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「悪役令嬢」も「逆ハー」も「ざまぁ」も関わるもんじゃない  作者: サイトウさん
悪役令嬢は存在しない
1/13

悪役令嬢は存在しない 前編

悪役令嬢は存在しない


大切なことだからもう一度いうぞ


悪役令嬢なんていない!



おっと自己紹介が遅れた

私は剣と魔法の世界に転生した所謂『転生者』だ


前世については特にコメントはないし、

転生特典なんてものもなかった


自我が目覚め始めた3~4歳ごろに転生した事を理解した


気づいたら『そうなっていた』

ただそれだけだ




今世の立場は伯爵家『次男』だ

長男がいるので跡継ぎにはなれないが、

念の為のスペアとして必要な教育をされる

ただそれだけの存在だ


別に悲観したりして生きているわけではない

貴族としての教育が忙しすぎて気が付けば、成人になる手前だっただけだ




家族構成はまさしく貴族と言える

伯爵である父親と正妻の伯爵夫人に生みの親である側室の母親


跡目争いのドロドロとしたものを期待したなら申し訳ない

家族関係は良好だ


兄が1人・姉が1人・妹が2人

正妻・側室関係なしに全員が親子と呼べる関係を築いている



幼少の頃より領地経営が教育に組み込まれていた為、

領地経営については

子供たちが全員優秀という事もあり

本来の仕事を行うべき領主である伯爵がよく暇をしている



魔法があるせいか、

物理の法則が通じなかったりして内政チートは行えていないが

出来る限りの知識でそれなり裕福な伯爵家となっている






自己紹介はこの辺にして物語を進めよう


ゲームの世界に転生して悪役令嬢の物語が生まれるわけがないと

思い知らされるだけの物語を




----------------------------------------------------------------


肝心な自己紹介を忘れていた

私の名前はアインベルフ


貴族なら通うことになる学園(名省略)に在籍して2年目の14歳だ


ちなみに趣味は木彫りだ




乙女ゲーや悪役令嬢の物語を彷彿させるような学園が

この物語の舞台だ



同級生に王族・宰相の息子・騎士団長の息子・公爵の嫡子

全員が美形で成績もそこそこ優秀だ


学園も成績優秀者として平民も受け入れている為、

学園内では身分は問わないという校風をしている


通っている令嬢も美人ばかりだ



乙女ゲーでもギャルゲーの設定として使えそうな世界だ





ちなみに異母兄も同級生だ(留年じゃなく同い年だ

伯爵家の嫡男程度では

きっと乙女ゲーの攻略対象にならないだろうから特に心配はしていない



さて、学年2年目がスタートなのは

ヒロイン?主人公?新たな攻略キャラ?

っぽいのが揃って参入してきたからだ


ひとり目は子爵家のご令嬢

庶子(隠し子っぽいの)らしく中途半端な2年目から編入してきた


ふたり目は隣国の王子様

隣国との政治情勢は良好で、婚約者候補探しという名の留学らしい


この2人のおかげで、それっぽい世界が完成した





「なあ、弟よ」


学園のカフェテラスで優雅にお茶を楽しんでいると

隣でお茶を共にしていた兄に声を掛けられた



「なんでしょうか、兄上?」



ちなみに兄とはお茶をよく共にする

跡目争いをしていないと外部へアピールする為だ

貴族って本当に面倒くさいな!



「恋愛相談は受け付けていないか?」



「・・・本日の受付時間は終了致しました、兄上」



「・・・」



このやり取りは今日が初めてというわけではない

去年、学園への入学以降何度目かになる



「今週末の夜会までに、空いている受付時間に予約を入れよう」



「レディースDAYが好評の為、

 明日から全ての受付は女性専用になりました、兄上」



「・・・」



今までは最初のやり取りで諦めていた兄が珍しく引かなかった

とりあえず、面倒はごめんなのでやんわりと断りを入れてみる




王族である王子が実際に通う学園ではあるが、

令嬢たちも全員が王子様(笑)たちを追っかけている訳ではない



ゲームみたいにいきなり男爵の令嬢が王族へアピールしたとしても

身分が違い過ぎて仮に恋が実っても側室が精々である

これが貴族の常識である


実際に男爵程度の側室では後ろ盾がなければ、

後宮でも立場はなく、下手をしたら病死していた何て事も無くはない

本当に嫌な常識である



「これは独り言なのだが・・・

 週末の夜会のエスコート相手で困っている」



王子様(笑)が学園に通われているおかげで

社交シーズンでもないのに無意味に夜会が増えている



「前回エスコートした令嬢からのアピールが激しい

 次の夜会もエスコートすれば婚約されかねない勢いなのだ」



我が伯爵家は中央政権からは遠い

所謂、領主貴族というやつで王都にある屋敷も小さい



「今朝も届いた手紙の枚数もどこの論文かと思える程だ

 挨拶だけで1枚を使う文才を他のところで役に立てて欲しいものだ」



兄は律儀に全部読んだようだ



「他にも前回に顔を合わせただけの令嬢から挨拶の手紙が届いている

 返事を書くだけで勉強の時間を奪われているのだ」



読むだけでなく律儀に返事もちゃんと返しているようだ



「兄上」



「おぉ弟よ、相談に乗ってくれるか?」



独り言がうるさかった兄上の

相談内容を聞いても『恋愛』相談には遠い気がする



独り言(被害内容)につきましては

 姉上(狩人)にご相談されるのが宜しいかと思われます」



姉上(狩人)は既に婚約をしており学園も去年卒業した

今は花嫁修業として王都の屋敷に滞在して嫁ぎ先の領地について学んでいる最中だ



「あ、姉上に相談したら婚約者が決まってしまうではないか!」



姉上(狩人)の友人はやはり友人(狩人)なのである

しかも今回のストーカー令嬢(仮)よりも年季が入っている分、強敵であろう

姉上(狩人)は面倒できっと友人(狩人)を紹介して終わりだろう・・・色々と



「兄上、

 次期当主ともあろうお方がこの年になっても婚約者がいない方が不自然なのです」



姉上(狩人)を近くで見てきたせいか、

兄上は少々、女性恐怖症気味だ

今年編入してきたヒロイン(笑)からの接触もあったようだが、

この性格のおかげで難を逃れている



「だからこそお前に頼んでいるのではないか、弟よ」



我が伯爵家の領地経営は殆どが兄弟だけで済んでいる

次期当主が内政、姉上や妹たちは外交

スペアである私は両方を兼任していて、そこそこの人脈がある



「それにお前のせいでもあるではないか?」



変な言いがかりをつけてきた



「兄上、記憶にございませんが?」



「そうか

 学園入学僅か1年で中央官吏試験に合格し、

 卒業後には官僚候補内定済み

 学園2年目にして既に登城して仕事をこなし、

 会議にも参加して上位貴族から相談も受けている

 我が伯爵家期待の中央の繋がりを持つ優秀な弟が令嬢たちに狙われない訳がないのに

 なあ?弟よ?」



「何のことかさっぱりでございます、兄上」



内政チートは出来なかったが腐っても転生者

数学や書類に関わる水準はこの世界のそれを遥かに超えていた

目立たないはずがなく、あっさりと中央に召し抱えられた訳だ



「 『私は次男です。次期当主の婚約者に合わせて私の婚姻を結ぶことが我が伯爵家の為になりますがゆえ』 

 っと全ての誘いを断っていると前回の夜会で聞いたが

 ただの噂かな?」



「兄上、記憶にございません」




「最愛の妹たちのエスコートを申し出ても

  『兄様が婚約をしないせいで、アイン兄様が婚約できずに可哀想です!』

 と逆に責めたてられたが本当に記憶にないか? 」



「全て秘書がやった事でございます」



どこかの政治家のような言い訳をするが、

実際には面倒ごとは兄を理由に断っていたので事実である

その為、中央とコネを作りたい子爵や男爵といった身分差の少ない貴族は

兄上に群がる構図が出来上がったという訳だ



「いや、お前に秘書なんていないから」



兄もついに貴族口調をやめて反論してきた



「失礼ですよ、兄上

 私にはちゃんと秘書はおります。

 責任をとらせてエスコート相手をするように申し付けておきます」



「ちょっとまて

 その秘書というのはクラリッサ嬢のことじゃないよな?」



クラリッサ嬢は商会から成り上がった所謂成金男爵家のご令嬢だ

私はその商会と取引があり、

彼女は商会との橋渡し役として秘書のような間柄だ

だから問題ない



「ハッハッハッハ!」



「弟よ

 クラリッサ嬢をエスコートすれば、

 確かに他の令嬢は何とかなるだろう」



クラリッサは色々な意味でよい性格をしている

ぬるま湯に浸かった令嬢たちでは太刀打ち出来ないだろう



「変わりに男爵に外堀を埋められて、結局は婚約されそうな気がするぞ!

 そもそもお前のせいであって、クラリッサ嬢の責任はないではないか!!」



「ちっ!」



気づきやがった・・・

男爵から「娘もそろそろ年頃だから良い相手はいないものかね~?」と

最近妙にうるさい催促を逸らすチャンスだったのに・・・



「兄上、そろそろ仕事の時間になりましたゆえ

 この辺で失礼致します」



「ちょっとまて!今、舌打ちしただろ!!」



特に重要な役職についていない伯爵家次男や伯爵家跡継ぎでさえ

この有様である

令嬢にとっての夜会とは狩場である

現代社会の肉食女子など子猫同然だと語っておこう



あ、私のエスコート相手は麗しき妹だ

もちろん誇り高きシスコンですよ?




兄上(食後の時間つぶし)と別れて登城する為に馬車に乗る

お仕事を頑張って伯爵家の名が上がれば

妹たちの嫁ぎ先に選択肢が増える!

今日も元気にお仕事頑張る!!




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私の仕事は各部署を回って宰相へ報告する書類を受け取る事だ

城の中をあちこちと歩くので運動不足にならず健康的だ

かわりに最近の宰相閣下のお腹が丸みを帯びつつあるが

気づかないフリをする


このスルースキルも転生者の特典のようなものだ



おおよそ1時間ぐらい歩いてようやく書類を集め終わると

大体100枚を超える


書類の内容を2~3枚にまとめて

原本となった書類をファイリングする



「事務次官アインベルフです

 宰相閣下にお取次ぎをお願い致します」



宰相の執務室の前に立つ衛兵へ声を掛ける

この2ヶ月でお互いに見知った顔だが

やはり形式でもしっかりと取次ぎをする



「うむ、アインが立ち去るまで取次ぎを含めて立ち入りを禁ずる」



執務室に招かれた後、衛兵へ向かって宰相が告げる

これも2ヶ月続いたやり取りだ



こんな密室に頭が剥げてカツラを被った宰相と

若い事務次官の男


男色の噂が立ってもおかしくない状況ではあるが、

宰相が愛妻家でただ1人の妻を愛し続けているのは有名で

一応その心配がなくて済むのはありがたい



実際に機密の書類を扱っているから人払いは変ではないんだが

本来の目的は別にある



「アインよ、学園での息子の様子はどうだ?」



そう、学園内の内偵の仕事である



「ヴェルムスト子爵令嬢との関わりにより割り振られた職務が停滞しております」



ヴェルムスト子爵令嬢

2学年より編入してきた乙女ゲーのヒロイン(笑)ちゃんだ

編入から2ヶ月の行動で本当になにやってるの?というレベルで活動をしている



「ご子息以外にも第2王子及び騎士団長のご息子・公爵の嫡子や他数名とも交流は継続しております

 既に学園内では噂になっており、

 次の夜会で社交界に話が広がるものと思われます」



今日は週に1度の報告日である

用意した資料を報告と共に宰相へ渡す



「まったく、お主の書いた物語のような事が実際に起こるとはな」



あ、そうです

私が書きました『悪役令嬢物語』

活版印刷技術を使って本を売りまくってやりましたよ!

趣味の木彫り(文字原版作り)が役に立って

正式に印刷文字としての国から認めて貰いましたよ!!



最終的にざまぁな展開の部分を

現行法に乗っ取り処罰して家の取り潰しや廃嫡になる様を

詳細に描いた『没落版』

蹴落としたい相手がいる方にぴったりだ


姉上に協力頂いた上で

恋におちていく(狩られていく)様を

恋愛模様で描いた『恋愛版』

ときめく乙女(野生の狩人)のバイブルと言われているらしい



どちらも年齢層に絞ったので売れに売れた

貴族の間では知らない者がいない名作だ


まあ、作者が自分であるのは隠しているので知っているのは数名だけだ



「ふむ、対策案についてもよくまとまっている」



自慢をしている間に宰相が報告書を読み終わったようだ



「それにしても対策案の4番目と5番目が怖すぎるわ!」



対策案の4番目は『宰相の息子のハッピーエンド』だ

攻略対象?の中で唯一婚約者がいない宰相の三男が

ヒロイン(笑)と結ばれ与えられた領地で幸せに暮らすというものだ


物語の登場人物として宰相の役割もある

宰相とヴェルムスト子爵の手によりヒロイン(笑)との中は引き裂かれ(領地療養という名の再教育)

離れても手紙のみで愛を育み(検閲・修正・花などの小物のプレゼント追加サービス付)

学園に戻ってからは婚約者候補として

ヒロインと他の(問題がある)令嬢たちとの騒動の末に純愛を勝ち取り

宰相が複数もつ爵位のうちの子爵と領地を賜り

(地方で中央から離されて迷惑かけずに)安住の地で平和に暮らす物語


宰相の三男の婚約者候補として、

私の婚約者の座を狙っている令嬢(狩人)を推せば完璧だ




対策案の5番目は所謂『処刑エンド』だ


愛情(欲)に溺れたものたちを排除して

政権党争の火種を摘みとる事の出来る素晴らしいプランだ

ついでに先週の報告に頭を痛めた宰相が

「引退して領地でのんびりとしたい」と呟いていた為

宰相もスムーズに隠居が可能な完璧な作りとなっている



どちらも、かなりの名作ぶりが期待出来るノンフィクション作品が完成しそうだ



「もう一度言うぞ」


「怖いわ!お前が怖いわ!!」



「お褒めに預かり光栄です閣下

 対策案4につきまして

 ご子息のご活躍により第二王子殿下、他の方の名誉も守られ

 遠距離恋愛中《再教育中》の手紙のやり取りを題材にした恋愛物語として

 売り出せば宰相の評判も上がりましょう

 また、この件で各家へ恩も売れることでしょう」



「もう良い・・・

 愚息ではあるが、息子を愛している・・・

 ちゃんと再教育致すゆえ、もう許してくれ・・・」



宰相からは力の無い声で懇願してきた

まったく失礼である、ご子息の恋愛が成就する案のどこが不満なのやら


まあ、宰相の愛妻家だけではなく家族も愛している姿勢は嫌いじゃない



「かしこまりました

 対策案1で話を進めて宜しいでしょうか?」



「うむ

 週末の王家主催の夜会に間に合うように明日には届くように手配をせよ」



対策案1は簡単だ

攻略者?各家の当主によるお説教、第二王子の取り巻きの入れ替えだ


私の著書である『悪役令嬢物語 没落版(著者のサイン入り)』と共に

ご子息またはご令嬢の行動を書簡で知らせるだけだ


ヒロイン(笑)は間違いなく領地へ戻されるだろう

婚約者のいる攻略対象者?たちには、

貴族として不貞を働いた証拠が存在する為、

社交界と各家からを爵位を守る為にひっそり消える事になるだろう



「ご購入ありがとうございます」


感謝と共に2冊の『悪役令嬢物語 没落版(著者のサイン入り)』と

今回関わった人数分の書類代金を記載した契約書を宰相へ手渡す



「既に手配は済んでおります、

 本日の夕刻には各ご当主様の元へ届く予定となっております」



週末の夜会までに成果を出せるのは現実的に対策案1だけの為、

この結果しかなかった

先に手配だけ済ませて、

もし違った時は手配をキャンセルすれば良いだけの準備をしておいたので安心だ



「お主の仕事も速すぎて怖いんだが・・・」



宰相は各部署からサインが必要な書類にサインを入れながら会話を続ける



「第二王子殿下の新たな取り巻き候補には我が伯爵家を入れない事をお勧め致します

 王太子が1年で入れ替わりしても良いなら、もちろん構いませんが?」



「現実になりそうで怖いわ!」



陛下への報告でも使う為に

提出した書類の中に候補者のリストを入れてある

能力的に我が伯爵家を入れない訳にはいかなかったので

一応名前は書いておいたが念を押しておく



「まともな貴族の関係者なら、

 この取り巻きの入れ替えで問題は起こすことはございませんが

 いざという時に対策案4を流用する為に

 婚約者のいない方々を複数名用意されるのが宜しいかと存知ます」



「お前のお気に入りは

 やっぱり対策案4か!」



宰相の突っ込みの切れが増してきたと思う

なかなかの腕前になったようで

陛下との仲も良好になってきていると聞く



「分かった、分かった

 陛下と相談して今日中に片付ける」



サイン済みの必要な書類を受け取り

執務室を後にする



(計画通り!)



なかなか貰えない予算や決済の書類に宰相のサインを入れることに成功した

これで各部署への借りも出来た


学園(狩場)夜会(狩場)での令嬢(狩人)たちへの新しい対象も確保した

学園も平和になる、そう良いこと尽くしだ



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