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終わりが始まり

作者: 柊葉一

 今日はライブだと言っていた。

 ならばそろそろ連絡があるだろうか、とケータイを手に取る。角ばった電子的な数字が一日の始まりを告げていた。

 午前0時。

 こんな時間に外行きの服を着ているのはおかしいだろうか、化粧はやめておこうか、香りの強いボディクリームでも付けておこうか。いつもそんな考えを巡らせては結局、変に張り切るのはやめようと、少しだけか可愛らしさのある寝巻を選び、リップクリームだけ塗っておく。そうしておけば、勝手にした期待を裏切られても、最小限のがっかりで済むからだ。

 季節が寒くなるにつれて、距離が縮まっていった。そうなる前から、間に何があっても入り込めない空間が一人分あることも分かっていた。客観的になるとひどく自分がみじめな気がしたが、それでも会うとなれば嬉しくて、今ではこうして連絡をひたすら待つ事ばかりが上手になっている。

 高校の時はこんなことになるなんて、考えもしなかった。初めての一人暮らし、にぎやかで自由な大学生活。転機だったのだ。自分が女を自覚する転機。

 そんな転機がみんなくるのだろうか、と考えているとケータイが震えた。

 電話には3回目のコールで出ると決めている。

「もしもし」

『もしもーし、起きてた?』

「起きてましたよ」

『あーそう良かったわ、今から行っていい?』

 ほらきた、と心の中でガッツポーズをする。顔は笑っている。

「えー、まぁ、いいですよ」

『じゃ今から行くわ』

「はーい、ではでは」

 電話を切ると、やはりクリームを付けておこうかと思い立って、鏡の前へ行く。次に、温かい飲み物があれば喜ぶだろう、と薬缶を火にかける。今日は雪が降りそうな寒さだった。実際、遠くに見える山の山頂は白さを纏っていた。

 寒さが一番厳しい今が、いちばん一緒にいられるのだ。あと二カ月もしたら、彼は卒業してしまう。そうすればこんな関係も終わるだろう。猶予期間とはよく言うが、今がまさにそれだ。今は立ち止まっていても、いつかは時間に押されて歩きだす。そしてその道はきっと交わらない。

 電話から20分が経っていた。そろそろだと思っていたところに玄関の向こうから、チャリ、チャリ、とポケットからぶら下がった鍵の音がする。そして玄関のベルが鳴る。

 いつかは終わる、別々に歩きだす。それでいいと思う。いつまでもこの人に立ち止まっているわけにはいかないのだから。新しい扉を開いて、一人で歩きだす。そうすれば、その先にまだ知らぬ転機を掴む予感がする。今はまだ別れを覚悟できていなくても、その予感が自分を前向きにさせてくれるのだった。

 


 

オムニバスみたいに周辺の話を広げたいと思っています。

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