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川崎アレクの診療所  作者: 上代湊
一章
4/7

いつでもウェルカムがモットーです

 

 事態が丸く収まったのは、アレクさんが組長を文字通りぶっ飛ばしてから約一時間が経過した頃だった。

 アレクさんがスマートフォンで警察に連絡(何だかんだ言っても結局最後は警察に頼った)して、僕達はそのまま事情聴取を受けた。僕達は散歩中にたまたまこの廃墟工場の付近を通りかかって、こんな時間に灯りが点いてたからおかしいと思って、中を覗いて見たら人が大量に倒れていたと。だから警察に連絡したと。

 さすがは警察だった。倒れている組員達を見て一目で暴力団の連中だと分かった。まあ、最近ここら辺で暴力団が出現する噂は元々耳にしていたらしいけど。

 しかしどうしても分からないことは、何故暴力団ともあろう連中が揃って気絶をしていたのか、ということと、廃墟工場の中心にあるクレーターは何なのか、ということらしい。勿論僕達は知らないふりだ。

 僕が補導され、アレクさんが職質されたのはまた別のお話である。



 次の日。

 日曜日という最高にだらけることの出来る日にも関わらず、僕は川崎アレクの診療所にいた。


「しかしアレクさん、あの白猫の着ぐるみはどこやったんですか?」

「おや、風見鶏くん。そんなにアレが気になっていたのかい?」

「別にそんなことありませんけど……。あんなのここにありましたっけ?」

「あれはあらかじめネネルから借りていた正真正銘の『防具』だ。今日の早朝に返した」


 あ、やっぱりネネルさんか。若干そんな気はしてたんだよな。

 防具ってところが少し気になるけど。長い話になりそうだから突っ込まないようにしよう。


「次のニュースです。昨日の深夜、○×○×○×付近で、約一年前に逃亡した指定暴力団轟木組の組長及びその組員が捕まりました。組長のみならず、組員は全員原因不明の気絶状態で近隣の方々によって発見され──」


 お昼のニュースでは、男性アナウンサーが昨晩のことを流暢に報道している。

 僕はテレビを眺めながら、


「でもよかったですね、アレクさん。職質されても警察に顔がバレないで。奇跡ですよ」

「まあな。そのための防具でもあったし」


 あんな格好でよく職業「メガネ屋さんの店員」で通ったな。


「すいませ~ん!」


 あ、来た。れいかちゃんだ。


「入ってどうぞ~」


 僕の言葉で玄関が開き、れいかちゃんがゴミ袋共を越えて部屋に入ってきた。

 その細い両腕には、一匹の白猫が抱きかかえられている。

 芸術品のように美しい猫──アンブレシア=デルマエロッサだ。

 轟木組の悪行は全てばれて「キャッツ愛」と忌々しいあのファーストフード店はさっそく閉店した。その際に「キャッツ愛」で飼っていた猫が他人の家から盗んできた猫だったことが発覚。猫達は警察の手によって、帰るべき場所へと返されたのだ。


「おう、アンブレシア!」


 アレクさんはこたつから立ち上がり、れいかちゃんの腕の中にいるアンブレシアの頭をよしよしと撫でる。

 「にゃ~」と気持ちよさそうに鳴くアンブレシア。そして念願の猫に触れることが出来て実に幸せそうな表情のアレクさん。

 ふと、れいかちゃんが言った。


「あの、アレクさん」

「ん? どうしたれいか」

「今回のお金、いくらでしょうか?」


 不安そうな顔をするれいかちゃん。

 アレクさんは「そうだな……」と悩む素振りを見せた後、あっさりと言い切った。


「今回は初回限定特典で、料金はなし」


 れいかちゃんがただでさえ大きな目を見開いて、


「え! なしっていうのは悪いです!」

「いや、ただし、」

「ただし?」


 アレクさんは、ニッと笑った。


「これから暇があったらここに遊びに来いよ。勿論アンブレシアも連れてな」

「…………」


 そして、れいかちゃんはとても愛らしい笑顔で、


「──はい! ぜひ!」


 川崎アレクの診療所。

 いつもだらけていてするめいか大好きでほぼニートで人の気持ちには真っ直ぐと向き合う、そんな元勇者の医師がいるところ。

 もし困ったことがあれば、ぜひ一度依頼をしに来てみてはいかがでしょうか。

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