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『深淵の樹海』第五階層 キノコと赤い天災

次の日、ダンジョン内で感覚として一夜明けた頃、スリーピングシープと一緒に快眠していた三人を起こしにかかった。


「ううーん」


三人を揺すると、それぞれ起き上がった。


「おはよう」

「おはようございます。もう交代の時間ですか?・・・うん?」

「おはよう。うん?三人全員を起こしたのか?」

「あら、そうみたいね。何かあったの?」


三人は、全員が起きていることに互いに顔を見合わせ、不思議そうにした。


「ううん。モンスターの襲撃も無くて平和だったよ」

「じゃあ、なんで全員を起こしたのよ?」

「もう朝の時間だからだよ」

「えっ!?」「なに!?」「何を!?」


三人は、一様に驚いた顔をした。


「みんなが寝てからおよそ7時間。外では空が明るくなりだしている頃だよ」

「なっ!なんで起こしてくれなかったんですか!」

「そうだぞ!今の言い方だと誰とも交代してないんだろう?なんで俺達を起こさなかったんだよ!?」

「そうよ!あなたが徹夜する必要なんてなかったでしょう!」


三人から、すごい剣幕で怒られてしまった。


「みんな、そんなこと気にしなくもいいんだよ。だって、この状態の僕に睡眠なんて必要無いんだから」


僕は、アイディアルの駒の身体をコンコンと叩いて見せた。


「本当に必要無いんですか?」

「はい。マールさんはこの能力の説明文は読んでるでしょう?」

「・・・そういえば疲労に関する項目がありましたね」


マールさんは、少し考えてそう答えた。


「ええ。この駒の状態だと疲労しないんです。そして、疲労しないから眠る必要性も無いです。なんせ、ダンジョン内ではずっと能力を発動させていましたから、僕の肉体的には昨日起きてからここまで来るまでの数時間分の時間しか経過していないんです」

「能力的にはそうなりますか?」

「まあ、能力でお前が寝る必要が無いことはわかった。けど、なんで俺達を起こさなかったんだ?」


起こさなかった理由を説明したはずなのに、ブラドは納得がいかないようだ。


「そうね。負担はなかったのかもしれないけど、一人は寂しくなかったの?」

「うーん?話相手がいなかったのは、寂しくはありましたよ。けど、能力や熟練度上げをやりながらスリーピングシープ達をモフっていましたから、完全に寂しかったわけじゃないよ。それに・・・」

「「「それに?」」」


三人が不思議そうにしているが、続きを言うべきか迷った。


「三人が寝た後で、起こしても起きないだろうことに気がついんです」


が、やっぱり言うことにした。


「どういう意味ですか?」

「昨日は流れでみんなで食べちゃいましたけど、スリーピングシープの肉には睡眠薬の効果があるってブラドが言ってたじゃないですか。だから、そんなことの判断も出来ないでスリーピングシープの肉を食べちゃう程三人が疲れているんだと思って、気をきかせたんです」


能力で疲労しない僕にはわからなかったけど、みんなは判断力が鈍る程疲れているんだと思ったんだよね。


「ああ!たしかにリュウセイにスリーピングシープの説明の時にそう言ったな」

「そういえばそんな説明をしていたわね。だからリュウセイは私達を起こさなかったわけね」

「の、ようですね」


三人は僕が起こさなかった理由がわかって頷きあった。


「それに、次はボス戦なんだから疲労は少しでも無い方が良いでしょう?」

「それは、そうかもしれませんね」

「それは言えてるが」

「たしかにそれはそうなんだけど」


三人とも、それでも申し訳なさそうにしていたので、最後に駄目押しをしておいた方が良いかな?


「僕は本当に大丈夫だよ。それから気に病んでいるのなら、ボス戦で活躍してくれた方が僕は嬉しいな」

「そうね。せっかくゆっくりさせてもらったんだものね。このお礼は、ボス戦でするわ」

「そう、だな。おかげさまで体力も魔力も充分に回復した。ここは張り切らないとな」

「わかりました。竜星さんがそれを望むのなら、頑張ります!」


説得成功かな?みんなすごく張り切ってる。


やる気満々の三人を見て、僕も頑張っていかないといけないと思った。




それからみんなで野宿の後始末をして下の階層に向かった。あと、忘れずにバロメッツと布団にしていたスリーピングシープ達は倒して手駒に加えた。




「うわー、大きい!」


僕ば階段を降りた先にあったものを見て、思わずそう言った。


今までの階層では、階段はそのまま次の階層に繋がっていた。しかし、今回はそうではなく、今まで次の階層に繋がっていた部分に、重厚な黒い扉が存在していた。


「はは、始めて見たやつはだいたいそう言うな。リュウセイ、これがボスがいる階層にある『挑戦者の扉』だ」

「『挑戦者の扉』?」

「ああ。基本的にダンジョンボスがいる階層には、この扉があるんだ。そして、この扉をくぐるのは冒険者とかばかりだ。それで、いつしかこの扉はボスに挑む者の前にある扉。『挑戦者の扉』と呼ばれるようになったんだ」

「へぇー」


ブラドの説明を聞いて、扉を観察した。すると、その扉がただ重厚なだけの扉じゃないことがわかった。


薄暗いダンジョン内でもはっきりと感じる存在感。遠目にも見える、扉に刻まれた精緻なレリーフの数々。ボスモンスターが攻撃してもびくともしないと思える圧倒的な安定感。


どれをとってもただの扉とは思えない威圧感を放っている。


「たしかに言うだけの風格があるね」

「そうだろう」

「そういえば、この第五階層のボスモンスターって何?」


扉を見ていて、その先にいるものがどれほどの猛者なのか気になった。


「この階層のボス?なんだったかな、ラキア?」

「たしか、マタンゴだったはずよ」

「マタンゴ?」

「ええ。巨大なキノコのモンスターよ。大量の胞子をばらまいて視覚を塞ぐは、こっちを苗床にしようとするは、ばらまいた胞子に混じった菌蕈から小型マタンゴを大量発生させるわと、かなり面倒なモンスターよ」

「それなら、ブラックホールで一撃必殺にした方が良い感じ?」


大量増殖するキノコモンスターの群れを想像しながらそう提案した。


たしかに厄介なモンスターだとは思うけど、全部吸い込んでしまえば関係ない。


「その方が良いかもしれないわね。とくに有益な素材が採取出来るわけでもないし。ただ・・・」

「ただ?」

「ただ、この先にいるボスが本当にマタンゴならの話ね」

「違う可能性があるの?」

「だってこれまでの道中、私達が知っているのと同じ状態の場所の方が少なかったのよ?もうこのダンジョンが『配置換え』でもしたと思った方が良さそうでしょう?」

「配置換え?」

「そう、『配置換え』。私達が住んでいるあの洞窟のダンジョンにはそういうことはないけれど、人が管理をしていない天然物のダンジョンには、中の環境やモンスターの生息分布が一定周期で変わる『配置換え』という現象があるの。『配置換え』が起こったのなら、今のこのダンジョンの変化も説明がつくわ。あのイグジスタンスの説明もね」

「そうなの?」

「ええ。私達はあのイグジスタンスというモンスターのことは知らなかったわ。けど、『配置換え』があったのなら話は別よ。あのモンスターが、このダンジョンの私達が到達したこともない下層のモンスターである可能性が出て来るから」

「まだ到達したことのない下層のモンスター。・・・あっ!バロメッツ!」


ラキアちゃんの言葉ですぐにあの植物モンスターのことが思い浮かんだ。


「そう。あのバロメッツは本来ならもっと下層のモンスター。けれど、バロメッツは第四階層に存在していた。つまりはそういうことよ」

「じゃあ、この先にはマタンゴよりマズイモンスターが?」

「その可能性があるわ」

「一応聞いておくけど、マタンゴより弱くなる可能性はないの?」


一縷の望みを託して聞いてみた。


「その可能性はあまりないわね。なぜならここはこのダンジョンで最初のボス部屋。ボスがシャッフルされた場合、マタンゴ以外だとここより下層のボスの可能性しかないわ」


一縷の望みは、ラキアちゃんの断言で完全に潰えた。


「そう。序盤はあまり強いボスに出会いたくはないな」


それでもいかないといけないのがつらい。


「うん?強いボス?」


下にいる人達のことを考えて、少し引っ掛かりを覚えた。


「ねぇ、ラキアちゃん」

「何?」

「たしかボスって五階層毎にいるんだよね?」

「そうよ」

「ねぇ、マールさん」

「なんですか竜星さん?」

「遠征組がいるのって、一階から十層下でしたよね?」

「そのはずですけど?」

「今遠征組は何層辺りにいます?」

「今ですか?ええっと・・・」


マールさんは足元に目を凝らした。


「きゃっ!第十階層の辺りにいます!」


下を見ていたマールさんから悲鳴が上がった。そして、引っ掛かったことが嫌な事実として確定された。


「第十階層、ボス部屋ですか。怪我人背負って上がろうとした結果ですかね?」


第一階層から十層下なら第十一階層。ボス部屋の下だった。しかし、死にかけの人が三人もいるのに、帰ろうとしないとかはありえなかった。遠征組は、僕らの存在を知らない。だから、自力で帰還しようとしたのだろう。その結果、一層上って現在はボス部屋というわけだ。そして、本当に『配置換え』が起こっていた場合は、こちらがマタンゴのままだった場合は、あちらは第十階層かそれ以外の階層のボスモンスターと戦っているということになる。


「たぶんそうでしょうね。サマエル、あれから一日経過しているけど、死にかけている人数に変化はある?」

「ひ、一人増えてます。け、けど死者はまだ出ていません」

「そう」


暗い話の中で、今のは朗報だった。とりあえず死んでいなければ、遠征組全員を助けられる可能性はまだ残っているということだ。


「ちなみに配置換えが起こっていない場合の第十階層のボスモンスターって何?」


配置換えが起こっている可能性が現状高くても、まだ希望を捨てるには早いだろう。だから、そこのところは知っておきたかった。


「第十階層のボスモンスター?なんだったかしら?」

「たしか、巨大アルラウネじゃなかったか?」


アルラウネ。そのモンスターは知識にあった。下半身が巨大な花で、上半身が女性の人型を模った植物型モンスターだ。


そして、アルラウネの生態を確認して、遠征組が生き残っている可能性が向上した。


「それなら、階層ボスが変わっていなければ遠征組の生存率はかなり上がりますね」

「そうなるわね」

「そうだな」

「そうですね。ですが・・・」

「その続きは言わないでくださいマールさん。死亡フラグが立ちますから」


アルラウネの能力を知っているので、マールさんが何を言おうとしたのかすぐにわかった。だが、それをマールさんに言わせるわけにはいかない。


「そう、ですね。わかりました」


そう、生存率は向上した。今はそれだけで良いことにしておいた方が良い。たとえ、遠征組がどんな姿になっていようとも、生きてさえいればなんとかなる可能性だけは残るのだから。




「それではあらためて行ってみましょう」


その後、僕達は気持ちを目の前のボス部屋に戻し、攻略を再開した。

僕は、そっとボス部屋の扉を開けた。そして、みんなで周囲を警戒しながら『挑戦者の扉』をくぐり、ボス部屋に侵入した。


ボス部屋は、上の階層のようにだだっ広くはなかった。だが、それでもモンスターが暴れるには十分な広さがあった。そして、ボス部屋の中には上と違って木々も生えておらず、地形にたいした起伏もなかった。


視線を周囲から部屋の中心に向けてみる。相手がボスなら、部屋の中心にいるのが定番だからだ。そして、僕はそれを見つけた。


ボス部屋の中心。僕の視界の端から端までをうめつくす巨大な影。光を遮る赤と紫色の斑模様の巨大な傘。ヌラヌラとした怪しい光沢を放つ胴体。その胴体から伸びた短く巨大な手足。陰気と湿気の混じった暗くじめじめとした雰囲気。


想像の斜め上、イグジスタンスの当者比五倍以上の図体を持った、巨大化け物キノコモンスターがそこにはいた。


「これが巨大マタンゴ」


ゴクリ。僕は、その圧倒的な存在感に思わず唾を飲み込んだ。さらに、能力を発動していない生身の身体からは、冷や汗が噴き出していた。


「なわけあるか!」

「そうよ!これはいくらなんでも違うわよ!」

「えっ!?」


僕がボスの存在感に圧倒されながら呟いた言葉が、ブラドとラキアちゃんに即座に否定された。


「じゃあ、アレは?」


あのボスがマタンゴでないなら、なんだと言うんだ?


「あれはマタマタタンゴですね」


その解答は、ブラド達からではなくマールさんからもたらされた。


「マタマタタンゴ?」

「ええ。マタンゴの上位モンスターです。マタンゴのステータス換算でいえば、Level300オーバーのモンスターです」

「「「Level300オーバー!?」」」


マールさんの言葉を聞いた全員の口から、驚愕の悲鳴が上がった。


つまり、マタンゴが三回はランクアップしちゃったくらい強いってこと!?


「それって、マタンゴが三回ランクアップしたくらい強いってことですか!?」


僕としてはマールさんには否定してもらいたかった。


「いえ」

「そうですか」


よかった。さすがに三回もランクアップしたようなモンスターを相手にしたくはないよ。


僕は、ほっと胸を撫でおろした。


「ランクアップ三回分では足りません」

「え!?」


胸を撫でおろした直後、さっきのマールさんのいえの意味が逆だったと知らされた。

いったん安心した直後だった為、かなりの精神ダメージを受けた。


「じゃあ、どれくらいなんだ?」


ダメージを受けている僕に代わってブラドがマールさんに質問してくれた。


「ステータスは、通常のマタンゴの強さを三百倍にした程度です。ですが、マタンゴの能力の特化具合が致命的です」

「と、いうと?」


マールさん以外の全員は、マールさんの言葉を一字一句聞き逃さないように集中した。


「まずあの体格ですから、単純な胞子の放出だけでこの部屋をうめつくせるはずです。さらに、マタマタタンゴの胞子には様々な状態異常を引き起こす効果があります。極めつけは、下位種の発生能力です」


部屋をうめつくせる程の胞子に状態異常。先程のラキアちゃんの話からすると、こちらを苗床にしようともしてくるはず。あとは


「巨大マタンゴは、菌蕈を使って小型マタンゴを生み出してくるんですよね?じゃあ、上位種のマタマタタンゴの発生させる下位種っていうのは?」


簡単に考えれば予想はつく。だが、確認しないことには始まらない。


「お察しのとおりです。マタマタタンゴのランクアップ前の巨大マタタンゴ。その巨大マタタンゴからさらに下の巨大マタンゴが。最後に、巨大マタンゴからは小型マタンゴが発生します」

「負の増殖コンボ!」


一回でも増殖を許したら、辺り一面をネズミ算式で増えたマタンゴ軍団に支配されることになるってことだよそれ。


こんな狭い部屋でやられたら僕達に逃げ場は無い。マタンゴ軍団に押し潰されて圧死するか、胞子で窒息死するか、状態異常で動けなくなっているところを苗床にされてしまう。


「対策はないんですか?」

「胞子を出す前に倒すしかありませんね」

「あの巨体をですか!?」

「あの巨体をです」


マタマタタンゴを指差す僕に、マールさんは無情にも頷いた。


「無理ですよ!あんなのブラックホールでも一撃じゃ吸引しきれません。それに、あの巨体を飲み込む規模でブラックホールを発生させたら、僕はともかくマールさん達がマタマタタンゴと一緒吸い込まれてしまいますよ!」

「そうですね。しかし、私達に他に方法はありません」

「たしかにな。俺達じゃあ、マタマタタンゴの胞子を防ぐ方法も無いし」

「マタマタタンゴに致命傷を与えられるだけの高火力攻撃も手持ちにはないわね。だから、今回のボス戦はあなた一人でやってもらうしかないわ、リュウセイ。あなたの能力なら、戦闘は可能でしょう?」

「それは・・・」


僕はラキアちゃんに返事をせずに押し黙った。


そして、自己分析を開始した。


ラキアちゃんの言うとおり、僕ならマタマタタンゴと戦闘することが可能だ。


胞子で視界を塞がれても、プレイヤー視点で名前とLevelを目印に攻撃はすればいい。防御の方は、胞子の移動を見ておけば大丈夫だろう。また、胞子の状態異常も駒の状態なら効果を無効に出来る。そして生物ではなく、破損・破壊が出来ない駒の身体なら、苗床にされる心配もない。さらには、ブラックホールをはじめ、天災級の高火力魔法なら手持ちに大量にある。


たしかに僕はマタマタタンゴと戦える条件を満たしていた。


「たしかに僕は、マタマタタンゴと戦えそうです。けど、三人は僕が戦っている間どうするの?」


このままだと、どうしたって戦闘に巻き込まれると思うけど?


胞子の餌食になる三人の姿が浮かんだ。


「それなら大丈夫よ。ボス部屋に一度入ったら、ボスを倒すまでは出られないけど、サマエル一人を連れて隠れることは出来るわ」

「隠れる?何処に?」


この部屋にはたいした木々もなく、地形も起伏に乏しい。隠れるようなスペースは無いと思う。それに、胞子なら隙間から何処へでも入り込めるとも思う。


「此処に」

「此処?影?」


ラキアちゃんは、足元にある自分の影を指差していた。


「そう、影。能力名は《潜影》。影の中に潜み隠れられる能力よ。そして、この能力は、私とブラドで使うことによって、人間大のもの一人分まで一緒に隠せるの」

「あー、それなら僕達四人は無理ですけど、三人なら隠れられますね。それに、影の中なら胞子も菌蕈も入り込めないでしょうし」

「そおゆうこと。リュウセイ一人で戦ってもらうことになるけど、リュウセイの能力なら戦力低下は補えるでしょう?」

「うん、大丈夫だよ!」


僕の星遊戯盤なら、駒でその辺は臨機応変に対応が出来る。あの化け物ボスを相手にするのは、巻き添えの心配さえなければ僕だけの方が良い。


「それじゃあお願いね」

「影の中からサポートはするから、頑張れよ」

「回復は任せてください」

「はい!」


僕が三人に返事をすると、三人は僕の足元の影の中に消えていった。


なるほど。マールさんが回復は任せてくださいと言っていたけど、影の中からどうするのかと思ったら、僕の影から足元を伝って回復させるつもりだったんだ。たしかにこの方法なら、マールさん達の安全を確保しながらノーリスクで回復が可能だろう。


「《アウェイク》、《アレインヂメント》!さあ、始めようかイグジスタンス!」


僕は、三人の安全が確保されたのを確認し、あらためてマタマタタンゴに向き合った。マタマタタンゴは相変わらずの存在感を放っていたので、こちらの最高戦力であるイグジスタンスを最初から出現させた。


「では先手必勝!《ブラックホール》シュート!」


そして、魔力回復をイグジスタンスに任せ、最初から最大破壊力の魔法を発動させた。


イグジスタンスの時と同様に、正面に『星』が出現。出現した『星』は、巨大マタマタタンゴの傘の部分目掛けて飛翔。その後、砕けてマイクロブラックホールを発生させた。ただし、今回はさすがに相手がデカすぎた為、吸い込めたのは傘全体の三分の一程度だけだった。


「やっぱりマイクロブラックホールだとあのくらいの範囲までか」


でも、完全盤のブラックホールを発動させると、一瞬で蒸発しないでいつまでも残り続ける可能性があるからな。


「うーん」


ボコ


「うん?ボコ?」


僕がブラックホールの仕様に悩んでいると、何やら不吉な音が聞こえてきた。

こういう不吉なパターンから逆算して、マタマタタンゴの方を見た。イグジスタンスの時にも感じた感触だったからだ。そして、その感触は正解だった。


僕が見たマタマタタンゴの今吹き飛ばした傘の部分が、すごいスピードで再生していた。いや、再生じゃない!傷口から新しいキノコが生えだしていた。


あっという間にマタマタタンゴの傷口は新しいキノコで塞がり、現在僕の目の前には吹き飛ばす前より巨大になった、いびつな形状のマタマタタンゴが存在していた。


「再生というか、生えてくるスピードが早過ぎるだろ」

「そうですね」


僕が呆れていると、足元からマールさんの声が聞こえてきた。


「マールさんですか?」

「はい」

「あの化け物って、何が有効なんですか?」


最大破壊力の魔法が微妙な結果に終わった以上、アレのことを唯一知っているマールさんから弱点を聞いておきたい。


「マタマタタンゴの弱点ですか。火と熱、乾燥ですね。モンスターになって強くなったとはいえ、基本はキノコのモンスターですから」

「なるほど。なら、噴火や日照り辺りの魔法が有効ですか」


僕は、マールさんの話からマタマタタンゴに有効な魔法を思い浮かべた。


「そうですね。ただし、マタマタタンゴが胞子の放出を始めたら絶対に使わないでください。イグジスタンスのレーザー兵器なんかも厳禁です」

「なぜですか?」


なんでマタマタタンゴに有効な魔法や、イグジスタンスの高火力武器を使ったら駄目なんだろう?


「使ったら竜星さんが死ぬからです」

「え!?使ったら、僕死んじゃうんですか!?」

「はい。高確率でお亡くなりになると思います」

「なんで死ぬんですか!?」

たかだか魔法や武器を使った程度で!


「竜星さんは粉塵爆発というものをご存知ですか?」

「粉塵爆発?小麦粉なんかのアレですか?」

「そうです」

「・・・ああ、なるほど!そういうことですか!」


ようやくマールさんが弱点をつける魔法や武器の使用を止めたのかがわかった。

粉塵爆発。それが理由だったんだ。僕の知識によれば、密閉された室内で粉等の微細物が大量に空気中に舞っている時に、小さな火種が加えられると、一気に引火して小さな爆発を繰り返す現象のことだ。

この部屋の出入口は前と後ろの二カ所。そのどちらも現在は閉じているから、この部屋は密室になっている。そして、あの規模のマタマタタンゴが放出する胞子なら、この部屋の半分以上を満たせる。そんな状態でこっちが火種をほうり込んだら、部屋ごと粉塵爆発で消し飛ぶことは目に見えている。そして、さすがにその爆発に耐えるには僕の体力も耐久力も心許ない。

ここは、マールさんの言うとおりにした方が良いだろう。


「わかりましたマールさん。マタマタタンゴが胞子を出してきたら火は使いません」

「そうしてください」


良し、では戦闘再開だ。イグジスタンスと違ってマタマタタンゴの再生能力は成長で補っているだけのはず。その証拠に、プレイヤー視点で見える体力は回復していない。胞子を出していない今のうちに体力を削る!


「これでも喰らえ《イラプション》!」


ゴゴゴゴゴ ドォーン!!


噴火の魔法を発動させると、マタマタタンゴの足元に赤い巨大魔法陣が出現。その直後、魔法陣から大量の灰、岩石、マグマ等が噴き出した。


「派手だなぁ」


そんな感想しか出て来ない光景が目の前で展開していた。


ドスン!ドスン!


マタマタタンゴの足元は魔法陣から溢れ出るマグマで赤く染まり、マタマタタンゴは熱そうに交互に短い足を入れ替えながら跳びはねている。


ズシャ!ズシャ!


そんなマタマタタンゴの身体に、噴き出した岩石が次々と激突して、マタマタタンゴの身体を削っていた。そして、噴き出している岩石の数は時間経過で増加の一途を辿った。今では、マタマタタンゴが自分で跳びはねているのか、岩石に打ち上げているのかわからない様相になってきている。


さらには、残った灰も他よりは地味だが、たしかなダメージをマタマタタンゴに与えていた。魔法陣から噴き出した灰は、一度ボス部屋の天井まで上り、そこからパラパラと地上に降り注いだ。しかし、降り注いでいる灰は上昇している分の灰とは違い、マタマタタンゴに触れた瞬間に発火していった。今ではマタマタタンゴの傘のあちこちから火の手が上がっている。


「地獄のようですね」

「かなりやり過ぎじゃないか?」

「そうね。この光景を見ていると、マタマタタンゴが憐れになってくるわね」

「やっぱりそう思う?」

「はい」「おう」「ええ」

「だよね」


影の中からこの光景を見ていた三人にとっても、凄まじい光景のようだ。というか、この光景を見てそう思わなかったら、その人物の感性が心配だ。


「けど、この魔法いつまで続くんでしょう?」


僕は今だに広がっていくマグマ。量を増し続ける岩石。マタマタタンゴの傘に堆積していく大量の灰。それらを見て、ふとそう思った。


魔法は一回発動させただけで、現在は魔力供給も追加使用もしていない。にもかかわらず、魔法の影響範囲は着実に広がっている。現在、ボス部屋の大気組成や、気温は生物の活動出来ない段階に突入していそうな気がする。が、たぶんその予想は当たっているはずだ。これだけ激しい燃焼を繰り返しているのだから。


「止められないのですか?」

「えっ!?こういう魔法って、発動時間が限られているもんなんじゃあ?」


マールさんからの質問に驚いた。てっきり、ブラックホールみたいに時間が経過すれば消えると思っていたのだ。


「調べてみたらどう?」

「そうする」


ラキアちゃんからの提案を聞いて、ステータスカードでイラプションのところを確認した。


「・・・時間経過で止まるみたいです」

「それはよかった。それで、どれくらいで止まるんですか?」

「・・・一週間後、です」

「「はっ!?」」


僕がステータスカードに書かれていた内容を搾り出して答えると、聞いていた三人中二人が沈黙した。


しばらく僕達には静寂が訪れた。


静寂の中、ただマタマタタンゴの足音と、マグマが噴き出す音だけがボス部屋に響き続けた。


「・・・一週間だと?」

「・・・うん」


少し経つと、ブラドが確認してきたので、それを肯定した。


「・・・それはいくらなんでも効果時間が長くはない?」

「僕もそうは思うけど」

「いえ、天災級魔法としては普通ですね」

「「「えっ!?普通!?」」」


ブラドの後に、ラキアちゃんも意見を言ってきたが、それには僕も同意だ。だが、その直後にマールさんが驚くべきことを言ってきた。どうやら、天災級魔法としては一週間の効果時間は普通らしい。それとも、それくらいの期間猛威を振るえないと天災とは呼べないのかもしれない。


そのことは気になったが、今はこの状況をどうするべきかが大事だ。一週間どころか、後半日もマグマが噴き出し続けたら、ボス部屋がマグマのプールになってしまう。さすがに転生後数日。しかも、自分の魔法で死ぬのは遠慮したいところだ。


「マールさん」

「なんです?」

「この魔法の止め方を教えてください」

「止め方ですか?」

「はい」

「そうですねぇ?時間経過以外だと、キャンセルするしかありませんね」

「キャンセルって、何処に触るのよあんなの!」


マールさんの答えに、ラキアちゃんから悲鳴が上がった。ラキアちゃんが上げなければ、僕が上げていただろう。キャンセルは魔法に触って解除する方法だ。あのどれを触れというのか。


「この魔法が発動した時に魔法陣が出現していたでしょう?アレに触ればキャンセル出来ますよ」

「「「魔法陣」」」


僕の視線は、自然とマグマで見えなくなってしまった、マタマタタンゴの足元の方を向いた。


どちらにしても、マグマの中に突撃しないと駄目そうだ。


「あのマグマの中に飛び込むのか」

「別にマグマの中に飛び込む必要はないですよ」

「えっ!そうなんですか!?」

「はい。竜星さんの魔法の中には、マグマに干渉出来る魔法がありますから。その魔法でマグマを避ければ大丈夫のはずです」

「マグマに干渉出来る魔法?」

「はい。ウェイブにカーレント等がそうです」

「波に流れですか。たしかにその二つならマグマに干渉出来そうですね」

「はい」

「わかりました。それでやってみます。「《ウェイブ》」」


早速、こちらに押し寄せてきているマグマに向かって『波』を起こした。魔法を受けたマグマは、向きを反転させ、こちらに向かっていた後方のマグマも巻き込みながら、こちらからマタマタタンゴの方に向かって移動を開始した。


僕は、『波』が退いた後を通って魔法陣のもとへ向かった。


ドスン!ドスン!


しかし、今だに暴れているマタマタタンゴがいて、途中から魔法陣に近くづくのが危険になった。なので、先にマタマタタンゴを退かすことにした。


「マグマウェイブ」


今までさざ波程度の高さだったマグマを一気に持ち上げ、マグマの津波にしてマタマタタンゴにけしかけた。その結果、マタマタタンゴの巨体を魔法陣から引き離すことに成功した。


「《キャンセル》!」


あとは、魔法陣周りのマグマもついでにマタマタタンゴに押し付け、キャンセルを使って魔法陣を停止させた。


赤い魔法陣が消え、マグマ等の噴出が止まった。


跡に残ったのは、今だに赤いマグマ、落ちて砕けた岩石、熱を持った灰。そして、動かなくなったマタマタタンゴと、僕だけだった。



『深淵の樹海』第五階層前半戦時のステータス


リュウセイ

Level:20

年齢:18

種族:アステリアン

【補正】全項目+255

【体力】

280/280

【魔力】

2642/2800

【星力】

183/254

【筋力】25

【耐久力】 23

【敏捷】 300

【器用】 140

【精神】 340

【幸運値】50%


【属性】星


【称号】世界を渡った者、死を経験した者、■■■の盟友、インセクトキラー、暴星の葬者、繰り返す者、夢羊の羊飼い、赤き天災


【能力】星遊戯盤 Level:7

星属性魔法 熟練度:10

《オリジン》《ビックバーン》《オリジンティック》《ビギニングライト》《カオス》《スター》《コスモス》《ビカム》《ブラックホール》《ホワイトホール》《ワームホール》《バタフライエフェクト》《ガンマ線バースト》《パルサー》《フレア》《メテオライト》《シューティングスター》《コメット》《グラウ゛ィティ》《カーレント》《ウ゛ォーテクス》《ラーウ゛ァ》《ウェイブ》《サンダー》《トルネード》《アースクエイク》《イラプション》《アウ゛ァランシュ》《シムーン》《スーパーセル》《ドラウト》《フラッド》《ファフロツキーズ》


眷属召喚 Level:1

眷属生成 Level:1

星天輝導

星地変転 Level:2

星空変転 Level:1


【祝福・加護】

ルシフェルの祝福


【職業】

星導司Level:7


【備考】

記憶欠落状態態


持ち駒

アバター・アイディアル×1

ブラッティーバット×1

ケイウ゛モール×1

スケルトン×14

ゴースト×10

シードラーウ゛ァ

×4

サイレントオウル

×16

ハンターホーク

×14

ハニービー×81

マウンテンリーチ

×42

ハンタースパイダー

×25

ステルススネーク

×35

ジェットパイン

×87

スルーウィロウ

×34

ウォークマッシュ

×51

イグジスタンス×1

スリーピングシープ×3



キャンドルグロー×1

ソルジャースケルトン×1

スペクター×1

ファントム×1

ホーント×1

ポルターガイスト

×1

レイス×1

スプラウトコクーン×3

アーミーアント×1

ドリームシープ×1

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