メルカの落胆
9話目です。
メルカの思い、どんなんだろう?
医務室でメルカは保健の梅野先生から簡単な処置を施された。
足首は少し痛いけれど、一晩すれば良くなると言う。
とりあえずは湿布を貼って安静にするだけである。
そして夕方、ちょっとブルーな気持ちで帰ろうとした。
いつものように私と美穂と一緒である。
「あまり、気を落としちゃダメだよ。もっと、前向きに行こう」
美穂が励ましの言葉をかけた。
「そうしたいけどね…」
さえない表情のメルカ。
「なーに?」
「自信無くしちゃった」
「自信無くした?」
「みんなの前で、振り付けに失敗してコケちゃったから?」と私。
「うん」
メルカはしょぼくれた顔をしてため息付いた。
美穂がメルカの肩を軽く叩きながらなだめる。
「緊張しちゃって、ついつい焦ったんじゃないの? 明日からもう一度、本番に向けて練習すればイイじゃん」
「そうは言っても」
全く元気なさそう。
「おーい」と誰かが声を掛けて来た。
佐々木である。
何でこんな所にいるんだろう?
今頃はもう、部室に入ってるハズだけど。
「佐々木、部活は?」と私。
「今日と明日は休みだよ」
「へー、いつも忙しいバスケ部が連休なんて珍しいよね?」
「そんな事よりもよ、木之元だ木之元」
佐々木はメルカの傍へと歩み寄った。
「佐々木…」
「大丈夫かお前?」
ちょっと笑みを見せてメルカは口を開く。
「佐々木の前でカッコ悪いトコ、見られちゃったよね?」
「お前、激しく転んだだろう? ケガは無いのか?」
「ちょっと、足首を痛めただけだから大丈夫」
「言っただろう? 無理すんなって」
佐々木はホント、メルカの事を心配してくれるよね。
それだけ、メルカの事が好きなんだって言う事なのだ。
「無理しちゃったかな私」
そこへ…、
「ほーんと、無理しちゃって」
ゲッ!
この聴きたくはないトーンの女の声!
北澤さんが今井さんと安田さんを従えてコッチへやって来た。
「なーに?」
メルカは怪訝な眼差しで北澤さんに目をやる。
「木之元さんの歌、聴かせてもらったわよ。まあまあじゃなーい?」
「馬鹿にしているの?」
「別にそんなつもりはないよ」
「いや、馬鹿にしてる」
「してないって」
「馬鹿にしてるって絶対。アンタって性格も口も悪いし」
「悪かったわね」
美穂が北澤さんに対して口を挟む。
「あんまり、メルカを冷やかさないでくれるぅ? このコだって、一生懸命だったんだからね。踊りに失敗して落ち込んでいるのに、アンタが口出して来るとメルカは余計滅入っちゃうんだよねぇ」
「あっそう。でも、これだけは言わせてくれなーい?」
「あーん?」
「メタリックハートを歌うのは木之元さんの自由だけど、あんな素人感覚でやっちゃうなんて気に入らないんだよねー。あの振り付けは何ぃ? キチンとした練習はして来なかったのぉ?」
「私なりに、ちゃんと練習して来たつもりだよ」
「それで、あんな程度の振り付けってワケぇー? しかもコケてたしー。今の調子のままで、コンテストに出ようなんて無謀過ぎるよねー」
「嫌な事は言わないで。本番まではキチンと、練習するつもりなんだから」
「言っとくけど、メタリックハートを…」
今度は佐々木が口を挟んで来た。
「いちいちうるせー女だなぁ? 早く失せろよ。お前らがココにいると木之元はますます滅入っちゃうだろう?」
「佐々木と話してるんじゃないんだよ。アンタは黙ってて」
北澤さんったら、佐々木を睨みつけちゃって。
「なーんだよ北澤ゎ。スズメの巣みたいな頭をした河童がエラソーにホザきやがって」
「!」
バチーン!
又々、北澤さんのビンタが炸裂した。
頬を押さえる佐々木。
「いってーなぁ! バチバチ叩くんじゃねーよ!」
「アンタが人の顔を見て変な事、言うからよ!」
こう捨てセリフを吐いて北澤さんは怒って立ち去った。
メルカの心はますます、穏やかではないみたい。落ち込んでしまってるメルカを私は励ました。
「北澤さんの言った事は気にしない方がイイよ」
「アイツは口悪いから、無視した方が無難だぜ」
佐々木も励ましてくれる。
口悪いのは佐々木も一緒だと思うけどね。
気持ちが滅入った時の友達の励ましの言葉…
グッと来るよね。
続きます。