序章
おじいちゃんの描く物語が、好きだった。
会うたびにせがむ自分に、おじいちゃんは優しく笑いかけてお話をしてくれたものだ。家族は、兄以外はみんな呆れていたけれど、自分にとってはとても美しいものだった。
いつも違う物語を聞かせてくれる。子供だましのようなご都合主義のストーリーと周囲からは酷評だったが、今でも自分には最高の物語として残っている。
おじいちゃんの言葉はどれも生き生きとしていて、子供にもすんなり入ってこれるような言葉を模索してつむいでいた。その言葉から、おじいちゃんの創り出す世界を、頭の中で空想するのが大好きだった。
どこまでも広がる青空に、自由にまっすぐ飛んでいく天馬、世界に優しく暖を与える太陽、底が知れない深い海、生い茂る森林、小さな木造建築に住まう人間と、彼らと共存する妖怪たち。
おじいちゃんの創り出した世界に、おじいちゃんの生み出したものたちがそれぞれ生きている。たったそれだけのことなのに、いつも感動していた。
さらに感動したのは、おじいちゃんがその世界へと本当に連れて行ってくれたことだった。そのとき、おじいちゃんが教えてくれた。
これだけではない、宇宙には世界が数え切れないほど存在していると。
この世界だけでもすごいのに、それがいくつもあると聞いて、幸せな気分になった。
大きくなったら、おじいちゃんの創った世界や、それ以外の世界を旅する旅人になりたいと、本気で思った。欲張りなことにもうひとつ、おじいちゃんのように物語を紡ぎたかった。
あの、夢のような世界に夢見て、何年経ったことか。
自分は、いま、その夢見た世界へと旅立ち続けている。
ラノベ小説新人賞に応募して落選したお話です。読み返してみると「これは無理があるわ……」「うわあああ書き直したい書き直させて!」ともんどりうたずに居られません。