第7話 U中事変
一
結果として、孫冲はネモリンの命の恩人となった。
さらに、孫冲は瀬戸グンの携帯PCからダイアモンド長官の手の者の音声ファイルを取りだし、事件がCIAによる組織的な作戦であったことを突き止めた。
これにより、ダイアモンド長官は反逆罪で逮捕された。
また、孫冲は次席補佐官へ昇任した。
このとき、孫冲はネモリンの信任を得て、新たなCIA長官に自分の手の者を推薦した。
名は、
宦チョーチ、
といった。
中国からの移民の3世であった。
孫冲は、その宦とともにホワイトハウスの東の間において、
「わたし、山本キリル は、国内外のあらゆる敵からUSAN憲法を支持・防衛し、同憲法に対して真の信頼と忠誠を尽くすことを厳かに誓います・・・・・・So help me God」
と、宣誓した。
尚、山本キリルという名前の人物は実在していたが、すでに消えていた。孫冲はその人物と背格好がよく似ており、大学では学部が同じであった。山本キリルが死亡したのは学士を取得した直後で、その死体はDNA検査により孫冲だと認定された。
「リルちゃん」
ネモリンは孫冲のことをそう呼ぶようになった。山本キリルという名前が本名だと信じ切っていたからである。
ネモリンが孫冲と内縁関係になったのは、2050年の中間選挙が終わった後であった。
ネモリンは2度も奇蹟の生還を果たしたことになり、CIAの悪行を裁いたというイメージもあり、そのことが共和党の支持率をかろうじて支えた。
「すべては君のおかげだよ」
と、ネモリンが言うと、
「それで、わたしは何をいただけるのかしら?」
と、孫冲は言った。
そう言われると、ネモリンは自分にとって最も大事なものを与えたくなった。
内縁関係が成立すると、孫冲はさらにいろいろとおねだりするようになった。
ネモリンはその度に高額なプレゼントを送るようになった。
それからしばらくは、USAN経済も安定していた。
が、天災は突然やってきた。
その日、ネモリンはいつもどおりに執務室のソファで孫冲の肉体に溺れていた。
そのとき、
「ミスタ・プレジデント、緊急事態です」
と、宦CIA長官がネモリンの執務室に入ってくると、
「ばか」
と、ネモリンは怒鳴った。
しかし、宦はおかまいなしに続けた。
「先ほど、USCB(中央銀行)が大破しました」
ネモリンはそのUSCBが何なのかがわからず、
「そんな話は消防署に言え」
と、目をつりあげた。
が、孫冲は動揺した素振りを見せ、
「ええっ?」
と、宦長官の顔を見た。
首席補佐官や国家安全保障問題担当補佐官や国家情報長官や財務長官や行政管理予算局局長までもがどやどやと部屋に入ってくると、さすがのネモリンも事が重大であると理解した。
「テロ攻撃ではありません。内部の者の犯行です!」
と、宦長官は断定した。
しかし、ネモリンは、
「そんなはずはない! 敵は中国の軍事政権だろう」
と言った。
すると、
「今は犯人がだれかを議論している場合ではありません」
と財務長官が言った。
「金融崩壊がはじまります。今すぐ手を打たないとエノーマス・ウエンズデイどころの騒ぎではおさまりません!」
と言ったのは国家安全保障問題担当補佐官であった。
これに対してネモリンは、
「おい、おい、脅かすなよ」
と笑った。
すると、孫冲は、
「笑いごとではないわ」
と言った。
二
DENの暴落は前年からはじまっていた。これは中国クリルタイ政権による経済攻撃のためであった。だが、USANは国債を大量に発行し、それをUSCBに買い取らせることで経済崩壊を抑えていた。
が、そのUSCBが大破したことで、金融不安が極限に達した。
しかし、それは国債金融市場の反応でしかない。
「まず、一般の銀行同士のマネーのやり取りに支障が起きてます」
と財務長官は言った。
それは、USCBのコンピュータの中に設定されてある「当座預金口座」を通じて行われているわけだが、そのコンピュータが破壊されたのである。データのバックアップは厳重に保護されてあったはずなのが、これも破壊されていた。
「振込の停止が起きています。銀行間の決済ができないため、他行宛ての振り込みや引き落としができなくなりました。エノーマス・ウエンズデイのときはマネーの価値が急激に変動したので市民の買い物などについての決済停止が発生したわけですが、給与や年金などの支払いは行われていました。が、今はそれも止まっています」
と補足したのはUSCBの総裁であった。
「それじゃあ、オレの給料も止まったのか?」
と、ネモリンは青くなった。
レジスレイターはこの事態に対し、
「わたしにお任せください」
と回答した。
レジスレイターは金融機関や企業や市民の経済活動に関するデータも把握しており、それを元に新たな機能を構築し、USCBのコンピュータが行っていた作業を代替できるわけである。
「紙幣の発行はしばらく止まりますが、電子マネーの動きは再開できます」
というのがレジスレイターの提言であった。
だが、孫冲はこれに同意しなかった。
「それは個人情報の侵害になる」
と言った。
USCBの機能をレジスレイターが代替すると、孫冲が中国政府のカネを使っていることがレジスレイターに発覚してしまうからである。
「しかし、これは緊急事態だよ」
と、ネモリンは言った。自分の給与が心配だったのである。
が、孫冲は別の方策を提案した。
「USCBのコンピュータが再建できるまで、市民の経済活動を止めておけばいいのです。各金融機関には取引データが残っていますから、それを元にUSCBの元帳を再構築すればいいわけで、その作業は2日間もあればなんとかなるでしょう。その間、市民の不満を別の方向に向けることができれば問題はありません」
「あんた、何を言ってるんだ?」
と表情をくもらせたのはUSCBの総裁であった。
「各銀行のデータを集めて新しいコンピュータにインプットするだけなら半日で作業は終わるかもしれないけども、データの整合性をチェックする必要があるんだよ。取引の最中だったカネの動きをきちんと確定するだけでも膨大な作業になるし、公的な手続きがいる。監査も受けねばならない。新しいコンピュータは明日にでも入手できるが、ちゃんと作動するかどうかテストをしなくてはならない。いくら急いでもひと月やふた月では終わらない」
孫冲は、しかし、USCB総裁の話を一蹴した。
「それはあなたの仕事でしょ。緊急事態なんだからぱっぱとやればいいのよ」
一同は唖然としたが、ネモリンは孫冲の案を採用した。
「まあ、とりあえず、ぱっぱとやってもらうことにしましょうや」
とネモリンは言った。
「それで、その市民の不満を別の方向に向ける件ですが、どういう方向になりますか?」
と宦長官が言うと、孫冲は、
「2日で終わらないのなら戦争するしかないわね」
と言った。
ネモリンは驚いたが、長官たちはさほどの反応を示さなかった。
三
ネモリンが中夏民主主義共和国との国交断絶に踏み切ったのは、翌日のことであった。マスメディアに対しては、
「中央銀行を攻撃されたことへの報復です」
と、演説した。
レジスレイターの提言は、
「ただちに撤回すべき」
ということだったが、ネモリンは孫冲の提言を重視した。
孫冲は、
「市民の目をそらすだけでいいのだから、小規模な戦闘でいいのよ。死人の出ない戦争にしておきましょう」
と、2人きりのときに提言した。ネモリンはその案を採用した。
が、その件はネモリン以外のスタッフは聞いていなかった。
攻撃目標は、
北京、天津、大連、瀋陽、広州、香港、深圳、重慶、上海、南京、武漢、成都、の12都市の火力発電所とされた。原発については除外された。中国経済へ打撃を加えるという意味ではそれで十分だとされた。また、それだけの発電所をつぶしておけば、人民解放軍の反撃も防げるという計算があった。
その作戦は、
ドラゴンスレイヤー・オペレーション、
と命名された。
三角形の座布団のような形をした大型ロボット戦略爆撃機B-5スプーク36機と、それらを援護する槍の穂先のような形をしたロボット戦闘機F-48メテオ700機が沖縄州の辺野古基地から離陸したのは現地時間の午前3時ちょうどであった。
B-5スプークには対レーダーミサイルの他に発電所を破壊するための空対地ミサイルがそれぞれ30基づつ搭載されており、F-48メテオには砲口初速が2000m/秒を超えるガトリング砲が搭載されてあった。この10年前までは戦闘機同士の格闘には空対空ミサイルやロケット弾が使われていたが、この頃のロボット戦闘機の格闘性能は飛躍的に向上しており、速度の遅いミサイルやロケット弾は命中しないようになっていた。それで、初速の速い弾丸が使用されるようになっている。
尚、それらUSANの戦闘機や爆撃機のコントロールシステムはホワイトハウスの地下につくられてあるバンカー(大統領緊急作戦センター)内のモスコンに直結されており、レジスレイター・ヴァージョン1.02が戦闘用のプラグインを使用して作戦を管理する体制が整えられた。
対する中国政府は北京の人民大会堂の地下に設営された核シェルター内のモスコンを使って防衛システム全体をコントロールしており、これには「天網99」という名の独自の戦闘用プログラムが使用されていた。
「天網はこちらが発電所をねらってることに気づくかな?」
と、ネモリンがホワイトハウスのウエストウイング地下にあるシチュエーションルーム (Situation Room) でつぶやくと、
「さあ、どうでしょうなぁ」
と国防長官が不安げに答えた。
すると、レジスレイターは、
<計画露見率:26.5%>
という回答をスクリーンの右上に表示した。が、その数字は刻々と大きくなり、あっと言う間に50を超えた。
そのスクリーン全体には中国全土の地図が映っている。
USANの爆撃機は青い三角形の点滅で表示され、戦闘機は黄色の三角形の点滅で表示されていた。
そして、その一団が東シナ海を渡りきる直前、スクリーンの上部に多数の赤い三角形の点滅が表示された。
「大連と瀋陽の空軍基地からロボット戦闘機960機が現れました。機種はJ-52鋭竜です」
と、統合参謀本部議長が報告するよりも先に、レジスレイターはメテオ700機の針路を変更していた。
やがて、赤い点滅と黄色い点滅が山東半島上空で入り乱れた。が、青い点滅はそれらの戦闘には加わらず、12方向に分かれ、それぞれの目標を一直線に目指した。
「おい、大丈夫か!」
と、叫んだのはラスキン国務長官であった。
ラスキンは、編隊を分散させるのは危険であり、ひとつの編隊を維持したまま順次目標をつぶしていくべき、と考えていた。
しかし、レジスレイターは一気に同時に12の目標をつぶそうとしていた。
ラスキンの疑問を感知したレジスレイターは、
<密集陣による一点集中型戦術の成功率:71.2%>
<騎兵戦術の成功率:71.6%>
<補足説明:爆撃機のみ透過光ステルス機能ON>
と、スクリーンの右上に戦術の解説を表示した。
密集陣による一点集中型戦術とはラスキンが考えていた戦術であり、騎兵戦術とはレジスレイターが選択した戦術である。その成功率の差はわずかに0.4パーセントであった。
ちなみに、ステルス機能を使っても天網99の目を眩ませられる時間は数秒でしかない。が、その数秒のうちに勝負は決まるとレジスレイターは計算していた。
その直後、スクリーンに円形の赤い点滅が無数に表示された。天網99が中国全土に配備してある地対空ミサイルを一斉に発射したのである。
だがF-48メテオは機体を上下左右にスライドさせてミサイルをかわし、B-5スプークは攪乱ミサイルやダミー弾を発射して、天網が発射したミサイルをことごとく撃ち落とした。
そのとき、統合参謀本部議長が戦果の報告を開始した。
「北京、天津、大連、の発電所大破!」
「上海、南京、武漢、瀋陽、の発電所大破!」
「広州、深圳、香港、の発電所大破! 残るは重慶、成都のみです!」
この報告を受け、その場で固唾を飲んでいた副大統領と、国連大使と、行政管理予算局局長は思わず両手を叩いて喜んだ。
が、宦CIA長官はそれら3人の顔を見回して、
「喜ぶのはまだ早いでしょう」
と不愉快そうな声を出した。
そのとき、重慶の上空に多数の赤い三角形の点滅がどっと現れた。
「敵機503! J-52ではありません! J-60 閃竜です! 重慶から東進してます!」
という報告を受けた国防大臣は、すかさず、
「こちらは何機残ってる?」
と質問した。
レジスレイターはこれに応えて、
<B-5スプーク:17機>
<F-48メテオ:378機>
と、スクリーンの右上に表示した。
が、それと同時にミャンマーの西海岸に潜行させておいた第七艦隊の揚陸潜水艦3隻からロボット戦闘機300機を発進させた旨の表示があり、
<F-45プテラノドン:300機>
と追加表示された。
鋭竜、閃竜、メテオ、プテラノドンの4種の戦闘機はそれぞれもみ合いながら格闘した。この間、天網99は2度にわたって地対空ミサイルの一斉発射を行った。これに対して第七艦隊は小型長距離高速巡航ミサイルを約2千基発射し、B-5スプークは対レーダーミサイルをどっと放出した。
しばらくすると、中国側のミサイル基地のほとんどが沈黙し、鋭竜とメテオはすべて撃墜され、スクリーン上には閃竜207機とプテラノドン132機とB-5スプーク8機だけが残った。
尚、プテラノドンの格闘性能は閃竜を上まわっていた。が、数では圧倒的に負けていた。USANの襲撃部隊は守勢にまわりはじめていて、B-5スプークは重慶と成都に近づけずにいた。
そのとき、
「そろそろ燃料が切れるな」
と言ったのは国防長官であった。
プテラノドンのエンジンは出力を最大にすると約20分間で燃料を使い果たしてしまうのである。
が、レジスレイターはすでに空中給油機を105機ヒマラヤ山脈の山間に待機させており、戦線を離脱させたプテラノドンを順次ヒマラヤに向かわせた。
このとき、
「くそっ、閃竜はまだ飛べるのか!」
と舌打ちしたのは国防長官であった。
四川盆地を守っていた閃竜107機のうちの約半数がプテラノドンを追いかけてヒマラヤ方面に向かったのである。それらの機は燃料をセーブしてチャンスをうかがっていたのであった。
閃竜の追跡を受けたプテラノドン132機は給油機とともに山間を縫うように飛行しながら順次給油を受けたが、給油中に撃墜されれるプテラノドンが続出した。
そのとき、給油を待っていたプテラノドン3機が急上昇して急旋回し、多数の閃竜を引き連れるようにして四川盆地に向かい、低空飛行で重慶市街のビル群の間をすり抜け、最後の燃料を使い切るようにして出力を最大まで上げ、次々と重慶の発電所に突っ込んだ。
「おお、カミカゼ!」
と唸ったラスキン国務長官は拳を握りしめてガッツポーズをとり、ネモリンの肩を叩いた。
すると、統合参謀本部議長は、手元のディスプレイを見て、
「重慶の発電所は半壊! 発電機能は停止!」
と嬉しそうに状況を報告した。
喜んだネモリンは国防長官とラスキン国務長官に握手を求め、
「もう、これで作戦目標は達成されたようなもんだな」
と言った。
だが、国防長官は、にこりともせずに言った。
「成都の発電所が残っているうちは敵の動きは止まりませんよ」
すると、レジスレイターがこれに解説を加えた。
「中国側は反撃の余力をまだ残しています。成都の発電所を止められなければ、航空機やミサイルの製造ラインが無傷で残ります。今撤収しますと、ひと月後には人民解放軍のエアフォースが息を吹き返します」
「今やめたら蜂の巣を突いただけということになります」
と国防長官は言った。
そのとき、レジスレイターはバンカー内を揺るがすほどの大音声をスピーカーから発してネモリンに作戦上の許可を求めた。
「都江堰のダムを破壊します。よろしいか?」
その音声は、地獄の釜の蓋を開けたような響きを含んでおり、これを聞いたネモリンは震えあがった。
都江堰というのは、成都の西北約50キロメートルの地点に位置する都市で、そこは山岳地帯を流れる長江左岸の支流が四川盆地に流れ出る起点となっている。そして、そこに建設されたダムには8億立方メートルほどの水が蓄えられていた。これは黒部ダムの約4倍の貯水量である。このダムを破壊すれば、8億立方メートルの水が一気に成都の市街を押し流してしまう。そうすれば、発電プラントは破壊できないかもしれないが、変電所が大破して送電機能が止まる。
この作戦は、B-5スプークが成都の発電所を爆撃できない場合のバックアッププランであったのだが、多大な犠牲をともなうため、決行する直前に大統領の許可を求めることが既定の手続きとされていた。が、ネモリンはそのことを知らされていなかった。
「その件はわたくから大統領にお伝えします」
と、孫冲は国防大臣にメッセージを送っていたが、あえてネモリンに伝えなかったのであった。
このため、ネモリンは狼狽し、
「ダムを破壊? そんなの聞いてないよ」
と、言った。
が、孫冲はすかさず、
「万が一のケースではそういうこともありえますと、昨日お伝えしましたが、お忘れですか?」
と言った。
動揺するネモリンの様子を見た国防長官は、
「ミスタ・プレジデント、急がねばなりません」
と、ネモリンの左肩をつかんだ。
USANとしては、ここまでやってしまったからにはなんとしても中国経済の息の根を止めねばならない。また、反撃の余力を残すわけにはいかない。蜂の巣を突いたままで矛を収めたりしたら今度は人民解放軍が全力をあげてUSANに反撃してくるのが確実だったからである。
だが、動揺したネモリンは、
「成都って人口はどのくらいなんだっけ?」
と、右肩側に立っていた首席補佐官に質問した。
「今さら何をおっしゃいます。どうか、すみやかなご決断を」
と、首席補佐官は白い歯を見せた。
しかし、ネモリンは、
「ダムを壊したら死人がでるのでは?」
と質問をくり返した。
すると、スクリーンの右上に、
<推定死亡者数:500,000人〜2,500,000人>
という数字が表示された。
「2百50万!」
と、言ってネモリンはクチをパクつくかせ、
「この作戦では死人ゼロだと言ってたじゃないか!」
と、レジスレイターに向かって叫んだ。
すると、レジスレイターは、
「わたくしは、そのようなことをお伝えしておりません」
と反論した。
死人ゼロと言ったのは孫冲であった。
「いや、そういう非人道的なことは、もうやめる」
と言いながら、ネモリンは自分の左肩に置かれた国防長官の手を払いのけた。
そして、一同にすがすがしい笑顔を見せ、
・・・・・・自分は善人である、
という思いを強くした。
すると、レジスレイターは、スクリーンいっぱいに、
<ドラゴンスレイヤー作戦失敗の可能性:98.2%>
と、赤い文字を点滅させ、警報を鳴らした。
驚いたネモリンは蒼白になり、あわてて作戦を許可したが、その直後にB-5スプークの位置を示す青い点滅がすべて消失した。
やがて、スクリーンには、
<作戦失敗>
という赤い文字が表示された。
どぎまぎしたネモリンはきょろきょろと周囲をみまわしたが、その視線を引き受ける者はひとりもなかった。ラスキン国務長官は腕を組んだまま首をうなだれ、そのまま身動きできなくなっていた。
国防長官は目の玉を飛び出させながら、
「ここでやめるわけにはいかん! もっと戦闘機と爆撃機を飛ばせ!」
と、レジスレイターに叫んだ。
「グアムにはまだ迎撃用の戦闘機が残っております」
と、レジスレイターは応えた。
だが、即座に、
「訂正します。グアムのアンダーセン空軍基地が閃竜20機のミサイル攻撃を受けました。航空機は離陸できません」
と、野太い音声を発した。
国防長官は、
「トラビス空軍基地にはまだ戦闘機もあるだろう!」
と、肩をいからせた。
が、レジスレイターは、
「それらはすでに離陸していますが、それらを成都に送るのは危険です。ロサンゼルスを防御できなくなります。首都を無防備にするのはいかがなものでしょう?」
と、抑揚のない音声で応えた。
四
中夏民主主義共和国のトップ5は、北京の紫禁城の西側にある中南海の地下深くに巨大な指揮所を設けており、その中で天網99の采配を眺めていた。
5名の将軍たちの肩書きは「天将」となっていた。
これは元からあった、上将、という階級の上につくられた称号で、国家主席よりも上の地位となっていた。
「孫冲はうまくやったようですな」
と言ったのは、5名の天将のうちの最長老の者で、名は、
何衛西、
といった。
中華人民共和国の時代には中央軍事委員会の副主席を務めていた。ちなみに、主席は習近平であった。
何衛西の発言を引き受け、
「孫冲を選んだあなたの目は確かでしたな」
と言ったのは、
張偉王、
という名の天将であった。これは、何衛西の後輩であったが、父親が何衛西の上司であったため、実質的には5名のうちのトップの座にいた。
そのとき、天網99が5名の決断を迫った。
「USANは首都ロサンゼルスの防御を崩しません。これ以上の攻撃を敢行するには閃竜の燃料補給を急がねばなりません。いかがいたしますか?」
これに答えたのは、張偉王で、
「今回はこれまでにしよう」
と言った。
すると、他の4名が一斉に、
「我同意」
と言った。
何衛西は天網99に質問した。
「戦闘機の生産ラインをフル稼動させるとして、本格的にUSANを攻めるのはいつ頃になる?」
天網99は即座に答えた。
「補給部隊が完成すれば、45日後にはUSANを征圧できます」
張偉王は満面に笑みを浮かべ、天網99に拍手した。
すると、他の4名の天将と、その場にいた側近やエンジニアたちも一斉に拍手喝采し、
「太棒了!」
と、口々に叫んだ。




