猫の国2
街猫のいる方へ戻ると一匹だけ人語をしゃべる街猫がいた。
その街猫は噂にもなっていた。
土産屋に聞いた。
「あの街猫は、一体」
土産屋の人はあっさり教えてくれた。
「ああ、百万回生きた街猫だろう」
「百万回も生きたんですか?」
「嘘だよ。正確には百万回生きたであろう猫さ」
「ああ、なるほど」
帆咲は納得した。
「とある観光客が名付けたのさ」
「それが瞬く間に口コミで噂になったんですね」
「そうさ」
その街猫をカメラに収めようとしたときだった。
止められた。
土産屋は言う。
「あの猫は呪われているんじゃないか、っていう一部の噂もあるんだ。関わるのはよした方がいい」
とさえ止められたが、『待ち人』の帆咲は何故か異様に気になってしまったのだった。
関わらずにはいられない。
そんな特別な何かを持っているようなエメラルドグリーンの体にサファイアの瞳だった。特別な猫なのではないか、とさえ思わずにはいられなかった。
少しずつ歩み寄って、話しかけてみた。
百万回生きたであろう猫がいた場所は人が誰もいない場所だった。
建物の屋上だった。
「こんにちは」
「そなたは誰ぞ?」
「僕の名前は空夏帆咲です」
「あなたの名前は何というのですか?」
「風雨だ」
「カザメ?」
「漢字で、だ」