1話
「は?」
驚きの声を漏らす真帆にボクは、
「どうしたの? そんなに驚いて、おかしいこと言った」
と、おかしいことを言っていた。
「え? 今日の夕方? 本気で言ってるの?」
「もちろん」
「え、じゃあ準備は?」
「ボクは終わってるよ」
「あっ、そうなの。なんだ……」
「何だって何よ!?」
ボクは、ちょっとくい気味で質問する。
すると、
「だってゆきってばいつも支度すんの遅いじゃん」
という答えが返ってきた。
あまりにも予想外な答えに思わず『えっ!』と声を挙げてしまう。
ていうか普段からそんなふうに思ってたのか。
それに、ボクは決して支度が遅いわけじゃない。
支度を始めるのが遅いだけだ。
まあ、それでしょっちゅう忘れ物をしたりするのだけど。
「ねえ真帆……」
ボクは声をかけようとしたが、真帆がうつむいて考えているのを見ると、空気を読んで声をかけるのをやめる。
「……ねえゆき、その準備したバックの中身、見せてくれない?」
「え? 何で?」
「ダメ?」
「い、いや別にダメってわけじゃないけど」
なんだかボクの質問が見事に無視された気するものの、別に断る理由もないので即座に家に荷物を取りに帰ることに。
「――はい、もってきたよ」
ボクは真帆の目の前にパンパンになっているリュックを置く。
「結構つまってんね」
「そう?」
ボクとしては結構普通なんだが。
真帆は、ボクが言葉を発すると同時に、リュックを片手で持ち上げると、そのまま肩にかける。
「家に入って。中で見るから」
「あっ、うん」
なんだろう。
さっきからなんか無視されてない?
そんな疑問を抱きながら、ボクは真帆の家の中に入る。
「片付いてるね」
「そこに座って」
なんだろなー。
やっぱ無視されてるんだよな。
真帆はボクにリビングの真ん中に座るように促すと、リュックを床に置いてボクに背を向けて座った。
「……ずいぶん適当に入れたね」
リュックを開けて最初に言った言葉に思わず僕は苦笑する。
「ねえ真帆」
「…………」
「無視しないでよ!」
「…………」
ん~。
真帆があまりにも無視するので、心の中で不満の声をあげる。
……じゃあしょうがない。最後の手段だ。
ボクは思い切り両手を広げると、
ぎゅーっと。
抱きついた。