令嬢は見た!××な浮気現場 003
当家が伯爵家として仕えているのは、我が国の名前にもなっているトゥールーズ王家であり、その最も近くて大きな歴史と言えば戦争と疫病と言えるでしょう
トゥールーズ王国と隣国は、私たちが生まれるより少し前の10数年前まで戦争をしておりました
戦争の終結は戦死者たちから発せられた疫病が原因となり、死者数がとても多く戦争の継続が困難になった為と歴史で今は誰もが習う事でございます
なぜこんな話をしているかと言いますと、もちろんその話が関係あるからですわ
「殿下、お初にお目にかかります
アウストリア伯爵家が次女ロゼティットと申します」
その日、私ロゼッタと双子の兄であるアインベルフと共に招かれた王宮でのお茶会に参加していた
参加者は第1王子と第2王子の年齢が近い者たちが集められていた
過去の戦争と疫病で王侯貴族・平民を問わずに多大な死者を出したトゥールーズ王国では、王家の僅かな生き残りも少なくなり、戦争終結直後に即位した国王の手によって後宮が作られたほど王家の人員不足に悩まされていた
その後宮の成果なのか、それとも大変お盛んな陛下のおかげなのか、トゥールーズ王家には新たな王子と王女が17名お生まれになられました
そして現在、挨拶をする為に目の前にいらっしゃったのが、立太子されたばかりのフレデリック第1王子殿下だ
「よく来てくれた、気楽にしてくれて構わないよ」
周りは声が届かない距離が保たれ、他の者たちは互いに招かれた者同士で交流をしながら、こちらの様子を伺っている
フレデリック殿下は順番に自ら足を運び会場を回っているのを先ほどから見て分かっていたが、僅か10歳にして王太子としてなられた方にしてはずいぶんと気軽に接してくる方のようだ
「君たち2人は双子でよく目立つし、それに随分と優秀だと周りのものからは聞いているよ」
この国では双子は禁忌ではないし、貴族の中で双子が珍しいわけでもない
何故なら王家に合わせて貴族たちも大変にお盛んな事にならざるを得なかった為、必然的にその絶対数が増えてしまっただけだ
「殿下におかれましても、王太子へなられた事をお祝い申し上げます」
双子の兄は良くも悪くも無難な回答をするが・・・
「アイン兄様、それは違いますわ」
私は王太子殿下の目の前で、その殿下を褒める双子の兄に向かって諌めの言葉を口にする
その言葉に殿下の護衛として控えていた近衛騎士がピクッ反応する
私が元の自分の名前を呼ばれた時は、よく同じようにピクッと反応したものでしたわ
まあ、今は名前を呼ばれるのも呼ぶのも同じように無事に慣れましたけどね
「殿下がご自身で足を運ばれてこられたのも、私たちの反応を確認したいからですわ」
その言葉に双子の兄も私の意図に気づいた様子で、先ほどまでしていた緊張が解れていくのが分かった
私たちは双子は厄介な所があり、双子の相手が不安に思ったり緊張したりしている感情はお互いに何となく分かるようになっているらしく、一緒に居るときに緊張されると迷惑をこうむる事になる
その双子の兄の反応と、不敬とも取れる発言をした私に対して、フレデリック殿下は先ほどまではどんなご令嬢にアピールされても見せなかった笑顔を私たちに向けながらスッと手を上げる
一瞬「いきなり死刑!?」と内心では慌てたが表情を変えずにあたりの様子を伺う
すると、周りで様子を伺っていた者たちが王宮の侍女たちによって新しい食べ物があるテーブルへと誘導され、周りからに感じていた視線がなくなっていった
「君たちは確かまだ8歳だったよね?
それなのに私の行動の意図に気づいたようだね、とても優秀という噂は本当だったようだね」
先ほどの手を挙げる動作で、明らかに人払いをした王太子殿下は口調は気楽なまま、遠目から見ると凛として厳しい態度に見える姿で改めて声を掛けてきた
「先ほどは失礼致しました、殿下
あらためて兄と共に『今度は』心よりお祝いを申し上げます」
双子の兄を止める為とはいえ、先ほどの私が発した不敬とも取られない発言をしたままにしておけないので、貴族としての最上位の礼と共にお祝いの言葉を私の口からも伝える
「うんうん、試していたつもりが今は試されている感じがするよ
実に面白そうな双子だ」
貴族として生きてきた転生者としての経験は伊達じゃない
この僅かなやり取りの中でも、目の前にいるフレデリック殿下が食えないタイプの人物である事は容易に想像できた
「私の事はロゼット、兄の事はアインとお呼び下さいませ、殿下」
「では、私の事はフレデリックと呼んでくれて構わないよ」
「私は妹のロゼットと違って腹芸は苦手でございますので、素直にそう呼ばせて頂きたいと思います、フレデリック様」
緊張から開放された双子の兄を含めて、ようやく本当の自己紹介を終える事が出来たが、このお茶会の目的であるフレデリック様の側近と婚約者選びの第1段階が達成しただけに過ぎない
「去年、私たちのお姉様も参加されたお茶会では、このように人払いをされたというお話は伺いませんでしたが、私たちはひとまず合格という事でしょうか?」
先ほど双子の兄が口にした通り普通の8歳児である可能性が高い者に腹芸をこなす事を要求するのは無謀なので、兄という立場を捨ててまで譲ってくれた腹芸を王子とやりあう決意をする
「どうやらロゼットの方が私より上手のような雰囲気が出てるね」
あら、ついつい本気モードになってしまっていたようですわ オホホホ
「知ってるとは思うけど、去年だけではなく一昨年の私がまだ君たちと同じ年の頃からこのお茶会を続けているんだけど、今日まで全く成果が出なくて困っていたんだよ」
「それはつまり私たちは2人とも、殿下のお眼鏡に適ったという事でございますね?」
試されている第1段階が終わっただけと気合を入れておりましたが、他の者達は予想以上に型どおりの教育しかされていなかったようで肩透かしを食らう結果に終ったようだ
我が伯爵家の現当主は婿養子の為、他の貴族と違って子沢山にはなりませんでしたが、男児が当主を引き継いだ家や未だに現役という他の貴族たちは、恵まれた子供の数に対して十分な教育が行き届かなかったという事でしょうか・・・
まあ、8歳から10歳に本来であればそこまで求めるのは酷というものだったのでしょうけど・・・
「そういう事だね、君たち以上に面白い人材を探すのはさすがにお茶会では難しそうだよ」
この言葉に何故かプライドを刺激されたようなカチンとした感覚を味わった
「あら? 殿下のおっしゃる面白いが何を指されておられるのか解かりかねますが、我が伯爵家にいらっしゃって頂ければ私たちの事がもっと分かる面白いことはご用意できるかと思われます」
私たちの面白さが、この程度と思われるのが心外ですわ! 私たち以上の面白い存在がいない事を教えて差し上げましてよ!!
と、腹芸が肩透かしを食らって色々と不満が溜まっていたので、ついつい調子に乗ってしまいましたわ オホホホ
「はっはっは、君たちの事が面白くないという訳じゃないんだ
ただ、それとは別にアウストリア伯爵家の歓迎が独特だとも聞いているし、2人とも側近候補と婚約者候補として推しておくから近いうちに是非お伺いさせて貰う事にするよ」
こうして変な見栄と意地が幸いしてお茶会の他の参加者たちを出し抜き、見事に王太子殿下を我が家に招待する事に成功した!
( どうしてこうなった!! )




