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『深淵の樹海』第四階層 巨兵無双と羊夢想

「マールさん。Levelはどれくらい上がりました?」

「Level10にまでなりました」

「三つ上昇しましたか。あの数で三つも上がったのなら、シードラーウ゛ァの経験値はたしかに美味しいみたいですね」


僕は、マールさんが第三階層で倒したモンスターの数を数えてそう言った。


「そうですね。第一階層だと、数の問題でいまひとつ経験値量についてわかりませんでしたから」

「たしかに」


僕は、第一階層で『星』でまとめて倒したモンスター達のことを思い出しながら同意した。まあ、僕の場合はシードラーウ゛ァ以外も大量に経験値にしたせいもあるんだけど。


ズシン!ズシン!


僕とマールさんは、イグジスタンスの肩の上でそんなことを話している。


現在僕達がいるのは第四階層。第三階層から降りてすぐに星遊戯盤を発動。そして、上で交わした約束のとおり、現在マールさんにはイグジスタンスの未知の能力を試すのに付き合ってもらっている。もっとも、モンスターにまだ遭遇していない為、実際にはまだ何も試せてはいないのだけど。


「そういえば竜星さん」

「なんですか?」

「なんでこうも階層ごとにモンスターの様子がおかしいんでしょう?」

「さあ?けど、第一階層が大量発生。第二階層が強化モンスターとイグジスタンス。第三階層がこのダンジョンでのスタンダード。たしかに三階層ともモンスター達の様子が違っていましたね」

「そうでしょう?いったいこのダンジョンで何が起こっているのか」


マールさんは、難しい顔で考え込みはじめた。


「マールさん、今は考えない方がいいですよ。答えなんてでないんですから」

「そうでしょうか?」

「そうですよ。それに、たとえ答えらしきものが出たとしても、ここじゃ答え合わせが出来ないでしょう?そうなると、どこまでいっても可能性のある想像止まりですよ」

「たしかに、そういうことになりますね」

「それと、こういう謎解きじみたことは、ヒントをもっと集めてから取り掛かるものです。方向性も定まっていないと、見当違いの答えに行き着いてしまいますよ?」


僕は、マールさんに同意を求めた。もっとも、記憶が無い僕では説得力に欠けるかもしれないが。


「そうですね。考えるのは、もっと情報を集めてからにしましょう」

「それが良いですよ」

「あっ!」


僕の提案を受け入れてくれた直後、突然マールさんが声を上げた。


「どうかしましたか?」

「竜星さん、モンスターです!」

「ようやくですか」


僕はマールさんが見ている方向を見て、マールさんが言っているモンスター達を見つけた。


これでイグジスタンスの力を試せる。僕の中で、ちょっと危ない類いの好奇心が疼いた。


「それじゃあ、始めにマールさんに手伝ってもらいましょうか。マールさん、そこに触って光属性魔法を使ってみてください」


僕は、イグジスタンスの背面にある結晶体を指差してマールさんに頼んだ。


「これですか?」

「それです」

「こう触って、光属性魔法を使うっと。光属性魔法ならなんでも良いんですか?」

「はい。光属性魔法ならなんでもかまいません」

「わかりました。それでは、《ライト》!・・・あれ?発動しませんね?」


マールさんは、たしかな手応えがあったのに魔法現象が起きなくて、不思議そうな顔をしている。


「それでかまいません。それではお見せしましょう!イグジスタンスの力を!可変式魔力ビーム発射!」


僕は、マールさんにそれで問題無いと伝えた。そして、その後ブラドとラキアちゃんに向かって腕を広げ、能力発動を宣言した。

上の階層で見せられなかったイグジスタンスの能力を、待たせた分大々的に見せようとして張り切った結果がこれである。

後から振り返ってみると、何故あんなテンションだったのかよくわからなかった。が、この時はそんなことを気にすることはなかった。



ギラッ!カッ!


イグジスタンスは、僕の命令どおりに頭部から可変式魔力ビームを、見つけたモンスター達目掛けて発射した。しかも、今回は貯め無しで即座に発射することに成功している。


ジュワッ!ドォーン!!


発射されたビームは、狙い違わずにモンスター達に命中した。そして、ビームが命中したモンスター達は、上でレーザーを喰らったサイレントオウル達のように爆散した。


「何度見てもすごい威力だな!」

「そうね。けど、これの何処が未知の能力なの?」


ブラドはビームの威力に感心し、ラキアちゃんはブラドに同意しつつも、僕がみんなが知っている能力を使ったことに疑問を持ったようだ。


「そうだね、見た目じゃわからないよね。ラキアちゃん、今イグジスタンスが使ったのは、上で使っていたレーザーとは別物だよ」

「そうなの?」

「うん」

「けど、私には同じに見えたわ?」

「それは俺もだな」


ラキアちゃんとブラドは、僕の言葉に半信半疑のようだ。まあ、無理もない。僕の方でも、見た目からは違いがわからなかったんだから。


「そうだよね。僕としても、ああも似た見た目をしていると、区別がつかないから二人の言うことはわかるよ。けど、あれと前のが違うのはたしかだよ」

「リュウセイが言うのならそうなんでしょうね。けれど、実際のところあれと前のとにどんな違いがあるの」

「それは今から説明するよ」

「お願い」

「うん。もっともその違いもわりと微妙なんだけどね。まずはレーザー兵器の定義から。レーザー兵器は、光そのものを一点集中させて放つものなんだ。この兵器の利点は、上で見たとおり発射したら確実に命中すると言っていい光速の到達速度と、ほとんど狂わない命中精度だよ」

「百発百中ということ?」

「その認識でいいと思うよ。ただし、それは僕の世界での話だけどね」

「と、言うと?」


ラキアちゃんの顔には、この世界では違うのか?と書いている。


「この世界のモンスターや人達なら、能力や魔法で防ぐこと、回避することは十分に可能だと思うんだ。ブラドとラキアちゃん、マールさんも種がわかれば対処出来るでしょ?」


僕は、最初に光属性のモンスターを。次に、危険察知の能力や、光属性耐性や無効のような能力を想像した。そして、ある種の確信を込めて三人にも対応出来るか聞いた。


「そうね。光属性魔法を減衰・無効化する魔法は幾つか知っているわ」

「同じく。それと、光に関する魔道具にも幾つか心当たりがある」

「私の方も、天使として光の扱いにはなれています。それなりの時間があれば、収束された光を拡散させて、レーザーを無効にすることは可能です」

「やっぱりそうですか」


予想通り、三人が三人ともレーザーに対抗出来る方法を幾つか知っていた。


こうなると、やっぱりこの世界でのレーザー兵器の有為性は、余り高くないようだ。有為性があるのは、初見か対策の無い相手に限るだろう。


「さて、レーザー兵器の基本はここまで。それでは、次にイグジスタンスの可変式レーザーの説明に移ります」

「あらっ?まだ説明するようなことがあるの?」

「あるよ。今のはあくまで基本。実際のレーザー兵器は、仕様上の違いがあるもんなんだよ」

「そうなの?」


ラキアちゃんは、この場で僕以外にレーザー兵器を知っているだろうマールさんに確認した。


「そうですね。兵器ですから、人の技術で違いは出て来ますよ」


マールさんは普通に肯定した。天使が兵器について語る。少し違和感のある光景だった。


「それじゃああらためて、イグジスタンスの可変式レーザーについて説明するよ?」

「ええ、お願い」


ラキアちゃん達の視線が戻ってきたので、話を再開した。


「イグジスタンスのレーザーは、可変式だよ。このタイプは、幾つかのレーザーを切り替えて使用出来るんだ。もっとも、イグジスタンスの撃てるレーザーは収束式と魔力式の二つしかないけど」

「二つ?」

「うん。エネルギー吸収で吸収した光を収束させて発射するタイプと、そのレーザーに魔力を含ませて魔法扱いで発射するタイプの二つ」

「その二つは何が違うんですか?」

「見た目や基本性能は同じです。違いは、威力と誘導性。相手が防ぐ為の方法に違いがあります」

「威力とかはともかく、相手が防ぐ為の方法が違うの?」

「うん!そうだよ」

「どう違うの?」

「今から説明するね。まず威力は魔力式の方が上。次に誘導性の方も魔力式が上。ちなみにこの誘導性っていうのは、魔レーザーを魔法化することによって、ある程度レーザーに直進以外の動作をさせられるってことだよ。そして最後に、防ぎ方について。光タイプは、最初の説明と同じ。魔力タイプは、これに加えて魔力に干渉するタイプに影響を受けるんだ。アンチマジックとか、結果の類いなんかだね。逆に、光タイプはこれを透過出来るんだ。なぜなら、ただの光だからね」

「へぇー、一長一短なのね」

「そうだね」


他にも特性はあるかもしれないけど、今はこのくらいでいいかな?


「じゃあ、次はさっき使った可変式魔力ビームについて説明するね?」

「ええ」

「こちらもまずは定義説明から。ビーム兵器っていうのは、加速した粒子の集合体を射出する兵器だそうだよ」

「加速した粒子の集合体?それっていったいなんだ?」

「さあ?」

「さあって。わからないのかよ?」


ブラドになんか呆れられてしまった。ラキアちゃん達も似たような感じだ。


「この辺はステータスカードの説明文を読んでるだけだからね。ちなみに、わからないのは前の世界での知識分だけ。この世界だと、粒子の集合体は魔力を含むらしいよ。だから、魔法をぶっ放す兵器という解釈でいいと思う」


とりあえず言い訳しておく。というか、現実に存在しない兵器の詳細なんてわかるわけないよ。


「魔法をぶっ放す兵器ねぇ?それって魔導砲と同じっていう解釈でいいのか?」

「いいんじゃないかしら。聞いた感じだと、原理は同じみたいだし」

「そうですね。この世界なら、魔導砲と同じものだという理解で大丈夫だと思います」


三人は、それぞれの解釈で納得してくれたみたいだ。けど、魔導砲ってなんだろう?


「えっと、魔導砲って何?」

「うん?ああっ、来訪者のリュウセイにはわからないのか。魔導砲っていうのはな、外の世界で使われている、攻城・巨獣対応用の巨大固定兵器の名前だ」

「へぇー、そんなのがあるんだ」


魔法世界に魔導砲。出所は僕のような来訪者かな?


「それで、イグジスタンスの魔導砲はどんな魔法を撃てるんだ?」

「イグジスタンスの魔力ビームは、イグジスタンスが吸収したエネルギーを利用出来るんだ。つまり、エネルギーさえ吸収出来ればどんな魔法でも撃てるんだよ!」

「ほぉー、便利そうだな」


ブラドは感心したように頷いた。


「ああ、だからですか」


マールさんの方も、何かに納得がいったように頷いた。


「どうかしたのサマエル?」


そのマールさんを、ラキアちゃんが不思議そうに見た。


「いえ、さっき竜星さんが私に光属性魔法を使わせた理由はこれだったんだなっと」

「ああ、たしかにそうね。今の説明を試したってことね。けど、なんでわざわざサマエルに頼んだのかしら?自分の魔法で試せばいいのに?」

「それは言えてますね。竜星さん、どうしてご自分でやらなかったんですか?」


みんなの視線が僕に集まった。


「僕のステータスカードを見たマールさんならわかるんじゃないですか?」

「竜星さんのステータス?ええっと・・・ああっ、そういうことですか!」

「どういうことだ?」


マールさんは僕の答えに納得がいったようだが、僕のステータスカードを見ていないブラドとラキアちゃんは、マールさんが何に納得したのかわかっていないようだ。


「どうぞ」


なので、二人にステータスカードを差し出した。


「見ればわかるのか?」


僕は頷いた。


「わかった」


ブラドとラキアちゃんは、僕のステータスを見始めた。


それなりに内容があるから、読み終えるまで少し時間がかかりそうだ。


僕は二人を見ながらそう思い、もう一つの試した結果を今のうちに確認することにした。


「マールさん。今のうちにステータスカードを回収に行きましょう」

「わかりました」


僕とマールさんは、ブラド達を置いて先程ビームの餌食にしたモンスター達がいた場所へと向かった。


「うわー、間近で見てみるとやっぱりすごい威力ですね」


僕は、ビームで空いた穴を見てそんな感想を持った。


「そうですね。あと、私はここまで派手に爆散しているのに、ステータスカードが残っていることの方がすごいと思います」

「それも言えてますね」


マールさんは、穴の中を覗き込みながらそう言った。

僕も、マールさんと同じように穴を覗き込み、穴の底にあるモンスター達の残骸と無傷のステータスカードを見て同意した。


穴の中にあったのは、ビームで爆散したモンスター達のバラバラの残骸。数枚のステータスカードの二種類。今回は、魔石は出現していなかった。魔石が出現するには、何か条件があるのだろうか?可能性としては、『星』やブラックホールのように肉体を圧縮する攻撃だろうか?これについては、また後で試してみよう。


「それじゃあマールさん、ステータスカードを回収しましょう」

「はい」


僕達は、モンスターの残骸は放置してステータスカードを回収していった。そして、回収した時に試してみたことの結果となることが起こった。


「あら?」


マールさんが触れたステータスカードが、光となってマールさんに吸収されたのだ。


「どうやら実験は成功みたいですね」

「成功ですか?というか、イグジスタンスがモンスターを倒したのに、何故私が経験値に出来たのでしょう?」

「それは、マールさんの魔法を使った攻撃だったからだと思います」

「そうなんでしょうか?」

「他に理由は無いと思いますよ。そもそも、モンスターを倒した者しかステータスカードを経験値に出来ないということの理由を僕は知りません。だから、今回人の力を借りて共同で倒した場合はどうなるのか試してみたんです」


僕は、足元のステータスカードを拾った。すると、そのステータスカードは光になって僕に吸収された。


「結果はご覧のとおりです」


僕は、ステータスカードが僕とマールさんのどちらでも吸収出来ることを見せた。


「今回、私に協力を求めたのにはそんな理由もあったんですか」

「はい。おかげさまで僕はまた一つこの世界のことを知れました。それに、これはマールさんにとってもメリットなんですよ」

「私にとってもですか?」

「はい。マールさんは今広範囲攻撃が手持ちになくて、経験値の稼ぎが悪いでしょう?」


今までのマールさんの戦いを見て、僕はそう認識していた。


「たしかにそれはあるかもしれません。竜星さん達は、皆さん広範囲攻撃を持っていますから」


マールさんは、僕の認識を肯定した。


「ですが、イグジスタンスを利用すればマールさんも広範囲攻撃が出来るんです。そして、これで一気に経験値を稼げるようになります。マールさんの悩みの種のLevelも、すぐに上げられますよ!」

「それが私のメリットですか?」

「そうです。第一階層みたいな大量発生に遭遇出来れば、マールさんのLevelを僕と同じくらい。いえ、もっと高いところまで上げられますよ!」


僕は、それが事実であるので迷うことなく断言した。


「そ、そうですね。・・・竜星さん、私のLevel上げに付き合ってくださるんですか?」


僕が力強く言うと、マールさんがのけ反った。その後、マールさんは何事か考えて、不安そうな眼差しでそう僕に聞いてきた。


なんでそんな不安そうな目で当たり前のことを聞いてくるんだろう?けど、ここはマールさんの不安を払拭させる為にも、はっきりと肯定した方がいいと僕は思った。


「もちろんですよマールさん!マールさんの為なら、僕頑張りますよ」

「は、はい。ありがとうございます。私、とても嬉しいです」


マールさんは、顔を赤らめながら満面の笑みを浮かべた。


マールさんの笑顔を見たら、心臓がとてもドキドキして、ますますやる気が出てきた。


「おーい!」

「あっ!ブラド達が来たみたいですよ」

「そ、そうですね。では合流しましょう」

「はい」


僕が穴から先に上がり、マールさんに手を差し出した。マールさんは、少し躊躇ったようだったが僕の手をしっかり握ってくれた。僕はマールさんを引っ張り上げた。そして、そのまま手を繋いだままブラド達に合流して移動を再開した。




「それではどんどん行きましょう」

「はい!」


サーチ&デストロイ。現在僕達は、モンスターを発見、即攻撃、一撃で撃破。この工程を繰り返し、順調に第四階層を攻略していっている。マールさんのLevelの方も、順調に上昇していっていた。


マールさんは、天使なので魔力は膨大だし、僕の魔力もイグジスタンスのおかげで消費をあまり気にする必要がない。だから弾切れの心配をしなくて良い。その結果、モンスターを倒し続けることが可能になっている。


遭遇すればしただけ経験値になっていく感じだ。


「あれ?あれはなんだろう?」


順調に進んでいくなか、階段にさしかかる辺りで今までに見たことも聞いたことも無いモンスターを発見した。プレイヤー視点では、バロメッツと表示されている。今回はサーチ&デストロイはせず、その新たなモンスターを観察してみた。

今までいなかったモンスターという点が気になるのだ。


「あれはバロメッツだな。しかし、なんでバロメッツがこんな浅い階層にいるんだ?」


僕は、バロメッツのことをまじまじと見た。


バロメッツというモンスターの見た目は、高さ2mくらいの広葉樹の姿をしていた。ただ、広葉樹なのにツタ植物のはずのメロンが撓わに実っているのがおかしかった。が、それ以外にとくにおかしなところはなかった。プレイヤー視点で名前とLevelを見ていなければ、これがモンスターだと気づくことはなかっただろうという程にある意味普通だ。


「ブラドの今の言い方だと、もっと下の階層にいるモンスターなの?」

「ああ。あのバロメッツは、このダンジョンの35階層以降に出てくるモンスターだ」

「35階層以降。ここまでのざっと8倍は下の階層のモンスター。やっぱり強いの?」


それだけ下の階層のモンスターなら、今までのモンスターよりは確実に強いはず。


「いや、バロメッツ自体には戦闘力はないぞ」

「え?」


僕は予想が外れて、一瞬ブラドに何を言われたのかわからなかった。


「大丈夫か?」

「う、うん。だけど、バロメッツって下層のモンスターなんでしょう?」


ブラドから心配そうに声をかけられて、僕はすぐに気を取り直して確認した。


「ああ。下層のモンスターであることは間違いない。ただし、見た目どおりの植物モンスターの上、こいつ自身に戦闘力は無い」

「それってモンスターって呼べるの?」


戦闘力の無い植物モンスター。それってただの植物っていうことなんじゃあ?


「呼べる。戦闘力以外の点でバロメッツにはモンスターと呼べる能力があるからな」

「それってどんな能力?」


本体に戦闘力は無いのに、モンスター扱いされる原因となる能力。それなりにすごい能力を持っているのかな?


「スリーピングシープと言うモンスターを生み出す能力だ」

「モンスターを生み出す能力。わりとすごい気はしないでもないけど、そのスリーピングシープって強いの?」


ブラドの言い方だと一種類しか生み出せないみたいだけど、それなりに強力な能力かな?とりあえず数は力だろうし。けど、直訳で眠り羊。あまり強いモンスターの気がしないな。


「全然。名前のとおり、寝てばかりいる羊型モンスターだ」

「それって本当にモンスターなの?バロメッツもスリーピングシープも、聞いた限りだと全然モンスターっぽくないんだけど?」


モンスターを生み出す能力はすごい気がしたが、生み出したモンスターが寝てばかりいる羊モンスターなら、危険度は皆無の気がした。


「一応モンスターだ。それに、スリーピングシープは戦闘力は弱いが能力は厄介なんだ」

「どう厄介なの?」

「みんな寝ちまうんだよ」

「はっ?」

「たがら、スリーピングシープの周囲にいるとみんな寝ちまうんだよ!」

「そう、なんだ。けど、どこが厄介なの?ただ寝ちゃうだけなんでしょう?」


何が厄介なんだろう?


「厄介だろう?周囲の連中を強制的に無防備にするんだからさ」

「あー、そういうこと。けど、それってレジスト(抵抗)は出来ないものなの?」


強制的に無防備にされる。相手に戦闘力は無いとはいえ、ダンジョンで眠らされたら他のモンスターの餌食になる可能性はある。けど、それは全く抵抗出来ず、必ず相手を眠らせちゃうような能力なんだろうか?


「高確率で出来ないな。あいつらは羊の形をした眠りの化身だからな」

「化身って、そこまで言う程なの?」

「そこまで言う程だ。まず第一にさっきも言ったが、あいつらには周囲の者を眠らせる能力がある」

「言ってたね」


ただいるだけで周囲の者を眠らせる。どんな原理の能力なんだろう?


「第二に、増えていくあいつらを見ているだけでも眠くなっていく」


それって、眠れない時に羊を数える感じなのかな?羊が一匹、羊が二匹って。


「第三にスリーピングシープのあの身体だ」

「身体って、あのモコモコ?」


知識の中の羊の毛を想像して聞いた。


「そうだ。高級布団以上の肌触りと柔らかさを持つスリーピングシープの毛皮に触れると、自発的に眠りたくなるんだ」


暖かい布団でうたた寝する感じかな?


「第四にあいつらの鳴き声だ」

「鳴き声?それって、逆にうるさいんじゃ?」


周囲で鳴き声を上げられたら、普通は目が覚めちゃうと思う。


「いや、あいつらの鳴き声は騒音の類いじゃなくて、子守歌みたいに聞こえるんだ」

「子守歌」


能力、視覚、触感、聴覚。この分だと、嗅覚もありそうだ。あと、味覚はどうなんだろう?食べると眠くなるのかな?けど、満腹になれば普通に眠くなるしなぁ。


「第五は臭いだな。スリーピングシープ達の体臭にはリラックス効果があって、近くで臭いを嗅ぐと安らぐんだ」


ビンゴ。あとは味覚だけで、五感全部が埋まる。何故かビンゴゲームの感覚を持った。というか、これってそういう感覚なんだろうか?


知識と体感の差に戸惑った。


「そうなんだ。これで五感のほとんどが埋まったね。ここまできたら、最後は味覚かな?」

「正解だ。スリーピングシープの肉には不眠症を直す効果と、睡眠薬の効果がある。肉を食べたが最後、快眠一直線だ」

「うわー、たしかにここまでくると眠りの化身としか言えないね」


全身で他者に眠りを与えるモンスター。ここまで多方面から攻略されれば、高確率で寝てしまうのはしかたがないな。


「そうことなら、さっさと焼き払っちゃう?イグジスタンスの火力なら、すぐに倒せると思うし」

「そうだな、その方がいいかもしれないな」

「そう。では早速」


ドサッ!


イグジスタンスで攻撃しようと、駒を動かそうとしたちょうどその時、バロメッツに実っていたメロンが地面に落下した。


めぇ~


そして、落ちたメロンがスリーピングシープになった。見た目は白い毛並みの普通の羊だった。


「へぇー、どうやって生み出すのかと思ってたけど、こういう感じなんだ」


メロンから羊が生まれるところを見て、面白いと思った。虚空から突然出現させるよりは、ユーモアがあるとも思った。しかし、


「どうしよっか?」


わりと見た目が可愛くて、虐殺するのは躊躇われた。


「どうしよっかと言われてもな」


ブラドの方も困り顔だ。


「もういっそここで野宿したら?」

「そうですね。時間感覚狂いそうですけど、外はもう夜でしょうし」


僕とブラドが困っていると、マールさん達からそう提案された。


「たしかに時間的にはそうですね」


僕は、ここまで来るまでのだいたいの時間を考えて二人に同意した。


「そうだな。次の第五階層はボスモンスターがいる階層だし、ここで野宿するのはありかもな。幸い、布団も食料もいることだし」


ブラドは、バロメッツの根本で寝ているスリーピングシープを見てそう言った。


「たしかにそうだね。寝る為に必要なものはそこにある。けど、この階層で野宿をするの?昼の時みたいに階層の間の踊り場じゃなくて大丈夫?」


「この階層は今踏破したばかりだから大丈夫よ。しばらくは追加のモンスターは出て来ないわ」

「それもそっか」


ゲームのリポップみたいに、短時間でモンスターがわいてでるなんてこと現実ではないか。


「じゃあ、安全性の方は問題無さそうだね。あとは、スリーピングシープをどうするかだけど」


さすがに数が増えると、無害でも押し潰される危険がありそうだ。


「それは、交代で倒していけばいいわ。一応一人は見張りをした方がいいでしょうし」

「そうですね」

「そうだな」

「わかりました。じゃあ、そういうことで」


僕達は、そうして野宿することを決めた。


スリーピングシープを数体を仕留め、ご飯にした後、最初の見張りを決めることになり、僕が志願した。


なので、現在は僕だけが起きている状況だ。他の三人は、スリーピングシープ達の群れに囲まれてすやすや寝ている。


僕は、三人を微笑ましく見守り、見張りをしている。といっても、モンスターは本当に出て来ないので、ただ起きているだけだが、やることを探せばいくらでも見つけられる。


三人とは違って化身状態の僕に状態異常は効かないし、疲労もしないから眠る必要もない。だから眠気と戦う必要は無く、好きなだけ時間を使える。


今やれることとしては、熟練度上げに駒の強化だろう。増殖していくスリーピングシープを《スター》で倒して、ステータスカードと魔石を集めていけば、みんなが起きるまでにそれなりのことが出来るだろう。


僕は、戦闘・駒の強化・熟練度上げを並行して黙々と進めて行った。


そうして、ダンジョン一日目の夜は過ぎていった。

『深淵の樹海』一日目終了時のステータス


リュウセイ

Level:20

年齢:18

種族:アステリアン

【補正】全項目+255

【体力】

280/280

【魔力】

2800/2800

【星力】

183/254

【筋力】25

【耐久力】 23

【敏捷】 300

【器用】 140

【精神】 340

【幸運値】50%


【属性】星


【称号】世界を渡った者、死を経験した者、■■■の盟友、インセクトキラー、暴星の葬者、繰り返す者、夢羊の羊飼い


【能力】星遊戯盤 Level:7

星属性魔法 熟練度:10

《オリジン》、《ビックバーン》、《オリジンティック》、《ビギニングライト》、《カオス》、《スター》、《コスモス》、《ビカム》、《ブラックホール》、《ホワイトホール》、《ワームホール》、《バタフライエフェクト》、《ガンマ線バースト》、《パルサー》、《フレア》、《メテオライト》、《シューティングスター》、

《コメット》、《グラウ゛ィティ》、《カーレント》、《ウ゛ォーテクス》、《ラーウ゛ァ》、《ウェイブ》、《サンダー》、《トルネード》、《アースクエイク》、《イラプション》、《アウ゛ァランシュ》、《シムーン》、《スーパーセル》、《ドラウト》、《フラッド》、《ファフロツキーズ》


眷属召喚 Level:1

眷属生成 Level:1

星天輝導

星地変転 Level:2

星空変転 Level:1


【祝福・加護】

ルシフェルの祝福


【職業】

星導司Level:7


【備考】

記憶欠落状態態


持ち駒

アバター・アイディアル×1

ブラッティーバット×1

ケイウ゛モール×1

スケルトン×14

ゴースト×10

シードラーウ゛ァ

×4

サイレントオウル

×16

ハンターホーク

×14

ハニービー×81

マウンテンリーチ

×42

ハンタースパイダー

×25

ステルススネーク

×35

ジェットパイン

×87

スルーウィロウ

×34

ウォークマッシュ

×51

イグジスタンス×1

スリーピングシープ×3



キャンドルグロー×1

ソルジャースケルトン×1

スペクター×1

ファントム×1

ホーント×1

ポルターガイスト

×1

レイス×1

スプラウトコクーン×3

アーミーアント×1

ドリームシープ×1

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