5話
冬の風は容赦なく街を吹き抜けていた。商店街のアーケードの隙間から入り込む冷気は、悠真の制服の袖口を刺すように冷たく、旗を握る手をじんじんと痺れさせる。ヒーローとヒロインの合同活動は続いていたが、寒さのせいか人通りは少なく、通り過ぎる人々も足早に家路を急いでいた。
柚月はそんな中でも、変わらぬ真剣さで小学生に声をかけていた。ランドセルを背負った子どもたちに「気をつけてね」と柔らかく微笑み、老人の荷物を軽々と持ち上げて階段を上がる。彼女の姿は、冬の街にひとつだけ灯された光のように見えた。悠真はその横顔を盗み見ながら、胸の奥で焦りを募らせていた。
――俺は、ただ目立ちたいだけじゃない。彼女に認められたいんだ。
その思いは強くなるばかりだった。だが同時に、活動に慣れるほど「面倒だ」という本来の性格が頭をもたげる。朝早く集合するのは眠いし、重い荷物を持つのは疲れる。作り笑顔を続けるのも正直しんどい。承認欲求と怠け心がせめぎ合い、悠真の胸をざわつかせていた。
そんなときだった。商店街の角で、老人が荷物を落としてしまった。段ボール箱が崩れ、中からリンゴが転がり出る。赤い果実がアスファルトを転がり、子どもたちが驚いて立ち止まった。柚月がすぐに駆け寄り、拾い集めようとしたが、風に煽られた箱がさらに崩れ、老人はバランスを崩してよろけた。
「危ない!」
悠真は反射的に走り出した。旗を放り出し、老人の腕を支える。転倒を防いだ瞬間、老人の体重がずしりと肩にのしかかり、悠真は思わず歯を食いしばった。周囲の視線が集まり、商店街の人々が「おおっ」と声を上げる。
「大丈夫ですか?」
息を切らしながら問いかけると、老人はゆっくりと息を整え、「助かったよ」と笑った。柚月はリンゴを拾い集めながら、驚いた顔で悠真を見つめていた。そして、静かに近づいて短く言葉を残した。
「……ありがとう。やっぱり、そういうのがヒーローなんだと思う」
その一言に、悠真の胸が熱くなった。承認欲求のために張り切るのでもなく、怠け心に流されるのでもなく、ただ目の前の人を助ける。それこそが本当に「役に立つ」ことなのだと、初めて実感した。
商店街の人々は「やるじゃないか」と笑い、子どもたちは「ヒーローだ!」と声を上げた。悠真は照れ隠しのように笑顔を作ったが、心の奥では確かな決意が芽生えていた。
――俺は、彼女に認められるためだけじゃなく、本当にヒーローにならなきゃいけない。
その決意はまだ幼いものだったが、確かに芽吹いていた。冬の冷たい風の中で、悠真の胸だけは熱く燃えていた。




