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夜の國(血)  作者: ねろ
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想いの憑神『不知火』 その1

高校一年生の夏休み。

数学の補習を、2人の生徒が受けていた。

鎌田 和成と柿本 永音である。

「お前、柿本さんっつったっけ?さっきは大丈夫だったのか?」

僕──というか、一年前の僕だから、むしろ彼と言うべきなのだろうか。

彼は腫れた顔を冷やしながら、柿本にそう聞いた。


というのは、補習があるために朝早く学校に向かっていた和成は、学校の近くの路地で不良に絡まれている少女を見つけたのである。

彼の学校、つまり柊木高校はそこそこ頭の良いところなため、不良なんてものは基本的には出ないのだけれど、そこの近所にある高校は、見事に不良の巣窟と化していた。つまり、他校の生徒である。

見つけただけならまだいい。

普段の彼ならせいぜい同情するくらいで、自分の(アズカ)り知らぬところだとスルーしたのだろう。

しかし見つけただけではなかった。

結果的に言うならば、彼はその少女を助けてしまったのだ。

助けたと言えど、武力行使に出たわけでもなんでもなく、穏便に解決を試みようとして、ひたすらに頭を下げて謝ったのだ。通りすがりの身分で何を謝るのか、言ってしまえばそういう話なのだが、とにかく彼は謝ったのである。

そして結果、その不良たちは呆れ果てたようにどこかへ行ってしまった。

もちろん彼は数発くらい顔を殴られたのだが、それだけで解決出来たならむしろ容易いものだった。



それから、何の間違いなのだろうか。

柿本はあろうことか、彼に想いを寄せていたらしい。別に自己犠牲で半ば無理矢理に美化された思い出程度の認識だった彼は、高校一年生の12月の冬のことである。

彼女に久々に再会した。今度は何の補習だったろう。

古文だった気がする。

そして彼女は、彼に事の経緯みたいなのを語り、そのことを「覚えてる?」と聞いたそうだ。「そうだ」というのは、このあたりの記憶は全然今の僕には残っていないからである。


しかし残念ながら「彼」、つまり当時の僕はそのことを覚えていなかった。不良に絡まれていながらも何も抵抗しない少女がやけに可哀想に思えて、らしくない自己犠牲なんてのをしながら助けたのは朧に覚えているけれど、それがまさか目の前の少女だとは思いもしなかったのだ。




またも、回想終了。





「わかったかしら?あなたは──私の初恋の相手であるあなたは、私のことを覚えていてくれなかった…。」

「その事に深く傷ついてしまった私は、他人との関わりを拒否したのよ。」

拒絶と言ってもいいわね、と。

「再び傷つくのは怖かったもの。だから私は、他人への想いを諦めて、他人からの思いを無視して拒否して否定して拒絶した。」

彼女のその話を聞いていると、黒矢の言葉が思い出される。

──その少女は、意図的に孤立しているのだろう、と。

「そ、そうなのか……?それは、えっと、その、・・・・悪かったよ。ごめん。でも、いくら何でも他人を無視するってのはやりすぎじゃ────」

覚えていてくれて嬉しいよ、なんて言い出せる雰囲気でもなく、僕は狼狽えながらそう言った。

その時、僕の発言を遮るかのように教室に大きな音が響く。

目の前の少女が椅子から立ち上がり、自分の机を掌で思い切り叩いた音だった。


「やりすぎ?何がやりすぎなのよ、そうさせたのはあなたなの。今更何を言うってのよ、馬鹿馬鹿しいわね。私にはそうするしか道が無いの。あなたのせいで…あなたのせいで!まともに生きていくなんてそうすることでしか無理なのよ、無茶なのよ、無謀なのよ!!あなたなんか嫌いよ、すごく嫌い。とても嫌い。めちゃくちゃに嫌い。嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い・・・・・・・・!!!」


「・・・・・・・・・・・・・。」

彼女はものすごい剣呑な目つきで僕を睨みながら、今まで溜めていた恨みを発散するかの如く、八つ当たりの如く、僕に叫び散らす。クールなその普段の態度が嘘みたいに、大粒の涙を零しながら頭を抱えて叫んでいた。怒りに身を任せて。

でも一年前の事とは言えど、僕が少しでも関与している以上はそれを受け止めるしかなかった。

僕は黙ってそれを聞いていたのだ。


その時である。

彼女が初めて自分の想いを伝えることを諦めなかった──その時のことである。

彼女は突如意識を失い、そのままふらりと後ろに倒れかける。

「・・・お、おい、柿本!」

咄嗟に僕は目の前のその細い身体の後ろに手を回し彼女を受け止め、ゆっくり椅子に座らせる。

すると。

幽霊のような"何か"が透けるようにして彼女の身体からスゥッと出てきたのだ。


煌びやかに輝く白い長髪を靡かせ、美しい女性の姿をしていた。

それはつまり、彼女の影を喰らった怪物。

想いの憑神「不知火」────!

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