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無理するなよメルカ

 7話目です。

 練習に余念の無いメルカだけどね…

 学校が終わって私と美穂は又、カフェ『キディ』の店内にいた。

 クリームソーダーを美味しそうにすする美穂だけど、顔の方は穏やかではないみたい。

「大丈夫かなメルカは…」

「メルカが?」

 私の方はチョコとバニラクリームを挟んだスィーツを頬張る。

「ルルナに勝てないからって、随分とムキになっちゃってるみたいだし。曲を選ぶらしいけど、どんなヤツを歌うのかも気になるのよねぇ」

「メルカは他に、どんな歌を好むのかな?」

「大体はあのコ、軽めのポップス系を好むよね? アニメとかの曲も好きだし」


 私は今回のコンテストについて、疑問を投げかけた。

「今回のコンテストの趣旨って、何なの?」

「この学園のアイドルは誰かって事でしょう? 沢山いる女の子の中で、誰が一番輝いているか?

 もっともキラキラな存在なコは誰かって事かな?」

「うーん」

「どうしたの友恵? 何か疑問有り?」

「趣旨は分かっているけど…、別に芸能界入りする為のコンテストじゃないんだよね?」

「は?」

「単にこの学園でのアイドルを選んじゃうだけでしょう?」

「それが、どうしたん?」

「何だかみーんな、マジで真剣。ルックスが良くなければならないとか、可愛いとかはともかくだよ? 歌や踊りが絶対に上手くならないとイケナイとか、そう言った競争意識がやけに際立っているような気がするんだけど」

 私の疑問を知って、美穂は苦笑いをした。

 否定的な思いではないのだ。

 美穂自身も、同じような疑問をある程度は抱いていた。

「そうだよねぇ? 単に学園のアイドルを選ぶだけだから、目の色変えてまで真剣になる必要ないもんね。だけどエントリーする人たちって、細かい所までトコトンこだわるみたいだよ。激しいライバル意識を抱いてるのかな?」

「特に、北澤さんや尾山先輩がそうだよね? それにメルカまで」

「メルカったら、変に過剰なライバル意識を持っているのかもしれない」

「ちょっと、神経質になり過ぎだね? もう少し、穏やかな気持ちで行けばイイのに」

「佐々木も、その辺の所をスッゴく気にしてる」

「佐々木はメルカの事、好きなのかな?」

「何だかんだと言ってメルカを馬鹿にしているけどね。佐々木はメルカの事を好きなんだよ」



 その佐々木は或る夕方、部活を終えて帰宅しようとした。

 歌の練習に余念が無いメルカの姿を校内の裏庭で目撃する。汗だくになりながら体を動かしているメルカ。

 どことなく動きがぎこちないけど、踊りの練習をしているのは間違いないみたい。

 それにしてもハードな動きである。

 顔をしかめ、腕や腰を激しく動かしているのだ。

 時折、踊りを中断してはiPad端末で何かをチェックしているようだ。

 佐々木は相手に気付かれないよう近くの建物の陰からジッと、様子を伺った。

 このまま黙って様子を見るつもりだったのが、状況が急変してメルカの傍へ駆け寄らなければならない羽目になってしまった。

 メルカったら踊っている最中、足がもつれて転倒しちゃって。

「お、おい大丈夫かッ!?」

 メルカはハッと驚いて、佐々木の方に視線を向けた。

「佐々木ぃ! 何よこんな所で!?」

 踊っている所を見られて、メルカは不機嫌な顔を見せた。

 取りあえずは立つ事である。

「悪いな木之元、練習している所を見ちゃって」

 佐々木の方は何だか、罪悪感を抱いてしまった。

 メルカのコンテスト出場に関しては余計な追求はしないよう美穂から言われているけど、目の前で本人が練習しているから気持ちが揺らいでしまう。

「覗き見してたの? だったら、趣味悪いよねぇ」

「人聞きの悪い事言うなよ。たまたま、お前が歌の練習している所に俺が居合わせただけだからよ」

「とか何とか言って、本当は」

「疑い深いトコも、メルカの悪い性格だぜ」

「大きなお世話」


 歌や踊りの練習をしていたメルカだけど、佐々木が顔を見せたから小休止する事にした。

 佐々木はバックに入れていたボトル缶コーヒーをメルカに差し出した。

「飲むか?」

 いきなりボトル缶コーヒーを顔に突きつけられて、メルカはキョトンとなる。

「なーにコレ? わざわざ、買って来たの?」

「っつーか、俺が余計に買ったんだ。せっかくだから、お前に1本あげる」と言って、佐々木はソレをメルカに手渡した。

「あ、ありがとう」

 メルカはボトル缶コーヒーを受け取り、蓋を開けて飲み始めた。

 冷たくて美味しい。

 丁度、喉が渇いていたから気持ち良く潤す事が出来た。

 佐々木の方はもう1本のボトル缶コーヒーを飲み始めた。2人は傍のベンチに腰掛けて一息付いた。

「練習の方、かなりハードにやってるみたいだな?」

「別に大した事じゃないよ。覚えが悪いから、ちょっと練習に力が入っているだけ」

「それにしちゃ…、かなりハードじゃねー? 何となく、無理してるって雰囲気だよな?」

「私としては、コレがフツーなの」

「今度のアイドルコンテストへの思い、お前相当…強いだろう?」

「まあね。私自身、全てを掛けているから」

「芸能界デビューじゃねーんだし、そんなに力まなくてもイイと思うけどな」

「ルックスや顔の表情の良し悪しだけじゃダメなの。歌や踊りがピカイチでなくちゃ」

「主催した先生たちは、そんな細かい所まで求めちゃいねーだろう? 誰が一番、可愛いくて学園アイドルに相応しい女の子かをイベント感覚で選ぶだけなんだからよ」

「そうは分かってても、どうしてこだわってしまうんだよ。女の熾烈な戦いって言うか、どうしても激しいライバル意識を持っちゃうの」

「ちょっとオーバーだよな、やる事が」

「それだけ、女の世界って複雑だって事なんだよ。男と違ってね」

「そんなん、俺の知った事じゃねー。それよりもよ、お前あんまり無理すんなよ」

「無理? 何も無理していないけど?」

「お前って何かやろうとすると、後先考えずに行動しちゃうからな。だから失敗したり、ケガとかしたりするだろう? この前、ダイエットした時なんか異常な激ヤセしたりしたし。

 積極的になるのは大事だけど、もうちょっと冷静に考えて行動しろよ」

「今度のコンテストでも冷静に考えろって?」

「出来ればな」


 佐々木はメルカの行動に関してちょっぴり不安を抱いていた。

 北澤留琉奈へのライバル心を強く抱いているから、かなり無理な事をするかもしれないと思っているのだ。

 メルカがどんな事に対しても馬鹿みたいに真剣になる気持ちは佐々木には分かっていた。

 もちろん、この私や美穂だってそう。メルカは小さい頃から皆に馬鹿にされて自分自身に対して劣等感を抱いていた。人より劣っているから、どんな事でも人一倍努力しなければならない。

 こう言った固い信念を持っているのだった。

 ちょっとな事でも感情的になっちゃうのは、その為なのかな?

 良い面では積極的だけど、悪い面では神経質になり過ぎるのがメルカの特徴である。

 冷静な判断力が欠けている面が致命的欠点だと言えるかも。

 自分自身を見つめ直すメルカだけど、今の気持ちは変わらないようだ。

「それでも私、コンテストを頑張るから。佐々木は黙って見て欲しいよね」

「止めはしねーけどよ。でも、無理はするなよな?」

「うん、分かった」



 佐々木の励ましの言葉にメルカは心が癒されたかな?

 続きます。

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