魔女
……」
「勝った!」
「フン」
と鼻を鳴らす風間だった。
「お次はどちらで……?」
「職人の集まる街に行きたい」
「?」
訝し気に風雨を見る帆咲。
風間は小声で言う。
「そこに彼女がいるかもしれない」
「彼女?」
「魔女だ」
「それはどういう?」
「私の名前を付けてくれた彼女にもう一度会いたいんだよ」
と猫には似合わない、切なげな顔と声で言う。
「彼女はオルゴールの職人だった」
「捜してみようか」
「……」
「どうしたの」
「何でもない」
と風雨は言った。
どうやら風雨は人語を解すだけでなくヒトにしか持ちえない『切ない』という感情を持っている、限りなくヒトに近い猫なのだと知った瞬間だった。
「パッフェルベルのカノンをよくオルゴールで聴いていた……」
「ふうん」
「風を感じているときも幸せだったが、彼女とのそのひとときも幸せだった。会いたい、もう一度彼女に会いたい」
風雨は何か思い出したように泣き始めた。
ぽろぽろと大粒の涙を流す風雨と戸惑う帆咲。
「絶対に僕が魔女さんを見つけだしてみせるから」
と言ったのはいいが彼女の名前を知らない。
風見は察したのか教えてくれた。
「シェリーだ」
「シェリーさん?」