三國志編 8
日も昇り昨晩の宴が嘘だったかのように場内、町全体が普段通りにもどっていた。
玄武と約束の"会わせたい方"に会いに行くためツカサは銀屏と城門まで歩いて向かう。
昨晩より蜀の王、劉備玄徳らが来ていたことで警備の数が倍近くに増員されている。
「かなりの厳戒体制だね。」
「そうですね。玄徳様や公明様も要らしてますからこれくらいは普通なのかもしれませんね。」
「そっか、なら驚かせると悪いから普通に外に出ようか。」
「わかりました♪・・・あの!ちょっと外に出掛けますので門を開けて下さい。」
銀屏は城門の兵に声を掛け門を開けてもらおうとした。
「これは銀屏様とスウ様、お二人でお出掛けですか?護衛…は要りませんよね(苦笑)」
二人の強さを知らない者はこの城にはいないので止める者もいない。
「そういうこと、ちょっと玄武と三人で出掛けてくるね。」
「わかりました。・・・開門っ!」
城門が開き警備の兵に手を振って外へ出る二人、外では玄武が仁王立ちで待っていた。
「まるで門番…さすがに失礼か♪」
「ですよ。出来れば言葉遣いも直したほうが・・・」
等と話ながら玄武の前まで移動した。
「おはよう!」
「お早うございます玄武様!お待たせしましたでしょうか?」
「問題ない。俺達には時間の概念などないから気にするな。」
「はい!」
玄武の素っ気ない言葉に元気に返事をする銀屏。
ツカサはこの元気な銀屏が本来の銀屏なのだと感じた。
銀屏には、四神 青龍 が宿っていた影響で体に負担がかかり余命は残り長くないと言われていた。
しかし昨晩、ツカサの竜細胞を取り込んだため銀屏は半竜人となり青龍の力を受け止める器が完成した。そして人間では押さえることのできないほどの力を自分のモノにすることができたのだ。
「では参ろう。少し遠いから転移門で移動するぞ。」
玄武は二人に話ながら転移門をその場に出した。
転移門、俗に言うゲートを見るのは二人とも初めてで門の周りをグルグルと周りながら不思議そうに見ていた。
「これってイメージとしては出発地点から終着地点までを切り捨てる・・・要は離れた点と点を同じ場所にするってことでいいの?」
「・・・それだと言うのは簡単だが、想像するには難儀であろう?」
「確かに・・・転移はできるけど、ゲートはイメージがしにくくて苦手なんだよねぇ。何度か試したけど、転移より移動時間遅くなるんだよ。」
「そこまで出来ているならば簡単だ。良いか、世界地図を思い浮かべてみろ。自分がいる場所と目的地を最短で繋げるためには・・・」
「地図を折る?」
「そうだ、そうすれば終着地点は出発地点の近くではなくその場が終着地点になる。」
「そっかー、近くって考えだったからダメだったのか。納得♪」
「うぅ、何の話をしているのかわかりません・・・」
魔法の知識が乏しい銀屏は理解することもできない。
「青龍より円月刀を授かりし者よ、転移門は術者の中でもかなり達人の域に達する者しか使えん術だ。昨日今日術が使えるようになった主に理解すること敵わぬのは当然だ。
それに主は攻撃や攻撃補助の術が向いているだろう。先ずはそちらから鍛え上げるがよい。」
「 ! は、はい!私頑張りますっ!!」
玄武の激により元気になった銀屏を見てツカサも嬉しくなる。
やはり四神に才能を誉められるのは嬉しいようだ。
「じゃあそろそろ行こうか!」
「うむ。」
「はい!」
三人はゲートを潜る。ゲートの先は鬱蒼とした雑草が生えており、目の前に大きな洞窟がある他見えるものがなかった。
そこそこ標高が高いのか酸素も薄く息苦しさを感じる。
「着いたぞ。この洞窟の奥にいらっしゃる筈だ。俺も聞いただけだから本当にいるかはわからん。」
「うへ、ここまで来てそんな事言わないでほしいなぁ。」
「すまぬ、黄龍殿に頼まれたので詳しい理由もわからぬのだ。
それと・・・」
玄武は言葉を止め銀屏を見る。銀屏は?な顔をしながらツカサを見た。
「この娘は青龍に頼まれて少し修行をする。
術や円月刀の立ち振舞い等色々言われているのでな。
自分でやれとは言ったのだが、「産まれた時より一緒なのだ、手心を加えるなと言われても無理な話・・・すまぬ」と言われてな。」
「青龍様…」
「・・・じゃぁ銀屏頑張ってね♪」
「え?!反応薄くないですか?!ここはもっと干渉に浸らせて下さいよぉ~。」
ツカサの冷たい対応に雰囲気を台無しにされ剥れる銀屏。
玄武もこの反応についていけず困った顔をしていた。
「ゴメンゴメン、俺もここからは急ぎたいからさ!埋め合わせは色々終わってからするよ。じゃっ!!」
「す・・・スウの馬鹿ぁぁぁーーーーーっ!!」
叫ぶ銀屏に笑いながら手を振り洞窟まで走るツカサだったが、いくら走っても洞窟に着かない。それどころか、竜魂を解放して全力で走ったが全然辿り着かなかった。
「ぜぇ…はぁ…ぜんっぜん…つかねぇ…(そもそもここは何処だよ!勢いで別れたから場所とか聞き忘れたじゃん!)」
ツカサは辺りを見回してみる。銀屏達は視界から消えているところからちゃんと移動はいしているようだが、景色も変わらず洞窟も近づかない。
「おかしいな・・・幻術?それとも異空間?とりま探知魔法でも掛けてみるか。
・・・・・・???なんじゃこりゃ?」
ツカサが探知魔法を描けてみたがなにも出ない。正確に言うならば、魔法で地図のビジョンは出るのだが、地形や道などの絵柄がなにも出ないのだ。
そしてツカサの探知魔法は何者かがいた場合自分に対する敵意を色で識別できるようになっているのだが…
「画面がひたすらに真っ青って・・・この空間自体が誰かってこと?それとも誰かの力が強すぎて地図が見れない?
魔法でこうげ・・・」
「待て待て、こちらに敵意がないのに物騒なことを考えるでない。」
「うおっ?!」
ツカサが魔法でアクションを起こそうと考えたとき急に後ろから艶やかな声の主に話しかけられた。驚きながらもゆっくりと後ろに振り返るツカサが見たのは、少し小柄ながらも凛々しい顔立ちの地面に届きそうなくらい長い黒髪の女性が立っていた。
この時代の正装だと思われる服を肩出しで着崩している姿は何とも言えない違和感がある。
「こんにちは。・・・てか誰?」
「他人に名を聞く前に…」
「自分からですよねぇ。・・・でも、俺のことは知ってるんでしょ?」
テンプレ回避のためにツカサはひねくれた言葉を返す。
「当然であろう竜王の子スウよ。」
「・・・ん?スウ?」
紙の長い女性はツカサの名前を最初に"ツカサ"とは呼ばず"スウ"と呼んだことに違和感を覚えた。
黄龍でさえ"ツカサ"と呼ぶのにこの女性は"スウ"つまり中国読みをしたからだ。
「もしかして・・・いや、まさかなぁ・・・」
「これ!思うことがあるならハッキリ言ったらどうじゃ?ちゃんとタマは付いとるじゃろ?」
「あははは・・・タマねぇ・・・あの女禍がそんなこと言うわけないよなぁ・・・」
「なんじゃ?妾の名を知っとるのか。・・・つまらん。」
「つまらねぇのかよっ!!」
「フフっ。ナイスツッコミじゃ!合格じゃな。」
「あ~はいはい、ウレシイナァー、ヨカッタナー。」
自称 女禍はなにやら面倒くさそうなヤツなので適当返事を返した。
「貴様は妾を面倒くさそうなヤツだと思ったようじゃな・・・」
自称 女禍が少し睨みつけてきた。
しかしツカサは動揺することもなく言葉を返す。
「第一印象からくる素直な反応と言ってほしいな。そっちは俺を知ってるようだけど、俺は初めて会った人だから最初の会話で印象を決めるのは当然でしょ?」
ツカサを睨んでいた自称 女禍だったがツカサの言い分を聞くと睨むことをやめた。
「ふむ、なるほど理由は真っ当・・・よいじゃろ、許す。」
「そりゃどうも・・・で、"様"つけた方がいい?」
「・・・プッ、くはははっ!」
「な、何?また変なヤツだと思われたいの?」
突然笑い出した自称 女禍に対しツカサは顔をしかめる。
「くくくっ、いやすまぬな、どちらかと言えばスウお主の方が変なやつじゃと思うがの(笑)」
「何でよ?神の名前に様を入れるかどうかって大事な質問じゃないの?」
「プッ!?%#&*・・・」
自称 女禍は何かツボに入ってしまったようで腹を抱えながら悶絶している。この時ツカサは思った・・・(来るんじゃなかった。)と・・・
「・・・はぁ、笑った笑った♪普通は真っ先に「何用ですか?」と聞くじゃろうに・・・お主は斜め上の質問をしてきて笑うてしもうたわ♪そうじゃの、"様"など付けんでもよいぞ。別に妾は自分をお主らより上とは思うておらんからの。」
「笑い死にしそうになっていた理由はそこかよ・・・んで、何かあるの?用がないなら俺は帰るよ?」
「!!・・・・・・」
ツカサが帰ることを伝えると女禍は驚きそして寂しそうな顔になった。
「・・・気持ちが顔に出てますけど・・・まさかとは思うけど、ずっと一人でここにいるのか?」
「・・・・・・うむ・・・・・・」
「外に出ればいいんじゃない?ここより全然楽しいと思うけど・・・」
「…れない…」
「?」
「妾はここからは出れないのじゃ!まして空間が違うから人など入っては来れん!・・・もう、一人は嫌じゃ・・・」
女禍はツカサの掴み大粒の涙を流し泣き出した。ツカサも"やれやれ"な顔をして女禍の頭を撫でた。
「じゃあ、話を聞かせてよ。女禍がここから出る方法考えるからさ!」
「スウ…良いのか?帰りたいのではないのか?」
「それはそれ、これはこれってことでいいよ。とりま乗りかかった舟だしね。さあ、話を聞こうか。」
「うむ、実は・・・」
女禍は土塊で人間を創造したとされる女神・・・と広く知られているが、この場にいる女禍は人々の信仰心より顕現したという。なので実際に女禍の話に出てくるような"天地崩壊を補修した"などという事もなく、使える能力は土塊で何かを創る程度だという。
そして、女禍といえば伏羲というほど有名な連れがいる。
弟または伴侶と諸説ある。しかしこの世界の伏羲は女禍と同じく人の信仰心より顕現した存在だった為、女禍と同じく神様らしくはなかった。
伏羲は常に女禍が一緒にいることが気に入らなかったそうで、釣りに二人で向かう道中で女禍をこの空間に閉じ込めたそうだ。
「うぅっ、ここに閉じ込められてもう100年は過ぎたじゃろうか・・・妾はどんな物でも創れるが術などは一切使えぬ。
伏羲のヤツは術が得意でな、威力はアレじゃが大陸一の術の所持者じゃ。」
「そっか、威力が弱いか・・・(空間魔法とかはよく知らないけど、強力な魔法じゃないなら俺でも壊せるかな?)」
「もし・・・」
「もし?」
「もし、外に出られるのであれば決められた相手以外の伴侶を探してみたいのう・・・無理じゃろうがな。
黄龍ですら術式が複雑過ぎて諦めてしもうたくらいじゃからの。」
「・・・そっか、よしよし♪」
「・・・誰かに撫でられるというのはこんなにも幸せな気持ちになるんじゃな・・・」
「さて、出ますか!」
「・・・そうか、帰るのか。黄龍すらも諦めたくらいじゃからの、仕方なかろうて…」
「いや、別にそういう…」
「一つ頼みがある。また遊びに来てはくれまいか?やはり一人は寂しいからの・・・」
「ん~断る!」
「そうか・・・」
「一緒にここから出るんだからここには二度と来ない。さあ、外に帰るよ!」
「!!!」
「黄龍は魔法を解読して術式を解いていく方法で失敗した筈だから・・・壊せばいい♪」
ツカサの言葉に目を丸くする女禍。realgod黄龍ですら諦めた複雑な魔法を壊すと言ったのだ。それも自信満々に。
「なっ?!こ、壊すと申すか!!やることが破天荒なヤツじゃ!・・・しかし、嫌いではない♪」
今しがたショボくれていた顔が嘘のように女禍の顔は生き生きしていた。
「んじゃいくよ!」
「よいぞ♪」
「アンチマジック!イレイザー!!」
バリンッ!・・・バリンッ!バリンッ!
ツカサが魔法を唱えると世界にヒビが入りバリバリ音を立てて崩壊し始めた。空間が剥がれた先にあったのは・・・岩壁だった。
「・・・谷?」
「渓じゃの・・・・・・・・・外じゃーーーーーーっ!!」
「うわっ!?ビックリしたぁ!!」
長年縛りつけていた空間魔法が破壊されると女禍は子供のようによろこんでいた。辺りを見回して元の世界に還ってきたことをしみじみと感じているようだった。
「喜んでもらえてなによりだ。こっちも今造ったにしてはかなり良い魔法が出来て得した気分だよ。面倒事もたまには役に立つもんだねぇ♪♪」
「・・・・・・・・・ぬわにぃーーーーっ!!?」
ツカサがサラッと言った一言に驚く女禍。それもそのはず、最上位の神ならまだしも、人の手で高度な魔法を造り出すには途方もない時間と知識が要求される。それをツカサはほんの数秒で造り上げたのだから低位ではあるが神である女禍が驚かないはずもない。
「スウよ、本当に今しがた造り上げたのか?!」
「ん?そうだよ。俺のスキルのお陰かな♪ホント便利な固有スキル持ったもんだよ♪♪」
「固有特性か!?その固有特性のこと誰かに話したか!?」
「どうしたのさ急に?」
「ええいっ!早よう答えんか!!」
「四人、全員身内だよ。」
「・・・ならば良かろう。この事他言無用にするのじゃ。相手が神であろうとだぞ?」
女禍の真剣な顔に圧されツカサはただ頷くことしかできなかった。低位であっても神としての威圧感は相当なもので、ツカサは冷や汗をかき固まっている。
「・・・ん??少し圧が強すぎたかの?」
「ま、まあまあキツかったかも・・・」
女禍が威圧を解くとツカサはさらにどっと汗をかいた。
神と人はここまで違うのかと心底思い知らされた瞬間だった。
「さっき四人と言っておったが、もう一人知っておる者がおるじゃろ?」
「ん?もう一人???」
「認知されぬ者、関わらぬ者・・・見守る者。」
「ああ、デステニアス?俺の依頼主ね。」
「馬鹿者っ!!"様"を忘れとるぞ"様"を!」
「えー、今さらめんどいから本人に言われたらね。」
「罰当たりなヤツじゃ。」
「まあまあ、用も終わったし銀屏を迎えに行って帰りたいんだけど・・・良い?」
残り少ない日数を無駄に過ごしたくないツカサは女禍に帰ることを伝える。
「話の途中だというのに全く・・・良かろう、銀屏とやらを迎えに行くぞ。」
「へ~い。銀屏は・・・アレ?近くにいない・・・・・・・・・おっ!発見♪玄武と戦っているな・・・ってどんだけ遠くにいるんだよっ!!」
銀屏を探すために探知魔法の探知範囲を広げやっと見つけたと思ったのも束の間、銀屏達は蜀の山奥にいた。
「ふむ、なるほどのぅ…目の前に地図を作り探すのか。この色の付いた大小様々な丸は力の大きさというわけじゃな?」
「そうだよ。コレを見るの初めて?」
「うむ。理解は出来るが妾は術は使えぬ、しかし妾が知っておる術より良い術じやな。これならば皆が見れるし、戦術的要素が高い。」
「神様に誉められるのは気分がいいねぇ♪・・・ところでさ、女禍は物を創るのが得意なんでしょ?」
「そうじゃの。その能力だけならば創造神にも負ける気はしないのう。」
「ならさ、飛行機とか造れるの?」
「容易なことじゃの。妾に掛かればガ○ダムも造れるぞ?」
「‼? まじかっ!!」
「うむ。土塊から素材となる元素を抽出、変換、加工、組立、解体、分離、変換、排出まで可能じゃ。妾はECOが出来る素晴らしい神なんじゃ♪」
「マジすげー♪」
「フフン♪そうじゃろ、そうじゃろ♪♪」
自画自賛する女禍、そして俗に言うロボットを造れるというそこだけをピックアップして尊敬の眼差しを向けるツカサ。
女禍はそんな浅い尊敬だとも知らず一人喜んでいるのであった。
「女禍先生ー!俺、ロボット欲しいです!!」
「ほほぅ、一体どんなやつが欲しいのじゃ?ガ○ダムか?マジ○ガーか?それともバ○キリーような戦闘機に変型するタイプか?」
「物知り過ぎ・・・まあ、それも良いけど俺のオリジナルがいいな!
もし、地球で使う事を考えると色々な大人の事情が問題になりそうだしねぇ。」
「なるほどの、ならば要望を詳しく言うがよい。スウは恩人じゃから特別に拵えてやろうではないか♪」
「マジありがとう。えっとね、外見的には・・・」
「フムフム、」
「武装は肩に収納式のロングレンジレーザー砲、腰ににもレーザー砲が欲しいな。あとあと・・・」
「ムムム・・・」
「機動力的なものは背中の翼の付け根と脹ら脛、それから肘にスラスター・・・」
「うぅ・・・」
「原動力は核エンジンで基本的にはそれで動かして、攻撃とかには魔力を使って攻撃するような・・・って出来ます?」
ツカサはかなりげっそりした顔になった女禍に気付き声を掛けた。ツカサの声に反応した女禍は苦笑いをしている。
「結構な無理難題だよねぇ。無理なら無理って言っていいよ。」
「無理ではない・・・しかし、ここまでの機体は必要なのか?下手をしたら2次元最強の機体になるぞ。」
「もち、それは当然だよ。神とか魔王と戦う可能性を考えるとそれくらいは当然かなって。」
「なるほどの、だから"重力壁発生装置"やら"真シャ○ンスパーク"並の速さ、"激鉄式の分子破壊装置"なんぞを着けるのじゃな。」
「そういうこと♪最後にここ大事なんだけど・・・」
「なにっ!まだあるのか?!」
ツカサの止まらない欲望にただ驚くばかりの女禍だったが、神と戦う以上は妥協は許されないのは理解していた。
「して、あとは何をすれば良いのか・・・」
「機体はカトキメカっぽくお願いします!!ここ大事!本当に大事だからね!!!」
「か、かと?」
「そう。ビジュアルはかなり大事っしよ?」
「・・・分かった。要望の機体はしかと造ってみせよう。しかし!注文が多過ぎてすぐには完成せん。」
「ですよね~。」
「作製する場所も必要じゃ。」
「なに?俺に出来ることなら何でもやるよ。」
ツカサの前向きな返事を聞いて女禍の口角が少しあがった。
「話が早いの。ならばまず拠点となる世界を決めるのじゃ。そしてそこに格納庫を作る。それが完成したら機体を造ってやろう。なに、設備の維持管理は妾がするでな心配は必要ないぞ。」
「・・・・・・一体おいくらになります?そんなお金ないよ?
そもそもデステニアス抜きで拠点なんて決められないし、永遠と流浪の可能性だってあるじゃん?」
ツカサの意見はは最もで、デステニアスの依頼は受けると約束はしたものの何も決まらないうちにこの世界に修行と言われ転移させられたのだ。それ故にこの先の立ち回りなど知るよしもなく、デステニアスを抜いての決断まではできなかった。
「ふむ、そのあたりは大丈夫じゃと思うがの。何せスウはまだ若い。あちらこちらと転移転生を繰り返しては身も心も耐えられぬじゃろうて。」
「だから拠点になる世界を選ぶことになると?」
「うむ。きっとそこは限りなくお主の世界に近い場所を選ぶことも容易に想像できる。」
「それは何故?」
「簡単じゃ。・・・ストレスが一番かからない場所を選ぶは道理じゃよ。妾の見立てじゃと、地球の魔法が在りながらも科学が衰退していなくて異世界のと関わりもある世界を選ぶじゃろうな。」
「地球で魔法と科学が発展してて、異世界も交流があるか・・・確かに活動するならそこがいいなぁ。
転移しても事件にはならなそうだしね。」
「じゃろ?あとはデステニアス様と話をつけるがよい。」
「了解!っと、じゃあ銀屏達のとこへ行こうか。」
「うむ。」
大体の話が決まった(?)二人は玄武と銀屏のいる場所へと飛んで向かっていたのだが・・・
「もうすぐ着くかな。」
「うむ、そのようじゃがスウよ・・・アレをやったのは噂の嫁とやらか?」
女禍に言われ彼女が指を指す方角を目を凝らして見てみる。
「あれはただの渓谷じゃあ・・・ん?なんか違うな。まるで剣で切ったみたいな・・・いやいや、切ったにしては威力が凄すぎるでしょ。だって山を…」
「"山を真っ二つにするほどの威力なんてうちの嫁にはない"と言いたいのじゃな?」
「う、うん・・・」
「しかし、向こうから迫ってくる巨大な鎌鼬はさらに後ろにいる娘が放ったように見えたぞ?」
「巨大な鎌鼬ぃ?・・・マジかっ!?竜魂解放っ!!でぇえいっ!!」
ツカサは鎌鼬が目の前に迫っていることにやっと気付き大剣を闇から取りだし切りつけた。
間一髪間に合ったのだが相殺された鎌鼬の風はツカサの後ろにあった木々をなぎ倒し散っていった。
「・・・ふぅ、間一髪だったな。女禍・・・」
「フフン♪誉めても良いぞ♪♪♪」
女禍はドヤ顔でツカサに言い寄ってきた。
「アホっ!言うのが遅いっての!」
そう言ってツカサは女禍を小突いた。
「なっ?!女子に手を上げるとは、それに仮にも助けてやった恩人を殴るでない!」
「仮にもクソにもギリギリ過ぎるだろ!死ぬわ!!修行先で死ぬとか無いわ!!」
「ええいっ!納得いかぬ!!頭を出せ!妾も殴る!」
「なっ?!やる気か!」
「黙らっしゃいっ!!」
ポカポカ…ポカポカポカポカ…
「あの~、何をやっているんですか?」
空中で二人が小突き合いを始めると喧嘩の大元である銀屏が話し掛けてきた。
ポカポカ…
「あっ銀屏・・・」
ポカポカ…
「ほぅ、お主が噂の・・・」
ポカポカ…
「まあまあ、喧嘩はやめて二人とも仲良く…」
・・・・・・・・・
「「元はと言えばお前が(お主が)悪いっ!!」
「なっ!?」
こうして銀屏はツカサと女禍から数十分説教をくらい涙目になっていた。
「竜王の子よ、それに女禍様もそろそろ御許しになってください。」
数十分遠くから見守っていた玄武がやっと重い口を開き仲裁に入ってきた。そして三人は思う、(声を掛けるのが遅すぎる)と・・・
「グスン…二人とも怖かったです。」
「そりゃそうだ。危うく俺は真っ二つにされるとこだったしね。」
「ごめんなさい・・・」
「まさかスウの嫁があそこまでの手練れとはの、恐れ入った。」
「あんな短時間であそこまで強くなるなんてどんな修行をしたんだよ・・・俺もしたかった。」
「へ?短時間って、もう3日たちましたよ?」
「3日っ?!」
「はい、スウが走って行ってから3日です。」
「・・・・・・・・・」
不思議そうな銀屏を他所に3日過ぎたと言われ固まってしまったツカサ。
それを見て女禍は申し訳なさそうに口を開いた。
「知っておると思って言わなかったのじゃが、異空間というのは時間の流れが違っていての・・・すまぬ!」
「マジかぁ…結局鍛練できなかった・・・」
完全に落ち込むツカサに銀屏と女禍は言葉を掛けられずにいた。そんな二人を見かねた玄武がツカサへ声を掛ける。
「そう悄気ることはない。青龍との戦いで逆鱗を御することを得たのであろう?ならば普段の身体能力も向上している筈だ。」
「え?・・・マジ?!本当に本当?!」
落ち込んでいたツカサの顔がみるみる元気な表情になっていく。
「う、うむ。青龍が言っていたことだが、"怒りを制する時、龍は更なる高見へと至る。"との事らしい。だから今のお前ならコレを与えるに相応しいだろうと声を掛けたのだ。」
玄武が渡してきた者を受け取りツカサはまじまじとそれを見た。それは見た目そのまま種だった。
「これは種?」
「フッ、見た目は種だが答は否だ。」
「確かに種にしては魔力が桁外れにあるかも。」
「うむ、続柄で言えば魔導鉱石の部類に入るな。」
「魔導鉱石・・・ファンタジーで聞いたことがあるような気がするけど・・・」
「魔導鉱石とはの、基本は合成素材じゃな。魔剣や聖剣などもその類いじゃよ。人間は不思議な力が宿っている武具を見つけると直ぐに"神よりもたらされし物"なぞ言って喜ぶが、その大半は下級な魔道具なんじゃよ。まぁ、妾からすればの話じゃがの。」
急かさず女禍が説明に入る。
「なるほど。」
「ゴホンっ!・・・今渡した鉱石だが、"成長の種子"と言う。限界を超え、更なる高みに至るために必要な物なのだ。」
「他にも"成長の花"や"成長の実"などもあるのじゃが、物事には段階というものがあっての…」
「ゴホンっ!女禍様・・・」
「おお!すまぬお主の仕事を取ってしまったの。妾は少し自重する。」
「そうしてくださいますと助かります。
・・・さて、話を戻すぞ。」
まるでコントでも見せられているかのようだが、女禍に悪気があるわけでもないのでツカサと銀屏はあえてスルーしていた。
「とりま第一段階は身体系のスキルマスターで、二段階目は身体系スキルマスターと固有能力の開花、三段階目は全てマスターってところかな?」
「・・・話すことが無くなってしまった。流石と誉めるべきか、話は最後まで聞けと叱るべきか・・・」
「まあ、破天荒なヤツじゃしの。それに日本人は一番真理に近い存在じゃからそこまで驚くこともあるまいて。」
「話に全くついていけません…」
「こっちはこっちで問題じゃな・・・(汗)」
「まあまあ…モグモグ…ゴックン…銀屏からすればかなり未来の話なんだしいいじゃない。」
「「 !!? 」」
成長の種子をそのまま食べたツカサを見て女禍と玄武は驚きの顔のまま固まってしまった。銀屏とツカサはそれを見て?になる。
「あれ?食べるんじゃないの?」
「・・・スウよ、お主死ぬぞ・・・」
「・・・すまぬ、先に説明すればよかった。」
「えっ!?スウ死ぬんですか?!」
「・・・・・・・・・なんともないけど?」
「・・・はて、種子は上位ドラゴンすら一瞬で殺す程の猛毒なんじゃがな。」
「・・・ああ!!俺の装備ステータス異常無効だ♪」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「すて?・・・???」
またしても二人が固まってしまった。ツカサは二人の前で手を振ってみるが反応がない。
「おーい・・・返事がない、ただの屍のようだ。」
「「勝手に殺すな(でない)!!」」
「おおっ!生きてたか(笑)」
「まったく、お主の特殊能力には驚かされてばかりじゃな。」
「と言いますと?」
「コヤツは魔力に関わるものに対してちと秀でていてな、神並の創作力があるようじゃ。しかもコヤツにはその自覚がまるでない。」
「なんと!?」
「決して他言せぬようにな。それは黄龍であってもじゃぞ!」
「ハハっ!!」
女禍の言葉に玄武は大きく返事をして頭を垂れた。自分では偉くはないとは言っていたが、やはり中国の最高神の一人の力は絶大で四神の玄武ですら簡単に言いくるめてしまった。
「縦社会怖いわー。」
「ですねー。」
「キッ!!」
「「 っ!! ご、ごめんなさい・・・」」
遊び半分で茶々を入れた二人に本気で睨みを返した女禍。
美しい顔が嘘のように般若顔に変わり、二人は本気でビビってしまい直ぐ様謝った。
「まったく、誰のために口封じをしているのか・・・はぁ・・・」
「心中お察しします。」
「ヤレヤレじゃ・・・まあ、そこも含めて可愛いのじゃがな♪」
「可愛い、ですか?」
女禍の意味深な言葉に鸚鵡返しで聞き返す玄武。
「・・・・・・恋じゃな(笑)」
「恋ぃ?!」
「「 ??? 」」
突然柄にもない声で叫んだ玄武に驚き二人を見たツカサと銀屏だったが、女禍に"シッシッ"とあしらわれすこしはなれた場所に降りていった。
「妾に"なでなで"なぞ誰も出来んじゃろ?普通は神相手にそんな事はせんし、するはずもない。」
「確かに・・・」
「しかしスウはそれを自然とやった。考える動作なぞ微塵もないくらいに自然にじゃ。」
「・・・」
「妾はスウの側にいたい。スウの天命が尽きるその日まで力を貸してやりたい・・・・・・恋しとるじゃろ?(笑)」
女禍の話を聞いて、玄武は先程異常に頭を垂れた。
「・・・女禍様、我等はお仕えする側であり、縛り付ける側では御座いません。どうかお心のままに・・・」
玄武の言葉に女禍は微笑みツカサ達を見た。
「時間もないようじゃ。後の事は妾がやっておく故、主は帰ってよいぞ。おそらくこのまま発つじゃろうからな。」
「ハッ!」
立ち去る玄武を見送り女禍はツカサ達のいる場所へと降り立った。
「あれ?玄武さんは?」
「帰ったみたいだよ。なんか蜀の方角に飛んで言ったし。」
「うむ。時間がないと思うての、帰らせた。」
「うん。そろそろデステニアスから連絡くるんじゃないかな。予定より早いけど、きっと見てるから。」
「「「・・・・・・・・・」」」
三人はデステニアスから連絡が来るのを黙って待っていた。
「「「・・・・・・・・・」」」
[準備が出来たのであればお主自ら帰ってくればよかろう?]
期待通りにオープンチャンネルでデステニアスが話し掛けてきた。
「え?」
[発つ前に言うたであろう?ブラックホールと転移魔法の組み合わせで戻れると。]
「・・・・・・・・・てへっ♪」
ツカサは完全に忘れていたことを誤魔化すためにテヘペロしてみたが、側にいる二人にはそんな余裕は無さそうだった。
「す、スウ!!そんな失礼な事をしてはダメですよ!」
「まったくその通りじゃ!!立場をわきまえんかっ!!」
「えーっ!?今さら・・・」
[構わぬ。ツカサよ、そっちに向かっているフェンリルと合流したら戻ってくるがよい。待っておるぞ・・・]
デステニアスとの念話が終わりツカサは二人から説教を食らった。それからしばらくしてフェンリルが合流しこの地を発ったのだった。
三國志編8 完