愛を欲した彼女 その2
今回は井上 咲の生い立ちを紐解くため、全てが地の文になっています。
そして、このあとは「愛を欲した彼女 その3」→「愛を欲した彼女 その4」→「愛を欲した彼女 その2(この話)」→「愛憎の憑神 『宵闇』 編」という時系列になっています。
じゃあその通りに書けよ、と思われるかもしれませんが、自分の彼女が憑神を宿していたことを知った主人公・鎌田 和成の行動と戦闘を上手く繋げたかったのでこの順番に投稿しました。
それでは、よろしくお願いします。
少女・井上 咲。
彼女はその昔、とある田舎町に生まれた。僕たちと出会うのは何年か先の話となる。
ともかく彼女は、昔は消極的な少女だったのだ。言葉少なで、俯きがちで、陰険とも言えてしまうかもしれない。今の快活で活発な彼女とは大違い──否、対極的な性格だった。
というのも彼女の生い立ちを順当に追えば分かることで、咲の母親は彼女を産む際、難病に罹っていたらしいのだ。そして出産の負担に耐え切れず、命を落としてしまった──。
それからというもの、彼女は父親に育てられてきた。しかしある日、片親という理由で周囲と不和を起こしてしまった彼女は、町の人々から迫害とも言えよう扱いを受けることとなる。
やはり影であろうと親であろうと、持っていて当たり前のようなものがないだけで、それは不和を引き起こしてしまう。
それに怒りを感じた彼女の父親・井上 誠志郎は町の人々に抵抗するが、そこもやはり人数にものを言わせたような感じで、暴力によって捻じ伏せられてしまう。
そこで誠志郎は、娘の幸せと平穏を願う父親として、力を願ったのだ。その力に反応した憑神こそが────そう、究極絶無・復讐の人喰であった。
その尋常ならざる力によって町の人々は咲を迫害しようとすることはなくなったものの、あろうことか父親の持つその力の強大さに恐れを成した小さな娘は、父親に包丁を突きつけて叫ぶ。
「近寄らないで」
「お父さん、こわい」
「一緒にいたくない」
当然と言えば当然なのであった。
当たり前のものを持っていなくて不和を起こすことがあるならば、尋常ならざるものを持っているから不和を起こすことだって自明の理である。
やがて父親・誠志郎は怪物として、その町を去った。娘の幸せを願ってのことである。
つまり、だ。
彼女は昔から、父親以外の人間に「愛情」を受けたことがなかった。
父親の「愛情」だって、それがそれとは気づかないまま、永遠に続く隔絶を持ってしまう。
そして時は過ぎ、十数年後の5月。
咲は既に、僕達の住む街へと引っ越してきていた。
僕は誠志郎と同様、絶無の怪物の力を得たのだ。
しかしながら人間に戻ることを望んだ僕は、そのプロセスとして『大罪人』と称される4人の怪物と死闘を繰り広げる事になったのだ。
2人目に戦った男の名は、八代。
彼は怪物の力を持ったことを、「苦難」と捉えていた。だがそれを否定した僕の鉄の牙によって、彼は倒される。
彼は死に際に、人間だった頃の名を僕に告げたのだ。
これを読んでいる察しの良い方なら既にお気づきの事だろう、それこそ、井上 誠志郎だった。
彼は八代という名前で、『復讐』という大義名分で、殺戮と虐殺を繰り返している男へと堕ちていた。
残酷すぎる。
咲にしてみれば、昔自分を救ってくれた父親を忌避してしまい、二人の間に何よりも堅固な壁を作ってしまった。
父親は復讐として、命を奪い続ける冷徹な男へと堕ちてしまっていた。
時は過ぎ、その同級生すらも同じ怪物の力を得て狂ってしまっていた。
そしてその狂った同級生の少年に、自分のかつての父親が殺されてしまっていた。
彼女はそんな酷な人生を辿りながら、今まで十七年ほどの人生を送ってきながら──未だに他人から「愛情」を受けたと実感したことがなかった。
愛情を求めすぎるあまりに、彼女は僕たち他人に「愛情を与える側」として生きてきたのだ。
見返りとして、愛が欲しくて──。
だから愛を与えた──。
そんな計算づくしの、"偽物の愛"──。
なるほど、僕は納得するしかなかった。




