ラーメンはざまぁを救う? 後編
「名前は分からぬが『沈黙の料理人』と呼ばれているお方だ!」
空気を読まない第3王子さえ固まっていたところへ
取り巻きの1人がフォローを入れる
( ナイスだ取り巻き! ちゃんと仕事が出来るじゃないか!! )
取り巻きの張り上げた声に引き続き、
先ほどとは見違えるほど堂々とした態度で第2王子が冒頭の台詞を再現する
「お前が私が愛するラーメンの師である『沈黙の料理人』を苛め、そのプライドを傷つけた
そんな心もとない一言が2週間と3日の長い期間も
ラーメンを食べる機会を邪魔し騎士課の者や我々の楽しみを奪った!
そんな相手は敬愛する師匠の作品を食べるに相応しくない!!」
「師匠である『沈黙の料理人』作ったその数々のラーメンを知らないとは言わせないぞ!!」
そう言ってスープも飲み干されて空になっているどんぶりを指差して決めポーズを取る
長い台詞を噛まずに言えたせいか本人は少し自慢げだ
「えっと・・・
その話が兄上とラフィーネ公爵令嬢との婚約破棄とどう関係があるのでしょうか?
私の記憶が確かなら兄上に婚約者はいなかったはずでは??」
さすがの豹変ぶりに完全に混乱している第3王子は押され気味だ
「その女と婚約などしておらん!」
混乱を極める卒業パーティーがさらに混沌としてくる
周りの観客たちも呆然とする以外にとれるアクションがない状態だ
ここまで何度も人を固める事が出来る第2王子の才能に心の中で拍手を送った
「その女などと呼ばれるのは心外でしてよ!
それにそのような態度は女性相手にするものではなくって?」
その女扱いされたラフィーネ嬢が混乱している第3王子に代わって
この婚約破棄劇場『謎編』の役者を引き継ぐ
「いや、すまない大変失礼をした」
所詮は第2王子、強く出られるととたんに弱気になった
「だが!ラフィーネ嬢と『沈黙の料理人』が卒業と共に婚約すると聞いた!!
我々騎士課の生徒やラーメンを愛する者には許しがたい!!!」
何か凄くやっかいな事になっている事だけは分かった
状況を整理しよう
『沈黙の料理人』は言わずとも私だ
一般用の食堂に店を構えて授業に体力を使う騎士課は元より男性陣にボリュームのあるラーメンはとても人気だ
しかし婚約の話は全く身に覚えがない
前世のトラウマである令嬢とも接触しないようにしてきた
ラフィーネ嬢も例外じゃない
それに我が伯爵家の両親にも卒業と共に家を出る許可は得ている
知名度を上げる為に各領をまわる屋台馬車も完成済みだ
ゆくゆくはひとつの店を持つつもりでいた
「確かに『沈黙の料理人』である、とある貴族の方との婚約は確かですわ」
その言葉に隣で混乱していた第3王子がはっとこちらに視線を向ける
スライム研究で友人となった第3王子はもちろん『沈黙の料理人』の正体を知っている
必死に首を横に振り、第3王子へ婚約について拒否をする
「ところでこの話をどこでお聞きしたのかしら?」
強い口調で獲物を問い詰めるが
私は衝撃の事実にこの場の誰よりも混乱してしまい、それどころではない
「しょ、食堂のおばちゃんたちだ!」
( おばちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!! )
本人さえ知らないような婚約話をなんで知ってるの!?
あれですか? おばちゃんたちは国の諜報員か何かですか!!
「そ、それで婚約についてはまず認めたのだな!」
「確かに入学当初に貴族でありながら料理をしているという方に苦言を呈しに行きましたわ
当時は『沈黙の料理人』のあだ名は付いておりませんでしたが
私の苦言にも関係なく真剣に料理に向き合う姿を見て婚約を決めましたわ」
「い、苛めた相手に対して婚約を申し込むなど恥ずべき行為ではないのか!!」
「虐めではなく苦言ですわ
ご本人には後日改めて謝罪を致しましたわ」
確かにラフィーネ嬢から一度だけ食堂から呼び出されて謝罪をされた事があった
その時はなんの事か分からなかったので気にしていない旨を伝えてすぐに話は終わったはず・・・
「し、しかし
その後に2週間と3日もの間ラーメンが食堂のメニューから消えた!
今まで食べた事なかった斬新で食欲を満たす食べ物を失った
当時の我々の絶望が分かるか!!」
お客様にそこまで言われると料理人冥利に尽きるというもの
毎回スープ切れで完売していたが、改めて口に出されると何とも言えない嬉しさがある
「それについては私にも分かりかねますわ
せっかくですから本人に聞いてみましょうか?」
その言葉に第2王子と取り巻きがざわめき出す
本人が目の前にいるのに誰一人こちらを見ずにあたりを見渡しているという事は正体を知らないという事だろう
( なんで食堂のおばちゃんたちは婚約の事は話して正体の事は話さないんだ? )
そんな場違いな疑問を考えていると取り巻きたちから「まさかこの場で会えるのか?」など聞こえる
うん、間違いなく正体分かっていないよ
「なら私の婚約者であり、とある貴族の『沈黙の料理人』の・・・」
そう言ってラフィーネ嬢が歩き出す
第2王子とその取り巻きたちが「ゴクリッ」と喉を鳴らす
「伯爵家のアインベルフ卿!」
手を引かれラフィーネ嬢によって婚約破棄劇場『解決編』の舞台へと上げられてしまった
「パチパチパチパチパチ!!」
第3王子と周りの観客たちから盛大な拍手が起こる
( ノリが良いな!お前ら!! )
対して第2王子とその取り巻きたちの反応は
「普段は帽子とマスクでお顔を隠されておられたので
今まで気づけずに申し訳ありませんでした」
調理場だからね!料理する場所だからね!!
衛生面に気を使うの当たり前だからね!!!
( そしてそんな目で見るんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!)
と崇拝の目を向けられる始末だ!
信者なんていらねぇ!!
「アインベルク様
あの時も謝罪させて頂き、お気にされていないとお言葉を頂きましたが
料理をお出ししなかった理由を教えて頂けますでしょうか?」
第2王子とその取り巻きたちに気圧されてろくに返事も出来ない状況でようやくラフィーネ嬢が手助けしてきた
っていうかお前のせいだけどね!
その言葉に会場がまた静かな空気になる
「入学当初に料理をお出し出来なくなったのは
当初の予定していた量より材料が必要になった為です
なにぶん学園で料理をお出しする経験は初めてでございましたので
皆様にはその節ご迷惑をお掛け致しました」
前世の経験が役にたったのかしっかりとした態度で説明を行なえた
17年サボっていても魂まで身に付いたものは消えないものだね!
「確かにラフィーネ嬢より謝罪をして頂いた事は事実でございます」
さっさと舞台から降りて逃げ出したい気持ち一杯のまま
何とかやりきった
「で、ですが婚約はどういう事でしょうか?
卒業後は馬車で各地を回るという噂をお聞きしておりました!」
縋るような第2王子と取り巻きの声にげんなりする
考えてみて欲しい
騎士になるような筋肉だるまが縋り付いてくる姿を・・・
誰かいつでも代わってあげるよ?
「私もそのつもりで家を出ると
我が伯爵家当主である両親には話を通してあります」
そう言ってラフィーネ嬢を睨みつける
どちらの味方でもないぞ!必死にアピールしておく
「確かに私に婿入りして頂き
我が公爵家領内の各地を新しい調味料作成の為に回って頂くお話になっておりますわ」
確かに!家を出て馬車で各地を回るね!!
「そ、それでは師匠のラーメンが食べられなくなってしまうではないか!」
( おい! 誰が師匠だ!!)
「我が公爵領とアインベルフ様のご実家である伯爵領にて
共同で『沈黙の料理人』直々に料理を習える研究所を兼ねた
料理学校を設立する予定になっております」
( いや! 婚約含めてまったく聞いていないよ!? )
「そ、それでは入学すれば師匠のラーメンが食べれるのだな?」
「もちろんでございますわ」
師匠か講師か知らないがいつの間にか人生設計が確立していた
「第2王子殿下におかれましては長期王都を離れるのは大変でしょうから
体験入学という事で『沈黙の料理人』のラーメンをお出しさせて頂きますわ
ねぇ? 婚・約・者 様」
その言葉にただ苦笑と呼ぶにはツライ引きつった顔しか返せなかった
「私はぜひ料理学校に入学してみせる!」
「俺もだ!」
という筋肉だるまが群がってくる姿が見えた
前世の反省を生かして悪巧みはせずに静かな生活を求めて権力も捨て
店を持つ事を夢見てラーメンを作り続けてきたはずが
( なぜこうなった! 全然ざまぁを救えてないよ!! )
BAD END
( はっ!! )
「本日の卒業パーティーでこの3年間の技を詰め込んだ特性ラーメンを
本日限りで提供しております
数量限定ではございますが、ぜひ本日の記念にご賞味下さい」
この言葉に信者たちの目の色が変わり、すぐ近くのラーメン提供スペースが混乱する
( 今度こそ悪役令嬢からも、ついでに第2王子たちからも逃げてやる!! )
貴族の責任?そんなの知らん!
まずはこの混乱を利用して屋台で国外逃亡からだ!
Fin
-後書き-
夏の暑さでテンションがおかしくなってやった
後悔しかしていない
という訳で『ラーメンはざまぁを救う?』編は完結しました
前作と違って構想をまったく練らずに書くことに慣れるために書き上げました
言い訳をしないと駄目なくらいの作品で後悔しかないですが
この世で最も嫌いな事をするくらいなら読んでやった!くらいの気持ちでいてくれると助かります
本当にすみませんでした
でも反省はせずに懲りずに次回作『令嬢は見た!××な浮気現場』を書きます
ひたすら文字を書く練習のつもりで2000文字くらいごとに行き当たりばったりで投稿していきたいと思います
もうする事が何もなくて暇だ!って気持ちの方だけ読んで頂けると幸いです