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道化師は笑う  作者: 無縫


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12/16

操楽家の過去

操楽海は操楽澪・涼という二人の夫婦の間に生まれた第一子であった。幼いころから強くスポーツ万能。海には弟がいた。歳は15とかなり離れている。高齢出産であったが何とか母子ともに無事であった。弟の名前は甲。力は弱く兄に比べると全体的に劣る子であった。しかし、お互いが支え合い兄弟仲良くやっていた。そんな生活はある日を境にすべて消えてしまった。その日海の誕生日だった。

テ-ブルには母が用意した料理が並んでいた。

グラスの中で泡立つビールを掲げ、父が豪快に笑う。

「「誕生日おめでとう」」

弟の甲もぎこちないながらもクラッカーを鳴らした。

パンッという音に驚いて笑う家族。

母がケーキを開けると、ふんわりと甘い香りが漂う。

箱から取り出しろうそくをさす。母が一つ一つ丁寧に火をつけていく。

「兄ちゃん。はよ、ろうそく消して」

甲が無邪気に急かし、海は少し照れ臭そうに息を吹きかける。

炎が一斉に揺らぎ、部屋の明かりに溶け消えた。

その瞬間、温かな笑顔と祝福の声に包み込まれる海。

「これからも守ってね。刑事さん」と冗談交じりに言い母と父は顔を合わせて笑う。

「ほら、せっかくあのおじちゃんから祝い酒もらったんだから飲みな」

「父さん、俺は明日仕事だからダメに決まってんだろ。母さんのむ?」

「いいのー!ありがとう」

母はすぐに開けそのまま飲んだ。

誰もこの夜が血で塗りつぶされることを知らなかった。

弟に連れられ二階に行った。

「お兄ちゃん、一緒にゲームしよ」

「いいよ」

いつも通り一緒にゲームをする。

体を動かすゲーム、頭を使うゲーム様々だ。

飲み物を取ろうと一階に行くと父と母は机の上で血だらけだった。

酒と血のにおいが鼻を刺す。

「どういうこと…?」

ギィィィ…

隣の部屋のドアがゆっくりと開かれ闇の中に仮面をかぶった人が立っていた。

片手には血塗られた刀。足元には血だまりができていた。足が動かない。自分の体ではないみたいだ。

「どこおるんやろかって探したよ」

殺人鬼は両親のもとにピシャ…ピシャ…と音を立て近づいた。

肉を裂くような鈍い音とともに鮮血が飛び散る。

何度も何度も

これから君もこうなるのだと言わんばかりに見せつける。

「兄ちゃんなにし…とうさん?かあさん?」

何が起こっているか全くわかっていないような顔だった。

その場に立ち尽くす甲の頬を、涙と汗が伝う。

祝福の夜は絶望の夜に代わってしまった。

海は、甲を抱え必死に階段を駆け上がった。

二階の暗い部屋に飛び込み、ドアを閉めると甲を自分の胸に押さえつける。

「声を出すな…絶対に」

自分の鼓動の音が甲にまで伝わってしまうほど心臓は荒々しく跳ねている。

階下からはピシャ…ピシャ…とゆったりとした足音がきこえてくる。

やがて、場違いなほど陽気な声が響く。

「どこにいるのかなぁぁ?出ておいでぇぇ?」

その声はまるで子供と遊ぶ親のように優しく、そして不気味に歪んでいた。

甲は泣きそうになりその口を必死に塞ぐ。

廊下に足跡が近づいてくるたび、床板がわずかにきしむ。

「みいぃぃつけたぁぁ」

囁くような声と同時にドアが開き始めた。笑顔を浮かべた殺人鬼が入り

ゆっくりと刀の切っ先を向けてきた。

海と甲を見つけると目を輝かせた。

「海君と甲君どっちから先に死ぬ?いいねぇ…怯えた顔だ。もっと見せてよ」

「僕を殺せ。その代わり甲には手を出さないでほしい」

刀の刃が、海の腕を浅くなぞる。

皮が裂け皮膚が裂け赤い血がジワリとにじむ。

殺人鬼は楽しげに笑い甲の前でわざとその傷口を押し広げた。

「ほら、君の大好きなお兄ちゃんが壊れていくよ」

甲は声を殺して泣き叫ぶ。

海は必死に弟を背中でかばいながら、痛みに耐えて睨みつける。

だが、殺人鬼はその抵抗ですら愉快でたまらない。

次に刃先は足へ、肩へ深くはないが確実に動きを奪うように突き立てられる。

悲鳴が漏れるたびに殺人鬼の笑みは深まり、呼吸は興奮している。

弟はついに声を出して泣いた。

「君から殺したほうがいいかな。甲くんんんん」

刀を腕の最高到達点まで上げ、振り下ろす。

振り下ろされる瞬間、海は迷わず甲を抱き寄せた。

背中から血が噴き出す。

鋭い痛みが背中を貫き海の体は大きく震える。甲を守るために覆いかぶさったまま。

海は膝から崩れそうになりながらも腕だけは決して離さなかった。

弟の頬に温かい血がしたたり落ち、甲は嗚咽をこらえながら海の名を叫ぶ。

血まみれになりながらも甲を抱きしめた。

その姿を見る殺人鬼の笑みが次第に歪んでいく。

「チッ....なんで絶望して泣きじゃくって命を請わない」

海の瞳には痛みも恐怖もあった。

だが、奥には甲を守ろうとする揺るがぬ意識が宿っている。

絶望に屈しない光。それが殺人鬼にとっては何よりも腹立たしいものだった。

「泣けよ。叫べよ」

刀を振り上げ机や壁をめちゃくちゃにたたき切る。

木片や血しぶきが飛び散り部屋は地獄の光景へと変わっていく。

それでも、海は苦痛に顔をゆがませながら弟をかばい続ける。

「なんで壊れない!!」

殺人鬼の叫びは怒りと凶器に満ちていた。

彼には絶望の顔ではなく兄弟の絆が突きつけられる。

その時ポケットから何かが床に落ちる。

見ると警察手帳が血に染まりながら床に転がっている。

「お前、警察なのか」

何かを思いついたような顔をした。

「そうだ」

「少し取引をしないか。私の願いのために協力してほしい。指示したことをやるだけでいい。もし取引をしてくれるなら今、君と甲を傷つけない」

「本当か…?分かった」

家の中をゆっくり見渡し殺人鬼はやっと刀を下した。

足取りは静かだが確実に存在感を放つ。

階段を降り外の闇へと消えていく影はまるで次の獲物を密かに狙うようだった。

残された海と甲には恐怖が確実に刻まれていた。

そこから一ヶ月後電話がかかってきた。

甲を誘拐したと。

「甲は傷つけないと言ったじゃないか」

「そうだな。裏切らないよう人質だ」

「裏切らないためだと!!ちゃんとお前の言うことを聞いただろう…何が望みだ」

「最近警察の動きが激しい。違う犯人をでっちあげてほしいんだ。証拠はこっちで用意する」

証拠は慧士の近くで袋にまとまっていた。袋には血だまり。そして今までの衣服。

「わかった。そうしたら弟を返してくれ」

「待ち合わせ場所は町外れの倉庫だ」

電話を終えると海は急いで車に乗り夜の町にとび出した。

ハンドルを握る手に力が入過ぎて指先が白くなっていた。

夜道を切り裂くヘッドライトの光は、細いトンネルのように暗闇を照らし出すだけで先の景色を教えてはくれない。

「必ず助けるから。もう少しだけ待っていてくれ」

唇の奥でつぶやいた声はエンジン音にかき消される。

街灯が消え、田畑だけが広がる町はずれに差し掛かる

窓の外は闇と風の音だけ。

町はずれの道を抜けるとぽつんと巨大な影が立っていた。

錆びたトタンの壁は月明かりに照らされ、不気味に光を反射している。

近づくたび、風に揺れる。金属音が耳に刺さる。

車のドアを閉め扉に向かった。

扉は半開きのまま暗闇を吸い込みその奥からは何の気配も感じられない。

扉を押し開けた瞬間、ひやりとした空気が肌にまとわりつく。

闇の奥へ足を踏み入れると、かすかな鉄のにおいが鼻を刺す。

棚や木箱が散乱していた。

懐中電灯の光が揺らめき血だらけの袋を照らす。静けさとともに異質な存在感を放っている。

思わず息をのんだ。

この袋の中はまるで個々の惨劇を飲み込んで沈黙している墓場のように思えた。

袋を取り倉庫を出た。

夜風がやさしく流れていた。

暗闇に閉ざされた空気から解放されたはずなのに背後に広がる倉庫が今もじっと彼を見つめている。自然とは足取りが速くなった。

袋を後ろに置きエンジンをかけると、静まり返った夜に低い唸りが広がった。

ハンドルを握る手はまだ震えていて、握力をかけるたびに汗で滑る。

街灯の少ない道を抜けやがて遠くに赤と青の明滅が見えてきた。

ブレーキを踏み署の駐車場に止める。

ドアを開けた瞬間、

夜風が吹き込み張り付いた空気が少しだけ和らいだ。

誰もいないことを確かめながら後ろのドアを開ける。

後部座席にある袋を抱えると、その重みがすぐに胸を圧迫する。

いつも乗っているパトカーに近づきトランクを開ける。

その暗がりはまるで袋を飲み込むために口を開けて待っているように見える。

甲のためにやるしかないんだ。

息を殺しながら袋に押し込むと鈍い音とともに収まり重苦しい静けさが残った。

トランクを閉じる金属音が夜気に響き、ただ並ぶパトカーの影が沈黙しているだけだった。

しかし、どこかで誰かに見られているような感覚が最後までぬぐえなかった。

次の日、斎藤の家に着いたとき、玄関前で噓をつきトランクから袋を持ち出し家の適当な場所に置いた。しかしこの日は昨日の夜のような感覚にはならなかった。

思惑通り神薙さんは、袋に気づき斎藤は捕まった。

斎藤が捕まったことで慧士との約束は守り、陽翔と澄乃と会う口実もできた。

「斎藤さんあなたの妻を殺したやつを殺すために協力してくれないか」

「意味が分からない。急にそんなことを言われても」

操楽は自分の過去と今何をしているかすべて洗いざらい話した。

「…そうか。だから今私がここにいるわけだ」

「本当にすまない」

机に頭をつけ深々と頭を下げた。

「怒ってはいない。あいつが殺せるなら。でもこれがすべて片付いたらここから出してくれ」

「わかった。約束しよう」

約束を終えすべてがうまくいったと思った。

思っただけだった。


お読みいただきありがとうございました。

これからも引き続き読んでいただけるとありがたいです。

評価のほどよろしくお願いいたします。

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