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二ノ⑥

 フーマはこの世界のできた理由を思い出していた。キョウを助けたくて、あの世界から助け出したくて、それだけを強く願った。そうしたら、この世界が生まれたのだ。

 できた世界から、フーマはキョウのあざを隠すために、住人達の肌に色鮮やかなまだら模様を設定した。キョウのあざが全部消えるまで、木の葉を森に隠したのだ。もうキョウのあざは消えた。キョウの肌に浮かぶ模様は、あざではなく、フーマがほどこした本物のまだら模様だった。キョウが、それを望んだのだ。フーマの与えたまだらを、キョウは気に入ってくれた。

 目の前にいるのは、この世界を手に入れんと野心を燃やす人間だ。でも、この世界の人間ではない。この世界の住人ならば絶対あるはずのものを、持っていないからだ。

「ノートはどこだ」

 この男の目的も分かっている。創造主に成り代わるためには、創造主を殺すだけでは駄目なのだ。世界の始まりともいえるノートがなければ、意味がない。フーマはかれこれ三十分くらい、ずっとこの問答からのらりくらりと逃げ続けていた。手足の拘束はない。逃げようと思えばいくらでも逃げられる。だが、逃げたところでまた追いつかれてつかまるだろう。なら、ここではぐらかし続けて相手の平常心を乱す。

「ノート? ノートって何?」

「世界の始まりのノートだ。創造主のお前が知らないはずはないんだ。どこにある」

「さあ? 最近、物忘れが激しくて、どこに閉まったんだっけ」

 相手はいくら激情しても、フーマを傷つけることはできない。ノートの居場所を知っているのは、フーマだけだから、彼を傷つけて万一息の根が止まることになれば創造主になることはできない。よくできたシステムだ、とフーマは感心していた。

 こうしてはぐらかしたところで、所詮は時間稼ぎでしかないことは痛感している。だが、自分にできるのはこれだけだ。じっと耐え続ければ、きっとあの調査隊が駆けつけてくれる。そして、キョウも、来てくれる。

 フーマはこの世界を誰かに譲渡する気はさらさらない。この世界は、キョウを守るために創造されたのが始まりだ。その根本を揺るがすような人間に手渡したりはしない。

 何より、この世界は、フーマとキョウの居場所なのだ。地球に未練がないとは言い切れないが、今はもう、ここが二人の家なのだ。

「答えろ!」

「嫌だ」

 この世界を守ることは、キョウを守ることにつながる。あのときから、強くなると決めたのだ。キョウを守るために、強くなると、決めたのだ。恫喝されたくらいで怯えない。恐怖に屈しない。

「渡すもんか。君なんかに、この世界は渡さない!」

 ついに我慢が限界を超えたのか、男はフーマを無造作に蹴り上げた。ごろんごろんと地面に転がる。蹴られたわき腹が、じんじんと痛む。何だ、これくらい。痛いうちには入りやしない。

 胸倉をつかまれる。殴られる。フーマは、目を閉じなかった。歯を食いしばって、これから来るだろう痛みに備える。ぎっ、と相手を睨む。怯むもんか。拳が、振り下ろされる。

「フーマ‼」

 殴られることは、結局なかった。普段よりもずっとずっと速い速度で、キョウが男を吹っ飛ばした。男はみっともなく転げ落ちる。どこを蹴ったんだろう、キョウは。

「日本調査隊第一部隊、現地調査員の桜井佳苗です。おいさん、傷害罪に殺人未遂に誘拐罪にその他いろいろ罪状あるんで逮捕。それから本国へ強制送還。調査隊法に則りきちんと罰を受けなさい」

 調査隊の少女が、真剣な表情で、男に手錠をかける。そして、胸ポケットから小さな機械を取り出した。それを男に押し付けた。すると、男はふっと消えてしまった。

「うん。強制送還、完了。行き先は埼玉の調査隊本部の牢獄なんだけど、いいよね?」

「上出来。向こうにいるみんなが、ねちねちいびりつくしてくれるさ」

 調査隊二人はなにやら薄ら恐ろしいことを話していたが、フーマはあえて聞かなかったことにした。

「助けてくれて、ありがとうございます」

「いえ、仕事ですから」

 誘拐犯は地球へ強制送還された。もう、フーマを脅かす者はいない。安心して、調査隊の調査に協力することができる。まる二日使い切って、調査を終えることができた。

 その日、調査隊は地球へ帰ることになった。フーマとキョウは、駅まで二人を送っていった。

「それじゃ、帰りますね」

 佳苗はそう言った。隣に立つ彼方は、すぐにでも乗車したいようだった。

「ありがとう、二人とも」

「最初、悪かったな、脅して。次はそうならないようにしとくよ」

「うん。また来るね。今度は調査隊じゃなく、ちゃんとした観光客として」

「待ってます」

 彼方に促され、佳苗は列車へと乗り込む。列車内に消える直前、佳苗はこちらへ向かっていっぱいに手を振ってくれた。フーマは、それに答えるように手を振り替えした。無邪気に笑うあの少女が、ほほえましかった。

 列車が、地球へと進んで行く。フーマは、キョウと一緒に、列車が見えなくなるまで、ずっと空を見上げていた。


二章はここで終わりです。次からは三章に進みます!

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