影を失った少女 その1
影を失った少女。
その少女の名前は、柿本 永音。
僕と同じく柊木高校二年生の生徒として平穏無事な日々を過ごしていた彼女が、僕と同じくふとした事で怪物に憑かれてしまった。
色々な人に彼女について聞いてみたところで、おそらく返ってくる答えは同じだろう。
「いる時はそこにいるし、いない時はそこにいないっていうか──霧みたいな存在の人だね」と。
「基本的には独りで行動していて、他人を拒絶してるみたいなところがあるよ。『人間嫌い』って感じがする。」と。
そうとしか言われない。『人間嫌い』という呼び名に何も思うところが無いというわけでもなく、僕は彼女について捜査することにしたのだ。
余計なお節介かもしれない。
大きなお世話かもしれない。
偽善者だと言うならば、それでもいい。
僕は彼女に、謝りたくて────。
「影が無い?」
僕は江花から、そんな少女の話を聞いた。
「うん、鎌田先輩。文字通りどこにも影が映らないんだよ。そして影を失った事により、存在すらも消失しかけているっていう、そういう噂がある。」
「ふーん…どこの誰か知らないけど、 それも僕と同じ、奇々怪々な怪物の仕業だって事か?」
「その可能性は高いね。その可能性しかないくらいだよ。100%、"何か"いる。」
「可能性っつーか、100%ならそれはもう確定事項だろうが・・・。」
江花が断言しても正直説得力というか、信憑性なんてものは薄いのだが・・・。
黒矢の方がまだ信用はできた。
そんな話をしたのが3日前の補習帰り。
今日の数学の補習を受けている途中に、そんな話を唐突に思い出した。
「──で、ここでこの式が成立するから・・・」
樺島 絢芽先生の話を見事なまでに聞き流し(スルー)つつそれを考えていると、急に、「じゃ、鎌田くん。ここの計算はどうなる?」と聞かれた。
問題を聞いていなかった僕は、少し焦りつつも、「わかりません」の一言でそれを無視する。
樺島先生は「じゃ、後でもう一度解説するからね。それじゃあ、柿本さん。分かるかな?」
と、僕の左隣の江花の前、つまりは僕の左斜め前の少女が当てられる。
僕の代わりに当てられたのは申し訳ないが、まあ許してくれよ、と心の中で呟いたが、彼女は難なく答えを口にした。
「・・・・・!」
彼女の解答を口にするその姿に、僕はハッとさせられる。
彼女とは確か、1年生の頃によく数学の補習で一緒になったことがある。名字は柿本と呼ばれていたが、名前は、えーっと・・・?
駄目だ。
イマイチ思い出せない不完全燃焼感を残したまま、授業を終えて教室を出ようとする。
江花について行くように、謎(?)の少女は教室を出ようとする。僕はそれにまたついて行くような形だったわけだが、彼女の後ろ姿にもまた見覚えがあった。
・・・・・・・。
教室の窓から射し込む日光が眩しい。江花の小柄な体躯が影になって映し出される。
それに次いで、その少女の体躯も………
「え・・・。」
下手したら見落としそうな程に些細な不和ではあるのだが、当たり前のものを持たないというのは、やはりそれだけで奇妙であった。
彼女の体を象ったシルエットは一切、どこにも映らない。
そうだ。
思い出した。
彼女の名前はたしか──柿本 永音。




