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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ここはなにかが欠けている

使い魔という魔術

作者: 浮月重月
掲載日:2026/09/10

王立中央学院の学生で冒険者としても登録されている少年、ロド。

彼が王立中央学院の図書館で見つけた中で、使わない魔術がある。

正確には、当初使おうとしたが実情を知って躊躇っているものだ。


その魔術は《使い魔》。

任意の生物と意識同調し、自らの手足の如く使役するものである。

本来入り込めない狭い場所や水中、地中、空中などで活動が出来、

「怪しまれることなく人知れず情報を得る」という面で有用な魔術。

にも拘らず、ロドはそれを使おうとせず、覚えただけに留めた。


まず、同調が出来る生物は限られていそうな事。

書物の理屈の上ではあらゆる生物で出来る、とされているのだが、

例えば昆虫類や植物のようなものでは行った例は見当たらない。

記録がないものは使用時の危険度も高い。


次に、使用したと思われる人物の手記にあった記述。

その人物はカエルを使ってみたが、同調してすぐ吐いたようだ。

別生物の感覚器官は違いがあり過ぎて受け付け難いのだろう。

視界がほぼ全方位になり、目の焦点はぼやけ、味覚が変化して、

昆虫類への食欲が一時的に増したそうだ。あと肌がひりついたと。

同調した生物の感覚が一気に上書きしてきて嫌悪感が半端ないと。

思うに感覚だけでなく、本能や記憶も術者に流れ込むらしい。


使った生物がイヌやネコならばまだましだったかもしれないが、

それでも普段と異なる感覚の違和感は相当なものになるだろう。


また関連して、小動物は捕食されやすい事。

手記の人物は気持ち悪さを我慢してカエルを動かしてみたらしい。

しばらく確認した後、目の前が急に暗くなり全身に激痛が走った。

のたうち回り泡を吹き、同調を慌てて切った後に目にしたものは、

同調していたカエルを咥えて弄んでいた屋根の上のカラスだった。

しょっちゅう死ぬような思いをするのはさすがに御免である。

大型の動物ならそうそうなかろうが、隠密行動はやりづらい。


決定打は、諜報目的なら代替可能な魔術がある事。

《放たれる視界》《放たれる聞耳》などにより諜報活動は出来る。

さすがに直接触れられないので触覚だけはどうにもならないが、

情報が必要なだけならその二つの魔術で事足りてしまう。

魔術の同時使用は、ロドにとっては最早手慣れたものだ。


そんな理由から、多分使う事はないだろうな、とロドは思っていた。



そして現在、ロドは使わないと思っていた《使い魔》を使っていた。

対象はまさかの人間である。


王都の冒険者組合窓口にて、受付嬢と見慣れない人物が揉めていて、

どうやら服装を見るに、王国と直接交流を持たない国の者らしい。

王国周辺諸国の場合、言語は方言程度の違いしかないのだが、

この人物、三十ぐらいの女性は相当遠国の出身の様子。


王立中央学院で学んだ帝国語とも違うし、南方の首長国語とも違う。

何を訴えているのかも分からない。ほとほと困っている受付嬢に、

ロドは手を貸そうと相手の女性に割り込んだ。


見れば黒髪黒目、顔かたちはロドによく似た感じの人物である。

女性は最初ロドを睨みつけたが、顔を見て少し落ち着いた。

身振り手振りで、ロドは彼女を近くの椅子へと誘導する。


帝国語と首長国語で話しかけてみるが、相手は困惑するばかり。

駄目で元々、最近学び始めた古代文明語を使ってみる。


『あら、言葉がわかるのね?』


少し発音は違うものの、これは通じたようだ。

しかしロドもまだたどたどしく、意思の疎通が難しい。

意を決してロドは女性に提案してみた。


『あなたのこと、つたえられるまじゅつ、できるかも』



女性はスイレンという名前だそうだ。年齢三十歳。

彼女の母国で犯罪を犯した者が都市国家同盟で身分証を偽造して、

王国へと逃げ込んだと判明したので確保して欲しいらしい。

本来王国へ持ち込むべきだが、表沙汰に出来ない理由があって、

消去法で冒険者組合へ来たのだが言葉が通じなかったそうだ。


《使い魔》でスイレンと同調し、記憶を読ませてもらったロドは、

事のあらましを共通語に翻訳して受付嬢に説明している。


今王都にいる冒険者の中で、古代文明語を使える者は生憎いない。

必然的に首を突っ込んだロドがスイレンに付き添うことに。


幸い件の犯罪者の人相も、同調した際把握出来たので描いている。

図書館の書物を資料にするため作った自作魔術《画像複写》で。

スイレンは『こんな魔術初めて見るよ!』とはしゃいでいた。


人相書は、遠隔通話器と遠隔視聴器を使って王国各地に送られ、

発見と捕縛は割と早かった。随分北の方まで逃げていたらしい。

数日後に王都へ下手人は連行され、スイレンへと引き渡された。

犯罪者がらみという事もあり、今回ロドへの報酬は多かった。


『機会があれば我が国にも来るといい。歓迎するよ』

とロドとの別れ際にスイレンは告げた。彼女は身分ある人物だ。

古代文明語が使われている国なら新たな知識が得られるだろう。

ロドは頷き『いつか、かならずいきます』と返答する。


しかし。

役に立った《使い魔》だがあまり使いたくないな、と呟いたロド。

性別が異なると身体感覚も異なっていたのだ。いろいろと。


これがきっかけでロドは魔術《翻訳》を開発することになる。

後日、これを機にスイレンの母国と王国は国交を結んだ。

読ませてもらった記憶だと、かなり大きな島国だそうだ。

スイレンの母国はまだ書くつもりはありません。

こちらの脳内設定がまだユルユル過ぎて。


遠隔通話器と遠隔視聴器は「伝達塔の人達」で触れております。

電話と音無しテレビ電話みたいなものと思っていただければ。

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