思いは紡がれ繋いでく
悲しみと希望が交差する中、彼の心には新たな決意が芽生えていた。
佐藤は静かに歩み寄り
震える声で呼びかける。
「大丈夫だ…君はまだ助かる。必ず助かる。だからあきらめるな」
少年の瞼が僅かに動き、薄く目を開ける。
その視線は揺れながらも佐藤をとらえ、かすかな光を宿していた。
佐藤はその腕をそっと握りしめ、祈るようにおでこをあてる。
「君の姉さんが命をくれている。だから、君は生き続けるんだ」
重苦しい空気の中、瞼が完全に開かれた。
それは綿に触れるようにやさしく。
佐藤は陽翔の腕をより強く掴み語りかける。
「良かった。目を覚ましたんだね」
陽翔は首を少し傾け、あたりを見渡す。
「…姉さん…」
姉の顔に目を向けた瞬間、胸が締め付けられる。
その肌は見るに堪えないほど白く、静かに横たわる姿からは、もう戻らぬ現実が伝わってくる。
無意識にホースに腕を伸ばす。
ホースに触れた瞬間、背後から強い力が加わった
「やめろ!」
佐藤が抑え込み、必死の声で叫ぶ。
「それを外してはいけない!君の命は、君の姉さんが託した命なんだ」
陽翔は涙にぬれた目で佐藤をにらみつけ震える声で絞り出す。
「でも…もう姉さんは」
佐藤はその言葉を遮るように、さらに腕を握りこむ。
「だからこそだ!姉の思いを無駄にするな。生きるんだ。君が!」
二人の力がぶつかり合い、ホースがちぎられる寸前で止まる。
陽翔の肩は大きく上下し、嗚咽が漏れる。
佐藤の声は震えていたが、その瞳にはゆるぎない決意が宿っていた。
必死に抑え込む佐藤の姿は絶望の淵に立つ陽翔を引き戻そうとする唯一の支えだった。
「俺は!おれは…先輩と部下をなくした。最後に部下がこういったんだ。あの兄弟を頼みましたって」
姉が死んだ事実。操楽が裏切ったのではなかった事実。すべてが目まぐるしく回っている。
「操楽は!そうらくさんは、僕を裏切ってはなかたっんですね。でも…それでも…姉ちゃんは死んだんだ…」
佐藤は机に置いてある手紙に手をかける。
「これは君の姉さんからの手紙だ」
「…え…」
姉の筆跡が目に飛び込んでくる。
その瞬間、陽翔の心臓が強く打ち続けた。
陽翔へ
もしこの手紙を読んでいるなら、私はもうあなたのそばにいないかもしれません。
犯人を追うことで命を落とす可能性があることは少しわかっていました。
しかし、立ち止まることはできなかった。
どうか、私の死を悲しみすぎないでください。
生きて生きて生き抜いてください。
未来は必ず楽しいものになるから。
生きることは時に苦しく、孤独で、耐えられないほどの痛みを伴うかもしれません。
でも、忘れないでください。
あなたは一人ではありません。
たとえ私がこの世を去ってもあなたを見守り続けます。
命が途切れても、思いは途切れない。
あなたの一歩一歩が私たち家族の生きた証です。
恐れず歩いてください。
未来を信じてください。
そして、私たちの分まで幸せになってください。
あなたが笑うとき、私はそこにいます。
あなたが泣くとき、私は肩に手を置いています。
あなたが迷うとき、私は背中を押します。
だからどうか生きて。
未来は必ず光に満ちているから。
その光の中で、私はいつまでもあなたを見守り続けます。
私はあなたの姉で本当に良かった。ずっとずっと大好きだよ。
愛する陽翔へ
姉より
読み終わると嗚咽が漏れ、肩が震える。
姉の愛情と覚悟が、言葉となって胸に突き刺さる。
腕で手紙を抱きしめ、声にならない叫びを吐き出した。
涙は止まらず布団に染み込む。
それでも心の奥には、姉の言葉が灯のように残り、心の暗闇を晴らしていた。
「姉さん…わかったよ。生きる。必ず…生き抜いて見せ…る」
十五年の月日が流れた。
かつての男は、今や父親となり、妻と二人の子供を連れて墓地へと足を運んだ。
「凛、來実こっちにきなさい」
秋の風が木々を揺らし、落ち葉が舞い散る中、墓石の前に立つ。
そこには家族の名前が刻まれている。
陽翔は義手で線香を器用につけ置く。
「姉さん…俺生きてるよ。あの日くれた命をこうして未来につないでる」
隣では幼い娘が花を添え、真剣な顔で手を合わせていた。
妻は優しく微笑み、陽翔の右肩にそっと手を置く。
涙は落ちるがそれは悲しみではなかった。
姉の願い通り、未来は確かに楽しいものとなっていた。
子供たちの笑い声が風に溶け、墓前に響く。
「ありがとう。姉さん。みんな」
そう呟き、空を見上げた。
澄んだ青空の向こうに、みんなの面影が微笑んでいるように感じられた。
「とうさんいこー」
双子は陽翔の背中を両手で押して進んでいた。
姉の言っていた通り、未来は光が満ちていた。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
良ければ感想や評価などをしてもらえるとありがたいです。
新しい物語もこれから書いていこうと思いますので良ければ投稿した際には読んでもらえると嬉しいです。




