令嬢は見た!××な浮気現場 004
「どうしてこうなった!!」
「お嬢様のご乱心はいつもの事です、皆も引き続き作業に戻って構いません」
お茶会の色々な出来事からようやく帰宅して搾り出した最初の台詞に、容赦ない我が伯爵家の侍女長の言葉が私の心に突き刺さる
せめて労いの言葉を・・・
「アイン、予想通りロゼットは何かやらかしたみたいだね」
使用人たちと共に出迎えてくれていた影の薄い長男が辛らつな言葉を口にする
「あらお兄様、お母様とお姉様がいらっしゃらないからと言って急に日陰から出てこられても扱いに困りましてよ?」
使用人からもこっそりと日陰の跡取りと呼ばれている長男に向かってお返しに、本人が一番気にしている事を言い返す
このまま物語に名前すら出ずに、日陰のままでいるといいわ オーホッホッホ!
「兄上、私とロゼットが王太子の側近候補と婚約者候補に選ばれました」
「そ、それはある意味でやらかしてしまったね、2人とも…」
「お茶会にすら呼ばれた事のなかったお兄様には言われたくはございませんわ!」
失礼極まりない長男・・・いえ、ルビはこうしてやりますわ!!
この失礼極まりない長男に対して双子の兄も同じ感想なのか「うんうん」と頷いている
「お茶会に呼ばれなかった事はおいておくとして、まずは父上に報告する前に次期当主として母上と姉上へ手紙を出してお知らせするべきだと思いますが、どうでしょうか?」
我が家のトップは言わずともお母様だ
仮に次期当主として教育を受けている長男が重要な報告を怠ろうものなら、お仕置きという名の教育が待っているのは間違いない
そんな理由で長男は自室まで戻らない訳にはいかなくなり、脱兎のごとく自室へ掛けていった・・・双子の兄もなかなかやるようになったものですわ オホホホ
「さて、邪魔者がいなくなったので、本日の王太子殿下からのお話の答え合わせですわ」
邪魔者が去り、私付きのメイドのメイリンがお茶を入れてくれた部屋で重要な打ち合わせをする
「最初にアイン兄様は、もう殿下の意図は気づいていると思いますが、メイリンはその場にいなかったので最初から話を致しますわ」
双子の兄だけなら問題なかったが、メイリンは大切な小芝居の協力者の為、事情はある程度知っていて貰う必要がある
双子の兄にも当然お付きのメイドがいるが、非常にお堅い性格をしているので残念ながら今までに一度も協力してくれた事はなかった
「本日のお茶会は王子がご自身で側近や婚約者をお選びになられる為に開催されたので間違ありませんわ
その上で、各参加者ごとに王太子殿下自ら足を運ぶという教育を受けたものなら畏まってしまう場面で私たちは試されていましたわ」
まずは王太子殿下が各テーブルの参加者へ挨拶に回って、2人で挨拶をしたところまで気づいた事をメイリンへ教える
「私たちが挨拶を終えた後に、殿下は気軽に振舞うように要望され、その時にお顔は笑われていましたがじっと見られているのに気づきましたわ
そして、それに気づかなかったアイン兄様が当たり障りのないお世辞を口にしたところで瞳に失望の色が浮かんで確信しましたわ」
「10歳で王太子になられた優秀さにも驚きましたが、
それより驚いたのはお嬢様も相変わらず8歳だというのによくそんな事に気づきますね」
メイリンは私より8つ年上の16歳だ
私の前世だった記憶が自分のモノとして受け入れられるようになった3~4歳頃から既に私付きのメイドとして働いてくれていた
その為か私の違和感に最初に気づいたのはメイリンだった
( 侮りがたし『メイドは見た』 )
その頃に丁度見ていた演劇の公演を利用して、奇行は全て劇の影響を受けたという事で何とかごまかしたが、そのまま演劇キャラが定着してしまって定期的に伯爵家の玄関ホールでお父様や来客を迎える為に演劇をするハメになってしまった
まあ、子供のやる事だと思ってつい悪ノリしていたのは否定出来ないし、令嬢に転生したから「もしかしたら悪役令嬢にされる!?」かもと思って、いざという時の為に手に職を付ける目的で頑張ったら、結構嵌ってしまったりもしましただけですわ オホホホ
「私のは他の人から劇に役に立ちそうな事を観察していた結果に身に付いたものだって言っているでしょう!
………そんな話じゃなくて、アイン兄様をとっさにお止めした後は殿下の様子を見るつもりだったけど、殿下は型通りに行動しない事も出来る人物をお探しになられていたようで、そのままあっさりと事態が進んでしまったわ」
その後は無事に謝罪と挨拶を終えて殿下より認められて当家へお越し頂ける事になったことを説明する
「そこで招待するとまで告げた事は調子に乗って告げた事だった為、後から後悔して玄関ホールで叫ばれたという事でございますね?」
やんわりと遠まわしに殿下を招待した事を濁して告げたのに、なんてカンの鋭いメイドかしら!
「いえ、6年もお嬢様付きをさせて頂いておりますので、そのくらいは予想が付きますよ」
「待って!なんで今考えていた事も分かったの!」
「なんとなく…でございます」
うちのメイドは、『見てはいけない場面ばかり見ては、邪推をしては「あらあら、まあまあ」と言うようなメイド』よりずっと優秀のようですわ!
「お嬢様、何を考えていらっしゃるのか分からないですが、そろそろお話に戻って下さい」
「そ、そうね」
色々とメイリンが恐ろしくもあるけど、貴重な協力者に逃げられるわけにはいかないので私の方で折れる事にしましたわ
決して負けたわけじゃなくってよ!
「結局のところ殿下がなぜ型通りの行動をしない人物をお探しなのか不明ではあるのよね…」
「それを言うなら型破りの人物と例えた方がお嬢様とアイン様にお似合いかと存じます」
今まで完全に空気と化していた双子の兄を巻き込んでメイリンが毒を吐く
「俺たちは一応メイリンの主だよね?」
急に吐き出された毒に堪らず反論を試みる双子の兄
「私の雇用主は形式上は旦那様となっております」
あぁ、形式上はお父様で実質はお母様ってことですわね・・・何も言い返せないってことじゃない!
「その件は一旦保留にして、殿下の来訪について備える提案をしたいのだけど…メイリンも聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」
結局は完全に遜った態度でなんとか話を進める事にしましたわ オホホホ
もう既にお母様が怖いだけでしてよ!