コカ・ゴーラは一日3本まで!
1
自意識過剰かもしれないが、やっぱり彼女は僕のことを諦めていないような気がする。
そう思った僕は、川崎アレクの診療所に向かうことにした。
あの美少女がアレクさん絡みの変人だった場合、アレクさんなら少なからず何か情報を持っていると思ったからだ。事前に色々と分かれば、また次に誘われた時に最善の断り方が出来るかもしれない。
まあ……そりゃ、あんなに熱心に誘ってくれたんだし彼女に申し訳ない気持ちは凄くあるけど……本気で演劇にも勇者と魔王の戦いにもこれっぽちも興味ない僕にとって、彼女主催の演劇部に入るということは、貴重な高校生活の放課後を無駄にするということに等しいのだ。
もしこのまま本当に彼女が僕のことを諦めているのであればそれでいい。ただ、僕の嫌な予感が当たって、彼女がまた僕を演劇部に誘って来るのであれば、僕は僕自身の放課後を守るために戦うだろう。
2
川崎アレクの診療所は、学校から徒歩約15分で辿り着く。
基本的に川崎アレクの診療所には鍵がかかっていないので、僕はコンコンと気持ち程度ノックした後「アレクさ~ん、入りますよ~」で玄関のドアを開け、慣れた足取りでゴミ袋山を越え部屋の中に入って行った。
「おう、風見鶏。どうだったか、高校二年生初めての日──ゴエェッップ!!」
アレクさんはテレビを見ながらコカ・ゴーラを飲んでいた。
「化け物みたいなゲップかましてる場合じゃないですよ」
「人に向かって化け物とは失礼な奴だな。いいか、そんな皮肉は社会に出るとただ自分を苦しめるだけのアイアンメイデン同等の──ゴゴゴエェッッップ!!」
「説得力ねーよ!!」
僕は呆れながらも、さっそく元魔王軍最強悪魔の話をすることにした。
僕の話を一通り聞いたアレクさんは「ふーん」と腕組みをした後、
「そりゃ、あれだ。そいつは友達が欲しいだけだろ」
「え、そうなんですかね……? 僕のイメージでは、真剣に演劇部を作りたくて部員になってくれそうな人に声をかけてるっていう感じなんですけど」
「本当の目的は友達の方だと思うけどな。勘だけど。多分そいつは相当な不器用で、友達の作り方が分からないんだろう。お前と同じで。それで色々考えた結果『部活を作る』という考えに辿り着いたんだろう。部活を一緒に作った仲間なら友達と言えるしな」
あんた今さらっと「お前と同じで」って言わなかった?
「そんなもんなんですかねぇ……でも、あの子凄く可愛らしい見た目だったので友達多そうな気がしますけどね。少し変わってますが……あ、ってか、アレクさん知り合いとかじゃないですか? 名前は確か……佐藤メシアさんだったと思います」
そうだった。僕はこれが聞きたかったんだ。
「いや、そんな中二病JKのことなんて普通に知らんぞ? 逆になんで俺が知っていると思ったんだ?」
なんで?
なんであんたはそんな他人事百パーセントみたいな反応が出来るんだい?
あんたも自称元勇者とか言っちゃてる時点でジャンル一緒だぞ? 全然彼女のこと馬鹿に出来ないんだぞ? だから僕はあんたが何か知ってるんじゃないかと思ったんだぞ?
「──失礼します」
その時、玄関から透明感のある女性の声がした。
なんと珍しい、お客さんの訪問だ。
「ア、アレクさん!! お客さんですよ!!」
「おー、珍しいこともあるもんだな~」
「呑気なこと言ってないで、出迎えて下さい!! 僕、お茶用意するんで!」
「ウチにお茶なんてヤワなもんはねーぞ、ロリミドリよぉ。ゴーラ準備してろ!」
「マジかよ!! 診療所のくせに不健康極まりねーな!! クソッ!!」
そんな会話をしながら、アレクさんは玄関までお客さんを出迎えに、僕は冷蔵庫からゴーラを取り出してこの診療所にある一番綺麗なコップに注ぐ。
そうこうしている間に、お客さんがゴミ袋山を越えて部屋に入ってきた。
仕事終わりだろうか? スーツ姿の彼女は、美人で透明感が溢れ出ており、スタイルも良い、とても綺麗な女性だった。
そしてとても巨乳だ。
とても、巨乳だ。
素晴らしい。
「おい、おっぱい魔人。何拍手してんだよ」
「あ、すいません。つい」
「つい、じゃねーよ。ナチュラルに人の胸見て拍手出来る勇気あるならもっと色んな人に話しかけて友達増やせよ」
「うっ」
色々と突っ込みたいところだが、巨乳に対する僕の拍手に非があるため言い返せない……!!
僕は巨乳より微乳派なのに……!! みっともないことをしてしまったぜ。
「あ、あの~、お話しても大丈夫でしょうか?」
とりあえず僕らは床に腰掛け、依頼者の話を聞くことにした。
3
「私は佐藤アルシエと申します。佐美市役所に勤めております。この度、私の妹のメシアのクラスメートである風見鶏くんを尾行してここまで辿り着きました」
はい、さっそく強烈な自己紹介頂きました~。
ってか、姉妹揃ってどんだけ尾行好きなんだよ。
僕は思わず出た溜め息の後に続けた。
「で、メシアさんのお姉さんはどうして僕の尾行をしたんですか……」
「──私の可愛い可愛い妹の高校生活を豊かにするためよ!!」
アルシエさんは間髪入れずに突然大きな声で答えた。
うわ、びっくりした~。全然そんなキャラじゃなさそうな感じで急に大きな声出さないで欲しいよ~。マジで心臓に悪いわ。もうなんなのこの姉妹。
僕がアルシエさんの癖の強さにビビっていると、腕を組んだままアレクさんがナイスな質問をした。
「どうして妹の高校生活を豊かにするために風見鶏を尾行したんだ? 風見鶏が妹の演劇部勧誘を断ったからか? 風見鶏に協力してもらうためにお姉さんからも頼みに来たってとこか?」
アルシエさんは首を縦に振った。
「はい。あの子、風見鶏さんに仲間意識持っているみたいなので」
いやなんでだよ。
僕、あの子に仲間意識持たれるようなこと何にもしてないぞ。
僕には変な人に絡まれる才能でもあるんだろうか。
「まあ、風見鶏も友達いないしな。仲間意識持ちたいのは分からなくもない」
「何度も言ってますけど、僕、友達いますから」
当たり前のように人を友達いないキャラ認定しないでくれるかな、似非医者よ。
「あの……」
すると、アルシエさんが急に悲しげな表情で話し始めた。
「ちょっと言いずらいんですけど、風見鶏くんには妹の友達になってもらいたいですし、演劇部も一緒に作って欲しいので……同情を誘うわけではないんですが、妹のことを少し話させてもらいます。妹──メシアには友達がいません。それは妹の元々の性格も多少なりともあるのでしょうけど……それ以前に、妹は『友達の作れない性格』にさせられたんです」
「え、それってどういうことですか」
そうして、メシアさんの過去がゆっくりと語られた。