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事実は小説より奇なり?

掲載日:2026/08/22

短編です

 朝、早く起きられた日は、家の目の前の浜辺を歩く。俺の密かな楽しみだ。と言っても、朝早く起きられるのはまれなんだけれど。

 日が昇り始めるくらいの、微妙な時間帯。新聞配達や、大型トラックくらいしか通らない、程よい田舎の海辺。

波の音と、俺の足音くらいしか聞こえないような、程よい静寂とざわめきを楽しんでいると、目の前に人が倒れていることに気が付いた。

 『救急車!』という言葉が頭を過った瞬間、目の前の人はムクリと起き上がり、俺と目が合った。瞬間、彼女は、嬉しそうに微笑んで手招きをしてきた。満面の笑みがとても可愛らしくて、気を確かに持っていないと、恋をしてしまいそうだった。

 それにしても、怪しい。こんな早朝に浜辺で寝ていたのも怪しいし、見ず知らずの俺を見て、手招きしてくるなんて。でも周囲に人もいないし、とりあえずすぐ逃げられそうな距離で立ち止まった。

「どうかされたんですか?」

 もしかすると怪我とか、病気とかかもしれない。泥酔の可能性も捨てきれないが。

 しかし俺の問いかけに応える様子がない。ただ手をふらふらと動かして、何やら伝えようとしている、というのはわかるが、まったく喋らない。

 口をパクパクと動かして、何やら手をふらふらと動かしたあと、彼女はどこからか小瓶を差し出してきた。

「なんですか?コレ」

 問いかけても、答えてはくれないけれど、彼女は身振り手振りで、瓶を割れと言っている様に見えた。

「コレ、割る?」

 何故か片言になる問いかけに、彼女はにっこりと微笑んで頭を縦に勢いよく振った。

「うーん、と言われても、浜辺で瓶を割るわけにはいかないし・・・」

 破片が砂浜に紛れては回収のしようがないから、岩場に移動して、眼鏡や軍手、割った瓶を回収するための新聞紙と袋を家から取ってきた。家が近くてよかった。

 彼女も俺の意図を理解してか、俺が瓶を割る様子をじっと見守っていた。

 金槌で数回叩いて瓶を割ると、中から何か光る球が出てきた。なんだろうかと手を伸ばした俺の手を抑え、彼女はソレを勢いよく飲み込んだ。

「え・・・」

 喉を抑えて、苦しそうにしていた彼女は、俺の顔をじっと見た。

「・・・あ、・・・ぅ・・・うぅ・・・」

 さっきから一言もしゃべらなかった彼女が、嗚咽のような音を漏らし始めたと思うと、次第にそれは声に変わって行った。

「あ、あーあー。うん、中々良い声だ。どうだろうか」

 急にそう問われ、「え、あぁ、はい、良いと思います」と答えてしまった。

「そうか、助かった。ありがとう少年。この礼はいつかさせてもらうよ」

 そう言って、彼女は、そのまま海に飛び込んでしまった。

 しばらく飛び込んだ後の海を見ていると、大きな尾びれのような物がパシャリと水面を打って、そのあとは静かになった。

 これはもしや・・・人魚伝説!?みたいな・・話なのか?でもあの声、妙に野太かったような気がする・・・何というか、渋いイケてるおじさんみたいな・・・。

 もやもやとしつつも、瓶を回収して帰ろうと手元を見ると、割れたはずの瓶は消えてなくなっていた。


 数日後、昼のワイドショーで、どこかの国の王子が、大層な美女と結婚したというニュースが目に飛び込んできた。映った女性は、多分、あの時の人魚だった。


——王子、あの声聞いたのかな・・・——

あぁ言うのって、俺に恋する流れじゃないの?・・・別に良いけど・・・。

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