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エスト村での出会い

「そろそろだよ、おにいちゃんおねいちゃん!」

「あれかな?」

「そのようですね」

「キュウ」「チュウ」


僕達は、ようやくカインズくんの住む村が見える辺りまで来た。カインズくんが襲われていたあそこから、ここまではそう遠くはなかったが、たどり着くまでにそれなりの時間を使った。なぜなら、ここまで来るまでの道中に、また現れた状態異常のモンスター達と戦ってきたからだ。それに、最初はホーンラビットだけだったが、途中からはネズミ型モンスターのフォレストラット(普通のネズミよりも一回り大きい灰緑色のネズミ)や、フォレストハムスター(普通のハムスターよりも二回り大きい焦げ茶と緑色の毛色のハムスター)達も出現するようになった。このあたりから、出て来たモンスター達を生け捕りにするのはさらに骨が折れた。第一に小さい。第二にすばしっこい。第三に数が多いと、範囲攻撃がないこっちは、この子達の無力化にかなり手間取ることになったのだ。救いといえば、攻撃性能が低く、ダメージにまでいかなかったことかな?生身で小動物とはいえ、モンスターの攻撃を受けてノーダメージはどうかとも思ったけど、問題というわけではないのでそこで考えるのを止めた。


考えるのを止めた僕は、自分の足元に目を向けた。


僕達の足元には、たくさんのホーンラビット、フォレストラット、フォレストハムスター達がある。

全て僕達が生け捕りにして、治療したモンスター達だ。

モンスター達がたくさんいる理由は、最初のホーンラビット達の後のモンスター達もなぜか治療してあげたら全員僕達について来たからだ。さすがに途中から同行を断ろうかと思ったけど、小動物のつぶらな瞳に僕もマールさんも敗北した。小動物につぶらな瞳でキュウキュウ鳴かれると、断りきれなかったんだ。

後悔しているわけではないけど、これ以上増えたらどうしようと思っていた。さらに増える前に村が視界に入ったのは僥倖だった。

しかし、この後この子達をどうしようか?


村までの僅かな時間、そのことに頭を悩ませた。




「どうやら来たみたいよ」


ベネラ達の方でもカインズ達の姿を確認出来た。

現在、先程集会場にいた村人達のうち、三分の一と+αがリュウセイ達を歓迎する為に村の入り口に集まっている。内訳としては、村人の代表である村長のエニグマ。村最年長で長老のフェイス。カインズの両親であるアークとソフィア。カインズ達をシルフィーネを通して見ているベネラ。アークの親友であるアビス。未知の種族らしいリュウセイ達に興味津々なカミューラ。リュウセイ達を見てから対応を決めると言ったベルグに、その意見に同意した他の村人達。残りは、集会に参加していなかった大人未満の少年少女に、カインズの友達の子供達となっている。

残り三分の二は、現在村の中で歓迎会の準備中だ。


「なあベネラ」

「どうかしたのアビス?」

「カインズとその同行者の二人は良いんだが、あのモンスターの群れは何なんだ!」


アビスは、こちらに向かって歩いて来るリュウセイ達の足元を、顔を引き攣らせながら指差した。他の村人達も、アビスと似たようなことになっている。

アビスが指差した先であるリュウセイ達の足元には、ホーンラビット、フォレストラット、フォレストハムスター達がそれぞれ十数匹はいた。


「彼らが治療して助けたモンスター達よ。なぜかは知らないけど、治療してもらった後に全員彼らについて来たのよね?」


ベネラはあらかじめ知っていたせいか、いたって普通の顔でアビス達にそう説明した。


「お父さん!お母さん!」


アビスとベネラがそんな会話をしていると、リュウセイ達の傍にいたカインズが大きく手を振りながら、村の入り口にいる両親に向かって走り出した。

それを見たアークとソフィアも、カインズの方に歩き出した。

そして、中間地点より村よりの場所で両親は再会した。


ゴチン!!


「いたっ!?」


アークは、カインズと再会してすぐにカインズの頭にゲンコツを叩き込んだ。

三人の感動の再会を見守っていた周囲の面々は、皆アークのその行動に唖然とした。

アークにゲンコツを落とされたカインズも、わけがわからず涙目で両親を仰ぎ見ている。


アークとソフィアは、黙ってカインズに近づいて行った。そして、カインズのことをしっかりと抱きしめた。


「あまり無茶なことはしないでくれカインズ」

「カインズ、私のことを心配して森に行ったのでしょう?それは嬉しかったわ。けれどね、一人で行くような危ないことはしないでちょうだい。あなたにもしものことがあったらと思うと私・・・」


カインズを抱きしめた二人の目から、涙がこぼれ落ちた。


「うわあぁぁぁーん!お父さんお母さんこわかったよぉぉ~!!」


両親のその涙を見たカインズの方も、両親のもとに帰り着いて安心したのか、大きな声で泣き出した。


先程まで唖然としていた周囲の面々の中にも、今の親子のやり取りを見て、目元に涙を浮かべる者がちらほら見受けられた。


それからカインズ達が満足するまでの間、皆が黙ってその三人の様子を見守った。



それからしばらくして、ようやくアーク達親子は落ち着き、リュウセイ達の方に歩き出した。これを見たリュウセイ、サマエルは、居住まいを正してアーク達三人を出迎えた。


「息子がご迷惑をおかけしました」


開口一番、アークはそう言って頭を下げた。ソフィアの方も、夫であるアークと一緒に頭を下げている。


「あ、頭を上げてください!頭を下げられる程のことをしたわけじゃないですから!」


リュウセイは、アークとソフィアに慌ててそう言った。


しかし、言われた二人はそのまま頭を下げ続けた。


「いえ、カインズを探してもらっていた村の仲間から、あなたがたが来てくれなければ息子は危ない状況だったと聞いています。あなた達のおかげで、こうして元気な息子と再会出来たんです。この程度のことをするのは、当然のことです」

「そうです。息子を助けていただいたのに、礼を欠くわけにはいきません!」


アークとソフィアの二人は、リュウセイの言葉にはっきりとそう返した。


「そう、ですか。・・・うん?村の仲間から危ない状況だったと聞いています?そういえば、なんで僕達がカインズくんを助けたってわかったんですか?」


リュウセイは、アークの言葉に疑問を持って質問した。


「それはですね、村の仲間が捜索してくれたおかげです。その仲間は、そこにいるエルフのベネラなんですが、彼女は風の精霊と契約している精霊使いなんです。カインズが行方不明になってすぐに、彼女の契約精霊が森を探索してくれて、カインズとあなたがたを見つけてくれたんです。そして見つけてくれた後は、その様子を逐一教えてくれました。なので、あなたがたの人となりは私達村人はだいたい把握しています」


アークは、自分の後方にいたベネラを手で示して、リュウセイの疑問にすらすら答えていった。


「なるほど、そういうことですか」


リュウセイは、アークの説明に納得がいって頷いた。


「そういうわけで、この村のみんなはあなたがたがカインズを助けてくれたことも、モンスターを治療しながらこの村までやって来たことも知っているんだ。あなたがたの歓迎会の準備もしてある、どうか私達の心ばかりの礼を受け取ってほしい」


アークは、説明が終わると再び頭を下げて、そうリュウセイ達に言った。


「どうしましょうかマールさん?」


リュウセイは、困ったような顔をして、隣にいたサマエルに意見を求めた。


「私は、村の人達のご好意はお受けした方が良いと思います」

「・・・そうですね。わかりました、その歓迎会喜んで参加させていただきます」


サマエルの意見を聞いたリュウセイは、少し考えてから歓迎会に参加することをアーク達に伝えた。


「ありがとうございます。それではこちらにどうぞ」

「わかりました」


リュウセイの返事を聞いたアーク達は、リュウセイ達の誘導を開始した。

アーク達を先頭に、リュウセイ達はエスト村に入って行った。


彼らの後ろをついていく形でホーンラビット達も、リュウセイ達と一緒に村に入って行った。しかし、そのことを気にする村人は誰一人いなかった。



「歓迎会の会場は、ここになる。立食形式だから、好きな所で食事をしてくれて構わない」


エスト村に入ったリュウセイ達は、今村の中心にある広場に到着して、アークからそう説明を受けている。


「ただ、まだ準備が少し微妙だから、歓迎会開始はもう少し後になる予定だ。だから、先にこの村の村人を紹介して行こうと思っているんだが、構わないかな?」

「はい、大丈夫です。それじゃあ、最初にお二人の名前を聞いてもいいですか?」

「うん?ああ、すまない。カインズとの再会の後で、自己紹介をするのを忘れていたね。わかった、私の名前はアーク。種族はヒューマンで、六年程前からこの村に住んでいるから、村の中では新参者の方だね。職業は、恥ずかしながら【勇者】だよ」

「えっ!【勇者】ですか?」


リュウセイは、アークの職業を聞いて驚きの声を上げた。


「ああそうだよ」


アークは、リュウセイの言葉を肯定した。


「この世界の勇者って、どんな職業何ですか?」


リュウセイは、アークの答えを聞いてすぐに表情を真面目なものにして、次の質問をした。


リュウセイは、【勇者】という職業がかなり気になるようだ。


「おやっ?君は【勇者】がどんな職業なのか知らないのかい?勇者の能力などは、小さな子供でも知っている程有名なはずだよ?それに、この世界の勇者というのはどういう意味だい?」


アークは、リュウセイの言葉に幾つもの疑問がわいたようで、リュウセイに答えではなく質問を返した。


「ええっと、それはですね・・・」


リュウセイは、アークの質問に視線をあちこちさ迷わせた。そして、最終的に視線がサマエルの方を見て固定された。


どうしましょう?


リュウセイの目が、そうサマエルに訴えかけた。


この人達なら大丈夫だと思います


サマエルの方も、リュウセイの方を見て自分の意思を伝え、頷いた。


まだそれほど一緒にいたわけではない彼らの間で、見事にアイコンタクトが成立した瞬間だった。


「ふうっ」


リュウセイは、一つ息を吐いて気持ちを引き締めた。


「これからかなり突飛なことを言われたと思うでしょうが、とりあえず僕の話を聞いてくれますか?」


「はい、大丈夫ですよ。私達は、どのよう内容でもあなたの話を最後までちゃんとお聞きしますよ」


アークの言葉に、周囲の村人達は全員頷いた。そして、アークを筆頭にリュウセイの近くにいた村人達は、全員リュウセイの話に耳を傾けた。


「それでは、まずは僕達がこの世界に来る前から話ますね」


そう言ってリュウセイは、今日自分に起きた出来事を順番に話し出した。


自分が原因不明だが一度死んでいること。あの世の魂運用局という場所で目覚めたこと。そこでサマエルと出会い、現状の説明を受けたこと。その時に自分が記憶喪失だと判明したこと。そして、サマエルの話を聞いて転生先にこの世界を選び、転生したこと。

サマエルがここにいる理由については、ミリエルの失態やそのミリエルが担当していた少年についての部分は削られて、ただ記憶喪失かつ、能力にも不明な点がある自分にサポートが必要だろうと、位階を返上してまでついて来てくれたということにして説明した。


これだと、リュウセイがミリエル達を庇っているように聞こえるが、実際のところはこれから関係を持つこともないだろうという、そんなある意味無関心な理由からである。


「と、いうわけなんです」


リュウセイは、説明を終えて一息ついた。


周囲の村人達は一様に静まりかえった。しかし、村人達の表情には驚きの顔がなく、何か納得がいった表情の顔ばかりがあった。


「なるほどそういうことか。おかげでこちらの疑問がある程度解消出来たよ」


アークは、何度も頷きながらリュウセイにそう言った。

他の村人達も、アークの言葉に全員が頷いた。


「疑問ですか?僕達、アークさん達に疑問を持たれたれるようなこと、そんなにしてましたか?」


リュウセイは、今の【勇者】についての質問以外は、とくに思い当たることがないらしく、首を傾げている。サマエルもリュウセイ同様、思い当たることがないようで首を傾げている。


「ああそれはだね」


そう言ってアークは、エスト村側の話をリュウセイ達に教えた。


風の精霊シルフィーネの報告で、いろいろと謎が発生していたこと。

風の精霊のやたら高い好感度に、リュウセイ達の種族がわからなかったこと。サマエルの方から神気の残り香がしていたこと。

あとは村人の感想やリュウセイ達への方針についてなど。


「なるほど、そういうことですか」


リュウセイはアークの話を聞いて、先程のことに納得がいったようで頷いた。


「うん?けど、精霊はなんでそんなに僕への好感度が高いんでしょう?」


が、すぐに疑問がわいたようでリュウセイはアークに質問をした。


「それについては君が来訪者だからだと思うよ」

「来訪者ですか?」


リュウセイは、新しいその単語がピンと来ないようで、頭の上に疑問符を浮かべたようだ。


「ああ、君の先程の話に出て来た転生者と言うのは、こちらでは来訪者と呼ぶんだ」


それを察したアークが、来訪者について説明した。


「なるほど、そういうことですか。けど、なんで来訪者だと精霊の好感度が高いんですか?」

「それは、この世界の歴史的な話になるけど、今までこの世界に来た来訪者達は、総じて精霊との相性が高い者達ばかりだったんだ。だから、君も同じように精霊と相性が良い可能性は高いと思うんだよ」

「そうなんですか。たしかに、前例があるのならその可能性が一番高そうですよね」

「ああ、そうなんだよ。まあ、これについては君の都合が良い時に調べてみればわかることだよ」

「そうですね。その時はよろしくお願いします」

「任せてくれ。しかし、君が記憶喪失かつ来訪したてなら、これからはいろいろと説明しながら話た方がいいだろうか?」


アークは、疑問に思ったことをリュウセイに確認した。


「そうですね、さっきの来訪者とかみたいに、わからない単語とかが出てくる可能性があるので、そうしてもらえると正直助かります」


リュウセイは、少し考えてからアークにそう答えた。


「わかったよ。それなら、さっき質問された職業【勇者】のことも含めて、今からあらためて説明するよ」

「お願いします」

「来訪者なりたてなら種族の説明もした方がいいね。先程私が名乗った【ヒューマン】という種族は、この世界でもっとも数が多く、個体差が激しい種族と言われているよ。詳しいことは、少しずつ教えてあげるからね。次に職業【勇者】についてだけど、これはこの世界では基本的に一つの種族につき一人存在している種族を守る特化戦力のことだよ」

「特化戦力ですか?」

「ああ。勇者は、職業と称号の二つの補正を受けるんだが、その補正がかなり異常なんだよ」

「異常?異常って、どれくらいですか?」


リュウセイは、自分の知識をあさって、勇者の強さを想像しながら現実を確認しているようだ。


「そうだねぇ?これは私の場合だけど、まずは身体能力の大幅な上昇が一つ」

「大幅って、どれくらい強化されるんですか?」

「腕力という面なら素手で岩を砕いたり出来るよ。ほかには、速力という面ならケンタウロスのような走ることが得意な種族を追い抜けるぐらいだよ」

「それはすごいですね」


リュウセイは、その補正の高さに感心したように頷いた。


「一つってことは、他にも補正はあるんですよね?どんな補正があるんですか?」

「あとは、全属性の魔法が使えるようになるとか、剣技等の戦闘に関する能力の性能を上昇させる補正だよ」

「なるほど、そういう補正ばかりがあれば、たしかに特化戦力って言いますよね」

「だろう?さて、私の方の話はここまでにしよう。そろそろ他の村人達も紹介しないといけないからね。まずは、私の妻を紹介するよ」

「お願いします!」


「彼女が私の妻で、カインズの母親のソフィアだよ」


アークは、村人達の中から長い金髪で、彩度の高い碧眼をしたお腹が膨らんだ女性をリュウセイ達の前に連れて来た。


「あらためまして、カインズの母でソフィアといいます。これからよろしくお願いします」


ソフィアは、そう言うとゆっくりとお辞儀をした。


「「こちらこそよろしくお願いいたします」」


ソフィアにつられるように、リュウセイとサマエルの二人もお辞儀を返した。


「自己紹介ですよね?私の種族は夫のアークと同じヒューマンです。それから職業ですけど、私もアーク同様恥ずかしいのですけど、【聖女】というものです」


ソフィアは、頬を若干朱くしながらそう自己紹介をした。


「「【聖女】ですか?」」


「はい。この職業は、生まれながらにして神より祝福を受けた者と、大勢の人々からそう呼ばれることによってなる者がいます。私の場合は後者で、勇者であるアークと一緒に活動していたらこの職業になりました」

「へぇー、聖女ってなりかたが二つもあるんですね」

「そうです。次に聖女の補正などについてですけど、私の場合は回復魔法や補助魔法の効果の上昇ですね。身体的な強化などはまったくありません。あえていえば、職業聖女になってから病気に成りにくくなったことでしょうか?」

「へぇー、そういう補正もあるんですか!」


リュウセイは、ソフィアの話に驚きの声を上げた。


「ええ。もっとも、職業でつく補正としてはかなり珍しいのよ」

「職業以外なら珍しくないってことですか?」

「ええ。神様に祝福や加護を授けていただくとそれなりに補正が入るわ。私の自己紹介はこれくらいね」


そう言うとソフィアは、村人達の列に戻っていった。


「では、次は儂の番じゃな」


ソフィアが下がると、今度は長いあごひげを伸ばした竜人。村長のエニグマがリュウセイ達の前に出て来た。


「はじめまして、新たな来訪者よ。儂はこのエスト村の村長で、ズメウのエニグマじゃ」

「「はじめまして」」

「さて、最初は儂の種族から紹介するかのう。儂の種族【ズメウ】は、竜族に連なるこの世界では小数じゃがかなり強力な力を持った種族じゃ。特徴としては、竜族由来の高い身体能力。魔法は、他種族の扱える魔法を含めて、竜族の扱う竜言語魔法も使用が可能じゃ。あとはそうじゃなぁ?おう!竜人形態でもブレス(息吹)が使えることと、ドラゴンの姿になれることがあるのう」

「おー!かなり強そうですね!」


リュウセイは、キラキラした目でエニグマを見た。竜と聞いてテンションが上がっているようだ。


「ほっほっ、そんな目をされるとカッコつけたくなるのう。そうさのう、機会があれば今言ったことをいろいろと実際に見せてあげようか?」

「是非お願いします」

リュウセイは、エニグマに詰め寄って頼んだ。


「お、おう。約束じゃ」


エニグマは、リュウセイの行動に少し驚いたようだが、リュウセイと約束をかわした。


「竜星さん、竜とかお好きなんですか?」

「うん!だってカッコイイじゃないですか!」

「カッコイイ。たしかにそうですけど。(・・・今後レベル上げをして、早く位階を上げるようにしましょう)」


サマエルは、リュウセイに質問した後に小声で何か呟いた。サマエルの顔には、ただならぬ決意の色が浮かんでいた。


「さて、最後に儂の職業の紹介じゃな。儂の職業は、【賢者】じゃ」

「はーい、村長じゃないんですか?」


リュウセイは、エニグマの言葉に手を挙げてから質問した。


「違うのう。そもそも、今紹介している職業はステータスカードに表示されておる職業じゃ。あいにくと、【村長】という職業はステータスカードにはないのう」

「そうなんですか。それで、賢者ってどんな職業なんですか?僕の知識だと、魔法の専門家という感じですけど?」

「だいたいはその認識であっているのう。具体的にいうなら、種族限定や特殊な魔法を除いた魔法全般を修得可能で、その魔法全てにそれなりの威力補正が入るのう。あとは、魔法に関する能力を大量に修得可能じゃ」

「魔法に関する能力というと、どんなのですか?」


リュウセイの目は、竜の時程ではないが魔法に関する能力に強い興味を持っているように輝いている。


「そうじゃのう?代表的なものじゃと、高速詠唱や詠唱破棄とかじゃな」

「おおー!ファンタジーの世界だ!」

「ファンタジー?」


エニグマや村人達は、リュウセイの言葉に首を傾げた。


「ええ。僕の知識だと、剣と魔法の世界のことをそう表現するとあるんです」


エニグマ達は、次にサマエルの方に視線を向けた。


「事実です。竜星さんの故郷に魔法は普及していませんけど、そういう言葉はあるんです」


「ほぉー、そういう文化もあるんじゃなぁ」


サマエルの言葉に、とりあえず村人達は納得したようだ。


「さて、次はお前さんがどうじゃフェイス?」

「そうだな」


エニグマが村人達の中から、見た目三十代前半の後頭部から二本の角を生やした男性を呼んだ。呼ばれた男性、フェイスはエニグマの呼びかけに応じてリュウセイ達の前に歩み出た。


「はじめまして。私は、このエスト村最年長で長老をしている【ロント】のフェイスだ。よろしく」

「はじめまして、こちらこそよろしくお願いします」


「さて、私の種族ロントの紹介か。私の種族ロントは、龍族に連なる種族で、ズメウ同様高い身体能力と多彩な魔法が行使が可能な種族だ。違いがあるとすれば、私達ロントはブレスを吐かないことかな?その代わり、私達ロントは自然を操る能力があるがね」

「自然を操る能力ですか?」


リュウセイは、イマイチピンとこないようで首を傾げた。


「そうだよ。極端な例をだすなら、落雷、津波、竜巻、火山噴火、地震なんかを起こせるかな?」

「・・・天災ですね」

「そうだね」


フェイスが出した例の数々に、リュウセイは引き気味だ。


「あとは職業か。私の職業は、【調定師】だよ」

「調定師?どんな職業なんですか?」


リュウセイは、その職業がどのようなものか検討もつけられないようで、キョトンとしている。


「自然のバランスを整える職業だよ」

「自然のバランスを整える?」

「ああ。例えば、戦争や災害が起きた場合に壊された生態系を元に戻したりするんだ」

「ああ、そういう職業なんですか」


リュウセイは、理解が出来たようで頷いた。


「そうだよ。この職業の補正は、自然のバランスをとる時に効果を発揮するものばかりだよ。能力としては、自然の歪みを感じるものや、その歪みの直し方が漠然とわかるといったこの職業特化のものが修得できるよ。職業の紹介はこれくらいだね。次は誰がやるんだい?」

「じゃあ、私達がやるわ」


フェイスが次は誰が自己紹介をするか聞くと、ベネラが名乗りを上げた。


「はじめまして坊や達。さっきアークから紹介されたけどあらためて自己紹介するわね。私の名前はベネラ。そしてこっちが私と契約している風の精霊のシルフィーネよ」


ベネラがそう言うと、ベネラの横に若草色の小さな鳥が一羽出現した。


『はじめまして、私シルフィーネ!仲良くしてね!』


ベネラに紹介されたシルフィーネは、子供のように元気良くそう名乗った。


「こちらこそ仲良くしてください」


リュウセイは、そう言ってシルフィーネの頭を撫でた。


「「「えっ!?」」」


リュウセイに撫でられたシルフィーネを含めて、リュウセイを除くその場の全員から驚きの声が上がった。


「みんなどうかしたの?」


ただひとり、リュウセイだけがキョトンとしている。周囲の人々がなぜそんなに驚いているのかまったくわかっていないようだ。


「竜星さん、その様子だと自分が何をしたのかわかっていませんね」

「わかっていないって、シルフィーネの頭を撫でただけですよ?」

「たしかにやったことはそれだけですけど」「それは本来ありえないことなのよ!」

「どういうことですか?」


サマエルとベネラのただならぬ様子に、リュウセイは疑問を持ったようだ。


「精霊というのは、その名前にあるとおり高位の霊体なんです」

「だから、普通は精霊に触ることなんて出来ないものなのよ!」

「触れてますけど?」


リュウセイは、またシルフィーネの頭を撫でた。


「ええ、だから驚いているんです。別に絶対に精霊に触れないというわけではないんですけど・・・」

「けど、それはよほど特殊な能力持ちか、その精霊と契約している精霊使いならの話よ」

「竜星さんの場合は、どちらでもないんですよね。精霊に触ることに該当する能力は私の知る限りお持ちではありませんし、その精霊とも契約していませんから」

「いったいどうなっているのかしら?」


しばらくその場にいた全員が頭を悩ませた。しかし、結局リュウセイが精霊に触れる原因がわからず、そのことはいったん置いておくことになった。そして、自己紹介が再開された。


「なぜか予想外のことが起きたけど、あらためて自己紹介を続けるわね。たしか、シルフィーネを紹介したまでよね?」

「そうです」

「じゃあ、次は種族ね。私の種族はエルフ。森で暮らす弓と魔法が得意な種族ね。あとは、精霊使いが他の種族よりも多いという特徴もあるわね。職業は【精霊使い】。通常の魔法ではなくて、契約した精霊に魔法を使ってもらう職業ね。補正関係もだいたいその精霊とのあれこればかりね。一応【精霊】という存在についても私のと一緒に紹介しておくわね。精霊はこの世界に満ちて世界を回すものよ。あなた以前に来た来訪者達には、別の見方もあるらしいけど、この世界の一般的な認識だとこんな感じよ」

「へぇー、来訪者だと何か違いがあるんですか?いつか調べてみようかな?」


リュウセイは、精霊について調べることに決めたようだ。


「いいんじゃないかしら。というか、今度精霊と契約しに行ってみない?シルフィーネの話や今さっきのを見ると、あなた精霊と契約出来そうな気がすごくするのよね」

「そうですねぇ?いつか他の精霊にも会ってみたいですね」

「決まりね。こちらである程度予定をたてておくわ。都合が良さそうな時を後日教えてちょうだい」

「わかりました」


ベネラはリュウセイと約束をすると、村人達の中に戻って行った。


「次は俺が自己紹介をしよう」


ベネラと入れ代わるように、犬耳?とフサフサの尻尾を生やしたガタイのいい男性。アビスが前に出た。


「はじめましてだな坊主。俺の名前はアビスっていうんだ。さて、自己紹介の前にまずは俺からも礼を言わせてくれ。ダチ(アーク)の息子を、カインズのやつを助けてくれてありがとうな」

「いえ。子供を助けるのは当然のことですから」

「そうかい。やっぱり来訪者の連中は、かなりまともだな」


アビスは、リュウセイの答えにそう言った。


「どういう意味ですか?」


リュウセイは、アビスの言葉に首を傾げた。


「いやなに、こっちの世界だとそんなことを言うやつはそこまで多くはいねぇんだって話さ」

「いない?それはなんでですか?」

「うん?そりゃあ、この世界でそんな余裕がある奴らはあまりいねぇからさ」

「そうなんですか?」


リュウセイは、サマエルの方に尋ねた。


「ええ。この世界はモンスター達が人間の生活圏を普通に跋扈していますし、文明レベルも竜星さんの元の世界でいう中世ヨーロッパ並です。ですから、社会制度の関係で他人を世話する余裕はあまりありません。それに、医療関係も魔法があってもそこまで発展していませんので、助けられる命のラインが低いという現実もあります」


サマエルは、天使らしくスラスラとこの世界の情報をリュウセイに答えた。


「まあ、そういうことだ」

「大変なんですね」


サマエルの言葉をアビスは肯定した。リュウセイは、悲しそうな顔でそう言った。


「そうだな。だが、これが俺達の世界だからな。俺達でどうにかしていくしかねぇ。まあ、この村ではあまり関係ないことだから、お前が気にする必要はねぇよ」

「はあ」

「さて、暗い話はここまでだ。自己紹介の続きをするぜぇ」


アビスは、そう言って話を自己紹介に戻した。


「俺の種族は【ワーウルフ】(人狼)。先に言っておくが、犬や【ビースト】(獣人)とは別物だからな」

「狼は犬じゃないというやつですか?」


リュウセイは、狼をワンちゃんなどと呼ぶ人種を思い浮かべながら確認した。


「そうだ。他の種族の奴らから見ると、この耳や尻尾は犬と区別がつかねぇらしくてな、よく間違えられるんだ。だが、俺は犬じゃねぇ狼だ!」


アビスは、自分の耳を指差しながら心の底からそう叫んだ。


「わかりました。それと、この世界でビーストというのはどんな種族ですか?あと、ワーウルフとの違いは何ですか?」


リュウセイは、至近から受けたアビスの叫び声に耳を抑えながら頷いた。そして、アビスが言ったもう一つの種族について聞いた。


「ああ、そっちも説明しねぇとな」


アビスは、リュウセイの質問に落ち着きを取り戻した。


「だがまずは俺達ワーウルフについてから説明するぞ。ワーウルフってのはな、狼の力を持ったヒューマン達の親戚だ」

「ヒューマンの親戚?それってどういう意味ですか?」


リュウセイは、種族の親戚という言葉が理解出来ずに首を傾げた。


「そのまんまの意味だ。ワーウルフっていうはな、昔はヒューマンが狼の霊を憑依させて狂戦士化させた状態のことを指した呼び名だったんだ。だが、いつの頃からか憑依させた狼が離れなくなっちまうようになってな。狼の霊魂の完全に融合しちまってヒューマンではなくなっちまう奴らが出始めたんだ。そんな奴らが一定数を越えて、今や一つの種族扱いされるまでになったんだ。ヒューマンの親戚ってのは、そういう意味だ」

「なるほど。ワーウルフの発生理由はだいたいわかりました。たしかにそれならヒューマンの親戚と言えますね」

「そうだろ。それで、ワーウルフの発生理由はそんなんだからか、ワーウルフの性格というか性質は戦士と狼を混ぜた感じになっている。森の中で群れを形成し、群れ全員で狩りをして暮らす。それがワーウルフの暮らしだな」

「狩猟民族ですね」

「言葉はわからんが、意味は合っていると思うぞ」

「そうですか」

「ワーウルフについてはこれくらいだな。次はビーストについてだ。ビーストの奴らは、俺達ヒューマンから発生した種族ではなく、種族名どおり獣から発生した種族だ」

「獣から進化したってことですか?」


リュウセイは、猿から人になったという進化論を思い浮かべた。


「進化か、ちょっと違うな。いや、ビーストの発生パターンは数種類あるから、中には進化と呼べるパターンもあるから間違ってはいねぇか」

「一つの種族に、そんなにいろいろな発生パターンがあるんですか?」


リュウセイは、過程が違うのに同じ種族になることがよくわからないらしい。


「ああ、そうだ。ビーストって奴らはな、大別すると獣のが自然の中で経験値を貯めてレベルアップの果てに自力で進化に行き着くパターンと、人が人為的に進化させたパターンの二つがあるんだ。進化パターンが複数あるのは人為的進化の方だな」

「この世界の人は、動物を人為進化なんてさせられるんですか!?」

リュウセイは、アビスの話に驚愕した。なぜなら今アビスが言ったようなことは、リュウセイの知識ではバイオテクノロジーというものの範疇だったからだ。科学と魔法。リュウセイは、世界観がズレているように感じた。


「まあ、最初に聞く奴は驚くよな。詳しい発生方法なんかはおいておくぜ。それでビーストのこの世界での立ち位置だがな、自然発生型はそれぞれの進化前の種族事に集まって集落を形成している。人為発生型の方は・・・」


アビスは、話の途中で気まずそうに言葉を切った。


「人為発生型はどうかしたんですか?」

「いや、こっちでは普通なんだが来訪者は嫌がる傾向の話でな」

「それって、ビーストが奴隷にされてるとかいう話ですか?」

「なっ!?なんで知っているんだ!?」


リュウセイのこの発言には、アビスだけではなくこの話を聞いていた周囲の一部を除いた全員も驚いた。


「別に知っていたわけじゃないですよ。でも、獣をわざわざ進化させる理由と、来訪者が嫌がる話となると、それぐらいしか思いつかなかっただけですけど。他の理由もあるんですか?」

「いや、無いな」「あるぞ」


リュウセイが自分の発言について確認すると、矛盾する二つの答えが返ってきた。


リュウセイの質問を肯定したのはアビス。そして否定したのは、まだリュウセイ達に自己紹介をしていない青白い顔をした女性。ウ゛ァンパイアのカミューラだった。


「あなたは?」

「はじめまして来訪者。私の名前はカミューラ。詳しい自己紹介はアビスの後でやるので、今は名前だけ名乗っておくよ」

「おいカミューラ!今のはどういう意味だ?」


突然割って入ったカミューラにリュウセイが質問すると、カミューラはそう答えた。そして、リュウセイとの会話に割って入られたアビスは、カミューラのさっきの答えについて問いただした。


「どういうことも何も、奴隷以外にも獣をビーストに進化させる理由は存在しているという意味だよ」

「そんな話、俺は聞いたことねぇぞ!」


アビスのその言葉に、一部を除いた村人達も頷いた。頷いていなかったのは、カミューラ以外ではエニグマやフェイスのような長命種の者達だ。


「まあ、無理もない。この話は、あまりおおやけにはなっていないからな」


カミューラは、皆の反応は無理もないと一つ頷いた。


「それで、奴隷以外だとどんな理由があるんですか?」


そんなカミューラにたいして、リュウセイは率直に尋ねた。


「そうだな、奴隷以外のパターンだとその獣と別れたくない為とかだな」


「ペットと飼い主の悩みみたいな感じですか?というか、そんな理由で人為的進化までさせちゃうんですか、この世界の住人は?」

「ペットと飼い主か。それも理由としてはあるな。それと、この世界では魔法の扱いに長けた長命種だと、対象と一緒にいられる時間を延ばす為ならそれくらいするぞ」


カミューラの言葉に、先程と同じメンバーが頷いた。


どうやら長命種とペットとの寿命の差は、向こうの人間とペットとの差よりもひどいようだ。まあ、無理もない。向こうの人間の寿命がいって百年なのにたいして、この世界の長命種の寿命はその数倍。長く生きるのも大変なようだ。


リュウセイは、そんな風にカミューラの言葉を解釈した。


「けど、そのパターンだとビーストにした獣を奴隷扱いはしませんよね?じゃあ、そのビーストの扱いはどうなっているんですか?」

「そりゃあまあ、普通に友人、ペットのまま。変わったところで使用人にしたり、仕事のパートナーやパーティーメンバーにしているやつもいたな」

「わりと幅広く使われてますね」

「そうだな。ビーストについてはこの程度か?アビス、残りはお前の職業解説でいいのか?」

「あ?ああ、もうビーストについてはお前が説明してくれたからな。いや、まとめもした方がいいか?それで残りが俺の職業くらいだろ」

「そうか。では続きを頼む」


そう言うとカミューラは、一歩下がった。


「わかった。さて、さっきの説明でワーウルフとビーストが違うってことはわかったか?」

「はい。ワーウルフがヒューマンで、ビーストが獣進化なんですね」



「ああ、まあその認識でいいだろう。最後は、俺の職業についてだ。俺の職業は【狼拳士】。ワーウルフと狼型ビーストの戦闘職で、筋力と敏捷に補正が入る。ある程度職業Levelが上がると、必殺技とかも使えるようになるんだぜ」


アビスは、リュウセイの答えに少し微妙な顔をしたが、すぐに気を取り直して得意げに自分の職業を説明した。


「必殺技ですか?」


リュウセイの頭の中では、大迫力のゲームの必殺技の類が想像されている。


「おうよ!能力の中でも、文字どおり相手を必ず殺せるだけの威力を持った技だぜ」


アビスは、拳を握ってリュウセイの正面に突き出した。


「それって、【狼拳士】以外の職業にはないんですか?」

「いや、戦闘職にはだいたいあるぞ。ただし、必殺技があるらしいとか、あるかもしれないとか、曖昧なのまで入れても良いなら、全ての戦闘職に必殺技はあるといえるぞ。まあ、検証する奴やそもそも修得出来る人材がいなくて、全ての戦闘職の必殺技を知っている奴なんて実際にはいないけどな」


アビスは笑いながらそう言った。


今度は村人全員が頷いた。


「そうなんですか。ちなみに生産職の方にはそういうのはないんですか?」


リュウセイは、ある意味当然の疑問をぶつけた。


「あるぞ。けどそっちは俺は畑違いだ。詳しいことは次のカミューラに聞いてくれ」

「わかりました」

「じゃあ俺はここまでだ。カミューラ、お前の番だぞ」

「わかった」


アビスが下がり、カミューラが再び前に出た。


「さて、あらためて自己紹介の続きをしよう。まずは種族からだな。私の種族は【ウ゛ァンパイア】だ」

「吸血鬼?」


リュウセイの頭の中では、マントを翻した青白い顔の吸血鬼のイメージが過ぎった。


「来訪者達からはそう言われるな。ただし、来訪者達が知っている吸血鬼とウ゛ァンパイアではそれなりに異なる点がある」

「それって弱点とかですか?」

「そうだ。君が知っているだろう吸血鬼の弱点としては、朝日を浴びると灰になる。流水を渡れない。十字架や聖銀に弱い。ニンニクがあると逃げ出す。招かれなければ他人の家に入れないなどだろう」

「そうですねぇ、地域差を除くとそんな感じですね」


リュウセイは、カミューラの上げた弱点を自分の知識と照合して頷いた。


「そうか。では順番に説明していこう。まず現状でわかるとおり、私達は朝日の中にいても平気だ」

「そのようですね」


リュウセイは、焦げ目一つついていないカミューラの顔や手を見てそう言った。


「ただ、灰にはならんが私達ウ゛ァンパイアはアンデット型でな、朝日の中だと体調がすぐれない。」

「大丈夫ですか?」

「ああ、そこまでひどいわけではないのだ。あえて生者の状態に当て嵌めるなら、低血圧といった感じでしかない」

「低血圧。朝体調が悪い人はそれなりにいると思いますから、単なる体質という認識でいいんですか?」


リュウセイは、カミューラの様子からそこまで悪いわけではないと判断してそう確認した。


「ああ、君はその認識でかまわない。次は流水を渡れないことについてだ。これは私達ウ゛ァンパイアにもある程度は適応される」

「ある程度?まったく渡れないわけではないんですか?」

「そうだ。流水の面積が水溜まり程度なら素通り出来る。たとえ川のように幅があっても、水面から十数メートル上を飛行すれば通過出来る」

「微妙に制限はありますけど、それは弱点とは言えませんね。せいぜい水恐怖症といったレベルですか?」

「そのような認識で問題はない。次に十字架や聖銀に弱いことじゃが、これはそのまま当て嵌まる。なんせ私達はアンデット。浄化魔法やその手の神聖なものは天敵だ」

「じゃあ、マールさんはマズイですか?」


リュウセイは、身体を震わせているカミューラにサマエルを示して聞いた。


「いや、彼女は天使だという話だが、とくに何かを感じるわけではないな」


カミューラがそう言うので、リュウセイはどういうことなのかを目でサマエルに尋ねた。


「それは当然ですよ竜星さん。まず私は位階を返上して力が大分落ちています。ですから、ステータスの差で私は彼女の脅威にはならないんです。それに、種族が天使。エンジェルだとはいえ、この世界の聖属性とは若干のズレがあります。だから、この世界の聖属性魔法でも使わない限りは、私にアンデットに影響を与えるようなことはできません」

「そうだったんですか」


リュウセイは、サマエルの説明に納得した。たしかに、イメージが先行した疑問だったので、そういうこともあるだろうと思ったのだ。


「次はニンニクがあると逃げ出すについてだが、これも有効だ。というか、私達ウ゛ァンパイアは嗅覚が鋭い為、臭いが強い臭いが駄目なのだ」

「ああ、ニンニクって臭いますもんね。けどそれって、アビスさんも駄目なんじゃあ?」


リュウセイは、カミューラの言葉でニンニクが駄目なことをすんなり納得した。そして、同じ条件のアビスにも話を振った。


「そうだな。俺達ワーウルフもニンニクなんかの臭いが強いものは駄目だな。あんなものの臭いを嗅いだ日には、鼻が曲がっちまう」


リュウセイは、嗅覚が鋭いのも大変なんだなぁ、とっ思った。


「最後は招かれなければ他人の家に入れないだが、そんな種族制限はない。というか、家の者の許可無く家に勝手に入るのは泥棒か空き巣だ」

「まあ、普通に犯罪ですよね」


リュウセイは、吸血鬼という条件を除いて状況を想像した結果、そう結論を出した。


「最後は職業だな。私の職業は【錬金術師】だ」

「錬金術師。それって鉄を金にするというアレですか?」


リュウセイの頭の中では、大きな鍋を掻き回すカミューラの姿が想像されている。


「来訪者達の世界だとそうらしいな。しかし、この世界での錬金術は違う!」


カミューラは大きく腕を広げてそう宣言した。


「ええっと、どう違うんですか?」


リュウセイを含め、周囲の村人達もカミューラのこの変化には引き気味だ。引いていない村人も中にはいるが、その村人達はカミューラの同類であることが表情から窺い知れた。


「まず第一にこの世界では金など簡単に作り出せる!」


リュウセイは、カミューラを指差して他の村人に視線をやった。すると、視線を向けられた村人達は黙って頷いた。

どうやらカミューラの言うとおり、金など簡単に作り出せるらしい。


「じゃあ、この世界の錬金術師は何をやっているんですか?」

「よくぞ聞いてくれた少年!私達錬金術師のやることは唯一つ、真理の探究だ!」


カミューラは、拳を天に突き上げてそう言い切った。


「そう、ですか」


リュウセイは、か細い声でそう言った。その後、再び村人達に視線を向けた。


村人達は、揃って首を横に振った。こうなったカミューラは止められないようだ。


「そう、真理の探究こそが私達の望み!鉄クズをいくら金に変えたところで真理に至れるのか?いな!断じていなだ!あらゆるものを調査、研究、開発、改良、錬成を経てこそ真理に到達する道が見えるのだ!」


カミューラは、その後もしばらく錬金術師と錬金術について力説し続けた。


「あー、こうなるとカミューラはしばらく帰ってこん。先に俺の自己紹介をしてかまわんか?」


リュウセイ達がカミューラの話を聞き流していると、低い背丈でガッシリした体格をした一人のオッサンがリュウセイの前に来て、そう聞いた。


「はい、お願いします」

「そうか。それじゃあ名前からいこうか。俺の名前はベルグ。種族は【ドワーフ】だ」

「ドワーフ?鍛冶が得意で、武器や金物を鍛えるのを仕事にしていて、お酒がなによりも大好きな?」


リュウセイは、ドワーフについての知識を頭の中で思い浮かべながらそう尋ねた。


「ああ、その認識であっている。あえて付け加わるなら、酒は俺達の必需品だ。俺達にとっちゃー、水とかわりねぇ」


ベルグは、素面でそう言い切った。


「はあ」

「なんだよその気の抜けた返事はよ。うん?そういえば俺達の種族については、来訪者の連中、みんなよく知っているよな。なんか理由でもあるのか?」


ベルグは、リュウセイの返答に呆れたようだが、すぐに疑問を覚えてリュウセイに質問をした。


「ただたんに空想と現実が偶然の一致をしているだけですよ」


リュウセイは、深く考えずにそうベルグに答えた。


「そういうもんか。次は職業についてか。俺の職業は【鍛冶師】だ。さっきのお前の言葉どおり、武器や金物を鍛える職業だ。この村の鍋から武器まで、全部俺が鍛えている。お前まだこっちに来たばかりで武器も防具も持ってないんだろう?カインズを助けてくれた礼に、ワンセット用立ててやるから、今度俺の所に来ると良い」

「そうですね、お言葉に甘えさせてもらいます」


リュウセイは、サマエルの方を見た。サマエルは、リュウセイに一つ頷いた。サマエルに頷かれたリュウセイは、ベルグにそう返事をした。


それから少し時が経った。


「と、いうわけなのだ!」


リュウセイがベルグの自己紹介を聞き終わって少しすると、ようやくカミューラが帰って来た。


「そうなんですか、こっちの錬金術師はいろいろ出来るんですね」

「ああ、そのとおりだ。しかし私は、この村ではモンスター素材の加工や魔道具の作成ぐらいしかやらないがね」


リュウセイは、帰って来たカミューラとすぐにそんな会話をした。どうやらリュウセイは、ベルグの自己紹介を聞きながらも、ちゃんとカミューラの話も聞いていたようだ。


「なんでですか?さっきの話だと、他にもいろいろ出来るんじゃあ?」

「それは出来るが、他の今言った以外の分野はそれなりに周囲に危険があるのだ。私は、こと錬金術のことになるとハイテンションになるが、理性が効かなくなるわけではないからな。この村の中や傍では危ない実験はしないことにしているのだ」

「それはいいですね。さっきの話にあったようなことが出来るのに、倫理観がアレだと危険ですからね」


リュウセイは、カミューラがマットサイエンティストではなくて安心したようだ。


「まあ、私から見てもそうだな。私の知り合いには、その倫理観がアレなのが何人かいるが、その内の幾人かは実験の失敗や周囲の反発でボコられたからな」

「それって、その人達大丈夫だったんですか?」

「無論だ。全員今だにぴんぴんしているよ。というか、そもそも復讐されたり討伐される程にアレなやつとは友人になどならないよ」

「そうですか」

「さて、後私が自己紹介することはこの村での役割についてかな?」

「カミューラさんのさっきの言葉どおりなら、モンスター素材の加工や魔道具の作成なんでわ?」


リュウセイは、カミューラにそう尋ねた。


「まあ、基本的にはそうなんだが、もう少し詳しい話をしようと思ってな」

「そうですか。じゃあ、説明お願いします」

「うむ。まずはモンスター素材の加工についてだ。この村の外ならギルドがやってくれるのだが、この村だと私以外に出来る者がいない。必然的に、モンスター素材を武器や防具の材料、日用品、消耗品など日常で使えるようにするのが私の仕事になる」

「そうですか。ギルドというのはなんですか?」

「ギルドというのは、国を跨いで運営される各分野の互助組織だ。来訪者である君のイメージなら、冒険者ギルドや商業ギルドがこれにあたる。業務内容も、来訪者がイメージするのそのままな感じだ。もっとも、この村にギルドは無いので、細かいことは機会があったらでかまわないだろう?」


カミューラは、ギルドについて説明は今はいらないだろうと判断したようだ。口調は疑問形なのに、内容は断定形なことからそれがよくわかる。


「はい、大丈夫です」


リュウセイは、そのカミューラの問い掛けに簡単に頷いた。どうやらリュウセイの方も、ギルドのことは今は関係ないと考えているらしい。


「次は魔道具についてだな。私が扱う魔道具は、魔力で動く日用品や来訪者達の言う電化製品だ」

「「電化製品?」」


カミューラのこの言葉には、リュウセイとサマエルが揃って首を傾げた。


「ああ。昔この世界に来た来訪者と友人になったことがあってな。文明が遅れていて不便だとよく言っていたのだ。錬金術師として、そう言われて何もしないわけにはいかんからな。電化製品について聞き出して、研究を繰り返して魔道具で電化製品を再現したのだ」


カミューラは、胸を張ってどうだと示した。


「「すごいですね」」


リュウセイとサマエルは、素直にカミューラの偉業に感心した。


「そうだろう。今では、電化製品と作成と改良も私の研究の一部になった。もっとも、メンテナンスが私を含めても小数しか出来んので、この村にしかないがな」


カミューラは、そう言うと肩を落とした。どうやらカミューラとしては、もっといろいろな人に使ってもらいたいようだ。


「それは、もっと利便性が上がるといいですね」

「ああ、まだまだ研究が必要だ。幸い、君達という新しい情報源も来てくれたことだしな」

「ええっと、手伝えることがあるなら喜んで」


リュウセイは、カミューラにそう答えた。


「ふふ、期待しているよ。そうそう、私はステータスカードや能力の研究もしているんだ。たしか能力に不明な点があるんだろう?今度家においで、私なりに調べてあげるよ」

「是非お願いします!」


カミューラのこの言葉に、リュウセイではなくてサマエルが強く反応した。


「マールさん?」


リュウセイは、驚いたようにサマエルに呼びかけた。


「竜星さん、是非診てもらいましょう!」

「わ、わかりました」


サマエルはリュウセイに詰め寄ると、力強くそう言った。

リュウセイは、サマエルの迫力に押されて頷いた。


サマエルは、リュウセイの能力を早めに把握したいようだ。


「次は誰がいく。いや、自己紹介はとりあえずここまでか」


カミューラが、村人にどうするか聞いてすぐに、何かを見て前言を翻した。


皆どうしたのかと、カミューラの視線を追った。


皆が見た先では、自己紹介に参加していなかった村人達がこちらを手招きしていた。


どうやら歓迎会の準備が整ったようだ。それを確認した皆は、村の中心への移動を開始した。




「さて、準備も整ったのでこの子達の歓迎会を開始する」


村人達が全員集まったことを確認すると、会場の真ん中で村長のエニグマは隣にいるリュウセイ達を示してそう宣言した。


「まずは挨拶を頼もうかのう。名前と何か一言あればそれも言っておくれ」

「「わかりました!」」


エニグマにそう返事をして、リュウセイは一歩前に出た。


村人達の視線が、リュウセイとサマエルに集中した。


「来訪者の竜星といいます。この世界に来たばかりで、まだまだ知らないことが多いのでいろいろ教えてください。よろしくお願いします」


リュウセイはそう言って頭を下げた。


パチパチパチ


村人から拍手が送れた。リュウセイの自己紹介が終わると、次はサマエルが前に出た。


「サマエルといいます。竜星さん共々よろしくお願いします」


サマエルもそう言って頭を下げた。


パチパチパチ


村人から再び拍手が送れた。


「さて、最初はこんなもんじゃろう。彼らの詳しいことは、仲良くなって自分達で聞いてくれれば良いじゃろう。さあ皆の衆、歓迎会を楽しもう!」

「「「おおー!!」」」


エニグマの音頭に、村人達全員が答えた。


そして、皆思い思いに食事をしたり、話をしなりしながら歓迎会を楽しんでいった。


こうして、リュウセイ達のユーミルでの初日は過ぎていった。



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