快楽の前菜
死んだのを確認しながら近づく。
コツコツ暗闇で靴の音が反響する
上からの操楽を見下ろし切り刻み血が飛び散った。
「これであと4人。あと少しで私は天国にいける。弟はもう死んでいるのに馬鹿な人だ」
慧士は呵々大笑する。
その部屋を電球だけが明々と照らす。飛び散った血に濡れた殺人鬼の口角はいつもより高く吊り上がって見えた。その笑顔は喜びではなく狂気そのものだった。
「これで娘さんを殺した操楽は死んだよ。神薙さん」
ニタニタ笑っていた。
「あぁ、ありがとう。これで娘が浮かばれるよ。でも…」
同時に脳天から血が噴き出していた。
「そうだよ。すべて仕組んだのは俺だ。でも妻を殺したのは君の娘だ。同じ死に方をさせてあげるよ。これであと3人」
神薙と近堂の出会いは近堂の妻と神薙の娘が殺された場所だった。
「お前が娘を撃ったのか」
神薙の娘は地面に倒れていた。
床には血が広がっている。撃たれた体は小さく痙攣していた。
わずかな呼吸が喉の奥でひゅうひゅうと音を立て生と死の境界をさまよっている。
その光景に神薙は縫い留められたように動けなかった。
助けたい。その思いは胸を突き破るほど強いのに、恐怖と絶望がのどをふさぎ、ただ見つめることしかできない。
眼の奥が熱く、全身が震えていた。
すぐ傍らには慧士が立っていた。
返り血を浴びたまま仮面をつけた慧士は、恐ろしく静かで異様に落ち着いている。
その存在だけで空気が凍り付き、息を吸うことですらままならなかった。
奥にはもう一人倒れていた。慧士の妻だ。
かすかな息はなく胸は沈黙し瞼は開かれず動かない。
神薙の娘とは違い完全に死んでいた。
「撃ったさ、まだ生きているけどね。でも君の娘は僕の妻を撃った。確実に死んでしまった。次は君が死ね」
銃を向けた
「神薙さん!しゃがんでください!」
後ろから大声で操楽が叫び反射的に神薙はしゃがんだ。拳銃から弾が放たれた。
ただそれが事の始まりだった。
操楽は身動きをとれなくするよう慧士の足を狙った。
しかし思ったより下に撃ってしまい神薙の娘の心臓を貫いてしまった。
ひゅうひゅうという呼吸音が聞こえなくなり静寂が訪れた。
「刀花!しっかりしろ刀音!」
動かなかった。手も足も瞼も。
神薙は娘のもとへと駆け寄った。
血に濡れた少女を必死に抑えながら、部下は自分の手をふるえるように見つめた。
指先に残る引き金の感触がどうしようもなく現実を突き付けてくる。
「…っ!ち、違う!…俺は…」
喉が詰まり声がかすれる。
「す、すみませんでした!」
神薙は言葉を失い、ただ娘の名を呼び続けた。
その声が胸に突き刺さり、部下は地面に額を押し付けるようにして謝罪を繰り返すしかなかった。
「あらら、殺そうと思ったのに。先に殺されてしまったか」
殺人鬼は振り返りもせず、ゆったりとした足取りで闇の中へ消えていく。
残されたのは、取り返しのつかない死と神薙の絶望だっけだった。
「早く...やつを追え!」
操楽は無言のまま走り出した。
救急車で急いで運ばれたが彼女は助からなかった。
そこから1週間後、警察署に帰ってきた神薙の顔は絶望で染まっていた。
「本当にすみませんでした。本当に…本当に…」
操楽は頭を深々と下げた。それを上から見つめ、気まずい空気が張り詰めた
「…なぜあの時、心臓や頭を狙わなかった」
「殺してはいけないと思い。すいませんでした」
「…そうか」
椅子に腰かけ天井を眺めていた。そこからより一層、殺人鬼探しに力を入れた。
そんな中一本の電話を盗み聞きしてしまった。
「慧士さん、あなたの言った通り。警察の現場への到着を遅らせあなたの逃亡を手引きした」
慧士?いったい操楽は誰と電話しているのだ。
「えぇ、そうですね。あの人の娘さんを殺すつもりはなかったのですが」
こいつは犯人と手を組んでいるのか…?許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。慧士そして操楽。絶対に復讐してやる」
神薙は慧士という男を徹底的に調べた。
すると、ある店を営んでいることが分かった。
そのお店を訪れると優しそうなおじさんが立っていた。
「いらっしゃいませ。どれをお求めで」
色とりどりのケーキが並び。様々なポスターが張られている
近くまで歩きこう言い放った。
「お前が慧士か。私の妻を殺したのはお前だな」
一瞬ドキッとした顔を見せながらも笑った。
「復讐ですか?」
「そうだ。死ね」
拳銃を慧士の頭へと突きつけた。
そしてしばしの沈黙の後、口を開く。
「お前を殺したいのはやまやまだが、操楽を知っているな。あいつを殺す手伝いをしろ。そうしてお前を殺す」
少し考えた後、慧士はニコッと笑い承諾した。
「いいですよ。面白くなってきた」
何かを企んでいる様子だった。
「なぜご自身で殺さないのですか」
「あいつの弟を殺し同じ目にあってもらうためだ」
「そうですか。そうですか。最高ですね」
話し終わるとすぐに神薙は店から出ていった。
楽しそうなことが舞い込んできましたね。面白い。
神薙の背中を眺めながらどう殺そうか考え、興奮が止まらず自然と口角が上がっていた
2週間後、慧士に連絡した。
「操楽の弟を誘拐しろ」
「わかりましたよ」
「頼む」
そして今に至る。
「裏切ったな…」
慧士の手には拳銃が握られていた。
「裏切るも何も初めからから仲間ではありません。それにメインディッシュ前に死にたくありませんしね。娘さんもこうやってじわじわ死んでいったんですよ。同じ死に方できて最高ですか?最高に決まっていますよね」
耳をつんざくような笑いは止まらなかった。
「きさまぁぁぁぁぁぁぁ」
銃の玉がなくなるまで何度も何度も撃ち殺した。
「さあ、行こうか。メインディッシュに」
片手にはボタン。もう片方には拳銃を持って兄弟のもとへ向かった。その顔は興奮を抑えられないようなに獣の顔だった。
毎日投稿大変ですが見てくださる皆さんのおかげで楽しく書かしていただいています。
これからも頑張って書いてゆきたいと思いますので読んでくださると幸いです。




