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DESTINY EATER  作者: 伊庭
少年期
20/27

三國志編 6

銀屏の内に眠っていた"調律者"青龍を

新しく手にいれた"逆鱗"の力を使い(?)

退けたツカサは、銀屏達と合流し呉の大軍目指し動き出した。



ーーーーーーーー 森の中 ーーーーーーーー



「ちょっと暗くなってきたけど、このまま進んでも良いかな?」


ツカサは、青龍の一件で遅れた時間を取り戻すためこのまま呉軍に向かい進むことを提案した。


「そうですね、御主人様の考えに私も賛成です。今頃は夜営をして進軍は停止しているでしょうから。」


「私も大丈夫ですよ!遅れた分を取り戻しましょう♪」



二人の同意を得てツカサは頷いた。



「じゃあ、とっとと行こうか!…よっと♪」


「きゃっ?!ななな、何ですか?!」



ツカサは銀屏をお姫様抱っこをしてフェイの方に振り向いた。



「フェイは準備OK?」


「はい。いつでも。(微笑)」


「じゃあ、行くよ!」


「だから何で…っ!?」


抱えられた銀屏は、違和感に気付いた。

今まであった草花の姿が見えなくなっている。

それに届くはずのない木の枝が目線の高さにある。それも辺り一面に。



「私が先導致します。」


「了解。任せる。」


「ちょっ、え?!…ええっ?!!!

フェイちゃんが飛んでる?!

スウ!、フェイちゃん飛んでますよっ!!」


「そうだね・・・てか、オレ達も飛んでるけどね(笑)」


「ええぇーーーーーっ?!!!」



いつの間にか空を飛んでいた事に驚く銀屏だったが、ツカサとフェイはそんな銀屏を構うことなく上昇を続けた。

夕陽の沈み始めた森に銀屏の声が大きく響き渡った・・・




ーーーーーーー 関羽軍兵舎 ーーーーーーー



進軍の伝令を頼まれた銀屏が行方不明になり

進軍の準備が出来ず場内は混乱していた。



「おいっ!見つかったか?!」


「いや、まだだ!」


「そっちはどうだった?」


「こっちも駄目です!」


「別の隊も見つけていないそうです!!」



銀屏を捜索する為にかなりの数の兵が動員されていた。


ーーーーーーーー 関羽自室 ーーーーーーー



「父上!、場内全て探しましたが銀屏の姿は発見できませんでした!

兵の中には銀屏を見たのは父上だけだったこともあり"幻を見たのではないか?"との声も上がっております。」



銀屏捜索を任された関平は、関羽に捜索の結果を報告した。



「馬鹿なっ!実の娘を見間違えるなどあり得ぬ!!」


「失礼します!」


「どうした関策。」


「出陣の準備ですが明日の朝までには

終えるとのことです。」


「わかった。あとの準備は退却部隊に任せ、

出陣部隊は休むように伝えよ。」


「はっ!」


「関平も休むがよい。」


関羽は銀屏の捜索を止め休むように言ったが、

関平は腑に落ちない様子だった。


「しかし父上!

例え銀屏を見たのが父上一人とはいえ、

幻とは自分も思えません!

間者の手に落ちた可能性もあります!!」


「・・・・・・それでもだ。」


「父上?」


「我等は将、人の上に立ち導く立場にある。

我が娘のために疲労困憊で進軍し、誤った判断で軍に損害を出すわけにもいかん!

軍の人間ではない銀屏に私情で兄者から預かった兵を危険に晒すわけにはいかんのだ!!

・・・お前は優しく立派な兄である前に

数百人の命を預かる将だ。

分かってくれ・・・」


「父上・・・」



関羽の悲痛な思いと決意を聞いて関平は黙る。

兄としての心配と将としての自覚どちらも譲れぬ想いがあった。



「・・・分かりました。

明日に備え休ませていただきます。」


「すまぬ関平よ。」


「失礼します…」



関平は去り関羽の自室は静寂に包まれた。

関羽は揺れる灯りを見つめながら銀屏を思うのだった・・・



ーーーーーー 翌日とある丘の上 ーーーーー



魔法で空を移動しながら呉軍を探していたツカサ達は、夜の間に呉軍を発見し近くの丘の上に身を潜めていた。


「さてさて、本来は奇襲をするなら夜がいいんだけど・・・それをやると死人が出る確率が高くなるから朝まで待った訳ですよ。」


「何で夜に奇襲をすると死人が出やすいんですか?」



ツカサは銀屏に奇襲作戦の説明をしていた。

ツカサが答えようとしたが、フェイが先に口を開いた。



「奥様、真っ暗な中奇襲を受けて

慌てて外に出た味方の兵達と敵をどうやって見分けるのですか?

まして皆、殺気立って気配も読めません。」


「目が使えない状態で殺気なんて出したら

味方かどうか確認する前に攻撃されるし、攻撃するでしょ?

戦争に参加してるなら夜襲は共倒れしてくれるから最小で最大の戦果が期待できるけど、

オレ達は殺しはしない。」


「敵味方の区別をハッキリしてもらう為…

だから日の当たる時間に襲撃をするんですか?」


「そういうこと♪」



銀屏の答に笑顔で応えついでに頭をくしゃくしゃにするツカサ。



「うぅ…私って歳上ですよね…

何か悲しいです…」


「・・・!!

お二人とも静かに!」



二人のやり取りが終わるの待っていたフェイが

呉軍に動きがあったことに気付いた。



「敵軍の様子が変ですね・・・

まるで戦の準備をしているような・・・」


「戦ぁ?ここで?

多少くらいなら林があるけど、策を使って戦いをする場所じゃないと思うんだけどなぁ…

第一、関羽軍が来るかどうかなんて分からないでしょ?」


「ああっ?!」


急に何かを思い出したかのように大声を上げた銀屏、ツカサは慌てて銀屏の口を押さえた。


「銀屏静かにして、敵に気付かれる・・・」


「モゴモゴ・・・ふぁい…」


「・・・で、どうしたのさ?」


「・・・あのですね、私は一度戻ったじゃないですか。」


「ああ、昨日の話ね。」


「はい、その時にお父様に会ったんですけど…」


「ですけど?」


「お父様が援軍でこちらに来ると言っていました。(苦笑)」


「・・・・・・・・・ていっ!」


ポカッ!


「あうぅ…スミマセン、忘れていました・・・」


「ふぅ、過ぎたことは仕方ない。

青龍の件でそれどころじゃなかったしねぇ。」


「ごめんなさい…」


「いいよ、気にすんなって・・・

さすがに今戻っても準備が終わって進軍してるだろうから、あっちは確実に来るってことでいいかな?」


「はい!お父様は蜀の軍神ですから、

義の為にと言った以上必ず動きます!

軍神関羽は義を裏切りません!!」



自信に満ちた表情で銀屏は応えた。

それを聞いてツカサは頷く。

呉軍が動く気配が無く、関羽軍も進軍して来るともなれば

此処が戦場になるのは確実だった。



「それなら予定を変更して俺達は裏方に徹しようか♪

せっかく関羽さんが来るんだから顔を立ててあげないといけないよね♪」


「スウ!」



ツカサの言葉に喜ぶ銀屏だが、フェイは二人と違い難しい顔をしていた。



「御主人様よろしいですか?」


「ん、何?」


「先程、御主人様が言っておりした事です。

ここの地形は伏兵をするには場所が悪い。

しかし、敵は此処に陣を構え戦うつもりのようです。

勝算もなくこの死地にも近い場所に陣など構えますでしょうか?」


「・・・確かに、俺とフェイは土地勘が無いからなぁ・・・

本当になんもない場所だよね・・・」


「多少地形を覚えたくらいでは分かりませんね。

敵陣から見て左手の方に川があるくらいで他は何もありませんでした。」


フェイとツカサは顔を傾げ考えていたが、敵の策や対策など何も思い付かなかった。

そんな二人を他所に銀屏は後ろを振り返り、

今度は呉の方角を向き呟いた。


「川を使って援軍か伏兵…」


「「 !!! 」」


銀屏の一言にツカサとフェイは驚いた!

どうして気づかなかったのだろうか。

呉といえば水軍である。

川さえあれば増援など容易いのだ。


「奥様がこれ程とは…流石でごさいます。

相手が得意とする戦法と地の利、

敵の狙いは間違いなく伏兵で御座いましょう。」


「銀屏、この近くに上陸出来そうな場所はどれくらいある?」


「この近くだと・・・」


銀屏は頬に手を添え空を見ながら思い出している。

その姿を見てツカサは思った。

(今も昔も考える時のポーズって変わらないんだな。)と・・・


「えーっとですね、ここから左方向に一つ。

それと、もう少し先にもう一つあったと思います。」


「・・・陽動かもね。」


「御主人様もそう思いますか?」


「うん。」


「陽動?」


銀屏には今一つピンとこないようで、

ツカサはフェイに視線を送り説明を促した。


「ではご説明致しましょう。

蜀軍は前方より進軍してここから見えるギリギリの場所に陣を構えます。

そして多少警戒しながらも前方の呉軍に攻撃を仕掛けるのですが、ここから見て左と蜀陣地より後方から敵の伏兵が現れます。

すると蜀軍はどうなりますか?」


フェイの問い掛けに銀屏は少し考え答える。


「陣地に戻っても勝機はありませんから、

右手にある林を抜けて逃げるんじゃないですか?」


「その通りです。

そしてそれこそが呉の策でしょう。」


「何故ですか?」


「呉と魏は同盟であるのをお忘れでないですか?」


「あっ!!」


「右は魏の方角で御座います。

魏も進軍が容易い地形であるのは昨晩確認済みですので間違いないかと…」


「普通に考えたら絶体絶命状態になるよね。」


「それでは急ぎお父様に知らせなくては!」



関羽軍のピンチに焦る銀屏だったが、フェイが手を前に出し

静止した。



「お待ち下さい奥様。

ここは敵の策を逆手に取りましょう♪」


「?」


「簡単で御座いますよ。

敵が此処へ来る前に潰してしまえば宜しいのです。

敵の増援は3ヶ所、我々は三人です。

一人1ヶ所…数百人の足止めをすれば良いだけで御座いますよ。」


「・・・へ?」


「確かに♪」


フェイの意見にツカサは賛成したが、銀屏は話の意味を理解していない顔をしてツカサを見た。

そしてツカサのニヤケ顔を見て理解した。


「ちょっ!?む、無理ですよ!!

数百人を一人で相手にするなんて!!!」


「奥様、青い顔なさらなくても相手は雑魚ばかりですよ。

今の奥様ならば一振りで数十人は薙ぎ払えましょう♪」


「へぇ~、私そんな事できるんだぁ…

いつの間にか強くなったんだなぁ…

お父様も喜んでくれるかなぁ~・・・」


「御主人様、奥様が大変お喜びになってます!」



死んだ魚の目をして喜ぶ銀屏をいじるフェイ。

ツカサに向かいドヤ顔で親指を立てている。


「いやいや、グーじゃないでしょ。(苦笑)

銀屏もそろそろ帰って来てよ。」


「・・・はっ?!す、すみません。現実から少し逃避行してしまいました(苦笑)」


「まあ、そんな顔しないでよ。

本気で銀屏に数百人を相手に戦えなんて言わないからさ!」


「ほ、本当ですかっ?!

私に「訓練だ。」とかなんとか言って死地に追いやる算段だったんじゃないんですね!・・・よかったぁ~。」


銀屏はホッと肩を撫で下ろした。それを見てツカサは苦笑し、

フェイは口を押さえて静かに笑っていた。


「俺はそこまで鬼じゃないんだけど・・・」


「でも、張飛叔父様の様なことをさせようとしてるじゃ無いですか!」


「張飛将軍の様な・・・ああ、魏の大軍を一人で防いだあの話ね。」


「はい…私が武器のおかげで強くなったとしても、

張飛叔父様の様なことは出来ないと思いますよ?」


「大丈夫、銀屏にやってほしいのはそっちじゃないからさ♪」


「そっちじゃない?」


「うん。やってほしいのは一騎駆け…趙雲将軍の真似だよ。」


「ええっ?!!どちらにしても嫌な内容じゃないですか!!」


「安全性が違うよ♪

長坂で張飛将軍がやったのは

撤退中の劉備軍と民を逃がすために一人その場に留まって敵軍と対峙したやつ。

趙雲将軍がやったのは、劉備の子供を抱き抱えながら

敵の中を掻き分けて劉備軍まで戻った。」


「ええ、そう聞いています。」


「大軍を相手にするのは同じなんだけど、この二つには大きな違いがあるんだよ。

敵の前に立って戦うか、敵の後ろから不意を突いて駆け抜けるか…」


「"敵の前に立って堂々と戦う行為"は、すべての敵を相手にする前提でありますので類い稀なる身体能力と判断力が必要とされます。

しかし、もう一方の"敵の背後から奇襲をしながら自軍に駆けつける"は、

それは敵の陣形を崩し味方の士気を上げる。そして相手にする敵の数も少なく体力の消耗も抑えられる。

まさに一石三鳥の策となります。」



フェイの説明を聞いて銀屏は少し考えた。

全軍を殺さないで相手にするのは無理でも、目の前の敵を薙ぎ払いながら駆け抜けるくらいなら今の自分でも出来るのではないか? と。



「今の私の強さとスウから頂いたこの鉄甲の力があれば

単騎での駆け抜けくらいなら出来そうです。

でも、自信は全くありませんけど・・・」


銀屏は不安そうな顔をしてツカサを見た。

そんな銀屏を励ますようにツカサは頭を撫でてあげる。


「・・・スウに撫でてもらうと何故か安心します。

きっと他の人達も同じ気持ちになるんでしょうね・・・」


「さぁね、俺はする側だから分からないよ。

でも撫でるのは好きかな・・・フェイもやる?」



銀屏一人にするのも悪いと思いフェイにも声をかけた。



「私は遠慮させていただきます。機会があればその時はお願い致します。残念ながら敵の増援が到着したようですので、

作戦会議をしましょう。」


「「 !! 」」


「では、作戦の説明を致します。」


「お願い!」「よろしくお願いします!」


「まず蜀軍がここの陣を目指して進軍開始します。

そして中間地点を過ぎた頃に第一陣の敵増援が川側から進軍してくるでしょうが、そちらは私はがお相手致しますのでお気になさらず♪

次にほぼ同時くらいだと思われますが、後方より蜀軍の陣地目掛け敵の増援が要らします。こちらは、蜀軍が防衛のために出てきた時点で奥様が一騎駆けを仕掛けます。

これにより敵の士気が下がり、味方の士気を上げることが出来る筈です。奥様はそのまま蜀軍と共に防衛にあたってください。

そして、御主人様は…」


「俺は左の林の中で待機でしよ?」


「左様で御座います。

御主人様は林の中で身を潜めていただいて、魏軍の増援が進軍して来た時にこれを撃退していただくのが妥当かと思います。」


「了解!オレの考えそのままだったから問題なしだよ。

たまに魔法で支援するよ。待ってるの暇そうだしね。」


「はい。よろしくお願いします。・・・ところで奥様、魔法を覚えてみますか?」


「ほえ?・・・私にも出来るんですか?」


「私の考えが正しければ簡単に修得出来ますよ。」


「是非お願いします!」



銀屏に魔法を覚えさせると言い出したフェイだったが、

銀屏の返事を聞くと"にこり"と微笑みツカサを見た。

当然フェイが教えるものだと思っていたツカサは、?な顔になるのだった。



「フェイが教えるんじゃないの?青龍の加護で風魔法なら大概のものは出来るとは思うけど・・・」


「いいえ、教えるのは御主人様ですよ♪

魔法に関してのセンスが異常なほどよろしいようですから。」


「大袈裟じゃない?オレの魔法はゲームとかアニメとかのパクリが大半だからセンス云々じゃないよ…多分。」


「・・・まだ気付いていらっしゃらないのですね。

いくら模範になるものを見ていたとはいえ、実際に魔法の威力がそのまま出せるかと言ったら答えはNOで御座いますよ。

魔法とは目に見えないエネルギーを発動したい形にするため

集め 制御しなが練り 形作り 質量に合わせた効果を考え

そのイメージを崩さぬように発動場所を決めて解放、放出する事で現実に発動するのです。そのどれか一つでも失敗すると

効果が半減もしくは暴発します。

御主人様はそれを躊躇うことなく瞬時に発動することが出来るお方だと認識されてはどうでしょうか。」


「何か大袈裟に聞こえるのだけど・・・」


「奥様、この大陸の術者の平均的な炎の威力はどれくらいでしょうか?」



フェイはツカサと普通の人との違いを把握してもらうため銀屏に質問した。



「そうですね・・・炎であれば、地面からまあまあ大きめの焚き火が数秒出る程度でしょうか?

一撃で死に到らしめるのは無理だと思います。

発動時間も百秒…早くても数十秒かかりますね。」



銀屏の答にフェイは頷きツカサに質問した。



「では御主人様の炎の魔法とは?」


「爆発系か着弾系の場所を選ばないやつ。威力と範囲も自由な感じだよ。火傷から地面を溶かして蒸発させられるくらいまで出来るかな?単発から複数でも発動出来るとは思う。発動は一瞬から十数秒かな?」


「十数秒とは人一人の範囲を溶かす威力の魔法の時ですか?」


「いや、範囲は関係なく詠唱と魔方陣と指先で詠唱文を書いた単一系複数起動式魔法の場合だよ。」



「・・・」「・・・」


「(あれ?二人が固まってる。銀屏は理解できなくて固まっているだけだろうけど、フェイは何で固まっているんだ?)」



フェイはしばらく無言だった。

何か変なことを言ったのではないかと内心ヒヤヒヤしている

ツカサはたまらず声をかけた。



「俺、何か変なことを言ったかな?」


「いえ、そんな事はありませんが・・・単一系複数起動式魔法

・・・一つの魔法に対して複数の起動方法を用いて発動させる術式ですね。」


「そうらしいね、バハムートが教えてくれたんだよ。」


「なるほど、それならばある程度は納得ですが・・・

それでも異常なセンスの持ち主だと思いますよ。」


「それは喜べばいいの?悲しめばいいの?」


「あえて言うなら褒め言葉でしょうか・・・

もしかすると御主人様は魔法を造り出すことが可能かも知れませんね。」


「!?・・・大袈裟だよ!そんな力があったらステータスに表示されるんじゃない?」


「?・・・ああ、知らないのですね。

ユニークスキルは新しく追加されて出るものですので、発動しない限りステータスには表示されませんよ。」



フェイが言ったステータスの裏話にツカサは固まってしまった。



「(リアルなのにゲームみたいな仕様なんだな世界ってやつは…)・・・試しに何かやってみる?」


「構いませんが、あまり派手な魔法ですと敵に気付かれてしまいますよ?」



言い出しっぺのフェイだったが、正論を言ってツカサの暴走を抑制した。試しに造り出す魔法次第では折角まとまった作戦が水泡に帰すからである。



「で、ですよね~・・・う~ん…地味で存在してなさそうな魔法…銀屏でも使えそうなやつがいいんだよなぁ…」


「わ、私も使えるんですか?!」


「・・・・・・・・・」



ツカサの呟きに思わず反応する銀屏。

しかし、ツカサは魔法を考える事に夢中で銀屏の話を聞いていなかった。



「無視されました・・・ぐすん…」


「奥様、"どうどう"で御座いますよ。」



銀屏がフェイよって慰められている最中もツカサは考えに没頭していた。"未経験の者でも簡単に使えて、誰も知らない魔法"なんてものは早々考え付くものではない。



「う~ん…妥当なところは追加攻撃かな…いやいや、

俺が知らないだけで存在してるかもしれない…だとしたら…

よしっ!アレにしよう♪」


「スウ、私でも使えそうな術が浮かびました?」



何か閃いたツカサにワクテカな顔を近づけて銀屏が聞いてきた。



「ま、まぁね…銀屏さん、顔が近いッス(苦笑)」


「あうぅ~、すみません…」


「まあ、いいけどね♪

あとは、名前を考えるだけだけど…英語でいあかな?」


「えいご?・・・あっ!、異国の言葉ですね!」


「そうなんだけど・・・想像出来る?」


「・・・た、多分・・・」


「じゃあ、試しにやってダメなら名前を変えよう!」


「了解です!」




不安そうな銀屏を気遣いながらも魔法を造る事に緊張するツカサは、右手にそっと左手を当て詠唱した。



「えっと・・・取り敢えず直訳で・・・

アデイショナルアタック!」



ツカサの詠唱に呼応したのか淡い光が右手を包んだ。

成功したようで安心するツカサだったが、実際に効果を見ていないので試してみる。



「ていっ!」


ヒュッ!・ヒュッ!


ブオンッ!・ブオンッ!



魔法を掛けた右手を振ると、振り終えた直後にあたかももう一度腕を振ったような風圧が空を切った。

しかし、実際に何かに攻撃したわけではないので威力が分からないのであった。



「成功・・・で良いのかな?」


「アデイショナルアタック・・・追加攻撃で御座いますね。

効果は・・・音と風量からして等倍で御座いましょうか・・・ところで御主人様、ステータスに固有スキル出現しましたでしょうか?」


「おっと、そうだったね!

どれどれ・・・おっ!なんか出た!!」



ツカサがステータスを確認すると、一番下の欄に新たなスキルが表示されていた。



「"新世界の創造主"・・・だ、そうですが・・・

これが魔法を自由に造るスキルで合ってるの?

説明文が文字化けしていて全く読めないんだけど・・・」



ツカサの言葉を聞いて説明文を読むためにフェイが近くに寄る。



「どう?読める?」


「フムフム・・・まったく読めませんね。私、目が見えませんので♪」


「じゃあ何故側に来たんだ…」



拳をプルプルさせながらツッコミをいれるツカサに、

フェイは フフ っと微笑み口を開いた。



「目は見えませんが、ステータスは魔力で表示させるものですので感覚的に"視る"ことが出来ますよ♪」


「・・・はぁ~・・・で、読める?」


「・・・・・・読めません・・・テヘっ♪」



思いもよらないフェイの言葉にツカサと銀屏は絶句し固まった。フェイもやらかしてしまったと顔が真っ赤になってしまい

しばらく無言が続いたのだった・・・



ーーーーーーーー 5分後 ーーーーーーーー



「フェイちゃんがあそこまで砕けるなんて知りませんでした。(笑)」


「予想外もいいとこだったよね~(笑)」


「私でもフザケたい時くらいあるんですよ・・・

まさかあそこまで酷い反応だとは思いもよりませんでしたけど・・・(泣)」



二人はその後もしばらくフェイをイジって遊んでいたが、

フェイがイジケテしまったので謝り倒すのにまたも時間を浪費した。その結果、銀屏の魔法修得の開始は日が傾き始めた頃になってしまった。



「とりま始めようか♪」


「はい!よろしくお願いします!!」


「取り敢えずは、自分の手足が増えた感じを想像しながら魔法の名前を唱える。」


「えっと・・・見えない手足・・・あでぃ、あでぃしょ?・・・何でしたっけ?」



やっぱりな反応に二人とも苦笑いをする。

異国文化の入っていない中国なのだから当然と言えば当然だった。



「名前を変えようか・・・所詮名前なんてのは、発動のための鍵でしかないからね。」


「そ、そんなに簡単な問題では・・・

魔法の名前というのは、その現象を確たるものにする大事なもので・・・」


「大丈夫、大丈夫♪ちゃんと理解してるよ。

言葉の重みで威力や範囲に大きな影響が出るんでしょ?」



ツカサは笑顔で返すが、フェイ頭を押さえて首を振った。



「そうなんですが・・・そんなに軽く考えるものではないのです・・・はぁ・・・」


「まぁまあ、重く考えるのも逆に魔法を難しくするんじゃないかな?

最初なんだから銀屏には難しく考えてほしくないんだよね。」


「分かりました!なるべく軽めに考えます!」


「ウンウン。その意気だ♪

ではでは、銀屏は俺の言った言葉を覚えてその言葉の通り想像してね。」


「はいっ!!」



銀屏の元気な返事を聞いてツカサは真剣な顔になり、目を閉じて詠唱を始めた。



「風よ 我が身に宿りて 連なり敵を穿て! 風連衝!!」



詠唱を終えると、一度だけツカサの体に風が吹いた。その後は特に服や髪が揺れることもなく普通な状態である。


「威力も考えて3節にしたけど・・・大丈夫?」


「・・・風よ 我が身に 宿りて 連なり敵を穿て! 風連衝!!

・・・!」



成功したようで一度だけ銀屏の体に風があたった。



「成功したかな?

よし!試しに俺の手を殴ってみなよ♪」



ツカサは手を伸ばした。銀屏はツカサに向かい構えパンチを一発当てる。



パンっ!!・パンっ!!



「おおっ!」「フフっ♪」


「「おめでとう!(御座います♪)」」


「・・・やったぁ~♪」



銀屏が魔法を使えたことをツカサとフェイは心から祝福した。

そして、魔法が初めて使えた銀屏もまた、とても喜んでいた。

銀屏が魔法を使えるようになったことで、単騎での駆け抜け作戦も失敗する可能性が極めて低くなった。

ここで三人は、夜になる前に食事を済ませることにした。



「いつ見てもスウの闇収納の術はすごいですね!

私も使いたいです!」



銀屏は毎度ツカサが使うブラックホール収納を興味津々で見ていた。


「教えてもいいけど・・・危ないよ?

下手をしたら自分が呑み込まれる可能性もあるからね。」


「・・・・・・前言撤回します。」


「それがいいよ。ブラックホールの中には空気無いと思うし・・・多分・・・」



二人の会話を聞いていたフェイは不思議そうな顔をして、

ツカサに問いかける。



「御主人様、あえてブラックホールを使っていたのでしたら謝りますが・・・異空間収納はお使いにならないのですか?

アレならば安全ですし、魔方陣をスライドさせるだけで着替えも出来ますが・・・」



フェイの言葉にツカサは固まってしまった。

そう、ツカサは異空間収納の存在を完全に忘れていたのである。



「異空間収納・・・あったね、そんな便利なもの・・・

この一年と数ヶ月の間俺は何をやっていたのでしょうか・・・萎えるわぁ・・・」


「よく分かりませんがスウ、よしよしですよ。」



銀屏に慰められ少し元気になったツカサは、ブラックホールの中身を異空間収納に全て移した。

その後は三人で食事を済ませ、銀屏にも異空間収納を覚えてもらった。



ーーーーーーーー 夜 ーーーーーーーー



「かなり暗くなってきたし、そろそろ出発しよう。

フェイは単独で動けるからいいとして、銀屏は俺が空から送るよ。」


「畏まりました。奥様、お気をつけて。」


「うぅ・・・また空を飛ぶんですね・・・が、頑張ります!」


「まあ、そこは我慢してよ(苦笑)

昼と違って夜なら下が見えないし、星でも眺めててよ♪」


「・・・善処します・・・」



項垂れる銀屏をなだめつつ、ツカサは銀屏を抱き抱えフェイを見る。

フェイは瞳は閉じていたが、ツカサの視線に気付き頷き脱兎の如く駆け出した。

あっという間にいなくなったフェイを見送るとツカサも詠唱し、空を飛び目的地を目指した。

途中、銀屏の「見えません!見えません!」という言葉が

ツカサのツボに入り大笑いしていたのは二人だけの秘密である。


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