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「悪役令嬢」も「逆ハー」も「ざまぁ」も関わるもんじゃない  作者: サイトウさん
悪役令嬢は存在しない
3/13

悪役令嬢は存在しない 後編


----------------------------------------------------------------


翌日の学園は夜会の話題一色だった

エスコート相手の確保(ひと狩り)を終えた令嬢(狩人)たちも

今日ばかりは穏やかだった


第二王子の元取り巻き達の話題は上がっていない

既に価値のなくなった男など、そんなものだ



昨日の話し合いに参加していた被害者の令嬢たちの半数以上が

何事もなかったかのように学園で授業を受けていた


無事新しい婚約相手が見つかったのだろう

何人かは今まで見たことない程の笑顔だ



「けっ!どいつもこいつも頭がお花畑になりやがって・・・」



放課後のカフェテリアで兄上のエスコート相手を務めることになった

乙女らしからぬクラリッサ嬢が呟いていた



「弟よ

 私ではクラリッサ嬢を満足にエスコート出来る気がしないのだ」



「兄上

 エスコートなどせずにクラリッサ嬢に委ねるだけで大丈夫でございます」



小声でこっそり話しかけてくる弱気な兄を励ます


( 何も頑張らなくてもご卒業と共に全てが片付いていますから大丈夫ですよ )



ここ数年は婚姻の平均年齢が1~2年早まっている

卒業と共に婚姻が非常に増えてきた

誰のせいだとは言わないが・・・兄上の運命も卒業と同時だろう



「クラリッサ嬢

 予定していた新刊は早めに上がりそうなら

 予定より早く発売しても構わない」



兄上の女性不信気味な発言を切り上げ

本題を切り出す


予想外の天使の悪戯によってばれてしまった秘密を逆手に

新刊を売りさばいてしまおうという計画だ


兄上とクラリッサと共にお茶をしているのは

夜会での打ち合わせと著者としての今後の活動についての話し合いで集まっていた



「その詳しい話をお聞かせ願えないかしら?」



急に後ろから声を掛けられて振り向くと

そこには縦ロールが揺れていた


先日の話し合いの後にそのまま王城で宿泊

本日は学園を休んでいたはずの

第二王子の元婚約者のローゼマリー嬢(縦ロール)がそこにいた!



「突然話しかけて申し訳ありませんでした

 ローゼマリーと申します


 先日の件のお礼とお願いがございます

 お時間を頂けないでしょうか?」



鋭い目つきと冷ややかな声

縦ロールからオーホッホッホと高笑いが聞こえるような気がする


どんなホラーだ

しかも貴族のお願いは碌なものじゃないと相場が決まっている



「先日はご挨拶できず申し訳ございませんでした

 改めまして、アインベルフと申します」



とりあえず貴族の返礼を済まして

同席者を横目で見るとクラリッサはローゼマリー嬢に手を振っている


どうやら、既知でそれなりに親しい間柄のようだ



兄上も挨拶を済ませ


「不肖の弟で宜しければ、どうぞお使い下さい」



とあっさりと弟を売ってきた

我が伯爵家は逃げる事に特化した一族のようで

家訓も『逃げれる時ときこそ死力を尽くして逃げるべし』だ



「本の事は要望どおり進めておくから安心して」


クラリッサにまで逃げ道を塞がれてしまった

仕方が無いので覚悟を決める



「彼らは夜会のパートナーですので

 あちらの席でいかがでしょうか?」



密室ではないがある程度区切りのついた

パーソナルスペースへとローゼマリー嬢を案内する


新しくお茶を注文して学園の給仕が

テーブルをセッティングしてくれる



「アインベルク卿

 先日はご助力頂き、ありがとうございました」



給仕が退出するのを見計らってローゼマリー嬢が頭を下げた

学園内だからこそ問題ないが

公爵令嬢が伯爵家次男程度に頭を下げれば醜聞だ

貴族社会は全く持って嫌になる


ちなみに頭を下げた拍子にドリルが突き刺さるなんて事はなかった



「ローゼマリー嬢、頭をお上げ下さい

 私は仕事をしただけに過ぎません」



学園では基本的に家名を名乗らない

お互いに名前で呼び合うのが普通だ

話し方もよほど酷くなければ問題にならない



「先日の話し合いで無事沈みゆく船から

 その身を助けて頂けました

 それだけではなく、早い段階から備えられたのも

 あなた様のおかげです」



ローゼマリー嬢は一冊の本を差し出した

『悪役令嬢物語 没落版』だと!?


( しかも初版じゃないか!! )


「あなた様の書かれましたこの本のおかげで

 他の令嬢と早期に話し合いの場が持てました

 ありがとうございました」


( 著作者バレてる!?

  噂広がるの早すぎるわ!! )


「どうか頭をお上げください

 ローゼマリー嬢

 お役に立てたなら光栄です」



どうやら先日の会議で

婚約者令嬢側から出された不貞の証拠は

令嬢達が結託して集めたって事か



「つかぬ事を伺いますが、

 この本の著者の件ですが

 どなたからお聞きになりましたか?」



ローゼマリー嬢が頭を上げたタイミングで質問を投げかけた



「はい

 先日の会議へ参加していた方々のご夫人は

 王妃殿下のお茶会へ参加されておりました

 その席でお聞きしたと聞き及んでおります」


( もうダメだ )



ご婦人やご令嬢に限らず女性は噂話が好きなようで

どう考えても夜会までに噂が広がっている未来しか見えない



「ありがとうございます」



一応、質問に答えてくれたお礼を告げる

相手は公爵令嬢だからね!失礼は出来ないからね!!



「ご安心下さい

 王妃殿下より口止めをされておりますので

 この件を知っているのは関係者のみです」



顔色を変えたつもりはなかったが・・・

なるほど、さすが王家に迎え入れられるだけはあるようだ



「王妃殿下にはあらためて

 お礼をお伝えしなければいけなくなりましたね」



貴族間での貸し借りは大きい

早めになんとかしなくては・・・



「その王妃殿下より言伝を預かっております」



クスクスと笑いながらローゼマリー嬢が告げてきた

嫌な予感しかしない



「 『新刊とても楽しく拝見させて頂きました

   つきましては、10冊ほど発売より早めにご用意頂く事はできませんか?』 

 との事でございます」


「私からのお願いもこの件でして

 一冊で構いませんのでご用意頂けませんでしょうか?」



想像以上に簡単な内容に逆に何か企みがあるのかと勘ぐってしまったが

権力に逆らえないから仕方が無い・・・

っていうか後が怖いから



「わかりました

 クラリッサ嬢に話を通して

 明日の午前中にはお届け出来る様に手配を致します」



昨日の時点で在庫確認しておいて良かった

報告・連絡・相談

マジで大事



「ありがとうございます

 これで何の憂いも無く夜会に参加できます」



あぁ・・・うん

婚約破棄に噂とか色々とあったもんね

どうやら王家との話し合いも今日で無事に終わっていたようだ



「それでは、また夜会でお会いしましょう」



こちらも挨拶を返して

ローゼマリー嬢と別れた


ちゃんと学園の給仕に声を掛けて

片づけを頼んだ

ホウレンソウ大事だからね!



ローゼマリー嬢との話を終えて元の席へと足を進めると

兄上とクラリッサはまだ席で話をしていた



( 遠目から見てもカップルには見えねぇ )



クラリッサが兄上の手を重ねている

一見するとカップルっぽいが、兄上の顔色が普通の色じゃない



( 青色だ )



本来なら先ほどの仕返しに放置して帰るんだが

クラリッサに新刊の手配を頼まなくてはいけない



「兄上、話し合いが終わりました

 そちらの具合は如何でしょうか?」



「あ、あぁ

 今こちらも終わったところだ」



兄上が怯えた様子で返事をしてきた



( クラリッサ・・・一体何をした )



色々と気になるが

やらなくてはいけない事を優先することにした



「兄上、急な用事が出来ましたので

 彼女をお借りしても宜しいでしょうか?」



成人間近の震える情けない生き物(兄上)を置いて

クラリッサと共に商会へ足を運ぶ


道中、小話を挟みつつ今後の本の売買の商談もする

紳士たるもの女性との会話も弾ませるのも勤めだ



「売れっ子作家さんはツライわね♪」



「売れ残り令嬢さんも、おツライわね(笑)


 ホホホッ

 ・・・ゴフッ」



もちろん、クラリッサのストレートが炸裂したのは言うまでもない


っというようなハートフルな会話をしながら

明日に届ける新刊の手続きを終えた




ただ帰りがけに「もう売れ残りじゃないからね」

っと言って嬉しそうにしていたクラリッサに一抹の不安を覚えた




(兄上、伯爵家が乗っ取られないようにして下さい

 そして成仏して下さい)




----------------------------------------------------------------


ご令嬢(狩人)方が待ちに待った王家主催の夜会の日


第二王子が学園にご入学されてから

通算4回目の王城での夜会が予定通りに開催されていた


王城の夜会というだけあって

学生だけが参加すると言っても豪華絢爛と呼べる華やかさだ



ただ、本来なら学生だけが参加する予定の夜会に

保護者が何名か見受けられる


そして本来なら麗しき妹のエスコートをする予定だったが

なぜか別の令嬢をエスコートして入場した



( 解せぬ )



肝心の妹は本来いないはずの両親と共に先に会場入りしていた

まあ、さらに2歳年下のもう一人の妹とも会えたから

そこは良しとしよう



「陛下ならびに王妃殿下ご入場!!」



( なんで本来の予定に無い方々が入場しまくってるんだぁぁ!! )














時間は1時間ほど前に遡る



「お兄様

 王城での夜会なんて初めてです!」



可愛い妹がはしゃいでいた

いつもなら馬車に多少酔うのだが

今日はテンションの方が勝ったようだ



「お嬢様

 今からはしゃいではダンスの時に疲れてしまいますよ」



トラブルがあった時の為に替えの着替え等を用意して

同伴してくれた侍女長が諌めてくれる


過日のお姫様だっこのせいか

以前よりずっと協力的な気がする・・・気のせいだと思いたい



「お兄様がしっかりとフォローしてくれるもの

 ダンスも大丈夫ですわ!」



うんうん、やっぱり妹は可愛い

でもな、侍女長



「そうですね!

 疲れてしまっても

 アインベルフ様がまた抱いて運んで下さいますね!!」



うん、妹はお姫様だっこするけど

もう侍女長にはしないよ?

なんで侍女長もテンション上がってるの!?



そんな他愛のないやりとりをしていると程なく王城へ到着した



女性の着替えや休憩用に小さいながらも個室が割り当てられている為

妹と侍女長とは一旦別れる



野郎はどうかって?

もちろん集団で利用する大部屋だ



まあ結局は大部屋には行かずに

本日の夜会のメインとなる『隣国との交換留学生の発表』の

打ち合わせに宰相執務室を訪ねる



「現在、来客中であり

 宰相閣下より隣の待合室でお待ち頂くよう伝言を預かっております」



腐って(剥げてカツラを被って)いても宰相

週1日の休みもなく仕事をしているらしい


オリジナルの『植毛魔法』が完成したら

田植え作業をしてフサフサにしてあげよう

と思いつつ指示通り待合室で待つ



( 打ち合わせの時間がなくなってしまう )



待っていても、いっこうに宰相が現れない事に不安を覚える



「待たせたな」



ガチャっと扉が開くと同時に

宰相が声を掛けてきた



「恐れ入ります

 アインベルフ事務次官お呼」



「あぁよい

 時間がないのでそのまま聞いてくれ」



返礼も省略される程度には時間がないのでこちらとしても助かる

一応「はっ」っと返事だけは返しておく



「そなたのこの夜会での発表の進行係だが

 役割は別のものが担当する事になった


 よって、今日は純粋に夜会を楽しんでくれれば良い」



「かしこまりました」



仕事がなくなったのは有難い

妹に近づく輩を一切近づけずに済むというものだ



「時間も押しているだろう


 その黒い顔をなおして

 早々にエスコート相手を迎えに行くように」



時間が結構ギリギリなのがお互いに分かっているので

余計な話(黙れハゲ!と言い返し)はせずに待合室を退出すると

案内役の王宮侍女が待機していた



そして素直に案内を受けて

妹の待合室まできたはずだった・・・



そう・・・




(扉を抜けるとそこは・・・






 ドリルの国だった!?)




縦ロールと表現するにはとても拙いと感じるほど

それはドリルだった



先日会った縦ロールはきっと偽者で

5割増しでも足りない見事なドリルロール(ローゼマリー嬢)だ!



「妹君でなく

 驚かせてしまい申し訳ございません」



ローゼマリー(ドリルロール)嬢の見た目に驚いていたのだが

言われて漸く妹をエスコートするのに迎えに来たのを思い出す



( いや、驚いたのはドリルロールだから! )



心の中で1人ツッコミを入れて

都合のよい誤解を解かずに



「大変失礼致しました

 ご挨拶が遅れまして申し訳ございません」



なんとか貴族の礼で取り繕う



( おそるべし『悪役令嬢(ドリルロール)』)



14年間生きてきたファンタジーの世界に慣れたと思っていたが

自分もまだまだ染まりきっていなかった事を実感した



「先日頂きました本の件と

 本日、急にエスコート相手を務めて頂けるとの事で

 誠にありがとうございます」



落ち着き、何とか状況を確認しようとした矢先だった

またしても衝撃的な台詞が響いてきた


( エスコート相手を務める?


  ・・・ん!? )



「お時間でございます

 このまま会場までご案内致します」



僅かに思考停止していた間に王宮侍女から声を掛けられ

教育の賜物か現状に混乱したままでも

見事にローゼマリー(ドリルロール)嬢をエスコートしていた・・・らしい













「本日の主役は皆である

 (臣下の礼)は不要だ

 楽にして構わぬ」



入場を終えた国王陛下の声と共に

夜会の参加者たちは乱れずに揃って臣下の礼を解く



あれだ・・・

庶子の転生ヒロインが臣下の礼とか出来ないのは

染み付いた習慣を1年程度で矯正出来ないせいだな



( 自分でさえ混乱してても当たり前のように出来ているんだから

  子供の頃から(14年)の教育は馬鹿に出来ない )



こんな風に心の中で1人ツッコミをしたり、叫んだりして漸く落ち着いた



まずは現状を整理しよう

隣にはエスコートしてきた公爵令嬢であるローゼマリー(ドリルロール)嬢がいる

上級貴族に相応しく国王陛下の近くに立っている


こっそりと離れたいが

下手をしたらドリルロール(武器)で串刺しにされかねない



( うん、命を大事にで行こう )



周りを見渡すと宰相の姿が見えた

なんかニヤニヤしてる

どうやら妹をエスコートする機会を奪った犯人のようだ


時間ギリギリまで待たせてローゼマリー嬢のところへ行かせた事も

断る事が出来ないようにする計画だったのだろう・・・



( よろしい!ならば戦争だ!! )



荒野(ハゲ頭)左右(耳の上)後ろ(後頭部)に残った僅かな枯れ草(髪の毛)ごと

残らず毟り取ってやろうではないか


(髪の毛)を大事に!

この言葉の尊さを戦争(ストレス)によって教えてくれる!!




( 私の妹への愛情を思い知るが良い!! )



宰相への報復プランを考えていると

式典のように夜会が進行していた



給仕のメイドさんたちによって手早く飲み物が配られる

この世界では15歳が成人の為、

配られた飲み物はノンアルコールだ



「皆も知っている通り

 20年前より始まった隣国との戦争が

 長い停戦協定を経て

 2年前に無事終戦を迎え同盟国となった」



学生の身分で内偵みたいな調査活動をしているのも

こういった背景があったからなんだよね

・・・実に世知辛い



「この度、同盟国と関係を強める為に

 学生同士の交換留学を行う事となった


 まずは半年間・・・」



偉い人の話は長いというのは異世界でも同じで

スルースキルはこんなところでも役に立ったので少々割愛する



そんなこんなで男女1名ずつの計2名が交換留学生として選出され

国王陛下よりありがたいお言葉を賜った


ここまでは流れとしては予定通りだった



「次に我が国の学園で留学生を迎え、

 学内でサポートする者を発表する」



元々の予定はハニートラップに引っかかった宰相の三男の予定だったが

肝心の本人は周りを見渡しても居ない・・・



( 第二王子もそう言えば居ないな )



「予定だったが

 伝えなくてはならない事がある」



周囲のざわめく声が聞こえる


本来は学生と一部外務官僚だけの小規模な夜会のはずが

国王陛下まで出席している



( 何も無い訳がないじゃないか )



隣にいるローゼマリー嬢の様子を伺っても

周りのような動揺は見受けられない



「この2ヶ月余りの間

 学園で我が息子を含めた数人の貴族としての相応しくない振る舞いをしていた

 愚か者たちの事を皆の方が良く知っているであろう」



素直に次のお言葉を待っていると・・・



( まさかの陛下直々の断罪イベントでした )



「あのような者たちが学園にいる事は我が国の恥となる」



楽しみにしている夜会がぶち壊しになる気分って

こういう事なのね・・・

あぁ・・・妹との楽しいダンスが・・・



「既に学園を去った者もおるが

 我が息子も臣下の籍に降ろし

 爵位と領地を与えたので

 学園には来れなくなるだろう」



廃嫡してあっさり地方へ飛ばしましたって

こんなあっさり言うなんて

陛下、息子への態度が軽すぎじゃない?


ちょっと現実逃避している間に

着々とイベントが進行していく



「他国からの留学生を迎えるの為にも

 貴族の務めを忘れたものには等しく処罰が下した


 この事を戒めとして

 王国貴族として恥ずかしくないように

 皆で隣国の留学生を迎えるように」



うん、めっちゃ暗い気持ちになった

断罪後に夜会を楽しめって言われても

きっと「無理」だ!


みんなも卒業パーティーとかで

婚約破棄断罪イベントなんて起こさないでね!

お兄さんとの約束だよ!!



「前置きが長くなったが

 本題は別にある」



 ( まさかの断罪イベントが前置きだと!? )



結局本人たちは既にいないけど

悪役令嬢から不貞の証拠を出されて

婚約破棄を申し付けられたから・・・


前置きとはいえ、

王道とは違う婚約破棄断罪イベントだったな・・・


元第二王子様たちは『ざまぁ』された事になるか・・・



色々と状況についていけずに

現実逃避真っ只中でも陛下の話は続いていく



「戦争が終わり平和が訪れ

 他国との交流も再開した機会に

 優秀な若者に爵位と土地を与える事となった」



停戦したままの戦争の影響で

ここ10年余りは新たな貴族は誕生していない


没落する貴族は変わらず存在するので

王家の直轄地が増える傾向にある


元第二王子の廃嫡して爵位を賜ったのも

その影響があったのだろう



「この度の他国との交換留学は

 国を上げての施策のひとつとなっておる


 留学で国を離れる者はもちろんの事


 国に残り他国の留学生を迎え入れる者にも

 特定の者にその役割は与えぬ故


 皆がそれぞれ国に寄与する功績を残せば、

 必ずその功績に報いる事を誓おう!」



辺りのざわめきが一際強くなる


特に次期当主以外の男子に至っては夢のような話だ

どんな褒章か分からないが

状況から考えて爵位を賜れる可能性が出てきたのだ


令嬢(狩人)たちにも同様のチャンスである

相手(獲物)が爵位を賜れば立派な貴族婦人になれるのだ

逃す手はないだろう・・・



「それではこの場でこれまでの功績に報いる者を発表する」



陛下に代わり宰相がさらに場を取り仕切り

ざわめきが感嘆の声に変わる


学生の前でのみのパフォーマンスではなく

実際に褒章を踏まえて事実である事を目にする事ができるので

当然の反応であろう



「アインベルフ卿!前へ!!」



( !? )



予定になく突然に名前を呼ばれた事に身体が一瞬固まった気がしたが

反射的に「だが断る!」と言わなくて良かった


次の建国祭で爵位を賜る予定があったので

式典の練習をさせられており


それのせいか貴族として染み付いた習性か

家訓に従い逃げたい気持ちいっぱいのまま

陛下の前まで反射的に足を運び、そのまま跪く



「隣国との同盟のきっかけとなった話し合いの場を作り出したのが

 このアインベルク卿の伯爵家である


 2年前に停戦中であった隣国の不作による飢饉で

 食料不足による侵略戦争が行われようとしていた際


 伯爵家の財力を持って隣国へ食料を届け

 隣国との戦争の再開を先送りにし


 食料の恩で隣国へ招かれた際に

 我が国の外交官と共に平等な10年の対等な同盟案を提案


 同盟の基礎を作り上げた」



( もうね・・・話を聞いてると完全に忠臣(社畜)のようですよ・・・ )



跪いたまま宰相が読み上げるこれまでの行いが

1人の手柄みたいに読み上げられて物凄くツライものがある



「新たな印刷技術による安価の本を大量に製作する事によって

 学園での教育環境も一新」



( うん、これも我が伯爵領の利益の為に教科書を売り込んだだけなんだよね )



「その活動が隣国の目にも止まり、このたびの交換留学となった」



なんか凄く捏造された手柄に何かの悪意を感じる

実際には


備蓄していた古い食糧の使い道がなかったので

商売相手だった隣国への貸しとしてプレゼント

   ↓

お礼に国に招かれたので、さらに金を貸つける為に10年返済の食料支援を提案

ただ監視の為につけられた外交官はその場に居ただけの事

   ↓

国に帰ると食糧支援案がいつの間にか国主導の下に同盟への条件を使われる

   ↓

そして同盟締結

   ↓

借金踏み倒されないように人質要求で建前の留学制度



「その後も、この2ヶ月余りの問題にも協力し交換留学の為に尽力した」



自身で今までの事を回想していると飛んでもない爆弾発言が

宰相(ハゲ)から飛び出した



( 暗に第二王子以下を社交界から抹殺(追放)した犯人が私だって言っているものじゃないか! )



「この功績により子爵の位を与えるものとする!!」



( 最後のは絶対に功績じゃない! 

  面倒事(話題逸らし)を擦り付ける陰謀だろ!! )



いろいろと不満はあるが

半年後の王国建国祭の式典で『男爵』の受け賜る予定だったのが

1つ飛びの『子爵』様で正直驚いた



「アインベルフ卿よ

 貴殿をセルヴァン子爵任ずる


 謹んで拝命せよ」



国王陛下が剣を抜き、私の肩に剣を置く

貴族なら誰もが習う爵位拝命の儀だ



「王家の紋と剣に誓い

 謹んでセルヴァン子爵の任を拝命致します」



ただの夜会が一転して拝命式に変わった

誰の策略か・・・

間違いなく第二王子の一件なんて誰も気にしなくなる


( この場に居ないし、むしろ完全に存在忘れられたんじゃねぇ? )



「学生の身で爵位を賜る前例が今ここになった!」



陛下の続いての一言で

拝命式の厳かな雰囲気からさらに一転



「今宵のパーティーは祝いの席となった!

 存分に楽しんでくれ!!」



個人的には色々と思うところがあるが

学生たちにとっても楽しい夜会が始まった


拝命式の立会いにとして参加していた保護者たちが

国王陛下と王妃殿下に挨拶をしている間に


私は学友たちに囲まれてしまった



「上手い事やったな!」「家臣が足りなければ雇ってくれよな!」



成人前の学生らしい本音も混じったような挨拶を学友と交わしていると

こんな日も悪くないと本気で思ってしまった



「セルヴァン子爵

 陛下へのご挨拶の順番が近づいていますわよ」



慣れない名で呼ばれて振り返ると

本日のエスコート相手であるローゼマリー(ドリルロール)嬢が

「こっちへ来い」と言わんばかりにドリルを揺らしていた



正式に子爵を賜った身の為、

夜会では主催者への挨拶は欠かせない


学友たちからの祝いの言葉にすっかり忘れていた為

素直に感謝の言葉をローゼマリー嬢に伝えると



「エスコート相手としては当然ですわ」



と照れ隠しなのかすぐに振り返って行ってしまった


陛下たちの居る方向を確認すると

すぐに向かわないと間に合わなくなりそうなので慌てて挨拶へ伺う


無事に国王陛下と王妃殿下へ挨拶を済ますと



「急なお願いを聞いて頂いて助かりました」



と王妃殿下より先日の新刊の件で感謝を伝えられた



「ローゼマリーも息子の件で迷惑を掛けて申し訳なかったわね」



っと隣に居るローゼマリー嬢へも声を掛ける



( 爵位持ちはエスコート相手と共に主催者への挨拶だっけ?

  婚約者だけだったような?? )



隣にいるローゼマリー嬢を見ながら貴族のルールを

必死に思い出そうとしていたが

婚約者がいた事もないし

妹以外のエスコートをしなかった為

結局は流されるまま今の状況になってしまった



「こうして見ると息子より新しい婚約者の方がずっとお似合いね」



( !? )



王妃の言葉を聞いて慌てて国王陛下の顔を見るが

明らかに目を逸らされてしまった


何の冗談だと必死に宰相や家族へと視線を向けるが一様に目を逸らされた


ただローゼマリー嬢の両親である公爵と公爵夫人だけが

にこにことこちらを見ていた



「あら?正式な発表前とはいえ婚約者の前でそんなに慌てた態度は

 失礼ですよ」



こちらの慌てた様子を見て笑顔のローゼマリー嬢が声を掛けてきた


王妃様も悪戯が成功したような何とも言えない笑顔で

口元だけ扇子で隠して笑っていた



「この状況で自分の立場を理解するなんて

 あなたを選んで良かったわ


 婚・約・者 様」



すぐにポーカーフェイスに戻した顔を見て、さらに追撃を掛けてくる

国王陛下も後ろを向いて必死に笑いを堪えているのが分かる



( 宰相への荒野(髪の毛全滅)プラン対象にあんたも追加してやろうか!! )



心の中で不敬極まりない悪態を付きつつ現状を理解するが

まだ何とかこの悪役令嬢(狩人)逃げる方法を模索する



必死に周りの様子を伺い機会を探るが

同姓の学友からは羨ましそうな視線を向けられ

令嬢(狩人)たちからは新しい獲物を見る視線を向けられていた


( 対外的にはまだ婚約者として知られていない )


まだ残る希望に縋るように妹たちを見るが

クラリッサが何かを吹き込んで顔を赤らめている姿が見えた



( 渡る世間は()ばかりか!? )



味方がまったく居ない状況を理解して

挨拶を終えた陛下たちの御前から離れ

早々に新たに賜った領地へ引き篭もり計画を模索する



( 何が何でも逃げ切ってやる!我が伯爵家の家訓を舐めるな!! )



拝命した子爵の当主は自分だ!

王家からの支援がなくても領地を経営できれば

婚約なんて無理にしなくても問題ない!!


決意を決めて

息子と弟を売り渡した両親と兄(裏切り者)にも挨拶をし

荒んだ心の癒しを妹たちへ求める



「アインお兄様

 この度の子爵就爵おめでとうございます」



( うんうん

  うちの妹は天使だ )



「それに新しくお姉様が2人も増えるなんて

 お兄様はさすがです!」



うちの天使は笑顔で毒を吐く(爆弾発言をする)ようだ



「えっと

 ふ、2人?」



もう思考回路がまともに働かないのか

妹の言った意味が理解できず、

心で吐血しつつ何とか質問を返す



「正室がローゼマリー姉様で

 クラリッサ姉様を側室お迎えになるのですよね?」



( クラリッサァァァァ!

  犯人(2人目)はおまえかぁぁぁ!! )



先日の学内のカフェテリアで

ローゼマリー嬢へ手を振っていたクラリッサの姿を思い出す


あの時から既に決まっていた事なのか・・・

それともクラリッサ単独なのか・・・



どちらにしても外堀(妹たち)が埋められつつある

対外的な発表さえしなければ、まだ挽回出来る


差し当たってダンスだ

婚約者とは踊る事は必須だが

エスコート相手であるが必ず踊らなくてはいけないという決まりはない


ローゼマリー嬢(エスコート相手)と踊らずに自分はフリーであると

周りに知らせなくてはならない



「当分は賜った領地で手が一杯になるから婚約する暇はないよ」



妹へは尤もらしい理由で保留にして脱出プランに移る



「本日のエスコートがダメにしまって申し訳なかった

 姫君


 約束のとおり、本日のダンスのお相手をお願い出来ませんか?」



妹の手にそっと口付けを落とす

歯が浮きそうな台詞だが愛する妹に対して何の恥じらいがあろうか!



「よ、よろこんで」



顔を赤くした妹を見て安堵する

私はまだ戦える!


そのままクラリッサの様子を探るが、溜息を吐かれてしまった



( お前とも踊らない!上手くいくと思うなよ!! )



という強い意志の視線を送り勝利へと近づける


しかしクラリッサはその視線を受けると別の方向へ視線を向けた

そして視線の先ではローゼマリー(ドリルロール)嬢と王妃殿下が頷いていた



( !? )


その様子にまだ何かある事を驚愕し

ローゼマリー(ドリルロール)嬢と王妃殿下の出方を伺う



「ダンスの前に(わたくし)からもお祝いをお伝えしたい事があります」



そろそろダンスが始まろうかというタイミングで

王妃が一歩前に進み出て場を再度賑わせた



「我が娘のように思っていたローゼマリーの婚約が

 この度の件で撤回し白紙となりました」



婚約破棄は令嬢にとっては汚点に成りかねないのを

王家自らそのフォローをしているのは先日の会議が上手くいった

結果であろう


個人的には大変嫌な予感しかしないが・・・



「国の為にと、息子との婚約を継続する意思を示してくれた

 ローゼマリーに対して王家より撤回をさせて頂きました」



うんうん、良い話だね(ほろり



( ってそんな訳あるか! めっちゃ破棄する用意してたやん!! )



「それでもこのような事があったにも関わらず

 国の為になる婚姻を望み


 いまだに王家への忠誠を示しくれるローゼマリーの新たな婚約者を

 この場を借りて発表させて頂きたいと思います」



( ストーップ! 誰か暴走王妃様止めてぇぇぇぇ!! )



「つい先日、両家とも本人たちを祝うように

 婚約が成立し王家も承認いたしました」



あーはいはい

だから両親(裏切り者)たちは王都に来ていたのね



「セルヴァン子爵」



新たな名前を呼ばれると共に

ローゼマリー(ドリルロール)嬢と王妃殿下がじりじりと距離を詰めて来る


後方には逃げられないようにクラリッサ(猛獣)の姿が・・・



「この祝いに相応しい日に発表できる事を

 心より祝いを述べさせて頂きます」



( 祝いっていうか私には呪いだよね? 逃げれない的な意味で!! )



「ありがとうございます

 王妃殿下」



はい!

逃げられなくなりました!!

王家直々とかNOって言えないじゃん!!!


伯爵家次男のときから婚約成立しているとか

ちょっと考えれば分かったものなのに・・・もうあかん



「そしてセルヴァン子爵であるアインベルク卿の才は

 これだけではありません」



何これ苛め!?

これ以上に何があるっていうの!?

私のライフはもうゼロだよ!!



「この本に使われている羊皮紙に変わる紙を開発し

 新たな印刷技術をもって安価かつ身分を問わず広い範囲に

 書物を広めた功績もあります


 いずれ別の機会に陞爵を承る予定であります」



王妃殿下は周りを見渡すように大々的に褒め称える



( それ!私の新刊!! )



こうして私のライフポイント以外をガリガリと王妃が削っていく



「今回賜った領地でも新しい紙が生産されれば

 新たな国外への交易産物として国に多大な利益をもたらすでしょう


 ローゼマリーはその彼を支えたいと意思を持っており

 そんな2人は理想の夫婦として

 いずれ近いうちにさらに陞爵を果たすでしょう!」



もう精神的なHPにまでキッチリ止めまで刺されて周りから盛大に()われました


社交界的には新貴族に対する令嬢(狩人)たちへの牽制の意味(狩りの禁止)に捉えられる内容だが

事実は違う



完全に(アインベルフ)への王家の囲い込みだ!


著者名は公表されなかったが

新刊発売後に王妃が本の著者が繋がりを持っている事を気づく者もいるはず


ローゼマリー嬢へ粗相したら乙女小説作家だと公表するという脅しに聞こえた・・・

外堀も、もうバッチリでした!!



最後の抵抗の意味を込めてローゼマリー(悪役令嬢)嬢を睨みつける!


そこには勝利を得た(狩りを終えた)悪役令嬢(ドリルロール)が微笑んでいた

結局、誰がざまぁされたのか・・・



この騒動の結論を述べよう!


( 悪役令嬢(あくやくれいじょう)なんていない! 居るのは悪役令嬢(狩人)だけだ!! )










Fin










ダンス?

もちろんローゼマリー嬢とは3回、クラリッサ嬢とも2回踊らされたわ!!




-後書き-


初めて書いてみた小説で

自分で読み返してみても文章が変なところが多々ありますね


そんな中でも評価を下さった方には大変感謝しております

評価を下さった2名の方のおかげで

無事『悪役令嬢は存在しない』が完結致しました


この場を借りてお礼を申し上げます

ありがとうございました



それから読んで頂いた皆様

新しい小説の意欲に繋がりました


婚約破棄の現場にラーメンを持ち出すとどうなるか?

とか

悪役令嬢はみた!淫らな婚約破棄までの浮気現場

とか

別の真面目な婚約破棄のその後

とか


何かの作品を書き上げる事でお礼を返して行けたらと思います

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