6話
老人を支えたあの日以来、悠真の胸には確かな熱が残っていた。承認欲求だけで突っ走るのでもなく、怠け心に流されるのでもなく、ただ「役に立つ」ことを意識する。その感覚を忘れないように、彼は少しずつ活動に工夫を加え始めた。
朝の登校見守りでは、ただ旗を振るだけでなく、子どもたちに声をかける。
「おはよう!」
最初はぎこちなく、笑顔も引きつっていたが、繰り返すうちに自然な挨拶になっていった。子どもたちも元気に返す。
「ヒーローさん、おはよう!」
その声が通りを少し明るくした。
商店街の清掃では、悠真はゴミを拾うだけでなく、落ち葉を集めて袋に詰める工夫をした。地味な作業だが、通りがすっきりすると店主たちが声をかけてくれる。
「助かるよ、ありがとね」
以前は冷ややかだった同級生も、横を通り過ぎながら小さく呟いた。
「……なんか本気でやってるな」
柚月はそんな悠真を静かに見守っていた。派手な言葉をかけることはない。ただ、活動の合間にふと目が合うと、ほんの少しだけ微笑む。その微笑みが、悠真にとっては何よりの報酬だった。
街の空気も少しずつ変わっていった。老人たちは「ヒーローさんに頼めば安心だ」と言い、小学生は「ヒーローとヒロインがいるから安全だ」と胸を張る。商店街の人々も「街が少し明るくなった」と口にするようになった。
市役所の広報誌には「活動が定着し始めた」と記事が載り、写真には悠真と柚月が並んで写っていた。
――俺は、少しずつだけど、本当にヒーローになれているのかもしれない。
そう思った瞬間、悠真の胸に新しい決意が芽生えた。内申点のために始めた活動が、いつの間にか街の空気を変え、彼自身を変え始めていた。
しかし同時に、悠真は知っていた。まだこれは始まりにすぎない。柚月に認められるためにも、街に本当に必要とされる存在になるためにも、もっと大きな試練が待っているはずだ。




