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目を開けばクリーンエリア


 あったかい。

 俺は死んだのだろうか。丸二日歩いて疲れ切った体は既になかった。

 未開の街で、雪に埋もれたのなら死んだと考えるのが妥当だろう。

 するとここは天国か?

 そんなことを考えさせるほど、居心地が良かった。ふかふかの枕に、分厚い掛け布団。

 もう少し、寝ていてもいいんだろうか。

「はぁ~」

 状況がつかめず思わずため息をついた。

「あ!小雪ちゃん!この人そろそろ起きるんじゃないかな?」

 話声が聞こえる。声の主はやわらかな女の声で、誰かに話しかけていた。

「ええ・・生き返ったの間違えじゃないの?」

 もう一つの声は、俺の目覚めをあまり好ましくない様な声でこちらも女の声だ。

 寝ぼけた体から少しずつ意識が戻って来る。

 左足には、意識が薄れる時に感じた痛み。

 俺は生きているのか?

 ゆっくりと目を開けると、上向きに寝かされて天井が見えると思っていたが、見上げた先には、見知らぬ女の子の顔があった。

「小雪ちゃん!起きたよ、この人!おはようございます」

 満面の笑みを受けて俺は、起床を迎えた。妙なヘアピンを付けた白髪で短髪のその子を、不意に俺はかわいいと思った。

「あぁ・・・おはよう。俺はなんでこんな処に?・・・」

 目を開けたが、まだ少し体がけだるく寝転がりながら質問をした。すると、奥の方から

「あんたが、雪の中に埋もれていたのを偶然お姉ちゃんが見つけて助けてくれたのよ。感謝しなさい・・・あと、お姉ちゃんの膝枕そんなに気持ちいいの?離れようとしないで」

「膝枕?」

 俺は、見知らぬ女の子その2に言われて初めて自分が膝枕されていることに気がついた。

「えへへ、そんなに寝心地良かったんですか?」

 目の前の女の子はまた満面の笑みで問いかけてきた。

「うおっ!ご、ごめん!」

 慌てて体を起した。

 ゴチンッ!

 顔を覗くようにしていた女の子の頭に額がぶつかる。さっきまで全く体を動かそうとしなかったからか全然気付かなかったが、女の子が手を握っていたらしい。頭をぶつけて、手は離されたが

「うあっ痛ぅぅ」

「あいた」

 今度はゆっくりと、体を起しぶつからないように起きた。

「ごめん・・・・大丈夫か?」

「はいぃ・・・」

「まったく、何してるのよ二人とも」

 体を起して周りを見回すと、ここが家の中であることに初めて気がついた。この場にいるのは二人の女の子だけ。

 そして、見知らぬ女の子その2は部屋の片隅のベットにいる。なんだか、ベットにいるのがとてもフィットした感じで、ピンク色のパジャマを着て、いつもそこにずっといる感じがにじみ出ていた。

 他の人たちは、違うクリーンエリアにいるのだろうか。

「それで、ここは一体?えっと・・・」

「ああ、南瓜は沖田おきた 南瓜みなうです。まあ、気軽に南瓜って呼んでくださいね。そしてここは、私とそこに寝てる妹の小雪ちゃんの家です。それと、手は大丈夫ですか?凍傷になる寸前でしたのでずっと手を握っていたんですが。」

 と、おでこを抑えながら自己紹介をしてくれた

(・・・沖田?どっかで聞いたような・・・)

 意識を失う寸前はもう、麻痺して痛みを感じなかった右手だったが、今は感覚もちゃんと戻り痛みもなかった。それよりも、謎なのが左足の痛みだった。

 あと、南瓜は一人称が南瓜らしい。

「あ、ありがとう。おかげでもう何ともないよ。俺は、遠野久史だ。まぁ、久史とでも呼んでくれ。あと、覚えがないのが足の痛みなんだが」

「あ、あー・・・それはですね」

 南瓜が苦笑いをしていると

「お姉ちゃんが、お父さんとお母さんの墓が雪に埋もれていたから雪を退けていたら、あんたの左足に直撃したそうよ。多分だけど、それ・・・骨折れてるわよ」

 なるほど。雪かきをしている所に偶然俺が埋まっていたのか。

 あの墓の子供たちということは、ここは墓の場所からそれほど離れていないんだろう。

 少なくとも、未開の街の中であることは間違いなさそうだ。

 意識が飛ぶ寸前にあった左足の激痛はどうやら南瓜が作ったらしい。だがこの怪我がなかったら俺は助からなかったわけだ。これも怪我の功名というのだろうか。

「ごめんなさぃ・・・」

「いや、別にこれがなかったら俺は雪の中で死んでいた訳だし命の代償としては軽い方だよ。そういえばまだお礼言ってなかったね。助けてくれてありがとう南瓜」

「えへへ、お礼言われちゃいました」

「けど、全治一カ月ってのも困ったもんだな・・・」

「なに?雪の中で死んでた方がマシだったの?」

「別に、そういう意味じゃないよ。いやなに、ここから丸二日森を歩き抜くと俺の元いたクリーンエリアに着くんだが・・・」

 俺のいたクリーンエリアの話をしようとすると、二人とも疑問を抱く様な顔を見せた。

「クリーンエリア・・・ってなんですか?」

 南瓜が質問してきた。

 クリーンエリアを知らない?

 俺は頭が混乱した。自分が居る場所がどこであるのか。なぜ、この子たちはこの灰の無い部屋にいるのか。この街には、この二人の子しかいないのか。どうやって、生き延びてきたのか。

 次々と、頭の中に疑問が浮かび上がって思考がまとまらない。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。んじゃあ、ここはどこなんだ?」

 俺は、自分が死ぬ直前より焦っていた。さらに焦りは、口から洩れ二人に伝わってしまうほどに焦っていた。

確かに、こんなに頑丈なクリーンエリアを俺は見たことが無い。もともと、疑問に持つべきだったんだ、俺が未開の街で生き延びていることに。

「はい?ここは、南瓜と小雪ちゃんの家ですよ。さっき言ったじゃないですか」

そういうことじゃない。

 俺は、あたりを見回した。ここは部屋というには少し大きい。左を見ると大きな扉、右には普通の扉。後ろを見るとこの部屋を分断するかのように大きなガラスがあり、ガラスの向こう側は、灰だらけ。前を見ると小さな小窓、小窓からは外の様子が見えていて、外は灰の世界と銀世界が混じった景色。小窓の下にずらっと並んだ本棚。その本の数は百は超えるだろう。

 右の方に小雪ちゃんがベットにちょこんと座っている。

「ごめんなさいね。お姉ちゃんはちょっとおつむが悪いのよ。私達は、五年間ここに二人で過ごしてきたから回りの様子を知らないの」

 5年もたった二人で過ごしてきたというのか?

「5年も?・・・じ、じゃあ、ここはどうやって灰のない状態を作ったって言うんだ?」

 俺の五年前はガスマスクをしながら生き残った人たちで試行錯誤して一週間かけてクリーンエリアを作った。たくさんの被害も受けた。そんなことをここの二人で行えるはずがなかった。

 そんな、昔のことを思い出していると小雪ちゃんが

「私はね、白血病なの」

 白血病?

「白血病はね、菌に抗うための力が低下していて『無菌室』に入っていなければ生きていけないのよ・・・・ここまで話せば理解できたんじゃないかしら?」

「無菌室・・・・つまり、5年前の日に小雪ちゃんはもともと、この灰の入らない環境にずっといたってことか」

「そうよ」

 確かに、納得が行った。

「でも、なんで南瓜しかここにいないんだ?もっとこの部屋にたくさんの人を入れてやれば助かった人は多くなったんじゃないのか?」

「私の部屋に入るには一人3分間無菌処理を施さないと入れないようになってるの」

「それで、お父さんとお母さんは南瓜を最初に入れてくれたの。その三分間で小雪ちゃんの部屋のことを知ってる人たちが集まって、お父さんとお母さんはこの部屋に割り込んでこようとする人たちを押さえてる間に灰を吸って」

「わ、わかった・・・・ごめん・・・変なこと思い返させちゃって。」

 二人とも、苦しい思いをして堕天の日を迎えたことが伝わってきて、逆にこっちが後ろめたい気持ちになった。

 堕天の日は、やはり誰もが苦い思いをした事なのは変わりはないらしい。

「別に、あの日を楽しく過ごした人なんていないんだろうしいいわよ。それより、私は今街の外がどんな風になってるか聞きたいわ」

「あ!私も聞きたいです、それ!私達5年もこの家にいるからとっても退屈なのよ。街の外はもっと退屈しないんでしょうか?」

 真剣な顔で街の外の話を聞く小雪ちゃんと、目を輝かせて楽しそうに街の外の話を聞く南瓜

 質問内容は変わらないが、おそらく二人の聞こうとしていることがまったく違うのがわかる

「な、なんか南瓜の質問は後回しにしていい感じかな?」

 苦笑いをして、小雪ちゃんに問いかける

「ええ」

「そんなぁ。あ、じゃあ南瓜はお茶入れてきますね」

 あっけなくあきらめた。むしろ、この家にお茶があること事態に俺は少し驚いた。

 南瓜は、立ち上がり楽しそうに右側の扉の奥に行った。

「お、お茶なんてあるんだな」

「この街の物を、お姉ちゃんが回収してきたからね」

 なるほど、すでに生存者は沖田姉妹の二人のみ。そこいらから何を盗ろうと誰も文句は言わないわけだ。というか、あの右側の扉の置くに何があるのかすごく気になる。

「なるほど。まあ、ざっと小雪ちゃんが知りたいことを話すとだな。まず、クリーンエリアだ。クリーンエリアってのは、ここみたいに灰が入らない環境を総称した名前なんだ」

「なるほどね」

「お茶入ったわよ~」

 俺がクリーンエリアの意味を教えた20~30秒の間にお茶が出てきた。一体お湯はどうやって沸かしたのかさえわからないというのに、20~30秒でお茶を入れられると突っ込みの2つや3つ入れたくもなる。

「早過ぎないか?」

「お姉ちゃんは、お茶入れのプロなのよ」

 きりっと、言い切る小雪ちゃん。

「マジかよ」

「嘘よ」

「だろうなぁ」

「あらあら、二人とも南瓜が居ない間に仲良くなっちゃって~、はい小雪ちゃんのお茶」

 そんなことを言いながら、小雪ちゃんにお茶を渡してお盆を俺の前に置いて、また俺の目の前に正座で座る南瓜。

「はい、どうぞ久史さん」

「ありがとう。まあ、一分も話す隙が無かったけどな」

「むしろ、あんたと仲良くなる話をした覚えはないわ」

「あら、そんなに早かったかしら?ふふ」

 なんだか、だいぶ話がそれてしまった。何とか戻さなければ

「ま、まあとりあえず南瓜も戻ったことだし話の続きをしよう。それでだ、俺の居たクリーンエリアってのが飛鳥クリーンエリアって場所なんだが。そこには、100人ほどの生存者が集まってるんだ。違うクリーンエリアからの情報だとかなり生存者が多い方らしいけど」

「他にも、そのクリーンエリアってのはあるの?」

「結構あるそうだ。ちなみに、日本は灰の被害が結構少ない方らしい」

 なんだか、自分で話していて暗い話だ、と思ってしまう。堕天の日がなければまだ学生を謳歌していたはずの自分達で世間話をするなんて。

「それでだ。俺がここに来た理由なんだが、俺はクリーンエリアで未開地調査部先遣隊をやってるんだ」

「な、なんか。長い名前ですね」

 南瓜が苦い顔をして名前に不満を吐く。

「お姉ちゃんはちょっとおつむが悪いのよ。気にしないで」

「ははは、まぁ覚えやすいようにあだ名が付いてるんだな、これが。ライトを持って少人数で歩く姿から誰かが『ウィルオウィスプ』なんて名前をつけたらしい」

 すると、南瓜がいきなり立ち上がった。立ち上がった反動でスカートがめくれてシマシマパンツ・・・通称シマパンと呼ばれる、それが丸見えだがまったく気にする様子は無い。

「南瓜知ってますよ!あの、ハロウィンの日に作るあのかぼちゃさんのランタンを持った人のことでしょ!」

 人差し指で俺を指して、決めながら言う南瓜。

「パンツは丸見えだが正解だな・・・」

「大丈夫よ、これでもお姉ちゃんはおつむが悪いのよ。」

「二人ともひどいですぅ」

まぁ「良くできました」ぐらいの言葉をかけてあげても良かったかもしれない。

「あんた、お姉ちゃんの名前の漢字をなんて書くか知ってる?」

「ん?唐突だな?みなう・・だよな・・・みなう・・・みなう・・・」

 何度か口に出して俺はいろいろと考えた。もともと、珍しい名前だからあまり思い浮かばないが。

「そんなに、呼ばれると恥ずかしくなっちゃいます~」

 すると、小雪ちゃんがベットの横にある収納家具のチェストからメモ帳とペンを取り出して、文字を書き出した。

「こう、書くのよ」

 そう言って、動物の絵が端に書かかれているかわいらしいメモ帳を俺に見せ付けた。そこに書かれていた文字は

 南瓜

「スイカ!」

「違う!それは西の瓜!」

「ゴーヤ!」

「それは苦い瓜!」

「キュウリ!」

「それは、えっと・・・・あんた、さっきからわざとやってるでしょ!ふーふー!」

 興奮して、息を荒げる小雪ちゃん。

「さっきの仕返しだ」

 実際はちゃんと分かっている。かぼちゃだ。

 そして、南瓜が付けている妙な髪留めも、かぼちゃ。しかも、そのかぼちゃはハロウィンで使われるかぼちゃ、ジャックランタンの絵柄だった。

 どうしてか、南瓜はかぼちゃにとても執着があるようだ。

「あ!だめ!小雪ちゃんは興奮すると・・・」

 突然、南瓜が小雪ちゃんが興奮するのを止めようとする。

「え?まさか病気に悪かったか?」

 俺は少し焦って、言葉を止めた。

「いいえ、病気にはなんら支障はないんですけど・・・」

「うあぁ~ん、久史がいじめる~」

 ・・・・・なんというか、さっきから大人な雰囲気で話していたのが、一気に子供じみた言葉使いに変わった。

 すると、ベッドから立ち上がった。

「そんな悪い久史にはこうしてくれる!」

 ベッドから立ち上がった小雪ちゃんは俺に向かって腕を前に出し、鳩尾直撃ルートで思いっきりダイブしてきた。

ズゴーン!

「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁあぁぁああ!あ、あ、あ、足、足、足!」

「このこのこのこのこのこの」

 鳩尾は、なんとかガードした。

 ポコポコと、腕を上下に動かす攻撃はかわいらしい・・・が、骨折した足にのしかかられて激痛が走る。

 俺は必死に小雪ちゃんを上から退けようとするが、まったく退こうとする気配がない。

「あら~、こうなったら小雪ちゃんをなだめるの難しいのよ~。結構時間かかるわよ~」

 横から見守ってる南瓜は笑っていた。というか、南瓜はいつでも笑っている。

「そ、そ、そんな笑ってないで助けて・・」

「お姉ちゃんをこらませるんじゃない!」

 小雪ちゃんはすでに、言葉もおぼつかない子供まで戻っていた。

「いやぁぁぁあ、わかった!俺が悪かった!だからお願いだから足から退いてください小雪ちゃああぁぁぁん!」

 そんなことを言ってもまったくおさまる様子の無い小雪ちゃん。

 この後も、なんども足から退くようにお願いをするが退くことはなく、なだめてもまったく治まる事はなかった。

 やっと足から小雪ちゃんを下すことができたのが、この約30分後。いつもの小雪ちゃんに戻ったのが2時間後。その時すでに時刻は午後7時になっていた。俺たちは、そのあとすぐに夕食をとって寝ることにした。ちなみに、この日に出してもらった夕食は非常食の乾パン。

 結局、二人に教えることができたのはクリーンエリアがどういう場所であるかだけだった。

 今日を境に、足が治るまでの期間、俺の居候生活が始まった。

 と、言ってもこの調子だと治るのはだいぶ先になりそうだ・・・。

なんか短くまとめられなくてすいませんorz

次の章は短めにまとめましたのでご勘弁を


しかし、自宅を無菌室にするとは沖田パパがんばりますねぇ

というか、もうちょい南瓜の名前を感じで出すのは後にした方がよかったですかねw

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