乳もぎ族の襲来~持つ者と持たざる者~
「乳もぎ族が出たぞー! みんな乳を隠して逃げろー!!」
褐色の肌をしたGカップが叫ぶ。未開地にある女だけの村に暮らす者たちは、彼女の声に震え上がった。皆がとるものもとりあえず逃げ出す。
トップレスの女たちが散り散りに逃げるなか、私はGカップが先導する方向についていった。
村にはうつろな目の女たちだけが残された。
彼女たちの胸は平坦だったが、いつも胸辺りの虚空を掴んでいた。
……スカ、……スカと、まるでそこに大きな胸が、まだあるかのように。
彼女たちは乳もぎ族の被害者で、豊かな乳を持ち、そしてもぎ取られて失った者たちだった。
Gカップが言うには、乳もぎ族の姿はまだないが、襲撃は時間の問題らしい。
村の仲間になんとなくついて逃げる私だが、疲れのせいでだんだん走るのが面倒くさくなってきた。
だいたい乳もぎ族ってなんだ。オッパイもがれたらなんだって言うのさ。乳がなくたって女じゃい。けっ。などとひねくれた気持ちがこみあげてくる。が、もがれるのも嫌なので文句を言いつつ走り続けた。
しばらく走ったところで、巨大樹を見つけた。根本に大きなウロがあり、人も隠れられそうな大きさだ。
ちょうどいいやとばかりに走るのをやめてウロへ侵入すると、先客がいた。少し迷ったが、まあいいかと中へ入らせてもらった。
先客は整った顔をした色白の少女で、長い黒髪とその表情がアンニュイな空気を漂わせている。それがかえって影のある美少女として魅力的に見えた。
「君もここへ逃げてきたの?」
少女は、ちらと私を見て、視線をまた外へ戻す。そしてこくりと頷いた。
シャイガールなのかしら。などと思いつつ、話しかけておいてなんだが興味が薄かったのでおとなしくしていることにした。
葉ずれの音を聞きながらウトウトし始めたとき。
「――!」
遠くから悲鳴が聞こえた。思わず立ち上がる。
「……乳もぎ族が来たのかな」
外を窺うも、鬱蒼と生い茂る森だけがあり、人の姿は見えない。私の言葉は半分独り言だったが、少女は頷いた。
「ここも危ないかもしれないし、逃げよう」
旅は道連れ世は情け。
しかし、少女を誘い伸ばした手は握り返されなかった。
「行かないの?」
「うん」
「どうして」
「遠くへ逃げる必要は……多分、私にはないから」
少女は切なげに視線をさげる。彼女の乳は、悲しいほどに貧しかった。
「襲われたの?」
「襲われもしないの」
「……」
「元々こうなの」
「……うーん」
「胸が育つのって、当たり前のことだと思っていたわ」
「……………………そっ……かあ……。ええーと」
少女をどうしようか。私は少し考え――。
「うん。よし、それじゃ私は行くね」
あっさりと見捨てることにして駆け出した。
登場人物紹介
乳もぎ族:豊満な乳を妬む民族。乳に触れると相手は無乳になる。村の恐怖の象徴。
Gカップ:狩りが得意な褐色の女。乳もぎ族に捕まったかどうかは不明。Gカップ。
私:十代後半の女。みんなが逃げるからとりあえず逃げる典型的日本人。現実より夢のが巨乳な愚かなる見栄っ張り。薄情者。夢のなかではFカップ。
うつろな目の女:乳もぎ族の被害に遭い、乳と誇りを失った。無乳。
先客の少女:木のウロに隠れていた先客。乳もぎ族は嫌だが、必死に逃げるサイズでもないのでうじうじしている。卑屈な性格。Aカップ。
巨大樹:女を二人しまえるほど大きなウロがある。無乳。