるぞ(笑)」
「ツカサをからかわないで下さいよ!もぅ…」
レナが顔を赤くしている。"抱く"ってなんだ?レナの反応からして"そっち"の方だろうとは理解したけど…知識が乏しくてついていけない。
文化レベルとか諸々が俺の世界と違うので、この世界の俺くらいの歳の子なら普通に知っているのかもしれない。
「旦那、真面目な顔してないで飲みな!」
村のおじさんにコップを渡された
「?!さ、酒でしょこれ!」
「ああ、大丈夫だ!この辺りの子はみんな10歳で酒飲んでるからな!」
「俺の地元だと20歳からなんだけど…」
「なんだって?!じゃぁ、タバコも女もまだとか言わねえよな?」
俺はレナを見る・・・あっ!目を反らされた。
「ダメだぜ旦那、いくら強くても女を満足させられない様じゃ他のヤツなんて救えねぇぜ!」
おっちゃんが得意気に言ってきたが
「じゃあアンタは私を満足させてる自信があるんだね?」
「いや…そのぉ~勘弁してくれよ母ちゃん!」
みんな大爆笑だ。
おっちゃんの話を鵜呑みにするわけじゃないけど、俺もこの世界になるべく合わせた方がいいかもな。
…グビグビ
「げほっ!うぇ~…」
「ツカサ、無理しなくてもいいですよ。」
「うん、おいおいね。」
「甘い果実酒をどうぞ!」
「はい!」「ありがとうございます。」
グビグビ ん!旨い!
「これなら飲めるな。」
「おっ!母ちゃん、旦那飲めたとよ!!じゃんじゃか持ってきてくれ!」
「おじさん、ほどほどにお願いしますね。」
レナがフォローしてくれる。
お酒ってこんなに怠くて眠くなるのか…
大人ってすげぇ!こんな飲み物ガブガブ飲んでんのか!
「ツカサ、大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫…多分…」
実際は大丈夫じゃない、グワングワンでグルングルンです。
「顔色悪いですよ?お部屋に行きますか?」
「ごめ、お願いします…」
人生初の酒にやっつけらてレナにベッドに寝かせてもらう。
目を開けていると酔いがさらに回りそうだ…魔法で治したいけどイメージできないくらい酔ってしまった。
「レナ…魔法で治せない?」
レナに治療を任せようと思う。
「ダメですよ、飲み過ぎたバツですよ。」
うぅ、ひどい…
「私もツカサと一緒に飲みたかったですよ。仕方ないのでここで一人で飲みます。」
ああ、俺と飲みたかったんだな…これに応えなきゃ男じゃない!
「そんな事させない。」
「え?」
きっつう、魔法よ発動してくれ!
「リフレッシュ…」
何とか成功した。
「そんな悲しい顔して一人酒しないでよ。罰にしてはキツすぎる。だから、二人で飲もう…」
「魔法で治すなんてズルですよぉ。…でも、ありがとうございます♪」
それからしばらく二人で語りながら飲んだ。これからの事とか、あと何年後に子供がほしいとかそんな話だ…
気が付けば朝でいつ寝たかも分からない。てか、なんで俺はパンツ一丁?!
レナは裸・・・
一線越えたのか?いや、まさか…でも、覚えてない。
一人でパニックになっていたらレナが起きた。
「う~ん…あ、お早うございます。」
「あ、うん お、おはようレナ…」
レナは俺の変な反応に"クスクス"笑いながら
「昨日はなにもしてませんよ。」
と言ってきて
「お酒で暑くなったので服脱いで寝ただけです。・・・残念でした?」
「いや、別に…」
「あ、ひどいです。そんなに私の体って魅力ないですか?確かに胸は絶望的にないですけど…」
「違うよ。記憶が曖昧だったから"何か"があっても覚えてないのは嫌でしょ?だから何もなかったのなら別の意味で良かったよ。」
「その気はあります?」
「あります…多分…」
「では待ってます…多分♪」
「・・・そろそろ起きようか?」
「そうですね。」
そう言って一緒に起きて食堂へご飯を食べにいった。
今日の朝御飯は昨日の宴会の残りだ。ちょっと朝から重いけど、残すのは勿体ないので食べた。この先二人で旅をしてるとまともなご飯は滅多に食べられないかもしれないからだ。
「ご飯俺も作ろうかなぁ」
「どうしたんですか?」
「いや、旅飯を自分で作って多少豪華にしようかと…」
「作れるんですか?」
レナが疑いの目を向けてくる。
「悪いけど出来るよ。焼き物、煮物、揚げ物、炒め物、蒸し物何でも出来るよ。」
「なんかすごい敗北感が…」
「一緒に作って覚えればいいよ。俺もレナの料理食べたいしね。今晩のご飯は俺が作るよ。だから、ちょっと早めに切り上げよう。」
「はい!」
そう言って二人で食器を片付けてまた森に出る。
レナの結界が効いてるのでしばらく死霊系モンスターは出てこない。
とりあえず探知魔法でモンスターの集中している場所を探す。…ん?変な所を発見した。赤い点が"点いては消えて点いては消えて"を繰り返している。
「ツカサあそこ…」
レナも気づいたようだ。
「行ってみる?かなり怪しい場所だけど…」
「はい、結界もまだまだ大丈夫です。」
レナの言うことは当然である。魔力を消費しても装備スキルで毎秒10%回復している。
まして、二人一緒だと魔法消費半減しているのだから無尽蔵と言ってもいいくらいだ。
俺達は森のさらに深くへと足を運びモンスターの沸いている場所へと向かった。
レナの結界の範囲がとてつもなく広い。
「レナ、こんなに広い範囲に魔法を発動してて体に変化はないの?怠いとか眠いとか」
「いえ、特には何も…ツカサもやってみます?」
「いや、二人でやる意味はないよね?(苦笑)」
ただの散歩状態で話ながら目的地まで来るとそこには、紫色の沼が"ゴポッゴポッ"と変なガスを出していた。まるでマグマの様だ。
しばし見つめていると沼の中からゾンビか這い出てきて浄化されていく。
「あっちにも、こっちにもゾンビが沸いてますね。」
レナが指差す方を見ると、確かにあちこちでゾンビが沸いてはそして消えていった。
調査してみよう。
「この辺りを調査してみよう。原因があるかもしれない。」
「ラジャ!」
レナは敬礼して調査を始めた。
「俺は沼の反対側に行ってみるか。」
俺達が見つけた沼は瓢箪型の全長10m程の小さな沼だ。近くの木が枯れたり溶けたりしていないところからすると、毒ガスは出ていないと思う。
まぁ、出ていても俺達は"状態異常無効"があるので分からない。
沼の反対側に着いたけど特には目ぼしい変化もなく、ゾンビの断末魔が聞こえるだけで他の音はない。
ん?音がない?こんなに緑があるのに鳥の鳴き声がしない訳がない。毒ガスか?それか何か強力な捕食者でもいるのか?
レナは大丈夫か?レナを探して辺りを見る・・・いない?!
「レナ!どこにいる!!」
返事がない。ヤバイ!やってしまったか?!
急いでレナの向かった方に向かう。
「レナ!レナ!」
「はい?」
「うわっ?!」
レナが地面の穴から顔を出した!正直、超びびった!
「ビックリしたぁ~・・・こらっ!!何か見つけたら教えなさい!心配しただろ!」
「心配してくれたんですか?」
「当たり前でしょ!」
「ありがとうございます♪」
俺はタメ息をついてレナが顔を出す穴を見た。
ん?穴じゃ無いな螺旋状に坂になっているようだ。
「レナ交代!俺が先に行く。」
「え~、私が見つけたのにぃ~」
レナがふてくされた。
「レナに何かあったら困るんですけど…」
そう言われて渋々レナが出てきた。
俺は先に入り後ろからレナが付いてくる。
「とりま、照明魔法で灯りを着けて。俺が前で戦うから。」
「ラジャ!…灯り!」
レナの魔法は、いつも気合いの入らない唱え方だ…逆に今では安心感を覚えてしまうのだけどね。
下り始めて10分位だろうか、たまにゾンビが出てくる程度で脇道もなく下に下っている。特にゆっくり歩いてる訳ではないので、地下50メートルくらいは来たと思う。
「どこまで続くんだ?」
「さぁ?でも、ここから帰るの大変ですね。」
「え?、魔法で帰ればいいじゃん。」
「あ、そうですね!あははは♪」
緊張感無し。しかし、まだまだ続きそう・・・
さらに十分位たった、小学生の知能でもそろそろ気づく。
そう"酸欠"にならないのだ。
「これさ、ダンジョンじゃない?普通は酸欠になって俺達死んでるでしょ?」
「え?!そ、そうなんですか?」
「うん、酸素つまり呼吸に大切なものが届いてないはずなんだけど…生きてるし、息できるしね」
レナに酸素の重要性を話していたら螺旋の坂が終わり横穴が現れた。横穴からはうっすらと紫色の煙が出ている。
「レナ、ここに一人で留守番出来る?一応いてくれると嬉しいけど…」
「私一人で留守番ですか?うぅ…ラジャ…多分」
「ドンパチ聞こえたら来て。」
「はい…気をつけて下さい!」
俺はレナの頭を"ポンポン"して穴の奥に向かった。沼の位置からすると30メートルで沼の真下に着くはずだ。
しばらく歩くと沼の真下は広い空間になっていた。明るさが足りないので四方に光魔法で照明を着ける。ただの空洞だと思ったその場所には大きな4本の柱が四隅にあり、中央に巨体な鏡があった。
この空間なんか変だ。
縦横高さの全てが150メートルくらいで超広い。
地上までの高さが約100メートルでさらに沼があるハズなのに上には何もない…
「ここヤバイかも、神様に聞いてみようか」
俺が一言呟いた瞬間、言い様のない恐怖が襲ってきた。
ヤバイ!鏡からなんか来る!!
絶望と恐怖が体を支配いていく。動きたくても体が震えて動けない!
「お、おれ、し、しぬかも・・・」
鏡に人影のようなものが見えた。真っ黒な人影。鏡の前に誰もいないのにソイツは立っている。
殺される!…そう覚悟した時、後ろから抱きつかれた。
この感じにこの香り、レナだ!
「死なせません!!離脱しますっ!!」
俺達は光に包まれて気が付けば洞窟の前にいた。
レナは俺を抱き締めたまま震えている。
俺も震えが止まらない。
「ここは危ないから一度村に帰ろ…」
「はい…飛びます。」
俺達はレナの魔法で宿泊してる部屋へと移動した。あれはなんだったのか・・・二人とも無言のまま時間が過ぎた。
この感じ、昔体験したことがある。
「多分だけど…」
俺が口を開く。
「多分だけどあれは、物理的にどうにかなる相手じゃない。」
そう、俺は昔あれと同じ者にあったことがある。いわゆる幽霊だ…しかも最悪なことに自分の部屋に来やがった。
目があった時にはもう遅く、ヤツはこちらをニヤニヤしながら見ていた。その後しばらくは部屋に入れなかった記憶がある。幸い、その場に留まるタイプではなかったようで助かった。
もしかすると親が毎日お経を唱えるくらい熱心な宗教家だったのが良かったのかもしれない。
でもまさか異世界でアレに出会すは思わなかった。
・・・神様に聞いてみよう。俺には無理だ。
[神様、大問題発生です。]
[どうした?]
うちの神様は反応が早い。
[実はとんでもないものに遭遇して、死にかけました。実際は遭遇する前に逃げたんですけど…]
俺は村の状況、沼の場所、洞窟の事を神様に説明した。
[分かった、僕も行くから明日もう一度その場所に行ってくれ。]
そう言って会話を終えた。
「レナ…大丈夫?」
レナに声をかけるが反応がない…
レナの近くに寄ってみた…泣いてる。怖かったのだろう俺のために無理して来てくれたのだ。
俺はレナを抱き締めて。
「ありがとう。レナがいなかったらここには帰ってこれなかった。本当にありがとう。」
心からお礼を言った・・・
完