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リザードマン達とヒュドラ討伐

「シュッ『アレガソウダ』」

「あそこですか」


僕は、トーンが指差した沼を見てそう言った。


現在、ダンジョンでトーンの話しを聞き終えた僕達は、トーンの頼みを引き受けて、ダンジョンの外にあるこの沼の傍まで来ていた。


トーンの話しをまとめるとこうなる。


まず話しは、リザードマン達がダンジョンで狩りをすることになった理由まで遡った。

リザードマン達の狩りは、本来なら外の湿地帯で行われていたそうだ。しかし、二週間前にあるモンスターが狩り場の付近の沼に住み着き、狩り場の獲物を次々補食しだした。食べられなかった獲物達も、そのモンスターが住み着いたことで住家をかえていき、狩り場一帯からその姿を消した。その結果、リザードマン達は狩り場で食糧を得られなくなったそうだ。

そして、それは沼に住み着いたモンスターも同じ。ただし、あちらにはまだ食糧に出来る者達がいた。そう、リザードマン達だ。

沼の付近を狩り場にしていたリザードマン達の集落は、当然そこまで沼から離れていたわけではなかった。

沼の近辺に獲物が居なくなったモンスターは、当然手近な所から獲物を探した。その結果、逃げ出した獲物と違って集落単位でこの辺りに居残っていたリザードマン達に目をつけたのだ。


リザードマン達が見たそのモンスターの姿は、多頭の蛇の姿をしたモンスターだそうだ。沼から複数の頭を伸ばしてきて、すでに何人ものリザードマン達が食われたそうだ。

もちろんリザードマン達とてただ食われるに任せていたわけではない。モンスターの襲撃がある度に戦い、頭のいくつかを倒すことには成功したそうだ。しかし、そのモンスターは再生能力があり、一定時間が経過すると、倒した頭が再生してしまうらしい。

なので、モンスターをいつまで経っても倒せないそうだ。


再生するのなら、そのモンスターを食糧にすれば良いのでは?と、聞いてみたところ、そのモンスターは毒持ちだそうで、試しに食べたリザードマンは死んだらしい。

なので、向こうはリザードマン達を食糧に出来るが、リザードマン達はモンスターを食糧に出来ないという構図になっていた。

だからリザードマン達は、ダンジョンで狩りをすることにしたそうだ。

狩り場が無くなったことで集落は食糧難。集落を移すにしろ、移す間の食糧がいる。

ダンジョンから狩りに行った仲間達が帰りしだい、リザードマン達は集落を移動させるつもりだった。

だが、いつまで経っても仲間達は帰って来ない。

だから集落に最低限の戦闘要員を残し、トーン達が様子を見に来たのだ。

そして、僕から話しを聞いて状況を把握した。

ダンジョンに行かせた仲間達は生きていてもすぐには帰って来ない。

そうなると、食糧の関係で移住は行えない。ならば、彼らリザードマン達に残された選択肢はただ一つ。玉砕覚悟で沼のモンスターを討伐することだ。

そんな決意をしたトーンの前に、僕達がいた。

ヒューマンとは険悪な為、僕個人はともかく信用はならなかった。しかし、僕はヒューマンではなかった。

そして、僕が連れていた三人の使い魔。トーンは、使い魔達から感じるプレッシャーは沼のモンスターを越えると感じた。

トーンは、一縷の望みを抱いて僕に戦いに加勢して欲しいと頼んできた。


ここまでがダンジョンでしたトーンとの話しの内容だ。




そしてこれからは僕がこの頼みを引き受けた理由となる。別に沼のモンスターは僕と敵対していたわけではない。だから、本来なら僕が彼らリザードマンに加勢する必要はない。また、加勢した理由はリザードマン達に同情したからでもない。リザードマン達と沼のモンスターとの間にあるのは、普通の生存競争でしかないからだ。食うか食われるか。弱肉強食。それは単なる自然の摂理でしかない。だから同情する理由がない。

これが例えばアロガント王国軍との戦争とかいう話しになると、リザードマン達に同情は発生するだろう。アロガント王国軍の今までの軍歴から考えると、リザードマン達に同情する可能性はかなり高い。

だけどそれは例えばの話し。

今は関係がない。

僕がトーンの頼みを聞いた理由はいたってシンプル。自分の為だ。

僕がトーンの話しで興味を惹かれたのは、トーンが話したモンスターの特徴だ。

住家が沼。多頭。蛇頭。再生能力。毒持ち。

これだけ特徴があると、どんなモンスターかはわかりやすかった。

その沼に住み着いたモンスターの正体は、おそらくはヒュドラ。又は、それの近縁種だ。

ヒュドラはギリシャ神話に出てくる強豪モンスター。死後に自分を殺した半神たるヘラクレスを毒殺した恐るべきモンスターだ。

知能が高ければ使い魔に。知能が低ければ持ち駒にする。

どちらにしろ僕の戦力アップに繋がるおいしいモンスターだ。

基本戦略が毒がメインなのもポイントだ。

星遊戯盤を発動させておけば、毒攻撃は完封出来る。

それに、ヒュドラの再生能力を上回る攻撃は豊富にある。


ちなみに、使い魔にする件はリザードマン達に了解をとっている。彼らとしても、食われた仲間達の仇は討ちたいが、とりあえず沼から居なくなってくれれば文句はないそうだ。

リザードマン達は、これまでの戦いで自分達で仇を討てるとは思えないようだ。まあ、討てるだけの戦力があれば、とっくに仇を討っているだろうしね。




こういうそれぞれの目的があって現在の状況となっている。今は、リザードマン達が仮称ヒュドラをおびき出すのを待っている感じだ。


「《アウェイク》」


なので、今のうちに戦闘準備をしておく。


「シャア!『ナニヲ!』」

「戦闘準備をしただけですよ」

「シュア。シュシャア?『ソウカ。チナミニナニヲシタンダ?』」

「それは秘密です」


よく知らない相手に手札を教えるつもりはない。


「ストゥリクトは前衛。ラスペリとブルームは後衛をお願い。あと、マタンゴ達はみんなの護衛をしっかりお願い」


コクリ コクリ コクリ


使い魔三人が頷き、その眷属のマタンゴ達も頷いてくれた。本当は、みんなを持ったマタンゴ達は下がらせておきたい。けど、未知の場所で目の届かない所で何かある可能性を捨てきれない。なので、僕の後ろにいてもらうことにした。


「シャア!『キタ!』」


戦闘準備が終わると、リザードマンの一体がそう言いながらこっちにかけて来た。


プレイヤー視点で沼の方を見ると、水面が波打ちだしていた。そして、すぐに九つの蛇頭が沼から顔を出した。

九つの頭。九対の眼がそれぞれリザードマン達と僕達を捉えている。


プレイヤー視点で確認したそのモンスターの名前は、『ヒュキノストール』。名前はヒュドラからかなり離れていた。

見た目はヒュドラだから、他のみんなと同じようにヒュドラの上位種と解釈することにした。

ちなみにLevelは50。明らかにボスモンスター格のようだ。

どうやらこの世界、普通のフィールドにもボスモンスターが存在するようだ。しかも、リザードマン達の話からすると、徘徊タイプ。

エスト村に帰っても、このことは覚えておいた方が良さそうだ。


現在、まだ戦闘は開始されていない。

リザードマンとヒュキノストール、両者共に睨み合いをしている。


リザードマン達は、仲間の仇を見る敵意に満ちた目でヒュキノストールを捉えつつ、油断なく武器を構えている。

片や、ヒュキノストールの方はというと、それぞれ見ている相手によって視線の種類が違っていた。

まずはリザードマン達を見る視線。こちらは単純に獲物を見る感じだ。今までの戦闘で、完全に脅威だとは認識されなくなっているみたいだ。

馬鹿な獲物が自分達からやって来たとでも思っているのだろう。

次にラスペリ達使い魔達を見る視線。

こちらはかなり警戒していて、ラスペリ達を自分の脅威になると考えているようだ。

ヒュキノストールのこの考えは当たっている。

ラスペリ達の能力なら、ヒュキノストールを倒すことは可能だからだ。

まずはラスペリの場合。ラスペリは基本的には物量で押していく戦い方になるだろう。胞子を周囲にばらまき、そこから大量発生させたマタンゴ達と一緒にヒュキノストールを殴っていく感じだ。ヒュキノストールの毒性によっては、ヒュキノストールを苗床にして、再生の妨害と戦力の補充を同時進行で戦えるはずだ。

次はブルームの場合。ブルームの場合は、まずは蔓でヒュキノストールの身体を固定。ランクアップしたブルームの攻撃の追加効果の中には、毒を吸収して球根を成長させるものがある。

ヒュキノストールに傷を生わせ、球根を撃ち込めればそこから毒を吸い出していけるはずだ。まあ、こちらもラスペリのキノコと同じで、ヒュキノストールの毒性にもよるけど。毒を吸収出来るとはいえ、やっぱり限界や相性というものがある。この辺りのことは試してみないとわからない。


最後にストゥリクトの場合。ストゥリクトの場合は、一番正攻法が通用する。

ストゥリクトには、ラスペリやブルームにはないアドバンテージがある。そう、石化だ。

他の二人は植物型の為、どうしても絡め手になってしまう。しかし、ストゥリクトは違う。

ストゥリクトの元はバジリュークス。

元々毒持ちの為、ある程度の毒耐性を持っているし、その鱗で覆われた身体はたいていの攻撃を弾き返す。その鋭い爪や石の尻尾は、ヒュキノストールの鱗を充分貫けるだろう。

そして、傷をつけた箇所を石化させれば、ヒュキノストールの再生能力を封じることが出来る。

時間をかければ、ほぼ確実にヒュキノストールを倒せるだろう。


最後に僕を見ている視線。気のせいか、かなり好感度の高い視線を向けられている気がする。

なんでこんなに好感度が高いのだろう?あの称号、爬虫類系モンスターに好感度補正でもかかる仕様だったのだろうか?


まあ、わからないことはおいておくとして、今は戦闘だ。

僕とラスペリ達が見守るなか、リザードマン達が動いた。

リザードマン達は、それぞれの武器を構えて、ヒュキノストールに切り掛かって行く。

それを見たヒュキノストールも動きだした。

リザードマン達を見ていた首達が、一斉に襲い掛かっていく。

リザードマン達とヒュキノストールとの激しい戦いが始まった。が、僕と使い魔達の方は、まだ相手の出方をうかがっている。

リザードマン達の相手をしている首は五つ。残る首の視線はまだ僕達に固定されているからだ。


あちらが剣と鱗。牙と盾を打ち合わせるなか、僕達はただ睨み合いを続ける。

僕達は相手の手札がわからないから。

ヒュキノストールもラスペリ達を警戒しているから。

そして、今の膠着状態がリザードマン達への支援になっている。ヒュキノストールの頭の半分の行動を抑えているのだから、充分な支援だと言えるはずだ。

今のところリザードマン達はヒュキノストールと互角に渡りあっている。わざわざ今の均衡を崩す必要もない。

しばらくは様子に徹するつもりだ。




それから三十分後。戦いの均衡はヒュキノストール優位に傾きだした。

僕達の方は、相変わらず睨み合いを続けていただけで無傷だけど、それぞれの頭と戦っていたリザードマン達が、ダメージを蓄積させていっていた。

僕が見た範囲では、リザードマン達とヒュキノストールの攻防は互角だったと言ってもいいと思う。まあ、ヒュキノストールの首一つを抑えるのに、リザードマン達の方は五人がかりだったけど。

それでも互角の戦いを演じていたのは確かだ。

その均衡がヒュキノストールに傾いた理由はというと、それはヒュキノストールの体液のせいだ。

リザードマン達がヒュキノストールに血を流させる度に、周囲にヒュキノストールの血が飛び散った。その飛び散った血には、トーンが言っていた毒が含まれていたのだろう。

リザードマン達は、盾を使ってその毒を防いでいた。

だけど、リザードマン達は直接は触れずとも、間接的に触れて毒に侵されていった。

ここは沼地。沼の周囲には水溜まりが多く存在していたし、沼から出てきたヒュキノストールの身体からは、大量の水が滴り落ちていた。

ヒュキノストールから飛び散った毒の血は、それらの水に徐々に溶けていき、リザードマン達がその水に触れる毎にリザードマン達を毒の餌食にしていった。

現在リザードマン達のほとんどが毒に侵されて、戦闘開始時の動きが出来なくなってきている。

その結果、ヒュキノストールが攻勢を強めたわけではないのに、均衡がヒュキノストールに傾きだしているのだ。

ただ、幸いというべきなのか、水に溶けた毒の毒性が薄まっているらしく、即死したリザードマンはいなかった。

・・・いや、ただたんに僕がみんなの周囲に展開している、サンライトとムーンライトの影響を受けているだけかもしれない。


ダンジョンから出た後も、サンライトとムーンライトは花化したみんなの周囲に展開したままにしている。

位置的にはリザードマン達に光が届いていないと思っていたけど、そうじゃなかったのかもしれない。

ヒュキノストールの毒の毒性が弱いか、薄まっていると考えるよりも、そちらの可能性の方がそれなりに高そうだ。


「みんな、そろそろ介入しようか」


けど、そろそろリザードマン達はまずそうだから、こちらも睨み合いを止めて動き出さないと。


コクリ コクリ コクリ


「じゃあストゥリクト、行っておいで」


コクリ


まずは前衛のストゥリクトに先行してもらう。

ストゥリクトが動きだすと、それまでストゥリクトを見ていた首と、リザードマン達の相手をしていた首の内の二本がストゥリクト目掛けて動き出した。

どうやら、ヒュキノストールはそれだけストゥリクトを警戒しているようだ。

こちらとしても、首がストゥリクトに集中してくれた方が戦いやすくなる。また、リザードマン達の方も相手にする首が減ったので、まだ持ちこたえられるだろう。


いや、今はリザードマン達のことはいい。

ストゥリクトとヒュキノストールとの戦いに集中するべきだ。

ヒュキノストールの戦い方は、リザードマン達との戦い方を参照すると、まずは牙による攻撃。次にその巨大な首で払い、押し潰す攻撃。最後に毒液を飛ばす攻撃。

ヒュキノストールは、リザードマン達相手にはこの三つの攻撃しかしていなかった。

ヒュドラの基本的な攻撃方法と言えるけど、他に攻撃手段がない可能性は低いだろう。

トーンには悪いけど、ヒュキノストールはリザードマン達を脅威とは見てなかった。

僕の方でも、リザードマン達がヒュキノストールの脅威になれるようには見えなかった。

だから、おそらくだけどヒュキノストールは外敵相手の攻撃手段をまだ使ってはいないと思う。

まあ、ヒュキノストールが獲物にも全力を尽くすタイプで、警戒している相手であるラスペリ達の前で、全ての攻撃手段を見せた可能性はないでもないけど。

油断ならない蛇のイメージからして、その可能性はほとんどない。


だから、初手は様子見だ。


ストゥリクトは、向かって来るヒュキノストールの首を危なげなく回避して、爪で反撃していく。

当然ヒュキノストールの毒の血が飛び散ってくるけど、予想通りストゥリクトには効果が無いみたいだ。

ヒュキノストールは、傷ついても気にしていないようだったけど。おそらく、再生が出来るからだろう。けど、ストゥリクトは再生しようとしている傷口を次々石化させていった。これによって、ヒュキノストールの再生を阻害することに成功した。

ただ、少し気になることがある。プレイヤー視点で見ていると、ヒュキノストールの体力があまり減っていないのだ。

九分の三とはいえ、ヒュキノストールの首には少なくないダメージを与えているはずなのにだ。


これはどういうことだろう?


疑問には思ったけど、今は戦いの様子を見守ることにした。ただ、体力の減りについては目を離さなかった。


ストゥリクトとヒュキノストールの戦いが進行すると、ヒュキノストールはさらに首をストゥリクトとの戦いにまわしてきた。

ストゥリクトがそれだけ強敵ということだろう。

あるいは、もうリザードマン達に戦力をまわす必要がないからかもしれない。

この戦いに参加しているリザードマン達の中で、もう満足に動けるのはトーンと、僕をヒューマンと誤解して絡んできたローンの二人だけになっているのだ。

他のリザードマン達は、もう息も絶え絶えで、とても戦闘を続行出来るようには見えなかった。


「《サンライト》、《ムーンライト》ラスペリ、彼らの回収をお願い」


コクリ


けど、ここで死なれるとさすがに目覚めが悪いので、簡単な応急処置はしてあげることにした。

ラスペリが回収して来たリザードマン達を、サンライトとムーンライトの光で癒してあげた。

これで少なくとも、この戦闘中には死なないだろう。

ただ、この魔法を解除した後で彼らがどうなるかは、ヒュキノストールの毒を解毒出来るかによる。さすがにそこまでは僕も責任を負えない。


ストゥリクトとヒュキノストールの攻防はどんどん激しさを増していき、だんだんお互いの攻撃の規模が大きくなってきた。

ストゥリクトは、爪と単純な石化だけではなく、ストーンステイクや石化の砂を全身からばらまきだしている。

ヒュキノストールの方は、今までの毒が嘘と思える程の毒を吐き出し、毒がかかった物をドロドロのぐずぐずにしてしまっていた。この毒のすごいところは、リザードマン達を回収する時に残された、鉄製の剣や盾もドロドロにしている点だ。

ヒュキノストールの毒は、有機物だけではなく無機物にも効果があるらしい。


他にも、口からサッカーボール大の水弾を発射したりと、いろいろな攻撃を繰り出している。


「シャア」


二人の戦いを見ていると、近くからそんな声が聞こえてきた。

声のした方を見てみると、いつの間にかトーンとローンの二人がこちらまで来ていた。おそらく、ストゥリクト達の戦闘が激しくなったので、避難して来たのだろう。

ストゥリクトが傍にいないので、先程ローンが何と言ったのかはわからない。しかし、雰囲気的には『ウソダロウ』といった、ニュウアンスのことを言っていた気がした。

まあ、無理もないだろう。それほどまでにヒュキノストールの戦い方が、リザードマン達と戦っていた時よりも激しいのだから、ローンが呆然としてしまってもしかたがない。


これを見たら、トーンとローンの二人はもう戦はないかな?その方がこっちとしては都合が良い。

僕の魔法は規模大きいものや巻き添えが出るものが多い。

二人がヒュキノストールから離れてくれれば、こちらもいろいろ使えるようになる。


「ストゥリクト!僕を見ているの以外、仕留めて!」


コクリ


僕が頼むと、ストゥリクトの全身からさらに大量の砂が放出された。


放出された砂は次々とヒュキノストールの身体に纏わり付いていき、ヒュキノストールの首を灰色に塗り替えていった。

十分くらいすると、ヒュキノストールの首は一本を残して灰色に染まり、やがて崩れていった。

あとには、今も僕を見ている首だけが残った。


「あとはあの首と交渉すれば終わりかな?」


ギリシャ神話いわく、ヒュドラの頭の一つは不死。残る頭は切られると分かれて再生し、頭を増やすという。

神話では増える頭の着けねを焼いて再生を封じ、不死の頭は岩で押し潰したという話だった。

現在、増える頭は砂になっている。おそらく再生は無理だ。使い魔契約出来なかった時の問題は、このヒュキノストールの最後の頭がどれくらいの不死かということだ。

知識にある向こうの世界のヒュドラの最期はさっきのとおり。けど、こっちは現役バリバリの剣と魔法の世界。

ヒュキノストールの不死に魔法や魔力、能力が絡む可能性がある。そうなると、下手すると押し潰してミンチにしても再生復活するかもしれない。

体力の概念はあっても、それが確実に0になる保証もない。

ブラックホールで全身を飲み込ませれば大丈夫だとは思うけど、その他の手段だと倒すのは無理かもしれない。

・・・いや、この先は交渉が決裂してから考えよう。


「ストゥリクト、戻って」


コクリ


とりあえずストゥリクトを呼び戻す。


ダッ!


「あっ!」


ストゥリクトがこっちに来るのを見ていると、今までおとなしくなっていたトーンとローンの二人が、ストゥリクトと入れ違いにヒュキノストールに向かって行った。


どうやら、今の状況が仲間の仇を討てる最後のチャンスだと判断したようだ。

ヒュキノストールの残された首は一つ。そう間違った判断ではないと思う。

ただ、あの特性の違うだろう首の強さが、他の八つの首と同じだったらの話だ。

まだ隠し玉がある可能性はある。


バシャ! ガキィン!


「えっ!?」


二人の意志を尊重してどうなるか見守っていると、二人が最後の首目掛けて跳んだ。そして、その瞬間沼から何かが出て来た。

沼から飛び出してきたものは、巨大なハサミだった。甲殻類系の硬そうな殻に覆われた、大きなハサミ。

ヒュキノストールに飛び掛かったトーンとローンの二人は、現在そのハサミに挟まれている。

真っ二つになっていないところをみると、ヒュキノストールは手加減して二人を挟んでいるようだ。


「沼とヒュドラ。それで今度は甲殻類系の巨大なハサミ。ひょっとしてこの沼、カルキノスもいるのかな?」


現状を考えると、その可能性が出て来た。

カルキノス。ヒュドラの兄弟にあたる蟹の怪物で、ヒュドラと同じ神話に登場する存在。

もっとも、神話での強さはヒュドラと違って残念の一言につきる。ヒュドラを助ける為にヘラクレスに挑み、足を挟んだりしたが、ヘラクレスのこん棒の一撃で死亡。別パターンだと、何も出来ずにヘラクレスに踏み潰されて終わり。

兄弟を助けに来た部分は美談なのに、ヒュドラよりも先にあっさり殺されてしまう上、ヘラクレスの脅威にもなれなかった。かわいそうな怪物だ。

カルキノスの方に人を害した話がなかったので、余計に憐れみを誘う。


「うん?けど変だな、あれってどうなっているんだろう?」


ハサミが出てきたので、カルキノスの本体が出て来るかなぁ?と思って沼を見ていると、おかしなことに気がついた。


ヒュキノストールの首の位置と、トーン達を挟んでいるハサミの位置関係がおかしかった。


ヒュキノストールの現在の首の位置と、トーン達を挟んでいるハサミの角度から考えると、ヒュキノストールとカルキノスの位置がダブっている。

あの位置だと、ヒュキノストールの胴体部分にカルキノスの本体があることになる。

カルキノスの大きさを、ハサミのサイズから逆算してヒュキノストールと同程度だと仮定すると、明らかにおかしかった。


バシャ ズシン!ズシン!


どういうことかと悩んでいると、謎の答えが沼から姿を現した。


「えっ!?」


ヒュキノストールが沼から出て来たのだ。ただ、ヒュキノストールの全身を見てひどく驚くことになった。

ヒュキノストールの姿は、ヒュドラとカルキノスと亀を混ぜたような姿をしていたのだ。

前から順に見ていくと、まずは巨大な亀の身体があった。

まんま亀だ。他には言いようがない。

次に、その亀の甲羅の部分からは、トーン達を挟んでいるハサミが伸びていた。ヒュキノストールと、カルキノスの本体がダブっていると思えたのは、これが原因のようだ。

そりゃあ、身体が同じならダブっていると思えるのは当然だ。

最後に、亀の尻尾の部分から、残った最後の蛇頭が伸びていた。

これがヒュキノストールの正体のようだ。


「何この姿!」


そうとしか言えない。組み合わせに類似品があるとはいえ、なんでこんなモンスターが発生したのか謎だ。

これがヒュドラとカルキノスなら兄弟の怪物。

蛇と亀なら玄武。

蟹と亀なら同じ池や海の生物。

二つまでだったらまだ納得がいく。けど、これ三つだとやっぱり違和感がある。

まあ、それは向こうの感覚であって、こっちではこんなモンスターが普通にいる可能性もあるけど。


「キャメェェェェ!」


そんなことを暢気に思っていると、ヒュキノストールが雄叫びを上げた。

何事かとヒュキノストールを見ると、砂にした八つの蛇頭が再生。いや、もう復元の域で復活した。


ぽいっ!ぽいっ!


「ええー!」


ついで、ハサミで捕まえていたトーンとローンの二人を、明後日の方向に放り捨てた。


放り捨てられた二人の姿は、すぐに見えなくなった。


僕は、その光景を呆然と見た。


「キャメェェェェ!『ワレ、ツヨサ、ショウメイス』」


僕が呆然としていると、帰って来たストゥリクトがヒュキノストールの雄叫びを翻訳してくれた。


「えっ!?強さを証明する?誰に?」


僕がその翻訳結果に混乱していると、ストゥリクトは僕を指差してきた。


「僕?僕に強さを証明するの?」


コクリ


僕が確認すると、ストゥリクトは迷いなく頷いた。


「なんでまた?え、自分が僕の使い魔に相応しいと証明する為?」


コクリ


僕はなんでヒュキノストールがそんなことを考えたのか疑問に思っていると、ストゥリクトが追加で教えてくれた。


なんて言うか、モンスターがそんなことを考えるなんて以外だ。

物語だと、僕が自分の主に相応しいか試すパターンの方が正しいと思うんだけど?

ヒュキノストールの僕への好感度が、MAX振り切っている気がしてならなかった。


「それって、僕の方は力を見せなくて良いのかな?」


コクリ


一応聞いてみたら即座に頷かれた。


「そう。じゃあ、本人の希望通り強さを証明してもらおっかな?もうリザードマン達は戦闘続行は無理そうだし」


「キャメェェェェ!『オマカセヲ!』」


遺恨があるリザードマン達が全員行動不能におちいっているので、当初の目的通り使い魔にする為に、ヒュキノストールの好きにしてもらうことにした。

ヒュキノストールの方も、翻訳結果からしてそれで良いようだ。


「じゃあストゥリクト、もう一度相手をお願い」


コクリ


そう頼むと、ストゥリクトはヒュキノストールに向かって駆け出した。


強さの証明の為に、他の使い魔を倒されるのは問題だ。だから、普通に耐えられるストゥリクトに任せるのが良いはずだ。


それからストゥリクトとヒュキノストールの激闘が始まった。


ヒュキノストールは、亀の頭から水鉄砲。蟹バサミからは泡攻撃と、叩き挟む物理攻撃。再生したヒュドラ尻尾からは、前にも増した毒攻撃を繰り出していった。

しかも、新たに使いだした水鉄砲と泡攻撃にはそれぞれ追加効果があった。

水鉄砲の方は、触れた物の摩擦を下げて滑りやすくする効果。

泡攻撃の方は、割れた瞬間周囲に衝撃波と、水鉄砲の水。または、ヒュドラの毒をばらまく効果があった。


ヒュキノストールは、ヒュドラ頭だけの時よりも手数と攻撃のバリエーションが増え、戦闘方法が多彩になっていた。


たいするストゥリクトの方も、今まで使っていなかった攻撃を使いはじめた。


今までの爪、ストーンステイク、石化の砂に加え、石の尻尾を切り離した石槍。石つぶて、石塊などのある程度の質量と重量を持った物体による攻撃。

砂を媒介に、触れたものから水分を奪い、乾燥させる能力。


僕との戦闘では使用されず、僕も知らなかった能力をいくつも使いだした。


二人の戦いは、一時間近く続いた。


ヒュキノストールの攻撃は、毒はストゥリクトの石の防御を突破するが、本体にはあまり効果がなかった。たいして水弾などの水攻撃は、水分を奪われて無効化されがちだった。

なので、基本は九つの蛇頭と蟹バサミによる物理攻撃が主体となった。また、ストゥリクトの石化攻撃については、ヒュドラ頭を盾にしてしのいでいた。石化した頭は切り離し、即座に再生。この繰り返しで石化攻撃はほぼ無効化された。


ストゥリクトの方はというと、毒攻撃は防げず、水攻撃は無効化していった。

基本、相手が手数押しだったので、ストゥリクトもストーンステイクなどの広範囲を巻き込みながらの手数で応戦していった。


どちらも致命傷になるような攻撃がなく、それが戦闘が長引いた原因でもある。

こちらは戦力がまだあったけど、ストゥリクトの希望で、一対一の戦いをさせてあげた。


もっとも、ストゥリクトが今までにない巨岩を作りはじめたので、そろそろ決着が着きそうだ。


ヒューン ズドォォーン!!!


ストゥリクトは、作りだした巨岩をヒュキノストール目掛けて叩きつけた。

ヒュキノストールはこれを防ぎきれず、巨岩の下敷きになってしまった。

ヒュドラの最期と同じ感じになってしまったけど、体力はまだ一割程残っているから大丈夫だろう。


こうして、リザードマンからの依頼は達成される運びとなった。


後で岩を退かして契約しよ。


そう思い、先に事後処理をはじめた。






ヒュキノストールとの戦闘後のステータス


リュウセイ

Level:30

年齢:18

種族:アステリアン

【補正】全項目+455

【体力】

380/380

【魔力】

3800/3800

【星力】

454/454

【筋力】35

【耐久力】 33

【敏捷】 400

【器用】 240

【精神】 540

【幸運値】50%


【属性】星


【称号】

世界を渡った者、死を経験した者、■■■の盟友、インセクトキラー、暴星の葬者、繰り返す者、夢羊の羊飼い、赤き天災、白の猛威、マタンゴルーラー、魔石製造機、アメデルフィネルーラー、樹のユグドラシルに認められた者、青の厄災、バジリュークスルーラー


【能力】星遊戯盤 Level:10

星属性魔法 熟練度:15

《オリジン》《ビックバーン》《オリジンティック》《ビギニングライト》《カオス》《スター》《コスモス》《ビカム》《ブラックホール》《ホワイトホール》《ワームホール》《バタフライエフェクト》《ガンマ線バースト》《パルサー》《フレア》《メテオライト》《シューティングスター》《コメット》《グラウ゛ィティ》《カーレント》《ウ゛ォーテクス》《ラーウ゛ァ》《ウェイブ》《サンダー》《トルネード》《アースクエイク》《イラプション》《アウ゛ァランシュ》《シムーン》《スーパーセル》《ドラウト》《フラッド》《ファフロツキーズ》《リソース》《サンライト》《ムーンライト》《スターライト》《オーロラ》《クラウド》《レイン》《ストーム》《スノーストーム》《フォグ》《ミラージュ》《エクスプロージョン》《フリーズ》《ドライ》《コンプレッション》《イクスパンション》《サンクチュアリ》


眷属召喚 Level:1

眷属生成 Level:1

星天輝導

星地変転 Level:2

星空変転 Level:1

星定軌道 Level:1

星座祝福 Level:1

星刻閲覧

魔石交換 Level:1


【祝福・加護】

ルシフェルの祝福


【職業】

星導司Level:10


【備考】記憶欠落状態態


持ち駒

アバター・アイディアル×1

アバター・ウィッシュ×1

ファミリア・マタンゴロード=ラスペリ×1

ファミリア・アメデルフィネロード=ブルーム×1

ファミリア・バジリュークスロード=ストゥリクト×1


ブラッドーバット×1

ケイウ゛モールド×1

アテナオウル

×16

ハンターズホーク

×14

フレイムビー×81

ブラッティリーチ

×42

アラクネスパイダー

×25

サイレントスネーク

×35

ランマッシュ

×51

デザートスコーピオン×29

貯水ラクダ×45

貯水サボテン×23

ポイズントード×42

マッドスネーク×51

ウイル・オ・ウィスプ×165

イグジスタンス改×1



キャンドルファルロス×1

ソルジャースケルトン×15

スペクター×3

ファントム×3

ホーント×3

ポルターゲンガー×1

スプラウトコクーン×34

フラワーバタフライ×3

アーミーアント×1

ドリームシープ×4ル

デススコーピオン×3


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