ウ゛ァンパイアの双子
「ふうっ」
星遊戯盤を解除したリュウセイは、戦闘の緊張からか、膝が奮えたので床に座りこんだ。
「竜星さん!」
そんなリュウセイにサマエルが駆け寄り、回復魔法をかけた。
リュウセイの体力は、すぐに満タンまで回復した。これが傷とかをおっていたら、すぐに満タンにとはいかなかっただろう。しかし、リュウセイは駒の効果により、ダメージしか受けていなかった為、体力の回復がすぐに終わったのだ。
「ありがとうございますマールさん」
「いえ。それよりも大丈夫ですか?」
「なんとか。それにしても、最後の二体が厄介でした」
リュウセイは、三戦目のスケルトンとゴーストとの戦いを振り返ってみて、そうひとりごちた。
「たしかにあれは凄かったですね。私も、スケルトンの腕が飛ぶなんて初めて知りました」
天使であるサマエルにとっても、先程のスケルトンの攻撃は驚くものだったようだ。
「そういえば、スケルトンとゴーストのステータスカードって、手に入るんですかね?」
リュウセイは、スケルトンとゴーストの最後を思い返してそう思った。実際のところ、球体に吸い込まれていったものがどうなっているのか、現在未確認である。
「えっと」
リュウセイは、ステータスカードで《スター》について調べた。
《スター》(星)
100~MP
1~SP
星属性魔法。
効果
消費魔力・星力に応じた星を発生させる魔法。
最初サイズ:1cm
この魔法で発生した星には、星の核・重力・大地・大気がちゃんと存在している。
この魔法で発生した星の影響は、星属性のものは受けない。
「なるほど。あの二体は、星の重力にやられたんだ」
リュウセイは、ステータスカードの内容を見て、先程の現象に納得がいった。
「いえ竜星さん。スケルトンはともかく、ゴーストは重力の影響を受けないと思いますよ?」
「あれ?・・・それもそうですね。ゴーストって、まんま幽霊でしたし」
しかし、そうなるとゴーストはなんで球体に引き寄せられたんだろう?
リュウセイは、しばらくの間考えた。
「原因がさっぱりですね。マールさんは、思い当たることはありませんか?」
だが、答えは思いつかなかったので、リュウセイはサマエルに聞いてみた。
「そうですねぇ?一緒に発動させた魔法が怪しくないですか?」
「あれってちゃんと発動していたんでしょうか?てっきり、失敗したと思ってたんですけど」
「この世界の魔法は、前提条件を満たしていないか妨害でも入らない限り、基本的に失敗はしませんよ」
「そうなんですか?」
「ええ」
「へぇー」
じゃあ、マールさんの言うとおり、《ビカム》の魔法効果の可能性があるのか。
リュウセイは、ステータスカードから《ビカム》について調べた。
《ビカム》(成る)
100~MP
1~SP
星属性魔法。
効果
任意対象を一時的に別のものに変化させる魔法。対象を星力に変換してから変化させる為、対象に制限は無し。ただし、星力は変化不可。また、星属性のものに使用すると、対象の性質・効果が強化される。
「これですね。マールさんの言うとおり、《ビカム》の効果みたいです」
「そうですか」
「けど、あの攻撃の後どうなるのかがイマイチわかりませんね」
「カミューラさんに聞いてみたらどうですか?」
「そうですね」
リュウセイは、サマエルの提案に頷き、サマエルとともにカミューラ達のもとへ向かって歩き出した。
「カミューラさん、さっきの戦闘はどうでしたか?」
リュウセイは、何故か戦闘の感想から質問した。
「うむ、十分及第点だな。正直に言えば、スケルトンとゴーストは倒せないと思っていたのだが」
「あ~、たしかにそうですね。スターがでなければ、普通に手も足も出なかったでしょうし」
「そうだな。長い時を生きる私でも知らないあの未知の魔法。あのような形で霊体に干渉するとは、驚きの一言に尽きる」
「そうですね」
リュウセイは、カミューラに同感だと頷いた。
「他にも、星遊戯盤の効果を実際に見てみると、錬金術師としての血が騒いだな」「何かわかりましたか?」
「いや、ステータスカード以上の情報は、まだよう研究だ。しかし、星遊戯盤の能力がLevelUPすれば、もっといろいろなことがわかるようになるだろう。なので、なるべく早めに星遊戯盤のLevelを上げてくれ」
「善処します」
リュウセイは、カミューラの熱意に押されながらもそう返した。
「けど、能力のLevelUPってどうすればいいんですか?」
「ふむ、能力のLevelの上げ方か。通常のLevel付き能力なら、使っていけば自然に上がる」
「わかりました」
リュウセイは、この能力をメインに使っていくことにした。
「ただなぁ・・・」
「どうかしましたか?」
カミューラが微妙な顔したので、リュウセイは疑問に思った。
「いや、リュウセイの能力が未知なものばかりなのでな、この方法でLevelが上がるのか自信がなくてな」
「ああ、そういうことですか。ですけど、そういうのはしばらく試してみないとなんともいえませんよ?」
「そうだな。とりあえずは、先程言ったことを試してみてくれ」
「はい。ベルグさんやアークさんは、先程の戦闘をどう思いましたか?」
カミューラとの話が一段落したリュウセイは、他の二人にも感想を聞いた。
「そうだな、初心者としては動けていたと思うぞ」
「たしかに。ただ、これからは精神を鍛えることを薦めるよ。そうすれば、不意打ちを受けることもないだろうからね」
「あー、それはいえてるな。回避行動は見事だったが、やはり初心者だからな。防具が無い今の状態だと、下手に不意打ちを受けるとそれが致命傷になりかねんからな」
「そうですね。能力の方で怪我とかしませんけど、耐久力が低いし、称号のせいでダメージが増えるので、不意打ちは受けたくないですね。それに、防具の方も早めに手に入れた方がいいですよね」
「まあ、武器や防具の方は俺が用意する約束だがな。しかし、お前の装備はどうするかな?さっきの戦いを見ると、リュウセイは回避タイプの魔法使いなんだよな。けど、それなら金属類の鎧なんかじゃなくて、革製の軽装か布製のローブの方がいいんだよな。そうなると、俺じゃなくて別の奴の分野になっちまう。約束した手前、俺から何か装備を贈りたいんだよな」
ベルグは、リュウセイの装備に頭を悩ませた。
「そんなに無理しなくていいですよ」
「うむ。だが、やはり何か作って渡したいのだ」
「あー。まだ初心者なので、戦闘スタイルが固まってからでいいです」
「そうか、それもそうだな。まあ、考えられるだけ考えておく」
「それでいいです。それと一ついいですか?」
「どうかしたのか?」「この世界の魔法って、どうやって解除すればいいんですか?」
リュウセイは、先程の場所に留まっている球体を指差して、カミューラに質問した。
「魔法の解除か?それなら、使用時に込めた魔力が無くなれば自然消滅するはずだ」
「込めたのが魔力じゃなくてもですか?」
「それはちょっとわからないな。自然消滅しないようなら、魔法をキャンセルする手段もあるにはあるが、あまり一般的な手段ではないからな」
カミューラは、難しい顔をした。
「どうして一般的じゃないんですか?」
「今も言ったが、基本的にこの世界魔法は自然消滅するから、わざわざキャンセルする必要が無いのだ。それに、このキャンセルするにはリスクもある」
「リスクですか?」
「ああ。この世界のキャンセルは、キャンセルする対象の魔法に直接触れないと出来ないのだ」
「ああ、なるほど。水や土とかならともかく、火なんかには触ると危ないですし、光や闇なんかにはそもそも触れないからですね」
「そうだ。そのせいで使い勝手が悪く、キャンセルを使う魔法使いなど皆無なのだ」
「なるほど」
リュウセイは、一つ頷いた。
「けど、魔法の説明文を見るかぎり、今回はそのリスクは気にしなくて大丈夫です。キャンセルのやり方を教えてもらえませんか?」
「わかった」
カミューラは、キャンセルのやり方をリュウセイに説明した。
「これで消えるはずだ」
「わかりました、やってみます」
リュウセイは、球体の傍に移動してカミューラに説明されたことを実行した。
まず始めに、キャンセル対象である球体に触れた。次に、魔法を使った時とは逆に対象の力を吸収するイメージを固めた。
「《キャンセル》」
そして最後に、この世界で共通の魔法解除の為のキーワードを言った。
バシュッ!
そんな音が発生したが、キャンセルは無事に成功した。リュウセイが触れていた球体は消滅した。そして、リュウセイの手には二枚のステータスカードと、黒みがかった小石大の二つの石が残された。
「あっ!ステータスカードが出た。けど、こっちはなんだろう?」
リュウセイは、ステータスカードがちゃんと手に入ったことを喜んだ。そして、一緒に出て来た石を不思議そうに見た。少し考えたがわからなかったので、リュウセイはカミューラのところに持って行った。
「カミューラさん、無事に魔法を消せました。それと、魔法を消した後にステータスカードと一緒に何か出て来たんですけど、これって何かわかりますか?」
リュウセイは、カミューラに持っていた石を見せた。
「これは魔石だな。しかし、何故魔石が?」
カミューラは、石のことを知っているようだが、石があった理由がわからないらしく、首を傾げた。
「この石は、魔石っていうんですか?」
「そうだ。この世界では、モンスターを倒すと稀に出て来る魔力の結晶だ」
「魔力の結晶ですか?あれ?でもンスターから出て来るのなら、なんで何故とか言ったんですか?」
「いや、普通は魔力がわりとあるモンスターからしかでてこないのだ」
「スケルトンやゴーストから出てくるのはおかしいと?」
「少なくとも、Level1のスケルトンとゴーストから魔石が出たなんて話は、私は聞いたことがないな。お前達はあるか?」
「いや、俺もないな」
「私もないです」
「同じく」
カミューラが、この場にいる他の面子にも確認したが、ベルグ、サマエル、アークの三人からも、知らないという結果が返ってきただけだった。
「まあ、これが出て来た理由は後回しにしましょう。この魔石って、何に使えるんですか?」
リュウセイは、不明な点が増えてもいまさらという感じだったので、わかることから知っていくことにした。
「そうだなぁ?武器や防具に属性を付与したり、魔道具のエネルギー源に使ったりだな」
「そうですか。じゃあ、これはカミューラさんが作った魔道具にでも使いますか?」
「いや、そのサイズではエネルギー源にはならん。せめて、もうワンサイズくらい大きくないとな」
「そうですか。じゃあ、これはガラクタですか?」
リュウセイは、カミューラの言葉にがっかりした。
「いや、リュウセイの場合はそうでもないぞ」
「どういう意味ですか?」
「先程説明を省いたが、駒を強くする方法はあると言っただろう。その方法の中には、魔石を使った方法もあったのだ」
「じゃあ、この魔石は無駄にはならないんですね?」
「そうだ。まあ、その方法をとるためには一定量の魔石が必要らしいから、今すぐ試すことは無理だがな」
「そうですか」
リュウセイは、少し残念そうに持っていた魔石を撫でた。
それからリュウセイ達は、さらなる意見交換を続けた。
「カミューラさん」
「なんだ?」
「駒の強化って、具体的にはどんな感じなんですか?」
だいたいの意見交換が終わった後、リュウセイが駒の強化方法についてカミューラに尋ねた。
「駒の強化方法についてか・・・。それはだな」
カミューラは、リュウセイ以外の周囲の面子にも聞かせるように説明を始めた。
まず駒を強化することがどういうことかの説明から始まった。
まず駒の強化は、駒自体を強化して性能を上げることがメインとなる。
一つの駒の強化段階は全十段階。一段階上げる毎に、Level10分の性能向上が起きる。そして、全十段階の強化を終えると、その駒をランクアップさせることが出来るようになる。
ランクアップとは、この世界のモンスターがLevel100に到達した場合に起こる現象で、モンスターがより強力なモンスターに生まれ変わることをいう。
このランクアップを行うと、強化段階がリセットされる。
が、また全十段階の強化をすればさらに強力なモンスターへのランクアップも可能。
この繰り返しによって駒を強化していくのが基本となる。ただ、他にも強化方法は存在する。
次に実際の強化方法については、こうなっている。
一つ、対象の駒と同じモンスター・種族の駒を、対象の駒に規定数吸収させる。(規定数は、駒ごとに違う)
一つ、対象の駒に一定量の魔力・魔石などのエネルギーを吸収させる。(必要なエネルギーの量は、駒とエネルギーの種類によって変わる)
一つ、対象の駒の上位種の駒を吸収させる。
この辺りが通常の強化のやり方である。
ランクアップではない強化を目指す場合は、こんなパターンがある。
一つ、その駒の同ランク帯の別のモンスターに駒を変化させたい場合。
この場合は、変化させたいモンスターの駒を一段階分吸収させればなる。
一つ、その駒の属性を変更したい場合。
この場合は、変化させたい属性の魔石を一段階分吸収させればなる。
一つ、駒の職業を変更したい場合。
この場合は、その変更したい職業を持った存在の駒を持っていれば変更が可能。
一つ、駒に能力を覚えさせたい場合。1、強化段階を上げる。
2、覚えさせたい能力を持った駒を一定数吸収させる。(吸収させる数は、能力によって変わる)
3、覚えさせたい能力に類似した複数種類の駒を吸収させる。(吸収させる数は、能力によって変わる)
一つ、その駒の亜種を作りたい場合。
この場合は、複数の強化方法を同時に行うとなる。
「と、いった感じだな」
「また、なんと言いますか・・・」
強化方法までいちいちゲームぽい。
リュウセイは、この能力の仕様に頭が痛くなった。
「私としては、理に適った能力だと思うが、何か気になるのか?」
「いえ、こっちのことですので、気にしないでください」
「そうか。それでは、これからどうする?」
「駒の強化をしてみたいので、駒を集めたいです。出来れば、またモンスターを出してもらってもいいですか?」
「構わないぞ。リクエストとかはあるか?」
「それでしたら、スケルトンとゴーストをお願い出来ますか?」
「かまわないが、大丈夫か?」
「ええ、星力の方はまだ残っていますから、後数回は魔法が使えますから」
「わかった。それでは先程と同じ組み合わせで出すぞ」
「お願いします」
「それでは」
「カミューラ様」
カミューラがモンスターを出現させようとしたちょうどその時、皆の後ろからカミューラを呼ぶ声がした。
「セバスチャンか。いったいどうしたんのだ?」
「皆様、昼食のお時間です」
「昼食?もうそんな時間か?」
「さようにございます」
「ふむ。それではリュウセイ、戦闘は昼食の後でいいか?」
「はい、それでかまいません」
「それでは皆様、こちらにどうぞ」
リュウセイ達は、セバスチャンの案内にしたがって、昼食をとりに向かった。
それから一時間後。昼食後、休憩を挟んで全員が再びこの部屋に集合した。
ただ、昼食前にはいなかった人物が新たに二人増えているが。
一人は貴族風の衣装にマントを纏った、十代後半の見た目の少年。
もう一人は、フリフリのドレスを着た少年と同い年くらいの少女。
二人は双子らしく、服装と性別以外の特徴が一致していた。まず青白い肌。次に端正な顔立ち。髪と瞳の色は深い黒。
「カミューラさん。その二人はカミューラさんのお子さんですか?」
「ああ、紹介しよう。男の方がブラド。女の方がラキアだ。二人とも、こっちがリュウセイ。そっちがサマエル。新しくエスト村の住人になった二人だ」
カミューラは、リュウセイとサマエルを順番に示し、子供達に紹介した。
「来訪者の竜星です。これからよろしく」
「サマエルと言います。竜星さん共々よろしくお願いします」
リュウセイとサマエルは、揃って一礼した。
「お前達も自己紹介しなさい」
「わかりました母上。俺の名前はブラド。母上の末の息子だ。これからよろしくな、二人とも」
「私の名前はラキアです。お母様の末の娘になります。どうぞよろしく」
カミューラにうながされた二人は、そう自己紹介した。
「末の息子と娘?カミューラさんには、他にもお子さんがいるんですか?」
リュウセイは、カミューラにそのへんのことを聞いたが、カミューラは難しい顔して答えなかった。が、代わりにブラド達が答えてくれた。
「そうだ。俺達の上には、複数の兄と姉がいる」
「もっとも、それなりに年が離れているので、下手をすると親子みたいに見えてしまうんですけどね」
「へぇー、そうなんだ。けど、カミューラさんはなんで難しい顔をしているんです?」
リュウセイは、カミューラが難しい顔をした理由がわからなかった。
「それはだな・」
「ブラド!」
「ひゃいっ!」
リュウセイに説明しようとしたブラドの言葉を、カミューラが遮った。
「すまないがリュウセイ、その辺は詮索しないでくれ。いや、この言い方は駄目だな。下手に好奇心を刺激されても困る。なんと言ったらいいか・・・」
カミューラは、どう説明するべきか考えはじめた。そして、しばらく考えて答えを出した。
「・・・簡潔に言えば、家庭の事情だ」
「わかりました。他人の家の事情なら、詮索はしません」
「そうか、助かる」
カミューラは、ほっとしたように一息ついた。
「それで、ブラド君とラキアちゃんは何か用があるの?」
「ブラド君はやめろ。ブラドでいい。俺達の用は、お前達を見ることだ」
「僕達を?」
「そうだ。昨日から母上がやたら張り切っていたからな。俺達もお前達に興味があるんだ」
「そうなんだ。うん?そういえばアークさん、一つ聞いてもいいですか?」
ブラドと会話していたリュウセイは、何か疑問がわいたらしく、アークに質問した。
「どうかしたのかい?」
「今ふと疑問に思ったんですけど、エスト村に僕と同年代の子供達って、ブラド達以外にいないんですか?」
リュウセイは、ブラド達と会ったことで、昨日の歓迎会で同い年の子供達を見た覚えがないことに気がついた。
「ああ、べつにいないわけじゃないよ」
「けど、昨日はブラド達にも会いませんでしたよね?」
「それはしかたがないわ」
「しかたがない?」
「ええ。だって昨日は私達、ダンジョンに潜っていたんだもの。あなた達の歓迎会のことも、夜お母様から聞いて初めて知ったのよ」
「そうなんだ。けど、ブラドとラキアちゃんはそうだとしても、他の子供達は?」
「他の連中は、今遠征中なんだ」
「遠征中?いったい何処に?」
リュウセイは、何処に遠征に行っているのか気になった。
「私達が『深淵の樹海』とよんでいるダンジョンにだ」
「『深淵の樹海』。というか、遠征先はダンジョンなんですか?」
「そうだ。『深淵の樹海』は、エスト村から南側に位置するダンジョンだ。そのダンジョンでは、今ちょうどあるモンスター達が繁殖している時期なのだ」
「あるモンスターですか?」
「そうだ。そのモンスターは、『シードラーウ゛ァ』と言ってな。経験値的に美味しいモンスターなのだ。その為、村の子供達の良い獲物になる」
「『シードラーウ゛ァ』。種子と幼虫?そのモンスターって、植物なんですか?それとも虫?」
「その辺のことは今一つわかっていないな。見た目としては、赤い結晶状の種子がくっついた芋虫だ」
「芋虫ですか。それって成長すると花が咲くか蝶になるんですか?」
「不明だ。少なくとも、時間経過で成長したりはしない。ついでに言うと、ランクアップした例も私は知らないな」
「はあっ」
リュウセイは、よくわからないモンスターということで納得しておくことにした。
「まあ、同年代の子供達がいない理由はわかりました。けど、なんでブラド達は残ってるんですか?今の話だと、同い年の子供達が全員で行った感じなんでしょう?」
「それはだな」
「簡単なことよ。私達にはもうそんなにうま味がなかったのよ」
「うま味がない?」
「ああ。俺達は、生きた年月でいえばそれなりだからな。もうシードラーウ゛ァの経験値は、そんなにLevelUPの足しにはならないんだ」
「それなりの年月ねぇ。まあ、ウ゛ァンパイアなら、見た目の年齢よりは長い生きだよね。ちなみに、二人のLevelはいくらくらいなの?」
「Levelか?俺のLevelは、35だ」
「私のLevelは34よ」
ブラドとラキアは、自慢気にそう言った。
「これって自慢に出来るLevelなんですか?」
リュウセイは、自分では判断がつかなかったので、カミューラに二人を見ながら尋ねた。
「十分自慢に出来るLevelだな。年齢と種族のバランスで見ると、Levelが25を越えていれば一人前だ」
「そうなんですか」
リュウセイは、先程サマエルが言っていたこの世界でのLevelの話を思い出し、カミューラの言葉を納得した。
「そうだリュウセイ」
「なんですか、カミューラさん?」
「お前達も『深淵の樹海』に行ってみたらどうだ?」
「『深淵の樹海』にですか?そりゃあ、経験値的には美味しいのなら行ってみたくはありますけど。無理して行きたいほどではないですよ?」
リュウセイは、カミューラの突然の提案にあまり乗り気ではない様子だ。
「それなら安心しろ。ブラド達を護衛につけてやる。ブラド、ラキア、ちょっとリュウセイとサマエルを連れてダンジョンに行ってきてくれ」
「ダンジョンにですか、母上?」
「そうだ」
「別に私達はかまいませんけど、いったいどうしてですか?」
ブラドとラキアは、ダンジョンに行くことに問題は無さそうだが、カミューラの突然の頼みには若干戸惑っている。
「リュウセイ達はしばらくこの森で暮らすことになる。それなら、同年代の子供達との間にはあまりLevel差がない方がいいだろう?それに、リュウセイの能力は未知の部分が多い。能力を調べる為にも、Levelはなるべく早く上げておきたいのだ。それに、ちょうど《シードラーウ゛ァ》の繁殖期なのだ。これを利用しない手はないだろう?」
「お母様らしいですわね。前半が建前で、後半が本音といった感じですけど」
「だが、別に間違っているわけでも、問題があるわけでもないしな。俺達は問題ない。リュウセイ達の方はどうだ?」
ブラドとラキアは、カミューラさんの説明を聞いて、『深淵の樹海』に行く気のようだ。
「僕としては、二人が護衛してくれるなら行っても良いかな。マールさんはどうですか?」
「私ですか?私は、竜星さんについていきます」
リュウセイは、ブラド達の言葉でわりと乗り気になったようで、サマエルに意見を聞いた。サマエルは、リュウセイにどこまでもついて行く。そんな決意のこもった顔で、リュウセイに判断を委ねた。
「わかりました。それじゃあ、『深淵の樹海』とやらでの護衛をお願いします」
「わかった。それと、俺達にそんな丁寧な話し方をしなくてかまわないぞ」
「そう?」
「ああ」
「わかった」
リュウセイは、ブラド達にたいする口調を、普通にすることにした。
「それで母上、今から行ってくればいいのか?」
「まあ、早い方がいいな。繁殖期は、有限なのだからな」
「じゃあ、早速行くか」
「そうね」
ブラドとラキアは、今すぐにでも出発するつもりのようだ。
「ストップ」
そんな二人に、リュウセイが待ったをかけた。
「うん?どうかしたのか、リュウセイ?」
ブラドは、待ったをかけたリュウセイを不思議そうに見た。
「いや、行くのは良いと言ったんだけど、そんな行き当たりばったりな感じで遠征なんていけないだろ?」
「遠征?ああ、なるほど、そういうことか。大丈夫だぜリュウセイ。遠征とは言っていたけど、そこまで遠出するわけじゃないからな」
「そうなの?」
ブラドは、リュウセイが遠征するなら準備が必要だと考えていることを理解して、心配しなくていいと言った。
「いや、君達以外には遠出だから」
リュウセイがブラドの言葉にそうなんだ、とっ思いかけた直後、アークが否定した。
「どういう意味ですかアークさん?」
「ああ、今から説明するよ」
それからアークは、『深淵の樹海』についての説明を始めた。
まず『深淵の樹海』というのは、エスト村から見て南に徒歩で五日かかる位置にあるダンジョンだ。ダンジョンのタイプとしては、今いる洞窟と同じ感じで、森の一部の空間がダンジョン化したものである。ダンジョンの総階層数は不明。出現するモンスターは、虫系・獣系・植物系などがメイン。討伐目標である《シードラーウ゛ァ》については、この時期なら全階層で出現する。現在遠征中のメンバーは、エスト村の十代前半から後半の子供達十人ちょいと、そのお目付け役で大人が一人同行している。彼らの遠征日程は、行き帰りに十日。Level上げに十日使う予定。現在彼らが出発してから八日目にあたる。
と、いう説明がアークからなされた。
「へぇー、合計二十日ですか。それなら遠征ですね。けど、それだとさっきのブラドの言葉と矛盾しませんか?」
「普通だったら矛盾するね。その矛盾を解消する能力を、ブラド達は持っているんだよ」
「そうなの?」
「ああ、その名も《影渡り》」
「《影渡り》。影を渡る能力?それって、影から影に移動する能力ってこと?」
「その認識でいい。影から影へ、影さえあれば何処にでも移動が可能だ」
「へぇー、凄いね」
「そうだろう」
リュウセイは、素直に凄い能力だと思って、ブラドを称賛した。
「けど、それなら遠征の日程を短縮出来たんじゃないの?」
「いいところをついてくるな。そう、この能力には、遠征で使えない理由がある。具体的に言えば、幾つかの制限があるんだ」
「制限?」
「ああ。まず第一に、自分が目視出来る範囲にある影にしか飛べない。まあ、俺達ウ゛ァンパイアの視力なら、かなりの距離を飛べるんだけどな」
「具体的にはどれくらいなの?」
「そうだなぁ、ざっと数Kmってところだな」
「へぇー、けっこう飛べるんだ」
「そうだろう。さて、第二に自分と同行者一人までしか飛べない。この制限が、遠征では使えない理由だな」
「まあ、たしかに十人以上いるのなら使えない方法だよね」
「そうだろう。最後に、飛んだ距離に比例した魔力を消費する」
「空間移動系の能力なら、消費は膨大なものになりそうだね」
「いや、たしかに膨大だが、俺達ウ゛ァンパイアの魔力もかなりあるから、片道ならそこまで気にするほどでもないぞ」
「そうなんだ。それなら行き帰りは問題無いね。けど、ちゃんと準備はしておかないと危ないよね?」
「ああ、その辺のこともリュウセイ達は心配しなくていいぞ。ダンジョンの必需品は、こちらで用意するからな」
「そう、何から何まで迷惑かけるね」
「気にしないでくれ。こちらも、母上の研究に付き合ってもらっているんだからな」
「そうかな?僕は、普通に得をしているんだけど?」
「それだったら、お互いWinWinでいいじゃないか」
「そうかな?」
「そうだ。少なくとも、俺達はこの程度負担とは思わないからな」
「そう。なら、お言葉に甘えさせてもらうよ」
「おう!任せといてくれ」
ブラドが胸を張ってそう請け負った。
「けど、今すぐの出発は待ってくれない」
「なんでだ」
リュウセイは、自分の能力の説明をした。
「と、いうわけで、『深淵の樹海』に行く前に持ち駒を増やしておきたいんだ」
「なるほどな。了解だ、じゃあ明日の朝からでいいか?」
「それでお願い」
「わかった」
リュウセイの説明を聞いたブラドは、出発を次の日に延期した。
それからは、先程の続き。リュウセイとモンスター達の戦いでその日一日が終わった。
二日目終了時のステータス
リュウセイ
Level:5
年齢:18
種族:アステリアン
【補正】全項目+18
【体力】
50/50
【魔力】
20/500
【星力】
14/17
【筋力】10
【耐久力】 8
【敏捷】 50
【器用】 25
【精神】 60
【幸運値】50%
【属性】星
【称号】世界を渡った者、死を経験した者、■■■の盟友
【能力】星遊戯盤 Level:1
星属性魔法 熟練度:2
《オリジン》、《ビックバーン》、《オリジンティック》、《ビギニングライト》、《カオス》、《スター》、《コスモス》、《ビカム》
【祝福・加護】
ルシフェルの祝福
【職業】星導司Level:1
【備考】
記憶欠落状態態
持ち駒
アバター・アイディアル
×1
ブラッティーバット×1
ケイウ゛モール
×1
キャンドルン
×1
スケルトン
×15
ゴースト
×15




