変わらない日常
「これで6人目、あと6人」
そういいながら快楽犯は不敵な笑みを浮かべていた。
僕と姉の澄乃は妹の瑠子の誕生日のため、ケーキを買いに来ていた。
そのお店は家から少し行ったところにある。壁には議員さんのポスター、子供110番の張り紙、宗教勧誘の張り紙など様々なものが貼りめぐらされている。
奥には優しげな顔をしたおじさんと1つの写真。
「近堂さん、予約してあるケーキうけとりにきたよ」
「あぁ。澄乃ちゃん陽翔くんケーキできてるよ。いつもありがとね。瑠子ちゃん誕生日なんだってね。これ渡しておいて」
笑顔でおじちゃんは包みをくれた。中には花柄のクッキーがたくさん入っている。おじいちゃんはカウンターから少し腕を下げ、僕は手を伸ばしてそれを受け取る。
「おいしそーーーー!ありがと!瑠子絶対喜ぶよ」
姉はいつもの明るさで言い、ケーキ箱をそっと抱え近堂さんに会釈した。
さっきまで香っていた甘い匂いはもうなく、町のざわめきと車の音がする。
そうして妹へ渡すプレゼントについて帰り道話していた。
「私たちからのプレゼント喜んでくれるかな」
「んーわかんないけど、絶対笑うでしょプレゼント見たら」
「まちがいないよ。だって今年20歳の妹に向けてコスプレだよ。しかも結構ちゃんとしたやつ」
「どんな顔するか楽しみでたまらないよ」
僕たちはにやり顔をした。
僕の誕生日に渡された囚人のコスプレはいまだに覚えている。
あれほど貰って恥ずかしいものはない。ちなみに姉はメイド服だ。あれは似合ってなかったな。やっぱりメイド服はかわいい子に限る。
「陽!今変なこと考えたでしょ」
「え!そんなわけないじゃん」
鍵を回しドアを押すと玄関の空気が迎えてくる。
「ただいま」
二人の元気な声が響く
「お姉ちゃんお兄ちゃんおかえり」
「これあげる!」
そう言い二人はおじちゃんからもらったクッキーとケーキを渡した。
「え!お姉ちゃんお兄ちゃんありがと。この花柄のクッキーかわいいね。」
「でしょー、ちゃんとおじちゃんにお礼しといてね」
「みんな夕飯の用意できたから席に着きなさい」
食卓には妹の誕生日を祝うために豪華なご飯が出されていた。
美味しそう。今日は唐揚げか、姉ちゃんがすべて食べなきゃいいけど。
横を見るとよだれを垂らしている。
「美味しそう」
小さな声で呟いていた。
「唐揚げ全部食べるなよ」
「うるさいな。最近、瘦せてきてるからいいのっ」
目線をおなかへと移し姉の服に鏡餅が乗っているのを見る。
瘦せるとは…一体?一回辞書引かしたほうがいいかもな。
「陽?どこ見てるの」
横から姉のこぶしが飛び、頬がぐにゃりと歪み肉が波打つように揺れた。
「痛っいな」
「早くご飯行くよ」
誕生日ご飯は戦争だ。姉と妹の唐揚げの取り合い。少しでも唐揚げを取ろうものなら姉と妹からがん飛ばされる。
たくさんの唐揚げを食べ終えた妹の興味はケーキに移った。
「母さん、私のケーキどこ」
「ここにあるわよ、ろうそくに火をつけといて」
20本もの色とりどりのろうそくを手渡す。
テーブルの上にはホールケーキがおかれていた。白いクリームに飾られた赤いイチゴをみんながじっと見つめる。
「20歳だからってろうそく20本買ってこなくてよかったのに」
不満と嬉しさが入り混じる中ろうそくをつけ終わると電気が落とされる。
「せーのっ!」
「ハッピーバースデーとぅゆぅ ハッピーバースデーとぅゆぅ ハッピーバースデーディアるーりー ハッピーバースデーとぅゆぅ」
「みんなありがとう」
ろうそくの炎が暗闇を照らし瑠子の顔を明々と照らす。瑠子が消え、闇が一瞬だけ部屋を満たした。次の瞬間、天井の灯りがはじけるように付き、色とりどりの笑顔をくっきりと照らす。僕はろうそくの炎は真っ直ぐと上がりじっと見つめていた。
「ケーキ分けるわよ、瑠子どれがいい」
「お母さん、私これがいい。一番でかいし」
妹は待ちきれずフォークを手にしたまま体を揺らしていた。切り出された一切れが皿に移されるとパット顔が明るくなる。
「これね」
「ありがとう母さん」
嬉しそうに笑顔で返事をする。
フォークでイチゴをさして口に入れると目を細め「…あまい!!」の一言。
やっぱり妹は何歳になってもかわいい。ほんとかわいい。目に入れても痛くない。
食事とケーキを終えると机の上の箱に目が留まった。
「そうだ、ケーキ屋のおじちゃんからもらったクッキーがあったんだった」
袋を開けるとまだ香ばしい甘いにおいが漂う。
妹は目を輝かせ
「わぁ、食べよう!」
声を上げ、父と母も笑顔で一つずつ取った。
「もうケーキでおなかいっぱい」
「姉ちゃんケーキがじゃなくて、唐揚げの食いすぎでしょ。太るよ」
もてあそぶように僕は笑う
「うるさいな」
クッキーを楽しむ妹の横でそっと袋を取り出す。
「はい、これ誕生日プレゼント!」
差し出された袋は妙に大きく妹は不思議そうに受け取り、中を覗き込む。
「…え?なにこれ…警察の服!?」
青いシャツに黒い帽子小道具の手錠まで入っている。まるで本物のようであった。
囚人服のお返しだ。
横で腕を組んでにやりと笑う。
「20歳の記念に取り締まる側になってもらおうと思ってな」
「いやいや、何も取り締まるのよ」
妹は顔を赤くして叫び二人をにらむ。
「似合うと思うんだよね。可愛いし」
妹をからかうように言う。
「写真撮ってあげるから、着てみてよ」
「絶対遊んでるよね、姉ちゃんと兄ちゃんの誕生日にあげたコスプレのことまだ根に持ってんの」
そういいながらも、妹の口は緩んでいた。
「兄ちゃんも一緒にあの囚人服着て撮る?」
「絶対着ない」
「ちょうど取り締まれるよ?」
「いつからそんな生意気になったんだよ」
正直妹になら取り締まられてもいいかと思ったが胸の内に隠す。
家族の温かさはプレゼント以上にうれしかったのかもしれない。
僕に姉にからかわれる誕生日。僕をからかう誕生日。
「どうかな」
我が家ではプレゼントを絶対使うという決まりがある。妹は警察官になったのだ。
やっぱりかわいい子に限る。姉のコスプレは見れたもんじゃなかった。
「兄ちゃん撮り過ぎ」
「こんなこと2度と無いかもだし」
何十枚とったかわからない。そして写真を撮っている間の姉の何とも言えない顔。
内心絶対きもいと思っていただろう。それでも妹のかわいい姿を収められるならそんなことどうでもいい。ひたすら連写する。
机の上に妹が照れくさそうに警察のコスプレを片付けた。
「今日は楽しかったね」
小さく姉がつぶやいた。
僕は布団にもぐりながら頷いた。目をつぶると妹が笑っていた顔がまだ鮮やかに浮かんでくる。
「うん。20歳か…なんか早い」
大きくなったなぁ。
今でも昨日のことのように思い出す。ねぇねかにぃに、どちらを先に言わせるか姉と競った日々。言わずもがな最初に言ったのはねぇね。
なんでかって?にぃにと僕が口に出そうとするたびに姉がプロレス技をかけてくるからだ。あれはめちゃくちゃ痛い。
姉は隣の布団で横になり肩をすくめる。会話はすぐに途切れ暗闇が部屋を満たす。
窓の外では風が木の葉を揺らし、遠くでは犬の鳴き声が響いた。
やがて姉の寝息が規則正しく聞こえてきて、僕も瞼の重さに耐えられず寝てしまった。
父と母と娘はその後も妹の誕生日に酔いしれ、リビングのソファーで並ぶように眠っていた。静かな寝息と時計の音だけが家に響いている。
次の瞬間鍵が破壊され、狂気に満ちた足音がゆっくりと近づいていた。
リビングを切り裂くような鈍い音とともに温かい静寂は破壊された。
夢の中にいたはずの父と母は、もう二度と目を開けることはなかった。
「あと2人はどこ、いないなぁ」
血のにおいが立ち込める中、男は三人を見下ろしゆっくり笑う。
「満足させてくれ」
床に倒れた瑠子の指がかすかに動いていた。
「おぉ生きてる、どこ壊したらいい声で鳴いてくれる?」
床を這うように進む瑠子を見つめながら精神を破壊するように囁く。
「た..す...」
助けを求めるその声が出る前に、バットが横から叩き込まれる。
骨の砕ける音を楽しむようにゆっくりと。
「助けを呼ぶとかダメだよ。耐えて耐えて耐えて...絶望のまま死んでいってくれ。君もフィナーレにふさわしくない」
瑠子の瞳が閉じられる。目じりにたまった涙は一粒。
徐々に赤く染まりながら床にしみこんでゆく。
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