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今日から始まる転生生活

「あれ、ここは何処だろう?」


僕、夜天(ヤテン) 竜星(リュウセイ)は、そんな言葉を呟いて意識を覚醒させた。


それは無理のないことだと思うんだ。だって、気がついたら知らない場所にいたんだから。


僕がいた場所は、辺り一面真っ白な場所だった。ここが部屋の中なのか、それとも違うのかは、僕にはよくわからなかった。


とりあえず僕は、周囲をぐるりと見回した。すると、僕以外にも沢山の人達がこの場所にいることがわかった。


僕は、少しその人達の姿を観察してみたが、年齢も服装も雰囲気も全員ある程度バラバラだった。中には、同じ制服を着た学生や会社員と思われるグループもあったが、そういうのは全体で見ると少数派だった。ほとんどの人達には、共通性を見出だすことが出来なかった。


「ようこそ、皆さん」


僕が周囲を見ていると、突然そう声をかけられた。


僕は、慌てて声の主を捜した。周囲の人達も、僕と同じような様子だった。


僕達が声の主を捜していると、その場にいた全員の視線がある一点で止まった。


この真っ白空間の真ん中。僕から見て、左前方にその人はいた。


腰の辺りまで伸びた、流れるような金色の髪。優しげな顔立ちに、透き通るような碧色の瞳。背丈は170cm程で、僕よりも少し低い程度。着ている服は、白い布を重ね合わせた感じで、普通の人が着るようなものではなかった。

ここまでなら、僕はその人をかなりの美人だという評価で終わらせただろう。しかし、その人にはそうではない特徴があった。最初に見た時、あまりに目立つのであえて無視した部分。現実味が薄く、一瞬幻覚でも見たのかと思い、思わず目を擦ってしまったほどの現実感のない光景。それは、その人の背中に羽根が生えていたことと、頭の上にわっかが浮いていたことだ。

その人の背中には、純白に輝き、身体を覆い隠すほどに大きな翼が六枚生えていた。そして、その頭上のわっかもその人の髪や翼にも負けないほどの黄色い輝きを放っていた。

その人のことを、それらの部分を合わせて全体で見ると、もう天使にしか見えなかった。


僕は、その人の姿に見惚れた。そして、それは僕だけではなく周囲の人達も同じだった。


しばらく僕らは、その人。仮称天使さんに見惚れ続けた。


しかし僕は、途中である疑問を抱いてしまった。


そう、何故こんな真っ白空間に天使さんはいるんだろう?、という何気ない疑問をだ。


僕は、そこから疑問をさらに進めてしまった。


何故僕達と天使さんはここにいるのだろう?、と。


そして、その疑問の答えを想像した僕の背中を、嫌な汗が流れていった。


服装、年齢がバラバラな人々。意味不明な真っ白な空間。その中心に立つ天使。


それらのキーワードで、僕はある一つの仮説を連想してしまった。


そう、ここがあの世ではないかという仮説を。


僕は、自分が青い顔をしていると自覚しながら、周囲の人達の様子を見てみた。


僕が見た人達の大半は、天使さんを見て顔を朱くしていたが、何人かは青い顔をしていた。


やっぱり、僕と同じことを考えた人達が少なからずいるようだ。


「さて、ここがどこかを想像して、顔を青くしている人達もおりますので、簡潔にここが何処なのかをご説明いたします」


天使さんは、周囲の人々の顔を確認すると、そう話を切り出した。


天使さんのその言葉に、この場にいた人々からざわめきの声が上がった。


「皆さんがいるここは、皆さんがあの世と呼ぶ場所にある、魂運用局と呼ばれる部署です」


天使さんのその説明に、今まで顔を朱くしていた人々も、そのことを想像してしまっていた僕達同様、顔を青くした。


「ああ、皆さん。そんな顔をしないでください。ここにいる皆さんには、まだ残りの人生が残っていますから」


天使さんは、そう言ってこの場の人々をはげました。


天使さんの言葉を聞いた人々の大半は、その天使さんの言葉というか、雰囲気のおかげで先程よりもマシな顔色になった。


かくいう僕も、天使さんの雰囲気で少し落ち着いて、さっきよりも幾分か気分がマシになった。


けれど、天使さんの今の言葉はどういう意味なんだろう?ここはあの世だとたしかに言っていたのに、その次にはまだ残りの人生が残っているからと言って僕達をはげましていた。


これってひょっとして、転生フラグというやつだろうか?


僕は、自分が好きな文庫本などの展開を今の自分に当て嵌めて、そう思った。


今度は、若い年代を中心に顔色が変わっていった。


やはり、同年代だと思考が似るらしい。


「皆さん、私の言葉でいろいろと考えていらっしゃいますね。これから個別に皆さんの現状をご説明いたしますから、係の者の案内に従って移動してください」


「では、あなたは私について来てください」


天使さんがそう言うと、いつの間にか僕の傍に立っていた人が、僕にそう声をかけて誘導してくれた。


僕は、とりあえずその人について行くことにして、その人の後ろについて歩きだした。


僕は、歩きながら誘導してくれている人を見た。


赤みががった金という髪の色と、白銀の月を思い起こさせる銀色の瞳。赤みを帯びた輝きを放つ頭上のわっか。背中に生える純白の六枚の翼。容姿と服装の方は、先程の天使さんとそっくりだった。しかし、身体的な特徴はわりと違っていた。

まずは、その豊かな胸元。括れた腹周り。突き出した臀部。かなり女性らしいプロポーションをしていることが一つ。(天使さんの方は、男性とも女性とも採れる体型だった)

そしてもう一つは、この人の首や手のこうには、鱗のようなものがついていることだ。


天使に鱗。こちらの天使さんは、どんな天使なんだろう?


「さあ、着きましたよ」


僕が、彼女を見ながらそんなことを考えていると、いつの間にか真っ白空間から、どこかのオフィスのような部屋にたどり着いていた。


「さあ、あちらの椅子にどうぞ」


僕は、慌てて彼女に薦められた椅子に座った。


彼女の方も、僕の正面にあった椅子に座って、僕と対面するかたちになった。


「それではまずは自己紹介を。私は、この度あなたを担当することになりました、サマエルと申します」


彼女。サマエルさんは、綺麗なお辞儀と一緒にそう自己紹介をしてくれた。


「夜天竜星です。よろしくお願いします」


僕も、自己紹介とお辞儀を返した。


「こちらこそよろしくお願いします。早速ですが、あなたの現在の状況について説明いたします。構いませんか?」


「はい、大丈夫です」


僕は、サマエルさんに頷いた。


「それでは最初に、何故あなたがここにいるかですが、本日あなたがお亡くなりになったからです」


「そう、ですか」


あらかじめ予想していたからか、そこまでショックを受けずにすんだ。


「お亡くなりになった理由は、覚えておられますか?」


「・・・いえ」


僕は、サマエルさんの言葉で、今日の記憶をあさってみたが、該当する記憶はなかった。というかこれは・・・。


「そうですか。けれど、気にする必要はありませんよ。お亡くなりになった時のショックで、記憶が無くなってしまうことはよくありますから」


「あっ、そうなんですか。よかったぁ、死んだ時以前の記憶まで思い出せなくて、不安になっていたところだったんですよ」


ああ、よかった。記憶が無くなっているのは、普通のことなんだ。


「えっ!?」


「えっ?」


僕は、サマエルさんの言葉で安心した。しかし、何故か僕の答えを聞いたサマエルさんの表情が曇った。


「あの、どうかしましたか?」


「夜天竜星さん、あなたは記憶が全部無くなっているんですか!?」


「あ、はい!」


僕は、サマエルさんの曇った表情と、その言葉に嫌な予感を覚えた。


「けどそれって、よくあることなんですよね?」


「いえ、死因を忘れていることと、その他の記憶が無くなっていることはイコールではありません」


僕が一応サマエルさんに質問してみると、嫌な予感を肯定する答えが返ってきた。


「あの、それってどういう?」


「そもそも、私が先程言いました亡くなった記憶を忘れるというのは、防衛本能が働いた結果なんです。普通、死亡したからといって記憶喪失になんてなりません」


「それじゃあ僕の場合は・・・」


「少しお待ちください。今から調べてみますので」


「お願いします」


僕が頼むと、サマエルさんは僕を安心させるように優しく微笑み、何事かを始めた。


サマエルさんは、空中で指を規則的に動かし、それを追うように視線を動かしていった。




「すみません。あなたが記憶喪失になっている理由はわかりませんでした」


サマエルさんは、しばらく調べてくれたが、結局僕の記憶喪失の理由がわからなかったようで、申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「そう、ですか。あまり気にしないでください。もう僕は死んだんですから、記憶が無くても困りませんから」


僕は、そんな思ってもいないことを言って、サマエルさんを慰めた。


「いけません!記憶は、あなたが生きた証なんですよ!」


「は、はい!」


サマエルさんは、そんな僕を叱り飛ばした。しかし、サマエルさんが言っていることの方が正しいので、僕は内心反省した。


「あっ!すみません。私に気を使ってくれたんですね?」


「えっと・・・」


サマエルさんは、僕の表情を見てそう言った。僕は、サマエルさんのその言葉を沈黙で肯定してしまった。


「すみません、取り乱してしまって」


「いえ」


僕とサマエルさんとの間に、気まずい空気が流れていった。


「とりあえずこの件については、他の仲間に調べてもらっておきますね」


「お願いします」


「任せてください」


多少ハプニングがあった気がするけど、僕達は話を本筋に戻すことにした。


「ゴホン。それでは次に、魂運用局とあなたの今後についての説明をいたします。よろしいですか?」


「はい」


「さて、二つを平行して話ていきますが、最初はここ。魂運用局が何をする部署なのかお話いたします。魂運用局というのは、名前のとおりあの世に来た魂を運用する為の部署です」


「はーい!魂の運用って、何をするんですか?」


「良い質問です。私達が行う魂の運用というのは、輪廻システムを正しく稼動させる為に行う行為を指します。この内容は多岐に渡りますが、あなたに関係があるのは一つだけです」


「その一つというのは、何ですか?」


なんだか、話が壮大になってきたような?


「それは、転生です」


「転生?それって、僕の知識にあるまんまの意味ですか?」


「はい、その認識で合っています」


「その、魂の運用と転生にどんな関係があるんですか?」


「簡単に言ってしまいますと、天寿をまっとうしていない魂は輪廻システムで運用出来ないんです。ですので、天寿をまっとうしていない魂は転生してもらい、別の世界で天寿まで生きてもらうことになっているんです」


「そうなんですか」


僕は、サマエルさんの説明にただ頷いた。


魂の運用。転生といっても、文庫本のようなファンタジーな展開にはならないということかな?


「次に、転生の為の問診をいたします。この問診の答えを参考にして、転生先の世界を選びますので、素直な解答をお願いします」


「わかりました」


僕は居住まいを正した。


「では問一です。転生先の世界は、魔力がある世界と無い世界なら、どちらがいいですか?」


魔力がある世界と無い世界。当然、魔力がある世界なら魔法が使えるはずだよね。


「魔法を使ってみたいので、魔力がある世界でお願いします」


「わかりました。次に問二です。文明の発展具合は、どの程度が良いですか?」


「文明の発展具合ですか。物語とかだと、中世ヨーロッパなどが多いですけど・・・。僕には判断がつかないので、サマエルさんにお任せします」


「わかりました。次に問三ですが、どのように残りの人生を生きたいですか?」


「残りの人生。転生先での生き方ですか」


「そうです」


どんな風に生きたいか・・・。


「安定と安全重視で生きたいです」


「安定と安全ですか?」


「はい」


現在、死因不明の上記憶喪失ですからね。残りの人生では、そんなことにならないようにしたいですからね。


「わかりました。最後の問ですが、世界に強い影響を持ちたいですか?」


「強い影響といいますと?」


「勇者や魔王などになって、世界を救ったり支配したいかという意味です」


「そうですねぇ?・・・自分が勇者や魔王になるのは避けたいですけど、転生先としてはそんな強い影響力を持つ存在がいる世界でも構いません」


結構危ないと思うけど、端から見ている分には面白そうだし。


「わかりました。問診はいじょうです。転生先を選定しますので、少しお待ちください」


「わかりました」




「候補が絞り込めました。その中から好きな世界を選んでください」


少しすると、サマエルさんが僕の目の前に幾つかの紙を差し出してきた。


「わかりました」


その紙に書かれていた世界に一つ一つ確認していった。


「これにします」


そして、その中から一枚を選んでサマエルさんに返した。


「【ユーミル】ですか。わかりました、この世界で手続きを行います」


サマエルさんがそう言うと、渡した紙が消えた。


「それでは、手続きをしている間に他の説明をいたしますね。こちらをどうぞ」


「これは?」


僕は、サマエルさんが差し出してきた、スマートフォン大の無色透明なカードを受け取った。


「それはステータスカードといいまして、【ユーミル】の生物なら誰でも持っているものです。今からこのカードの説明をいたします。まず、カードの表面に手を置いてみてください」


「こうですか?」


僕が言われたとおりにすると、無色透明だったカードが黒く染まった。


「これで、そのカードはあなたの物となり、あなたの情報が反映されるようになりました」


「たしかに、いろいろかかれていますね」


カードには、僕の名前を初めにいろいろと書かれていた。




ヤテン リュウセイ

Level:1

年齢:18


【体力】

10/10

【魔力】

100/100

【筋力】5

【耐久力】  3

【敏捷】  10

【器用】  10

【精神】  20

【幸運値】50%


【称号】世界を渡った者、死を経験した者、■■■の盟友


【能力】星遊戯盤 Level:1、星属性魔法 熟練度:1


【祝福・加護】

無し


【職業】星導司 Level:1


【属性】星


【備考】




「それでは、カードにしたがって説明していきます。まずは名前に年齢、この二点は今までと同じです。向こうの一年周期もあなたがもといた世界と同じですから、歳の増え方も同じになります。次にLevelですが、向こうの世界では所持者の強さを知る為の目安になります」


転生先の世界って、Level制なんだ。ということは・・・。


「質問いいですか?」


「はい、構いませんよ」


「やっぱり、Levelが高い程強くなるものなんですか?」

「基本的にはそうです。しかし、個体能力はまちまちですから、あくまでも目安です」


「それって、人間とモンスターみたいな違いですか?」


サマエルさんの説明を聞くと、ゲームキャラクターのステータスが思い浮かんだ。


「そうですねぇ?だいたいはその認識でいいと思いますよ」


「そうですか。ありがとうございます」


「いえ。次は体力と魔力についてです。体力は、残りの生命力と言い換えられます。これが0になると死亡します。魔力は、魔法や特定の能力を発動・維持する為に必要になります」


「体力や魔力。それにその下の項目って、どうすれば上がりますか?」


「体力や魔力などのステータス関係は、Level Up時や特定の行動の結果上がります。体力なら走り込み。魔力なら魔法などを使っていけば、自然に増えていきます」


「そうなんですか。では、他のステータスはどうなんですか?」


「筋力は、自分が持てる物の重さや物理攻撃力に関係していて、筋トレなどで上げられます。耐久力は、肉体的な防御力でどの程度硬いかの目安で、攻撃を受けることによって上がっていきます。敏捷は、反射神経などで、体力同様走り込みなどで上がります。器用は、手先の器用さやテクニック、技術などで、その手の作業をすることで上がっていきます。精神は、魔力の運用や魔法の威力などに関係していて、魔力制御や瞑想などで上がっていきます。最後に幸運値ですが、これは名前のとおり運が良いかどうかですね。この項目は、基本的に生来のものなので、他人の幸運値の影響を受けるか、特殊な能力でも手に入らない限りは増減します。ステータスについてはこんな感じですが、わかりましたか?」


「はい、大丈夫です!」


ゲームとリアルを足した感じだと覚えておけば大丈夫だろう。


「次は称号についてですね。称号というのは、特定条件を満たすことによって手に入ります。手に入った称号には付随する効果がありまして、条件が満たされていれば常にその効果を受けます。メリットもデメリットも勝手に発動するので、扱いが難しいですね」


「デメリットを無くす方法はないんですか?」


デメリットなんて、邪魔でしかない。


「称号がある場合は、基本的には正反対の効果で相殺するのが唯一の方法ですね。それか、条件を先に把握して条件を満たさないようにする方法もあります」


「そうですか」


向こうに行ったら、変な称号を手に入れないように気をつけよう。


「それで、あなたの今持っている称号についてですが」


「世界を渡った者、死を経験した者、■■■の盟友の三つです」


けど、最初の二つの称号はともかく、最後の■■■の盟友って、なんだろう?


「カードのその部分をタッチしてみてください。それで、簡単な説明が見られます。せっかくですから、能力の方も一緒に確認してしまってください」


「わかりました」


僕は、サマエルさんの言うとおりにカードをタッチした。すると、タッチした部分の情報が頭の中に流れ込んできた。



世界を渡った者

生まれた世界から、違った世界に渡った者に送られる称号。


効果:異世界での活動時、全能力に補正(微上昇)



死を経験した者

一度死亡した者に送られる称号。


効果:被ダメージ上昇、即死耐性(微上昇)



■■■の盟友

■■■の盟友に送られる称号。


効果:モンスター敵対値(中減少)、属性耐性(中上昇)、属性親和性(中上昇)



星遊戯盤Level:1

自身を中心とした一定範囲で駒を動かすことが出来る。詳細・・・



星属性魔法 熟練度:1

星属性魔法が使用可能。




「うーん」


「どうでしたか?」


「気になるのが三つありました。これとかなんですけど、どう思いますか?」


「ええっと、■■■の盟友に星遊戯盤、それから星属性魔法ですか?」


「はい、これってもっと詳しくわかりませんか?」


「すみません。私には、この三つに関する知識がありません。この三つについても、調べてもらっておきます」


「わかりました」


サマエルさんも知らないとなると、かなり珍しい能力なんだ。それと、盟友って誰のことなんだろう?僕に記憶があったら、簡単に解るんだけど・・・。


「それでは最後に、祝福・加護、職業、属性をまとめて説明しますね。祝福と加護は、神などの高位存在から授けてもらう恩恵で、基本的にはメリットだけがもたらされます。職業はそのまま役職。職業Levelを上げていくと、その職業で出来ることが増えていきます。属性も、そのまま自分の属性です。自分が属する属性によって、魔法の属性やステータスの上昇値にもばらつきがあります。これにて説明は終了です。お疲れ様でした。何か質問はありますか?」


「あ、はい。少しいいですか?」


「はい、どうぞ」


それから僕とサマエルさんは、転生準備が整うまでの間、細々とした質問や調整を行っていった。




「あら?・・・どうやら準備が出来たようですね。それでは行きましょうか」


「はい」


あれからしばらくして、ようやく転生準備が完了したらしい。僕とサマエルさんは、移動を開始した。



「それでは、これにてお別れですね。良い人生を送ってください、夜天竜星さん」


「はい、今回はありがとうございました」


転生の為の魔法陣がある部屋にたどり着いた僕達は、別れの挨拶をかわした。


「それではいってらっしゃいませ。それと、これをどうぞ」


サマエルさんは、何か光る球体を魔法陣上の僕に差し出してきた。これってなんだろう?


『きゃー!待って~!』


「「きゃー?」」


僕がそれを受け取ろうとしたちょうどその時、何処からか悲鳴が聞こえてきた。僕とサマエルさんは、揃って声のした方を見た。すると、こちらに向かって走ってくる15歳ぐらいの少年と、同い年ぐらいの見た目の天使の少女がいた。


少年は、天使の少女に追いかけられているようだった。


「どけっ!」


少年は、魔法陣上にいた僕を突き飛ばした。そして、サマエルさんが持っていた球体をも奪い取り、魔法陣を起動させて光の中に消えていった。その後すぐに少年を追いかけていた天使の少女も、魔法陣の放つ光の中に飛び込んで行った。


後には、それを呆然と見送った僕達だけが残された。




「サマエル。夜天竜星さん」


「「はっ!?」」


僕とサマエルさんが呆然としていると、いつの間にか傍にいた天使さんに声をかけられた。


「ル、ルシフェル様!」


「失態ですね、サマエル」


「申し訳ありません、彼に渡すはずだった加護を奪われてしまいました」


「そうですね。奪われたのはあなたの失態です。しかし、あの少年にそれを許したのは、ミリエルの失態です。さて、この不始末をどう対処しましょう?」


「そうですね」


天使さん改め、ルシフェルさんとサマエルさんが難しい顔で考え込みはじめた。僕は、いまひとつ状況についていけなかった。


「あのぉ」


「ああ、すみません何ですか?」


「あの光の球体は何だったんですか?それと、僕を突き飛ばした少年っていったい?」


「ああ、そうですね。今から説明いたします。あの光の玉は、転生者の皆さんに配る加護です」


「加護ですか?」


「そうです。転生先で天寿をまっとうしてもらう為に、加護を与えて能力の底上げを行うんです。あなたの知識ですと、チートと呼べるものですね。それと、あなたを突き飛ばした少年ですが、彼は名前を光天(コウテン)勇人(ユウト)と言いまして、あなたと同じ転生者です」


「ええっと、加護はともかく、何で彼は僕を突き飛ばして加護を奪っていったんですか?」


「不明です。知っている可能性のあったミリエルがいないので、こちらも状況を把握出来ていません」


「そうですか」


「とりあえず、あなたはしばらくここに留まってください。早急に奪われた加護を回収してきますので」


加護を回収。そうなると、僕はチート能力をもらうことになるんだよね?


僕は、ルシフェルさんの言葉でいろいろ考えて、そして一つの答えを出した。


「いえ、加護は取り戻してくれなくてもいいです」


「「えっ!なんでです!?」」


「僕としては、転生先の世界では安全重視の安定した人生を送りたいんです。ですから、チートは不要です。それに」


「「それに?」」


「それに、僕が今思い付く限り、彼が力を得た場合の展開で、僕に実害はありませんから。むしろ、面白いことになりそうです」


「それでは、あなたは彼に加護を譲渡するという扱いで良いのですか?」


「それで構いません」


「夜天竜星さん、本当にいいんですか?」


「はい」


「そうですか。わかりました、あなたの要望通り加護は彼に譲渡したことにいたします」


「ありがとうございます」


「ただし、加護の代わりを連れて行ってもらいます」


「加護の代わりですか?それに、連れて行くというのはどういう意味ですか?」


ルシフェルさんの言葉に、疑問がわいた。


「サマエル」


「はい、ルシフェル様」


「あなたの位階を一時剥奪します。初期状態で彼に同行しなさい。それをもって、あなたの失態の罰とします」


「慎んでお受けいたします」


サマエルさんがルシフェルさんの言葉に頷くと、サマエルさんの翼と頭上のわっかが消えた。


「なっ、なんで!?」


「あなたの加護は、彼に譲渡したことにしました。しかし、私達にも責任というものがあります。今回はあなたの要望もありますので、この程度の罰で済ませることが出来ました。ありがとうございました。ですが、ちゃんと罰は与えなくてはいけないものなのです」


「それは・・・そうかもしれませんけど」


理屈ではそうだろうけど、あまり納得がいくことではなかった。


「それに、もともとあなたの記憶やその他不明な点がいくつもありましたから、誰かを付けるつもりだったんです。サマエルではご不満ですか?」


「夜天竜星さん。私が一緒に行くのは駄目ですか?」


「それは・・・」


ルシフェルさんの言うことはもっともだ。僕には記憶がない。能力の方にも不明な点がある。なにより、サマエルさんに不満はない。そうなると、断る理由は特に無い。


こちらを潤んだ目で見てくるサマエルさんと目が合った。


これを断るのは無理だ。


「いえ、サマエルさんが同行してくれるのは、とても嬉しいです」


「そうですか、よかった」


僕の返事に、サマエルさんは本当に嬉しそうに微笑んだ。


「それでは決まりですね。あなたの情報と、光天勇人とミリエルの情報がわかりしだい連絡します。それでは、行ってらっしゃい」


ルシフェルさんがそうまとめると、今まで脇にあった魔法陣が拡大して、僕とサマエルさんを飲み込んでいった。


こうして、僕は【ユーミル】へと転生した。



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