星遊戯盤、モンスターと激突する駒達
「さて、始めようか」
「はい!」
現在僕とアークさんは、向かい合う形で部屋の真ん中に立っている。
マールさんとベルグさんは部屋の端から僕達を見ている。カミューラさんは、荷車からオプションパーツ以外の他の機材を移動させて、何かの準備をしている。ここから見る分にはメーターとかしかわからないが、何かを測る機械のようだ。
「カミューラ、そちらの準備はどうだい?」
「問題無い。ちょうど準備が終わったところだ。リュウセイ」
「なんですか?」
「最初はこちらから指示を出すから、そのとおりに行動してくれ」
「わかりました」
僕は一つ頷くと、指示が来るのを待った。
「それでは星遊戯盤の方から頼む」
「わかりました。《アウェイク》」
僕は星遊戯盤を起動させた。すると、僕を中心に魔力が球形に広がっていった。
「発動しました」
「うむ、こちらでも確認した。カードの内容によると、今展開している魔力の範囲が能力の有効範囲か」
「そうなりますね」
これは森の中で確かめたから間違いない。
「カードによれば、この範囲のことを《ボード》(遊戯盤)と呼称するそうだ」
「ボード」
ボードゲームのボードかな?というか、能力の現象に別個に名前がついている?それは能力としてどうなんだろ?
「さて、カードからボードの内容を確認するぞ」
「お願いします」
僕はボードについて微妙な気がしたが、カミューラさんはサクサク次にいった。
「まずこのボードの基本的なことについてだ。
一つ、このボードが展開した範囲で手駒を操作することが出来る。
一つ、このボードは終了条件を満たすまでその空間に固定される。
一つ、このボードが発動中は《プレイヤー》(発動者)はボードの外に出られない。
一つ、終了条件が満たされない状態でボードが解除された場合、その原因となったものに《ペナルティー》(罰則)が発生する。
一つ、ボードの中と外の空間はズレている為、外から中からの攻撃は出来ない。(外からの進入は可能)
一つ、このボードは星遊戯盤のLevelUPにともないサイズ(ボード有効範囲)が大きくなる。
一つ、ボード上に出せる手駒の数は星遊戯盤のLevelに依存する。
一つ、ボード上に出せる手駒の強さはプレイヤーの力量に依存する。(この関係を《コスト》と呼ぶ)
とのことだ」
「へぇー、結構細かいですね」
ただの能力なのに、条件づけがわりと細かかった。
「たしかに細かいな。というか、細か過ぎるような?」
「そうだな。普通はここまで縛りはないはずだ」
「私もこれだけ制限のある能力は知らないな」
「同じく。人が初期に持っている能力にしては、遊びの部分が無いように見えますよね」
他の四人も同じようなことを言った。
どうやら、こういう条件づけが多い能力はこの世界では珍しいようだ。いや、マールさんの言葉からすると、この世界以外を含めても珍しいのかもしれない。
「そんなに珍しいんですか?」
「「「「珍しい」」」」
一応確認したら、異口同音に肯定された。やっぱり珍しいのか。
「しかもまだボードについてだけだからな」
カミューラさんは、機械を見ながら難しい顔をした。
そういえば、まだ駒についてとかの内容も大量にあるな。
さっきのステータスカードにあった項目を思い出して、僕は先が思いやられた。
「まあ、次に行こう。次は手駒についてだ。こちらも細かいがいくぞ」
「お願いします」
「まずは、手駒についてだ。この手駒というのは、現在リュウセイが所有している駒のことを指す」「今持っている駒となると、アバター・アイディアルですか?」
というか、それ以外に手持ちに駒は無い。
「そうなるな。次に、駒の基本的なステータスについてだ」
「基本的なステータスですか?」
駒にステータスなんてあるんだ。いまひとつしっくりこなかった。これがゲームだとしっくりくるんだけどな。
僕は、この能力を名称からチェスの方向で考えていたせいかそう思った。
「ああ。詳しい入手方法は後で説明するが、駒はモンスターや人間の形状をしている通常の駒と、今リュウセイが使っている化身のような物があるようだ」
「はーい!通常の駒と化身の違いはなんですか?」
「良い質問だ。通常の駒は、プレイヤーが操る物。化身の方は、プレイヤー自身がなるものらしい」
「はあ」
通常の駒がチェス駒。化身が今の状態という理解でいいのかな?
「次に、それぞれの駒のステータスについてだ。通常の駒の初期ステータスは、元になったモンスターや人間の平均ステータスになる。能力なども同じだ。ちなみに、通常の駒はLevelUPはしないそうだ」
「そうですか。じゃあ、通常の駒の強さは上がることはないんですね」
そうなると、強い駒を手に入れていかないと戦力は増えないのか。けど、そうするとコストに引っ掛かりそうだな。
ボードの説明と合わせて、制限が多い能力だと思った。
「いや、通常の駒を強化・成長させることは可能だ。しかし、これも説明が細かいから今は省くぞ」
「わかりました」
「次に化身のステータスについてだが、こちらのステータスはプレイヤーと共通だ。能力もプレイヤーが使えるものが使える。ただし、それぞれの駒に一つ特殊な駒専用能力というものがある」
「駒専用能力?このアイディアルにもあるんですか?」
僕は、駒の目線と俯瞰視点でアイディアルの身体を観察した。基本的に自分の身体なので、そんな特殊な能力があるようには見えなかった。
「当然あるぞ。そのアイディアルの専用能力の名前は、《理想の結実》というそうだ」
「理想の結実ですか?」
「そうだ」
「どんな能力なんですか?」
理想という名前からして、自分の望みを反映するような能力かな?
「内容を読みあげるとだな。
一つ、この駒を使用中にLevelUPすると、所持者の望む成長の理想がステータスに反映される」
「成長の理想ですか?」
「そうだ。例としては、魔力を成長させたい。筋力を上げたいとかだな。普通なら、LevelUP時に上がるステータスはその者の種族や性質に影響を受ける。だが、この能力を使えばある程度自分の好きなようにステータスを上げられるということになる」
「おー!なんか良さそうな能力ですね。ちなみに、能力は理想が反映されないんですか?」
可能なら、自分の好きな能力が取り放題になるのに。
「良い着眼点だ。それは次の項目になるな。
一つ、この駒を使用中にLevelUPすると、所持者の望む成長の理想が能力に反映される」
「え!それじゃあ!」
能力が取り放題に!
「ただし、こちらは制限とデメリットがある」
「制限とデメリットですか?」
つくづくそういうのがある能力だな。
「そうだ。まずは制限からだな。
一つ、得られる能力はプレイヤーのスペックに納まるもの。
一つ、得られる能力はプレイヤーが自力で獲得可能なもの。
一つ、プレイヤーのLevelUP前の能力の上位能力は、一つ上の能力以外は不可。
一つ、複数の能力を同時獲得することは可能であるが、前述の制限を複数の能力全てが満たしていること。
だそうだ」
「チートは無理そうですね」
あくまで実現可能な理想を結実させる能力なんだ。けど、制限の法則もゲームっぽいな。
「次にデメリットだ。
一つ、理想が反映された能力を獲得する場合は、その能力の強さに応じたマイナス補正がステータスの上昇にかかる。
一つ、複数の能力を獲得した場合、本来得られるはずだった能力が得られないことがある。(得られなかった能力は、次回LevelUP時に獲得する)
一つ、理想と現実に差があり過ぎる場合、その落差が能力に反映される。
一つ、この駒を使用中は経験値の獲得量が減少する。
と、なっている」
「ある意味常識的ですね」
なんか、当たり前のデメリットだった。逆に考えると、能力の落とし穴とかはなさそうな感じだ。
僕は、少し安心した。
「さて、次は通常の駒と化身の共通する部分についてだ。
一つ、全状態異常無効。
一つ、スタミナ消費による体力減少無効。
一つ、破損・破壊無効。
一つ、全力戦闘可能。
一つ、体力が0になった場合、駒はボードからプレイヤーの元に戻る。
一つ、体力が0の駒は体力が自動回復し、体力が満タンになるまで再使用不可。
一つ、駒が消費する魔力は、プレイヤーの魔力から消費される。
一つ、駒はプレイヤーの意思でいつでも入れ替えることが可能。
一つ、駒は紛失すると、紛失した駒が砕けて新しい駒がプレイヤーの元に出現する。
一つ、駒の全てはプレイヤーの中に保存される。
以上だ」
「そうなんですか・・・」
だいたいは理解出来る。しかし、全力戦闘ってなんだろう?それと、なんでこの能力駒の紛失なんてシチュエーションも対策があるんだ?
「カミューラさん。全力戦闘ってなんですか?」
僕は、とりあえず答えがありそうなことを聞いた。紛失の件については、便利だからおいておくことにした。
「それか。ええっとだな・・・あ!あった!何々、ふむふむ」
カミューラさんは、機材をいじりだした。そして、少し間をおいて何かを見つけたようだ。いや、何かではないか。
「どうやら全力戦闘と言うのは、リミッターが無い状態で戦闘出来るということのようだ」
「リミッターですか?」
制限装置?けど何の?
「そうだ。人の身体というのは、全力を出すと肉体が耐えられない為、普段は力を抑えた状態なのだ。これがリミッターだ。そして、このリミッターを外した力を、一般的には火事場の馬鹿力と言う」
「ああ!たしかにそんな風に言いますよね」
知識でそんながあるな。それにしても、全力戦闘って火事場の馬鹿力のことなのか。
「さて、それで全力戦闘についてだが、ステータスの数値がそのまま自分の使用可能なステータスの上限ということだろうな」
「お~!凄そうですね」
ということは、同じステータス値でもこちらの方が強いってことだよね。同ステータス帯なら圧倒的にこちらが優位に立てるかな?
「駒のことは現状はこの程度でいいだろう。さて、実戦をしてみようか」
「実戦ですか?それって」
僕は視線をカミューラさんからアークさんに移した。
「そうだ。しかし、リュウセイの能力を見た結果、先にモンスターと戦ってもらうつもりだ」
「モンスターですか?」
「そうだ」
アークさんの話だと、このダンジョン内いるモンスターは蝙蝠とモグラとかだって言っていたから、そんな見た目のモンスターが出て来るのかな?
「わかりました」
「良い返事だ。それでは出すぞ」
パチン!
「うわぁっ!?」
僕は思いっきり驚いた。だって、カミューラさんが指を鳴らした途端、いきなり目の前にモンスターが出現したんだから!
ブラッティーバットLevel1
ケイウ゛モール Level1
俯瞰視点で出現したモンスターを確認すると、予想通りの名前が見えた。
ブラッティーバットは、知識にある血吸い蝙蝠にそっくりだ。ちっちゃくて愛嬌がある気もするが、たしか本物は危険生物に入っていたはずだ。鋭い牙で皮を裂き、そこから血を吸い上げる。噛まれると、しばらく血が止まらなくなると僕の知識にはある。
ケイウ゛モールの方も、ぱっと見は普通のモグラと同じだ。しかし、よく見ると腕と爪が肥大化している。おそらく、洞窟の岩盤などを掘る為にその方面が強化されているのだろう。
この二体は、生物的な観点から脅威になると僕は判断した。けれど、出現したモンスターはこの二体だけではない。が、この二体と違って残りは判断がつけずらかった。
ゴースト Level1
スケルトン Level1
キャンドルン Level1
なんせ、残りはオバケに骸骨に西洋風蝋燭の三体だったんだ。が、この際前者二つはモンスター的でいいと思うことにした。だけど、後者のキャンドルンっていうのは何なんだろう?
僕は、どこかのゲームキャラのような蝋燭を見て、ただただそう思った。
大きさは約20㎝。蝋燭の色は白。灯っている火の色は赤。ここまでなら普通の蝋燭だ。しかし、この蝋燭には手足も顔も付いていた。
他にどんな感想を持てといった感じである。
「あのーカミューラさん?」
「どうかしたか、リュウセイ?」
「あのキャンドルっていうのは何なんですか?バットとモールの方はダンジョン発生時のモンスターでしょう。ゴーストとスケルトンの方もアンデット繋がりでカミューラさんが出現させてもおかしくはないと思います。けど、あのキャンドルンだけはモンスター達の中で一体だけ浮いてないですか?」
「そうだな。リュウセイがそんな感想を持つのは当たり前だな。うむ、リュウセイの感想は正解だ。このダンジョンの中でもあのキャンドルンは浮いた存在だ」
「理由を聞いても?」
「構わないぞ。あのキャンドルンは、元々はこの城の食卓にあった燭台が、モンスター化したものなのだ」
「燭台ですか?」
複数の蝋燭が立てられた三つ又の燭台のイメージが頭の中で浮かんだ。
「今リュウセイがイメージした燭台で合っているよ。長年大事に使っていた燭台の蝋燭が、ここ最近何故かモンスターになってしまうのだ」
「原因はわからないんですか?」
「あいにくとさっぱりだ。しかし、私達に敵意を向けんのでな、今でも普通に蝋燭として使っているよ。なにより、消耗品で無くなったのが良いしな」
「そうですか」
カミューラさんて意外に豪胆なんだな。けど、ウ゛ァンパイアが使役するモンスターとして、蝋燭ってどうなんだろう?
「まあ、それは今はどうでもいい。さっさとあいつらと戦ってくれ」
「全部一度にですか?」
「出来るのならそれでも構わないが、どうする?」
「バットとモールはともかく、他の三体はどうやって倒せば良いんですか?」
バットとモールは叩けば倒せると思う。けど、オバケとか骸骨ってどうやって倒せばいいんだろう?やっぱり、お経とか浄霊とかかな?
僕は、知識からお坊さんのイメージを引っ張り出してそう考えた。
「ゴーストとスケルトン、キャンドルの倒し方か?それは自分で観察して考えることだ。まあ、来訪者にそう言うのは酷な話か。ヒントをやろう。ヒントは、ゲームと同じだ」
「ゲームと同じですか?・・・なるほど!わかりました」
僕は、カミューラさんがくれたヒントから倒し方がすぐにわかった。僕は、モンスター達と向き会った。
「さて、では前半戦はブラッティーバットとケイウ゛モールと戦ってもらう。では始め!」
カミューラさんが戦闘開始を宣言すると、モンスター達の中からバットとモールがこちらに向かって来た。
「ではこちらも」
僕も二体に向かって走り出した。
リュウセイがブラッティーバット達に接近すると、ブラッティーバットは牙で、ケイウ゛モールの方は爪でリュウセイを攻撃してきた。
「当たらないよ」
リュウセイは、二体の攻撃をその素早さで軽々と避けていった。
「ほうっ!リュウセイはなかなかの動きをするな」
ベルグは、リュウセイの戦闘を見て感心した。
「たしかにな。足元と空中という二面攻撃を掠りもさせないとはな」
カミューラも、足元と空中からの同時、または連続攻撃を危な気なく避けるリュウセイも見て感心した。
「まあ、あれは身体能力以外も活用していますからね」
サマエルは、昨日のリュウセイとの会話を思い出しながらそう言った。
「どういうことだ?」
「竜星さんは、あの能力の発動中は視点が二つに増えるそうなんです」
質問してきたベルグに、サマエルはそう説明した。
「ああ!プレイヤー視点というやつか」
カミューラは、サマエルの説明を聞いて、ステータスカードの内容からリュウセイの動きの理由に納得がいった。
「プレイヤー視点?それはどういったものなんだ?」
ベルグだけがリュウセイの動きの理由がわからずに困惑している。
「竜星さんいわく、空中から足元を見下ろす感じらしいですよ」
「ステータスカードの詳細では、そのことをプレイヤー視点と表示されているのだ」
「ほぉー、そうなのか」
ベルグも納得がいって頷いた。
「それにしても凄い回避能力だな。とても来たばかりの来訪者には見えんぞ」
「そうだな。たいていの来たばかりの来訪者は、スペックはともかく戦闘経験はないからな」
「そうですね。こちらに来る転生者は日本の方が多いですから、戦闘経験なんて持ち合わせている人は極稀ですからね」
サマエル達がそんな話をしている間も、リュウセイは二体の攻撃を回避し続けている。
「だが、なんでリュウセイは回避しかしていないんだ?」
「そうだな。あれだけの動きが出来るのなら、攻撃も反撃も出来そうなものだが?」
「そういえばそうですね。竜星さんは何故二体をすぐに倒してしまわないんでしょう」
そう、サマエル達が言うとおりリュウセイはさっきから回避しかしていない。
たしかに危な気なく敵の攻撃を回避している。しかし、自分からはいっこうに攻撃をしかけていない。というよりか、しかけようともしていなかった。
リュウセイは、ホーンラビット達と戦った時と同じように持久戦をしかけているのだ。
リュウセイにはスタミナ消費による体力減少がない。しかし、相手のモンスターにはそれがある。リュウセイはたしかに攻撃を一切していない。だが、敵は確実に疲弊していた。
さて、何故リュウセイはこんな戦法をとったのだろうか?理由は簡単である。武器の持ち合わせがないからだ。足元にいるケイウ゛モールは蹴飛ばせば倒せるだろうが、空中を縦横無尽に飛び回るブラッティーバットの方を倒すのは、武器が無い現状では難しかった。上空に逃げられると、どうしてもリーチが足り無くなってしまうのだ。だから、わざと攻撃させて相手を疲弊させているのだ。なので、現在リュウセイは相手がスタミナ消費による体力減少で動けなくなるのをただひたすらに待っているのだ。
もっとも、モンスターとはいえ小動物がベースな為、敵二体のスタミナはそろそろ切れそうになっている。
その証拠に、リュウセイを襲う二体の動きは最初に比べて随分遅くなっていた。
「チャンス!」
そして、ブラッティーバットがとうとう飛んでいられなくなった。それを見たリュウセイは、ここぞとばかりに反撃に打って出た。
途中、ブラッティーバットを守るようにケイウ゛モールがリュウセイの前に立ち塞がった。しかし、リュウセイはケイウ゛モールを蹴飛ばして一撃で沈めた。ケイウ゛モールの方も疲弊していた為、リュウセイの攻撃を避けることが出来なかったようだ。
リュウセイの攻撃を受けて、ケイウ゛モールの体力は0になった。
リュウセイは、ケイウ゛モールを倒した勢いのまま、地面に不時着していたブラッティーバットに拳で攻撃をしかけた。
ブラッティーバットは、リュウセイの攻撃を飛んで回避しようとしたが、ケイウ゛モール同様回避することが出来ず、リュウセイの一撃で体力が0になって倒された。
「よっし!」
リュウセイは、二体の体力が0になったのを確認して、ガッツポーズをとった。
「倒しましたよ、カミューラさん!」
そして、カミューラに勝利を報告した。
「さて、まずは一勝だな。リュウセイ」
「なんですか?」
「今倒した二体に触ってみろ」
「触ればいいんですか?」
「そうだ」
「わかりました」
リュウセイから報告を受けたカミューラは、一つ頷くとリュウセイにそう指示した。
リュウセイは、なんでそんなことをするよう言われたのかわからなかったが、カミューラの指示通りに倒したブラッティーバットとケイウ゛モールの身体に触れた。
パアァァァ!!
すると、二体の身体が発光しだした。
「えっ!えっ?何!?」
リュウセイは突然の事態に慌てた。
「大丈夫ですよ竜星さん。そのまま触っててください」
「えっ?触っていて大丈夫なんですか?」
リュウセイは、サマエルの言葉が信じられなくて確認した。
「大丈夫です。その現象はこの世界では普通のことですから」
「わ、わかりました」
リュウセイは、サマエルを信じてとりあえず二体に触り続けることにした。
パアァァァ!!!バシュッ!!
リュウセイが触っていると、だんだん発光が強くなり、そして何かが二体の身体から飛び出してきた。
「えっ!ステータスカード?」
二体から飛び出してきた物を見て、リュウセイは半信半疑にそう言った。そして、リュウセイは恐る恐る飛び出してきた二枚のステータスカードらしき物に手を伸ばした。
リュウセイの手がカードに触れると、カードは光になってリュウセイの中に吸収されていった。
ポーン♪
やがて光が吸収され切ると、空中からそんな音が呆然としているリュウセイの耳に届いた。
「経験値獲得成功ですよ竜星さん」
サマエルは、呆然としているリュウセイにそう告げた。
「経験値?」
リュウセイは、サマエルのその言葉に反応した。
「はい。この世界では、倒した相手のステータスカードを自身に取り込むことで経験値を獲得するんです。今竜星さんは、ブラッティーバットとケイウ゛モール。二体の経験値を獲得したんです」
「そうなんですか。じゃあ、経験値を獲得した後に聞こえて来た音は?」
リュウセイは、だいたい察しがついているがサマエルに確認した。
「それはLevelUP時の音だ」
しかし、リュウセイの疑問にはカミューラが答えた。
「こちらでもリュウセイのLevelUPは確認した。ステータスも軒並み上がっているから、確認してみろ」
「わかりました」
リュウセイは、カミューラに言われるままに、ステータスカードをポケットから取り出して内容を確認した。
ヤテン リュウセイ
Level:2
年齢:18
種族:アステリアン
【補正】全項目+2
【体力】
20/20
【魔力】
200/200
【筋力】7
【耐久力】 5
【敏捷】 30
【器用】 15
【精神】 40
【幸運値】50%
【属性】星
【称号】世界を渡った者、死を経験した者、■■■の盟友
【能力】星遊戯盤 Level:1、星属性魔法 熟練度:1
【祝福・加護】
ルシフェルの祝福
【職業】星導司 Level:1
【備考】
記憶欠落状態
「かなり上がってますね。上がり過ぎな気もしますけど」
リュウセイは、ステータスカードの魔力などのLevel1の時から二倍の値になっている箇所を見てそう口にした。リュウセイとしては、LevelUPしてもせいぜい一桁上がるか上がらないか程度だと思っていたのだ。が、現実は約二倍。能力が増えていないことを踏まえて、化身の能力である理想の結実の効果がステータス方面に発揮されたと考えても、破格の上昇率である。
「いえ、来訪者のステータス上昇としてはわりと普通ですよ」
と、思っていたリュウセイにサマエルから斜め上の事実が告げられた。
「えっ!そうなんですか?」
「ええ。そもそも、この世界の人と転生者の人とのLevelのスタートが違いますから」
「スタート?」
「そうです。この世界の人達は生まれた時点がLevel1です。大人になる頃には、最低でもLevel5は越えています。それにたいして、転生者の方達は転生前。生前の能力と年齢をLevel1の状態にしているんです。ステータスの上昇率は、当然その分の差が出てきます」
「言われてみれば、そうですね」
リュウセイは、小説やゲームと現実の差を理解した。たしかにLevel1の意味に差があるのは当然のことだとも思った。
「リュウセイ、ステータスカードの確認が終わったのなら、今度は星遊戯盤の方も調べてみろ」
リュウセイがサマエルの説明に納得していると、カミューラがそう言ってきた。
「星遊戯盤ですか?けどこっちはLevelUPとかしていないですよ?」
リュウセイは、カミューラの言葉を不思議に思った。
「調べてみればわかる」
「わかりました」
リュウセイは、言われるままに星遊戯盤を調べた。
「あれ?」
すると、星遊戯盤のところにNew!という点滅している箇所があった。
「なんだろうこれ?」
リュウセイは、とりあえずその部分をタッチしてみた。
New ブラッティーバット×1
New ケイウ゛モール×1
すると、そんなメッセージが表示された。
「それが新しい駒だ」
「新しい駒ですか?」
「そうだ。先程は説明を省いたが、新しい駒を獲得する為の方法の一つがこれだ」
「つまり、モンスターを倒すか経験値にすると駒が手に入るってことですか?」
リュウセイは、自分の予想をカミューラに言った。
「そうだ。正確に言えば後者だな。自分が倒したモンスターのステータスカードを取り込むと、取り込んだ情報を元に駒を作成するらしい」
「そうなんですか」
カミューラはリュウセイの予想を肯定し、そう説明した。リュウセイは、カミューラのその説明に納得した。
「早速実体化させてみたらどうだ」
「そうですね。ええっと、実体化については」
リュウセイは、ステータスカードから実体化についての項目を探した。
「あっ!ありました。駒を選んで、《アレインヂメント》(配置)っと」
リュウセイは、ブラッティーバットの駒を選んでそう言った。すると、ボード上に先程戦ったのとそっくりなブラッティーバットが出現した。とても生き生きとしていて、とても駒とは思えない存在感を放っている。
「おー!本当に出ましたよ!」
リュウセイは、若干興奮しながらサマエル達に向かってそう言った。
「本当に出たな」
カミューラ達も、出現したブラッティーバットを見て、驚いていた。
「ふむ。これで星遊戯盤の基礎の確認は出来たな。次は、その駒達を使って戦ってみるか?」
「はい、やってみたいです!」
カミューラの提案を、リュウセイは二つ返事でうけた。
「そうか。では相手は、・・・キャンドルン行け!」
カミューラは、残っているモンスター三体を見て、キャンドルンを前に出した。
「それじゃあこちらも。ブラッティーバット行け!」
リュウセイも、キャンドルンの前にブラッティーバットを出した。
「それではいくぞ。戦闘開始!」
カミューラが二体の位置を確認して、戦闘開始を宣言した。
「行け!」
リュウセイは、ブラッティーバットをキャンドルン目掛けて突撃させた。
キャンドルンは、向かって来たブラッティーバットに腕も振り上げて応戦した。しかし、ブラッティーバットはキャンドルンの攻撃をいとも簡単に避けていった。
ブラッティーバットの移動速度は、先程のブラッティーバットよりも明らかに上だった。
これが全力戦闘可能の効果なのだろうと、観客の四人は皆思った。
ブラッティーバットは、先程のリュウセイの動きをなぞる様に行動した。自分からは攻撃をしかけずに、相手の攻撃を次々に回避していっている。
その戦い方を見て、またスタミナ切れを狙っているのだろうと誰もが思った。
しかし、リュウセイはただスタミナ切れを待っているだけではなかった。
ぐらっ
ブラッティーバットに攻撃をしかけていたキャンドルンの身体がふらつき始めた。
「どうしたんでしょう?」
「わからん?」
サマエルとベルグの二人は、ふらついているキャンドルンを訝しそうに見た。
「どうやらリュウセイはブラッティーバットの能力を使っているようだな」
「ブラッティーバットの能力ですか?」
「ああ」
「ブラッティーバットの能力って何ですか?」
「今リュウセイが使用させているのは、超音波だな」
「超音波?蝙蝠が使うあれですか?」
「それだ。どうやらリュウセイは、私達に聞こえない低周波の超音波をキャンドルンに照射していたようだ」
「それであれですか」
「おそらくな」
リュウセイはただ相手を疲労させていただけではない。ブラッティーバットの蝙蝠としての能力を使い、地道にダメージも与え続けていたのだ。
現在のキャンドルンは、攻撃による疲労と超音波によるダメージで、すっかりフラフラになっていた。
「ですが、あのキャンドルンに超音波を聞く耳はあるんですか?」
サマエルは、キャンドルンの姿を上から下まで確認してそう疑問に思った。
「そういえばそうだな。キャンドルンに耳などあったか?」
カミューラは、サマエルの疑問に自分も疑問を持った。
「関係ないですよ」
二人が頭を悩ませていると、リュウセイがそう言った。
「竜星さん。関係ないとはどういう意味ですか?」
「そうだ、どういう意味だ?」
サマエルとカミューラは、揃って今の言葉の意味をリュウセイにとうた。
「簡単なことですよ。僕が超音波を当てているのは耳のような感覚器官ではなく、キャンドルンの身体全体だということです」
「身体全体ですか?」「そうです。あのキャンドルンって、蝋燭が元でしょう。ですから、感覚器官からではなく蝋燭の方から攻めてみたんです」
「蝋燭の方からですか?」
「はい。構成物質がほぼ蝋燭ですから、その固有振動に介入出来ればああなります」
「ああ、だからですか。しかし、固有振動に介入出来るのなら、キャンドルンそのものを破壊出来るのでわ?」
サマエルは、リュウセイの説明に引っ掛かりを覚えて、新たにそう質問した。なんせ、キャンドルンはふらついてはいるが、身体が破損したという様子はないからだ。
「それはさすがに無理ですよ」
「何故ですか?」
「単純に出力不足です。いくら僕の能力で全力を出せるとはいっても、限界を突破しているわけじゃあありませんから。けど、ステータスが向上すれば可能かもしれませんね」
リュウセイは、意味ありげな視線をカミューラにやりながらそう言った。カミューラの言っていた、駒の強化に関することがリュウセイも気になっているのだ。
バタン!
リュウセイ達が話をしている間も二体の攻防は続き、そしてとうとうキャンドルンが倒れた。
「終わりみたいですね。それじゃあ、トドメを刺すとしましょうか」
リュウセイがそう言うと、ブラッティーバットが倒れたキャンドルン目掛けて急降下した。
「甘いな」
リュウセイがこれで終わりだと思っていると、カミューラのそんな呟きが聞こえてきた。
リュウセイは、何かと思いカミューラの方を振り向いた。
ボーン!
リュウセイがカミューラの方を見た直後、そんな音を響かせてブラッティーバットがボーン上から消えた。
「えっ!?」
そのことに驚いたリュウセイは、慌ててブラッティーバットの駒を見た。すると、ブラッティーバットの駒の体力が0になっていた。
「なんで?」
リュウセイは、わけがわからず混乱した。先程まではこちらが優勢だったはずだ。キャンドルンは、スタミナ切れと超音波でフラフラになり倒れた。こちらは最後にトドメを刺そうとしていた。そう、こちらの勝利となるはずだ。なのに、現実はブラッティーバットの方がやられてしまっている。いったいどうなっているんだ?
リュウセイの頭の中では、そんな考えが飛び交った。
「リュウセイくん。戦況はちゃんと把握していないと駄目だよ」
「すみません。けど、目を離したのは一瞬だったのに、いったい何が起きたんですか?」
アークは、疑問だらけのリュウセイにそう声をかけた。かけられたリュウセイは、すぐに謝った。そして、何が起こったのかアークに尋ねた。
「それはだね・・・」
アークは、先程の戦闘の様子を語った。
あの時リュウセイは、キャンドルンが虫の息だと思ってトドメを刺そうとしていたが、実際にはまだその段階にはいっていなかったそうだ。キャンドルンはわざと倒れて見せ、ブラッティーバットがトドメを刺そうとするように仕向けた。その結果、リュウセイはキャンドルンのその誘いに見事に引っ掛かかった。
だからカミューラはリュウセイに甘いと言ったのだ。
カミューラの方にリュウセイが注意を向けたタイミングでキャンドルンは反撃した。
キャンドルンは、自分の頭の炎を大きく燃やし、自身が溶けるのもかまわずに自身の最大威力の攻撃を放った。
キャンドルンから放たれた炎は、リュウセイの制御が甘くなっていたブラッティーバットに直撃。ブラッティーバットを一撃で倒した。
「相手の状況がちゃんと把握出来ていないと、こういうことになるよ」
アークは、最後にそう締めくくった。
「そう、ですね」
リュウセイは、アークの説明で自分の判断の甘さを反省した。
「アークさん。そういうのって、どうやって見分ければいいんですか?」
「そうだねぇ?その手の能力が無い場合は、戦闘経験を地道に積むしかないね。ある程度の戦闘をこなせば、戦ったことがある相手が何が出来て、何が出来ないかはだいたいわかるようになるよ」
「そうなんですか?」
リュウセイは、あまり実感がわかなかった。
「さて、そろそろ次を出したらどうだい?最後の力を振り絞った結果、キャンドルンは虫の息だよ」
アークにそう言われたリュウセイは、キャンドルンの方を見た。するとそこには、身体の蝋燭が溶けてドロドロになっているキャンドルンが倒れていた。先程のアークの話からすると、キャンドルンは命を削って反撃したようだ。
「そうですね。けど、今度は慎重にいきます。アレインヂメント」
そう言うとリュウセイは、新しくケイウ゛モールの駒をボード上に出現させた。
「さあ、今度はさっきみたいにはいきませんよ」
リュウセイは、キャンドルンに視線を固定して、ゆっくりとケイウ゛モールを前進させていった。
ケイウ゛モールが近づいて来ても、キャンドルンはまともにそちらを見ることも出来なかった。先程の反撃で、余力がもうほとんど無いようだ。
無理もない。キャンドルンは蝋燭。炎で溶けるのはある意味当然のことだ。そして、モンスター化してもその辺りの性質は変わらないらしいこともこれでわかった。それにしても辛そうだな。教訓を一つ教えてもらったことだし、早く楽にしてあげたい。けど、それでまた失敗するわけにはいかない。
リュウセイは、キャンドルンを見ながらそう思った。その結果、ブラッティーバットの時のように突撃などはせず、一歩ずつ確実にキャンドルンに駒を近づけて行った。
そして、リュウセイが様子を伺うなか、キャンドルンの溶解はキャンドルンの手足が溶けるところまで進行した。
「よっし!行け、ケイウ゛モール!」
それを確認したリュウセイは、キャンドルンに残った反撃手段。頭の蝋燭を警戒しつつ、ケイウ゛モールを向かわせた。
ザシュッ!!
ケイウ゛モールは、その鋭い爪をキャンドルンに向かって振り下ろした。
今回、キャンドルンは反撃のチャンスを見つけられず、ケイウ゛モールの一撃をまともに受けた。そして、ケイウ゛モールの一撃を受けたキャンドルンの体力は0になり、キャンドルンは倒された。
「よし!」
リュウセイは、ガッツポーズを決めた。その後、何を思ったのか両手を合わせてキャンドルンに一礼した。
そのリュウセイの行動に、サマエル以外はリュウセイは何をしているのだろう?と思った。しかし、リュウセイの雰囲気を見て、そのことを質問する者は誰もいなかった。
皆が見守る中、リュウセイは倒したキャンドルンのステータスカードを手にとり、吸収して自身の経験値に換えた。
その一連の流れを見ていたサマエルは、お通夜のようだと思い、自身もキャンドルンに黙祷した。
「次をお願いします」
「わかった。しかし、残り二体を倒せそうか?」
リュウセイは、すぐに次の相手を望んだ。それを聞いたカミューラは、戦闘前の予想が外れ気味でリュウセイにそう確認した。
「先程のLevelUPで魔力はかなり増えていますから、大丈夫だと思います」
リュウセイは、ある程度の根拠があったので、自信を持ってそう言った。
「たしかに魔力は上がっているから、回数をこなせば倒せるようになる可能性はある。だが、戦闘前にしておかなくて良いのか?」
「かまいません。とりあえず駒で時間稼ぎをしながらやってみます。でも、魔力が空になっても駄目そうなら中断をお願い出来ますか?」
リュウセイは、実戦感覚でチャレンジするつもりだ。前持って有効打を持っていない場合もあるだろうし、その辺りの緊張感も知っておきたいからだ。
「わかった。アーク、そちらも目を光らせておいてくれ」
「わかっていますよ、カミューラ」
カミューラは、リュウセイの頼みを了承した。そして、アークにも注意しておくように頼んだ。アークはこれを快く請け負った。
リュウセイも、アークが危なくなったら守ってくれることで安心した。
「それでは最終戦だ。両者前に」
カミューラさんが呼びかけると、ゴーストとスケルトンが前に出た。リュウセイも、アイディアルとケイウ゛モールを二体の正面に移動させた。
「それでは、戦闘開始!」
カミューラが戦闘開始を宣言すると、リュウセイとゴーストが後ろに下がった。反対に、ケイウ゛モールとスケルトンは前に出て、両者の真ん中で激突した。
ケイウ゛モールは爪を、スケルトンは腕を使っての肉弾戦だ。
ガキィンッ!ガキィンッ!ガキィンッ!
二体は一進一退の攻防を繰り広げた。ケイウ゛モールは、相変わらずの回避戦略。ただし、アンデットにスタミナは無いだろうから、今回は回避の合間に攻撃を織り交ぜたヒット&ウェイで攻めていく。
対するスケルトンは、ケイウ゛モールの攻撃を無視してひたすら攻撃を行っている。やはりアンデットには防衛本能が無いのだろう。あるいは、ケイウ゛モールの攻撃が骨の身体には効果が無いからかもしれない。
それならこちらも早めに攻略準備に取り掛かろう。
「《オリジン》」
リュウセイは、ケイウ゛モールをプレイヤー視点で動かしつつ、魔法を発動させた。
「駄目か。ではもう一回。《オリジン》」
しかし、一度目では熟練度が上がらなかった。なので、続けて二回目を発動させた。
「また駄目か。オリジンの一回の消費魔力は30。僕の今の最大魔力量は200。残りは140だから、オリジンは後4回使用可能。だけど、オリジンの消費魔力量を考えると、熟練度上昇で出る新しい魔法も同じくらいの消費魔力が必要だよね。すると、スケルトンとゴースト相手に魔法一発ずつで倒すとして、残り使用可能回数は二回か」
二回目のオリジンでも、熟練度は上がらなかった。ただ、星力が増えたことで補正値が上昇しているので、別に失敗や不発というわけではない。だが、狙いが外れ続けているのも事実。
リュウセイは、頭の中でこれからの魔法の使用について思案した。
「さて、じゃあ残りをして、・・・うん?」
リュウセイは、残り二回分の《オリジン》を発動させようとして、急に止めた。プレイヤー視点で見ていた、スケルトンの後ろにいたゴーストの姿が突然消えたからだ。
リュウセイは、慌てて周囲を警戒した。
「どこいったんだあいつ?」
リュウセイは、プレイヤー視点と化身視点の二つを使ってボード上を隈なく探した。しかし、ゴーストの影も形も見つけることは出来なかった。
「ゴースト。幽霊としての能力か?」
リュウセイは、ゴーストを見つけられない理由をそう判断した。
普通の人には見えず、こちらからは触れられないのに向こうはポルターガイストのような念力で触れてこられる。さらには、見える生者から隠れられることも可能な特性に、音も臭いも無く、光も必要としない圧倒的なステルス性。ついでに壁のような物質透過も出来て、何処からでも出現出来る神出鬼没さ。
リュウセイは、知識にある幽霊の能力を思い出して、戦闘をするのは早まったかな?と、思った。あるいは、素直にカミューラさんの提案を聞いておけばよかったとも。そうすれば、獲得した魔法にもよるが、最初の場面でゴーストを倒せたかもしれない。
「うん?物質透過?」
リュウセイは、自分の判断を後悔し始めたが、ゴーストの能力に引っ掛かりを覚えた。そう、壁をすり抜ける物質透過についてだ。プレイヤー視点と化身視点で見たのはあくまでボード上だけ。ゴーストが足元に潜り込んでいる可能性を失念していたのだ。
「ええっと、あっ!いた」
リュウセイは、駄目もとで足元を調べた結果、自分の後方にいたゴーストを見つけた。どうやらこの星遊戯盤、効果範囲が半球形ではなく球形らしく、プレイヤー視点だと地下も普通に確認出来るようだ。
「あっ!」
リュウセイは、慌ててアイディアルの位置をズラした。リュウセイが化身を移動させた直後、アイディアルがさっきまでいた場所からゴーストが飛び出して来た。間一髪回避が間に合った感じだ。
「《オリジン》、《オリジン》!」
リュウセイは、ゴーストから目を逸らさずに残り二回分のオリジンを発動させた。しかし、結局熟練度は上がらなかった。今までのオリジン使用回数は、昨日今日合わせて五回。ゲームなら熟練度が普通に2になっていそうな回数魔法を行使している。だが熟練度は上がっていない。どうやら、星属性魔法の熟練度の上昇に必要な行使回数は、いように多いようだ。ここまでくると、敵を倒す為に残している魔力分を使っても新しい魔法は獲得出来ないかもしれない。
リュウセイは、そんな不安を抱いた。
「《オリジン》」
しかし、悩んでいてもしかたがないので、リュウセイは一歩踏み込んだ。
ポーン♪
すると、先程のLevelUP時と同じ音が鳴った。
どうやら、ようやく熟練度が上昇に成功したみたいだ。あとは、魔法が増えていることを願うばかり。
リュウセイはそう思ったが、すぐにゴーストとスケルトンの観察及びケイウ゛モールの操作に集中力を割いていて、ステータスカードを確認することが出来ないことに気がついた。この点も、自分の想定が甘かった点だ。
リュウセイは、そのことを自覚しながら、ステータスカードを確認するチャンスを伺った。
ゴーストにまた消えられると、それを探す時に集中力をさらに割くことになる。ステータスカードを確認する為には、ゴーストの隙を探す他ない。あるいは、ケイウ゛モールに加勢して、スケルトンを先に倒してゴーストの相手をしてもらうかだ。しかし、この案はリスクが高いともリュウセイは思った。スケルトンに向かっている時や、戦闘中に後ろから攻撃されたら堪ったものじゃない。が、他に良い案も考えつかない。
リュウセイは、賭けに出ることにした。
リュウセイは、プレイヤー視点でゴーストを見ながらアイディアルをスケルトン目掛けて走り出させた。
アイディアルのその様子を見たゴーストは、再びボード上から姿を消した。
「とっとと吹き飛べ!」
リュウセイは、アイディアルを叫ばせてスケルトンの注意をひいた。
スケルトンは、リュウセイの思惑通り、わすがに注意をケイウ゛モールからアイディアルの方に向けた。
それを見たリュウセイは、直ぐさまケイウ゛モールでスケルトンを攻撃した。
ケイウ゛モールは、スケルトンの足を薙ぎ払った。その結果、スケルトンは体勢を崩して地面に倒れこんだ。
リュウセイは、それを確認してスケルトンに急接近し、スケルトンの頭部を掴んで、思いっきり遠くに向かって全力で投げた。
スケルトンの頭部。リュウセイが投げた頭蓋骨は、広い部屋の隅まで飛んでいった。倒れているスケルトンの身体は、その飛んでいった頭蓋骨の方向に移動しようともがいたが、起き上がろうとする度にケイウ゛モールが転ばした。というか、途中からは残った身体の方の骨もバラされて、頭蓋骨とはまた別の方向に投げ捨てられていった。その後残ったのは、頭蓋骨と手足の骨を失った胴体部分のだけだ。
「さすがにやり過ぎでわ?」
そのリュウセイの容赦のない行動を見ていたサマエルは、さすがにどうかと思い、渋い顔をした。
逆に、この世界の三人は好評価のようで、よくやったという顔をしている。
「よし、今のうち」
リュウセイは、スケルトンを無力化したことを確認して、大急ぎでステータスカードをポケットから取り出した。そして、星属性魔法の部分を見た。星属性魔法の熟練度は2になっており、魔法がいくつか追加されていた。
星属性魔法 熟練度:2
消費魔力 MP
消費星力 SP
《オリジン》(原初) 30~MP
《ビックバーン》
(始源超爆発)
10000000000~MP
100000SP
《オリジンティック》(原初海洋)100000000~MP
1000SP
《ビギニングライト》(始まりの光)
100000000~MP
1000SP
《カオス》(混沌)
100000000~MP
1000SP
《スター》(星)
100~MP
1~SP
《コスモス》(宇宙)
1000MP
100SP
《ビカム》(成る)
100~MP
1~SP
「何だ、これ?」
リュウセイは、追加されていた内容を見て呆然とした。
リュウセイのステータスカードを見ていた他のメンバーも、一様に同じ顔をしている。
なぜなら、新しい魔法がいろいろと規格外だったからだ。
リュウセイとしては、明らかにおかしいその内容に。
サマエルは、その魔法達が示す問題に。
カミューラとベルグは、その必要の魔力に。
それぞれが呆然とした。
今この部屋の中で普通なのは、スケルトンとゴースト。そして、アークだけだった。
「危ない!」
室内に、アークの声が響き渡った。
「えっ?」
呆然としていたリュウセイの口からは、そんな言葉しか出てこなかった。そして、それはリュウセイにとって大きな隙となった。
ドカッ!
リュウセイの口から先程の言葉がもれでた直後、アイディアルとケイウ゛モールはそれぞれ何かに吹き飛ばされた。
「何だ!?」
吹き飛ばされた衝撃でリュウセイは意識を戻した。そして、プレイヤー視点と化身でボード上を確認した。すると、先程駒がいた場所に全身揃ったスケルトンとゴーストが立っていた。どうやら、リュウセイ達が呆然としている間に復活し、無防備な駒達に攻撃をしかけたようだ。
「あいつら!うん?ゴーストはともかく、スケルトンはどうやって復活したんだ?」
リュウセイは、ゴースト達の攻撃に憤ったが、すぐに違和感を覚えた。先程からまともに攻撃出来ていなかったゴーストが攻撃してこれたのはわかる。けど、頭蓋骨も手足もバラしていたスケルトンは、どうやって復活したんだ?
リュウセイは、全身の骨が揃った状態で立っているスケルトンを見て、そう疑問に思った。
リュウセイがそう思っていると、スケルトンがおもむろに両腕を持ち上げ、拳をケイウ゛モールとアイディアルの方にそれぞれ向けた。
「腕なんか持ち上げて何がしたいんだろう?」
リュウセイには、スケルトンが何をしようとしているのか、見当がつかなかった。
リュウセイ達が見守る中、それは起きた。突然スケルトンの両腕が外れ、拳を向けていた方向に発射させたのだ。
「ロケットパンチ!?」
リュウセイは、それを見て慌てて回避行動をとった。その結果、アイディアルの方はスケルトンの腕を回避することに成功した。しかし、アイディアルの回避を優先させた為、ケイウ゛モールの方は回避させるのが遅れてしまい、スケルトンの拳が直撃した。
攻撃が直撃したケイウ゛モールは、体力は0になり、ボード上から消えた。
「なんでスケルトンにあんな攻撃が出来るんだ!?」
リュウセイは、今の攻撃に動揺した。スケルトンは、武器を持っていなかった為、遠距離攻撃が出来るとはリュウセイは思っていなかったのだ。しかし、現実は認めなくてはいけない。そして、今の攻撃でバラバラにしたスケルトンが復活した理由もわかった。なんてことはない、バラバラにした骨が自力で飛んで合流したのだ。それに、よくよく考えてみれば全身揃った状態のスケルトン自体、地に足着けた骨格標本なのだ。今さら骨が飛んでも、驚くにはあたいしないことだったのだ。
リュウセイは、動揺を抑えてそんな風に納得した。そして、魔法世界に自分の常識が通用しないと考えることによって冷静になれた。
「けど、どうしよう」
冷静になったリュウセイは、すぐにスケルトンとゴーストをどうやって倒すか考えた。だが、自分の手札を確認してすぐにそんな弱音を漏らすことになった。
自分の残る持ち駒はアイディアルとキャンドルンの二個。手持ちの魔法は魔力消費が多過ぎるものと、戦闘に使えるのか不明なものばかり。どうやってスケルトンとゴーストを倒せば良いのか、すぐには思いつけなかった。
スケルトンは、ケイウ゛モールと互角にやり合える相手。接近戦では互角だったケイウ゛モールが倒されている現在、まともに打ち合える駒がない。さすがにキャンドルンで近接戦闘は無理だ。出来るとすれば、ブラッティーバットが喰らった自己犠牲攻撃か?
リュウセイは、キャンドルンが溶けることを覚悟で放ったらしい攻撃のことを思い出している。そして、その攻撃をした場合、スケルトンが炎で燃えるのかを想像した。しかし、火葬で骨が残る事実があるので、すぐにその方法を検討するのを止めた。
残るゴーストの方も、使用可能な魔法で倒せるのかわからなかった。
また地面の中にでも潜られると、命中するかさえ怪しい現実がある。
やはり、ゲームよりも現実の方がいろいろと厄介だと、あらためてリュウセイは思った。
しかし、どんなに現実が厄介でも、生きる為には頑張らなければならない。
リュウセイは、試せる可能性を全てやってみることに決めた。
「《スター》、《ビカム》」
リュウセイは、魔力が足りないので星力の方を1ずつ消費して魔法を発動させた。
すると、リュウセイの正面にビー玉大の光る球体が出現した。
「あれ?なんで一つだけ?」
リュウセイは、二つの魔法を発動させたのに、行った事象が一つで戸惑った。が、目の前の球体を見るに、《スター》の方が発動しているようだと思った。また、《ビカム》の方はどういう効果か予想も出来なかったので、発動に失敗したんだろうともリュウセイは判断した。
その直後、リュウセイの魔法を見ていたスケルトンとゴーストが、危険無しと判断して行動を開始しだした。
スケルトンは再び腕を発射。ゴーストは、リュウセイに真っ直ぐ突っ込んで来た。
「げっ、来た!《アレインヂメント》」
それを見たリュウセイは、駄目元で最後に残ったキャンドルンを出現させた。
ブウゥゥゥン!
リュウセイが迎撃の準備をしていると、何処からかそんな音が聞こえてきた。
「何だこの音?」
リュウセイが疑問に思って耳を澄ませてみると、《スター》で出した球体から音が聞こえることがわかった。
「いったい何が・・・」
起こるんだ?と言おうとしたリュウセイの目の前で、それは起きた。
アイディアルとキャンドルン目掛けて飛んで来ていたスケルトンの腕とゴーストの進路が、急に逸れたのだ。
その後、進路が逸れた腕とゴーストは、正体不明の球体に激突した。
どうやら、あの球体が腕とゴーストを引き寄せたようだ。
ゴカ!バキィ!バキィバキィ!!
リュウセイがそんな予想をしている間も、引き寄せる力はさらに強く働いているようで、スケルトンの腕は不自然に捩曲がり、球体から離れようともがいているゴーストの身体もだんだん見えなくなってきた。
よく見てみると、球体に吸い込まれているようだ。そして、数分も経つと球体は骨もゴーストも全て吸い込み切ってしまった。後には、骨の一欠けらさえ残ってはいなかった。
「えっ?」
これには、その場にいた全員がただただ絶句した。
カチャッ!
皆が絶句していると、静かな空間にその音がやたら大きく響いた。
全員の視線が、音のした方を見た。そこには、アイディアル達の方に向かって行くスケルトンの姿があった。
「むう」
リュウセイは、すぐに迎撃の構えをとった。が、その直後に違和感を覚えた。なぜなら、スケルトンは歩いていなかったからだ。というよりも、逆に立ち止まろうと必死になっている感じだ。しかし、スケルトンはどんどんリュウセイに近づいて来ている。いや、正確に言うなら球体に近づいて来ているになる。
どうやら、スケルトン本体も引き寄せられているようだ。
そのことを理解したリュウセイは、早速キャンドルンを動かした。
キャンドルンは、踏ん張ろうと頑張っているスケルトンの足に足払いをしかけた。
足払いによって体勢を崩されたスケルトンは、先程の腕とゴーストのように、球体の餌食となった。
後には、正体不明の球体とアイディアルとキャンドルンだけがボード上に残った。
そして、リュウセイが戦闘終了と思うと、星遊戯盤が解除された。ボードも、その中に配置していた駒も、全てが一瞬で消えた。