×××は正義の味方になれなかった
小さい頃から正義の味方に憧れていた。
絵本や物語に登場する、みんなを助ける正義のヒーロー。
ちっぽけでもいい。
ただ、誰かのヒーローになれたらいいと願っていた。
少しでも多くの人の助けになれたらいいなと思っていた。
「これでおしまいだね」
俺の喉へと刃が突きつけられる。
「ねえ、これで君はよかったの?こんな……こんな結末で……」
俺を殺そうとしているとは思えない泣きそうな表情で彼女は問うた。
彼女は10日ほど前までは世界を滅ぼす魔女と呼ばれていた。
そんな彼女が実は世界を救おうと行動していた事がわかり、人々は手のひらを返すかのように彼女を世界を救う聖女と呼んだ。
「ああ、これでいいんだ。もう俺は疲れたんだ。」
それまで英雄と呼ばれていた俺は聖女殺しと呼ばれ、どこへ行っても侮蔑の対象となった。
ただ俺は誰かを救いたかっただけなのに。
魔女を倒せば世界が救われると信じていただけなのに。
「でも……でも君は……」
堪えきれなかった涙が彼女の頬を伝う。
自分のことより世界のことを心配するような優しい彼女だ。
この結末には納得などしていないのはわかっていた。
俺がただ正義の味方になりたかっただけだなんてとっくにばれていた。
「悪い事などしていないか?」
「そう!!」
ただ彼女を悪だと信じて行動しただけだと言いたいんだろう。
「いいや。俺は悪だ。人々の話を鵜呑みにして真実を見誤った」
そうだ。
それこそが悪だ。
彼女の行動の意味を調べることもせず、彼女のことを悪だと決めつけた。
「そんなの……そんなのほかの人だってそうじゃない!!」
確かにそうだが俺は他の人とは異なるところがある。
「だが行動したのは俺だけだ」
そう、俺は行動したのだ。
「そ……れは……」
そのことはわかっているのだろう。
「贄が要るんだろう?だったら"悪"が居なくなればいい」
世界を救うためには贄が要ると彼女は言っていた。
それは小さな独り言だったが、だからこそ本当に贄が必要なのだとよくわかった。
それならば俺はその役を引き受けよう。
「それで世界は救済される」
彼女を殺すことで世界を滅ぼしかけたのだ。
その報いを受けなければ。
それが世界のためになるのならばそれはとても幸せなことだろう。
「そんなの!!そんなのひどいよ!!」
もう隠すこともせずに涙を零す。
自分を殺そうとしていた男にまで同情するなんて優しすぎる。けれどその優しさは今は必要ない。
「さあ殺せ。俺はお前の"敵"だ」
ぼろぼろと涙が零れ落ちるままそれでも刃を突きつける。
どうやら決心は固まったようだ。
「ごめん。ありがとう」
そう彼女が言うとともに首が切り裂かれる。
血が流れ落ちて床の魔方陣を起動する。
これで世界は救われる。
それでよかったじゃないか。
なあ聖女さん。
そうしてそのまま俺の意識は落ちた。
永遠に。
元英雄は正義の味方になれなかった